○花嫁 ー1 1
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目が覚めると、時計の針は朝の七時を指していた。
どうやら、昨日は泣き寝入りしてしまったようだ。
「う~ん」
大きく伸びをして、窓の外を見る。
いつみても空は暗いが、街は光で溢れていた。
光の量が多いおかげで、朝から夕方にかけては、人間の国の昼と同じくらい明るい。
いわば、曇りの日の昼間状態である。
⋯⋯⋯。
ちょっとまって、今何時って?
「ロ、ローラっ!!」
いけない、朝食は七時半からだ!
慌ててローラを呼び、支度をしてもらう。
残り二十分。
間に合うだろうか。
今日は淡いピンク色で、可愛らしいイメージのワンピースを着るらしい。七分丈の袖に、後ろには濃いめの赤のリボンが付けられている。
レースがあしらわれた胸元には、お気に入りの首飾りが揺れていた。
「可愛らしいリシアス様。参りましょうか?」
にっこりと笑って、食事の用意された一室に行くよう、促される。
「そうだね。ありがとう」
歩き始める一歩一歩に、緊張は高められていった。
どんな顔をして彼に会おう。
昨日、夢かと思うほど甘かった彼は、今日どんな顔をして私と朝食をとるのだろう。
私は、どんな顔をして、彼と向かい合い座るのだろう。
おかしいところはないかな、変に思われたりしないかな。
高鳴る心臓を鎮めるように深呼吸を繰り返し、扉を二回ノックした。
ノックはしても返事が返ってこないことは普通だ。
なにせまだ、陛下がいらっしゃっていない。
私と朝食をとる時は、いつも少し遅れていらっしゃるのだ。
ゆっくり扉を開けて、いつもの席につく。
⋯⋯と、料理を見て驚いた。
いつも豪奢な食事ではあるものの、今日は特に量が多い。
一品一品が大きいうえ、どれも高級そうである。
もちろん王に出す食事であるから、当たり前の話といえばそうなのだが。
「これ⋯⋯今日、なにかあった?」
後ろに控えているローラにそう問いかけると、にっこり微笑んで、
「城中の者が喜んでおりますよ」
そう言った。
喜んでいる?
誰かの誕生日だったかな。
記念日とか?
「なんの日だっけ⋯⋯?」
首を傾げながらそう言うと同時に、扉が開いた。
陛下がゆっくりと歩いてきて、私の向かいの椅子に腰掛ける。
すると、更に料理が増え、料理人たちが続々と厨房から出てきた。
侍女や執事、その他の使用人も集まり、騎士団の団長までもが、この場に登場した。
「陛下」
先程現れたジェリグ様が、陛下を呼ぶ。
「あぁ」
呼ばれて頷いた陛下は、静かに席を立った。
「私、アルヴィルト・ディ・ライダンは、シフェンニ国第二王女、リシアス・レイキーとの婚約を、ここに結ぶ」
その言葉が聞こえた途端、拍手が巻き起こる。
「正式な婚約表明は三日後行う」
そう付け足して、再び陛下は席についた。
⋯⋯⋯。
ああぁ、そういうことか!
やっと理解が追いついた。
陛下は心なしかご機嫌で、ローラもジェリグ様もにこにことしている。
いつもは仏頂面の騎士団長も、なかなか顔が見られない料理長も、みな安堵した表情を浮かべていた。
なぜ?
と、思うなか、
「さて。皆、御二方を残して退場せよ 」
ジェリグ様の一言にぎょっとする。
ええぇ、なんで!?
そんな気持ちは声にならず、退場していく皆を、呆然と見ていることしかできない。
「ロ、ローラまで!?」
そう言うと、ジェリグ様が「もちろん」と頷いた。
最後の希望をぽっきりと折られ、がっくりと項垂れる。
ジェリグ様まで出ていってしまい、扉を閉められたころには緊張も高まって。
「おい、小娘」
「は、はい!?」
小娘⋯⋯。
───昔は、リシアスと呼んでくれたのに。
寂しさを覚えながら、返事をした。
突然呼ばれて、肩が揺れる。
「⋯俺のことを陛下と呼ぶな」
⋯⋯はい?
「ええと、へい⋯アルヴィルト様、それは私が国民でないからでしょうか」
恐る恐る聞いてみる。
基本、国民でないものは陛下とは呼ばない。
なぜなら、自国の王こそがその人にとって陛下だからだ。
しかし、私には陛下と呼べる人が存在しなかった。
生まれ故郷の国の王に捨てられた私は、彼以外陛下と呼ぶ人がいないのである。
「違う。おまえは、俺をヴィルと呼べ」
じっと見られて、思わず視線をそらした。
ヴィル⋯⋯。
それは彼の愛称だ。
私が呼んで良いものなのだろうか。
「私が⋯⋯呼んでも良いのでしょうか」
下を向きながら言う。
自分で言いながら寂しく思うなんて、私は自分勝手だ。
ぎゅっとワンピースの裾を、握りしめた。
「呼べ。リシアス」
⋯⋯!!
今、そう呼ぶのは反則だ。
頬が一気に熱くなる。
───呼ぶしか、なくなってしまったではないか。
「⋯分かりました、ヴィル様」
そう言うと、満足そうににやりと笑って、陛下──ヴィル様は、食事に手をつけた。
ありがとうございました!!




