表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
飯喰う前に、世界を救え!  作者: 海土竜
34/34

プリンを喰らう

「すづー!」


 彼女の名を叫びながら五十鈴は何度も拳を石に打ち付けた。だが、廊下を埋め尽くす巨大な石の塊はびくともせず、彼の叫びが虚しく木霊するだけであった……。


「バナナ何て……、バナナ何て、食べねばよかったのだー!」


「そうですか? バナナおいしいのです。もしゃもしゃ」


「えっ? バナナ?……」


 聞きなれた声に振り返ると、そこには、バナナを食べるすづの姿があった。


「すづ! なぜそこに居る! 無事だったのか!」


「そう無事なのです、すづは、……バナナを食べていたおかげで、食べきったバナナの皮を床に立てて、落ちてくる天上と床の間に隙間を作り脱出したのです」


「……そんなバナナ」


「ぷっ、五十鈴さん、前から言おうと思ってたけど、ぷっぷっ、今回のは、さらに親父度がましてるよ、ぷっぷっぷ」


「いや、そうじゃなくて……、すづが、無事ならいいか……」


 ――ゴゴゴゴゴ。


「今度は何の音だ? また罠なのか?」


 五十鈴の拳でもピクリとも動かなかった石が、地響きを上げて動き出した。

 廊下を埋め尽くすほどの巨大な石が、迫り来る壁となって、今度は彼らを押しつぶそうと迫って来る!


「これも、罠なのか? とりあえず走れ!」


「違います、こんな罠は仕掛けられていません」


「バナナなのです。バナナの皮を踏んで、滑って来ているのです」


 すづは、また一つ食べ終わったバナナの皮を放り投げた。

 それは、石の壁の下に吸い込まれるように消えて行くと、途端に、迫り来る壁の速度が上がった。


「バナナの皮で、滑りがよくなったのです」


「うおぉぉぉー、すづ、それ以上バナナを食うんじゃない」


「もしゃもしゃ―! バナナは、おいしいのです」


「皮を廊下に捨てるなー!」


「皮も食べるのです」


 いいのか? それでいいのか?

 しかし、これ以上速度が上がらなくてもいづれは踏みつぶされてしまう、何とかしなければ……。

 その時、廊下の先の壁に頑丈そうな扉がある事に気が付いた。

 一か八か、あれに賭けるしかない!


「みんな、部屋の中に飛び込め!」


 五十鈴は、反対側の壁を蹴って、体ごと扉にぶち当たる!

 が、扉は普通に内向きに開いて、五十鈴の体は、部屋の中に転がって行った。


「みんな、無事か?」


 五十鈴は、何事も無かったように立ち上がりながら振りむこうとすると、


「ずいぶん、荒っぽい登場のお客さんだね……」


 部屋に置かれたベットの上から、若い男の落ち着き払った声が響いた。

 こんな状況でも動じぬ並々ならぬ胆力、まさか、この男が……。


「ライトハルト兄さん! こんな所に捕まっていたのね!」


 違った。

 その男は、クリスティーナの兄、捕らわれのライトハルトだった。


「おお、妹よ! よく無事だったな。しかし、私は、ここを離れる訳にはいかないのだ」


「どうして兄さん? 一緒に法皇クライを倒しましょう、この屋敷のみんなを解放するのです」


「なぜなら、……ここで寝ていると、毎日ご飯を運んでくれるからだ! それに、もう直ぐおやつのプリンの時間だ!」


 ダメだ、だめ兄貴だ……。


「すづも、プリンを食べるのです」


「そんな、引きこもりみたいなこと言わないで! 最高の騎士と呼ばれた兄さんにもどって!」


「なに、私も、ただ捕まっている訳ではない。こうして毎日剣の素振りをして、鍛えているのだ」


 ライトハルトは、逞しい右腕で剣を振り始めた。

 空を切り、唸りを上げる剣さばき! まさに、達人と呼ぶにふさわしい使い手!


「凄い! これほどの剣技は見た事が無い……」


 だが、ベッドに寝たまま腕しか動かしていない。

 ダメだ、やっぱこいつは使えそうにないな……。


「それに、この部屋の扉は、外から入るのは簡単だが、内側からは開けられない呪いがかけられている。食事は、その小さな窓から、届けられるのだ」


「なんだとっ!」


 皆が一斉に扉へと目を向けると、小窓の位置にすづが張り付いていた。


「すづ、いくら小さくてもそこからは出られないぞ?」


「ここで、プリンを待ち構えるのです」


 大きく口を開いたすづは、待ちきれないとばかりに、口から大量のよだれが溢れ出していた!


「なに! プリンは、私のおやつだぞ! 先に食われてなるものか……」


「ライトハルト兄さんが、ついにベッドから起き上がったわ!」


「うぅ……、久しぶり過ぎて、膝に力がはいらん……」


 やっぱ、この兄貴、ここに置いていた方がよいのではないのか?

 いや、そんな事よりどうやってこの部屋から脱出するかだ。

 考えろ……、扉がダメなら……。

 だが!

 すづの口から溢れ出した大量のよだれで、扉が溶け始めている!

 すづは、一体口から何を出しているのだ!

 胃液なのか?

 消化液か?

 しかし、これで、戦いの準備は整った。


「よし、法皇クライの元へ乗り込むぞ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ