27話『森の奥に佇む店"本の迷宮喫茶"』
アルヴェリア王国、首都の郊外に広い森が広がっている。
その森の奥に、その店はあった。
森の入口にひっそりと置かれた看板。
そこから続く整備された小道を歩くと、見えてくる。
──本の迷宮喫茶へようこそ。
店の前には、そんなしゃれた看板。
「open」と書かれた洒落たプレートが下がる扉を開けると、穏やかな音楽が聞こえてきた。
そして――視界に飛び込んできたのは、本。
どこを見渡しても、本、本、本。
壁に置かれた本棚にはびっしりと本が並び、通行を妨げない絶妙な配置で椅子やテーブルが置かれている。
天井には、不思議な板が張りめぐらされていた。
そこは、ここの住人たる紅大山猫たちの通り道。
運が良ければ、店へと入った客を一瞥もしない自由気ままな猫たちを、真下から覗くことができるだろう。
――いらっしゃいませ。
そんな出迎えの声はない。
今日の店主は不在のようだ。
店主がいつも座っているカウンターキッチンに、若い女性店主の姿はない。
おっとりした美人店主は、その外見に似合わず面倒くさがり屋。
高額な無人販売機を導入し、高度な防犯魔法や、結界魔法を維持しているというのに、そのすべては……自分が楽をするため。
技術の無駄遣いと呆れた客は、果たしてどれだけいるだろう。
週に数日、しかも日の高い時間しか店番をしない店主は、運が良ければ初来店時に。
運がなければ、数か月して……やっと対面できる。
しかし、訪れる客は誰も困らない。
常連たちは慣れたように無人販売機から魔法カギを購入し、初めて訪れた客は入口の目の前に堂々と置かれた案内板を見て、店の使い方を知る。
二階へと上がると、そこは迷宮だ。
塔のように上へ上へと続く壁に本がぎっしりと詰め込まれ、本棚の役目を果たす壁に沿うように螺旋階段がある。
時折、螺旋階段の横に入れる部屋があり、そこにはゆったりと本を読むことができる空間が広がっていた。
出迎えるもののいない、本にあふれた不思議な店。
静かで居心地のいい店は、今日も静かに客を待ち続ける。
──第一章[完]──




