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どうやらメラニーは学園でジェームスから逃げ回っているらしく、帰りも公爵家にはいっていないようだった。
なのに帰りはいつも通り。
どこに行って何をしているのか、ケイトが聞いてもメラニーは教えてくれなかった。
(そのうち公爵家がキレて婚約解消を言い出すのを待ってるのかな)
あれからもジェームスは朝メラニーを待っていたが、いつも会うのはケイトだけ。
そしてとうとう
「おはよう、ケイト=ウィンスレ嬢」
「おはようございます、ハンター公爵令息様」
「メラニーは俺に会いたくないみたいだね」
ちょっとしんみりした顔でそう言われてしまった。
「いや~そそそんな事はないかと…思ったり思わなかったり。
会いたくないというか、会ってはいけないというか、なんともかんとも」
ケイトが慌てて取り繕うと、ジェームスはくくくっと笑って、ポンポンとケイトの頭を2回たたくと
「君はいいやつだ」
そう言って立ち去って行った。
「なにすんだ」
ケイトは思わずそうつぶやいていた。
「メラニーお前は毎日公爵邸に行っていたのではないのか?」
とうとう父親が帰宅したメラニーを待ち構えて問い詰めた。
メラニーは、というと、下を向いて何も言わない。
「祖父母の所から帰宅したと聞いたが公爵邸にはいつから通うのか、とあちらから聞かれたんだよ。
どうなってるんだ?
退院してからお前の帰りはいつも遅かったが、どこで何をしていたんだ?」
「・・・・」
「黙っていてはわからん、ちゃんと答えなさい」
可愛そうになったケイトがメラニーの所に行こうとしたが、母親から止められてしまった。
「お母様?」
「ケイト、あなたがメラニーを可愛がるのは悪い事だと言わないけれど、今はあの子をかばってはいけないわ」
「あの」
「あの子は公爵家からの婚約を受けたの。
公爵家に嫁ぐためにはきちんと教育を受けなければいけないわ。
それを黙ってさぼるだなんて、公爵家を馬鹿にしていると思われてもしかたないことでしょ?
不満があるなら私達にきちんというべきなの。
姉であるあなたが甘やかして言い訳を考えてあげるなんてことはあの子の為にならないわ」
母親から静かにそう言われ、ケイトは はい と答えるしかなかった。
部屋にもどったケイトは一人思いを巡らせた。
(だけど、メラニーに暴力や暴言をふるう人だし、やっぱり何とかして婚約を解消してもらうのがメラニーの為になると思うんだけどな・・・。
甘やかしてるのかな、これが)
次の日は休日だったため、ケイトはメラニーを誘ってお茶でもしようと思ったのが、メラニーはすでに出かけた後だった。
どこに行ったか聞くと、「お友達と街へ行かれるそうです」とのことだった。
ケイトも街へ行ってみようかと思いたち、何となく街をぶらついていた。
(あれは・・・メラニー?)
すこし離れた場所にメラニーが見えた。
どうやら数名の令息と遊びに来ているらしい。
(あの子、女の友達と出かけたんじゃないの?
あんなに令息たちと近い距離で一緒に居るだなんて、誰かに見つかったらどうするの?
公爵令息に見つかったらそれこそまた暴力をふるわれちゃう!)
注意しに行こうと足を踏み出した時、声をかけられた。
「偶然だな、ケイト=ウィンスレ」
「う?ひぃえぇ~~~」
「なんだ、人を化け物みたいに」
(やばいやばいやばいやばい、なんでここにこいつが~~~~)
驚きすぎて固まっていたケイトだったが、はっと思い出した。
(こいつの目線の先にメラニーがいるじゃん!!
こいつに今のメラニーを見られてはいかん!)
謎の使命感にかられたケイトはジェームスの帽子をさっととり、メラニーのいる方とは反対方向に走り出した。
「おい?いきなり?帽子をかえしてくれ」
「ほほほほほ、捕まったら返してもいいかも~」
謎のテンションで逃げるケイトをジェームスはぽかんとしていたが、くくくっと笑うとケイトを追いかけ始めた。
街はずれの丘のあたりでケイトは追ってきたジェームスに帽子をかえした。
「すみませんっした~~~」
深く頭を下げるケイトをジェームスは笑ってみていた。
「なんだあの笑い方は?」
「いや~なんともいえないテンションに包まれまして・・・」
「くくく、謎のテンションね、まあいいや、見ろよ、すごい景色だ」
そう言われて景色を見ると、一面の花畑が広がっていた。
「すごい」
「なんだ、知っててここに連れてきてくれたのかと思ってたが、違うのか」
「なんか普通に走っていたので気がついたらここに来ていたので」
「相変わらず走るのが速いな」
「なんかすいません?」
「謝ってるのか?それ」
「多分、ちがいますねえ」
ケイトはそう言ってしまってから、思わず笑いだしてしまった。
釣られたのかジェームスも笑っていた。
「景色のお礼にお茶を御馳走しよう」
そう言って近くのカフェへ行き、二人でお茶をのんだ。
思ったより会話が弾んだ。
ケイトの好きな本がジェームスも気に入っていたり、学園のイベントの話だったり、隣国との貿易の事など、話題は豊富でケイトも楽しんでしまった。
「知識がすごいですね、さすが公爵家令息様」
「いやいや、ケイト=ウィンスレ、君もなかなかの知識だよ。
令嬢でここまで俺の話をきちんと聞いてくれる人はなかなかいないよ。
というか、もうジェームスでいいよ」
「はあ、まあ、考えておきます」
「考えるのか」
「それよりも、もっと大事なことがあります」
「なんだ?」
「私の事をフルネーム家名付きで呼び捨てにしないでください」
「あ」
言ってやったぜ、と言わんばかりのケイトの顔を見て、ジェームスは苦笑した。
「すまない、ケイト嬢、でいいかな?」
「はい、よいです」
「じゃあ、俺の事もジェームスと呼んでくれよ」
「それはちょっと」
「なんでだよ」
「妹の婚約者でもありますし・・・」
「はは、そうか、そうだね」
「ですから、ハンター様と呼ばせてもらいます」
「わかった」
妹の話が出てから、何となく微妙な雰囲気になり二人はそのまま解散した。
「お嬢様」
「なに?」
「いきなり走るのはやめてください。
ついていくの大変なんですよ」
「あ、ごめん」
帰り道、とうとう護衛から叱られてしまったケイトだった。




