第六話 運命の再会
「し、失礼致しましたわ………」
体勢を整えて、百合子先生は軽くお辞儀をした。
ふっ、と人差し指を虚空に掬い上げると、床に散乱した資料の紙が命を吹き込まれたかのようにふわりと浮遊する。ひらひらと胡蝶のように連なって舞い上がり、また、指を振るうと、束となって教壇の上に整頓された。
脳内の意思で物体を自由自在に操る、念力。百合子先生の得意とする魔法だ。
「百合子先生が来るってことは………にいちゃ……いや、ラム先生は……?」
アイスケのげんなりとした問いかけに、「はい!」と百合子先生は麗やかに微笑む。
「ラム先生は、毛髪に恵まれなかった世の方々のために、強力な育毛剤を作る研究をなさっていますわ」
「ただのサボりだろ!!」
ハゲの一言をオブラートに包む品の良さには感服するが、決して誇らしげに語れる状況ではない。
始業時間になっても担任が来ない────いつものことながら、これが平常運転でいるB組に輝かしい未来はあるのか。
何せ、星ノ木にはクラス替えというシステムがない。
入学時から、組が固定され、基本的に担任教師も卒業まで永続となる。そのため、小中高の教育を担うここの教師に必要な資格、条件は専門の大学でしか成せない難関たるものだとか。
とはいえ、一年前に新米ながらB組の担任に配置されたラムの体たらくには、上からのお咎めを受けないものなのか。生徒兼弟ながらヒヤヒヤしてしまう。
「ですので今日のホームルームは、私が取り仕切らせていただきますわ」
「先生ー、そのカーディガン裏表逆じゃない?」
「ひゃあっ!」
生徒の直球な指摘に、百合子先生はあたふたと顔を真っ赤にして、大きな胸を隠すように体を抱きしめる。
「ふ、ぁ、ふぁ、ファッションですわ!」
開き直った。
「先生! 値札ついてるよ!」
「ひゃっ! ふぁっ、ファッションですわ!」
あまりの無茶ぶりに可哀想になってきたので、半額のシールがついてることはもうツッコまないでおこう。
「こ、コホン!」
百合子先生は恥じらいながらも小さく咳払いする。
「ホームルームを始める前に、今日は皆さんに大切なお知らせがありますの」
ん? とアイスケは軽く首を捻った。
百合子先生はにっこりと満面に微笑む。
「皆さんに………転校生を紹介致しますわ!」
ギクリ、といったようにユウキの顔が強張る。
「てん、こう、せい…………」
コンコン、と扉にノックの音が鳴る。
「嫌な………予感が…………」
ガラガラ、と扉が開けられ──小さな少女の横顔が過ぎった。
「あ………あ………」
亜麻色のツインテールが風になびいて、揺れるヒマワリの髪飾り。
袖にすっぽり手の甲が覆われるほど、ぶかぶかな純白の制服。
小さな腰に携えるのは白塗りの剣で、鍔の部分だけ月のような黄金色に輝いていた。
白く細い足が教壇の前まで着くと、くるりと少女は前を向く。
満月の双眸に、誰もが目を奪われた。
「はっ、初めまして! 煌 ひまりと申します! ふっ、ふつつかものですが、よろしくお願いします!」
運命の歯車が────動き出す音がした。




