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モンスターハウス

 不意打ち。

 目の前に迫る何かを右手で反射的に払った。


『リルア様、レベル106になりました』

「ぐうおおおおぉぉぉぉ。私の右手ええええぇぇぇぇ!!」


 右腕を左手で抑えるように蹲る。

 この右手がアカンのんかああぁぁぁ!

 スケッチが心配そうに私を見て、字が描かれたキャンパスを此方に向ける。


【大丈夫ですか?】


 優しい子や、スケッチ。

 大丈夫、痛いわけじゃないの。

 いきなり来た、何かを初見で叩き殺した私が悪いの。

 しょうがないじゃない。

 顔前数センチに虫みたいな顔があったら、反射的に払っちゃうでしょ。

 ……って私は何を叩き落したんだ。


 その正体は、私達の目の前に大量展開していた。

 いきなりのモンスターハウス。

 蜘蛛と鼠の複合型と思われる魔物達。

 鼠の身体に蜘蛛の八本足と牙、複眼を持つ異形。


『ラットスパイダーです。100メートル四方の空間に三万匹を確認』

「三万! まさかっ!」


 脳裏に過るのは魔物使いの存在。

 だが、真っ先に鑑定スキルはそれを否定する。


『否定します。瞬時に三万もの軍勢を隠すスキルなど存在しません』

(事前に移籍内部に仕掛けていたとか?)

『遺跡の入口を発見していた場合、事前に参加者を襲う必要性が薄いです』


 確かにそうだ。

 入口を事前に知っているなら、秘密裏に攻略して宝を奪ってしまえばいい。

 仮に入口を知っていたとしても、初見で遭遇するのは三万の軍勢。

 一人で何とか出来る筈がないため、死んでいる確率が高い。


 念のため、転移装置を再度、踏んでみる。

 しかし、反応は皆無。

 18分もの間、この状況を受けて誰も帰ってこなかったのは帰り道がないから。

 そして、魔物使いがこの状況を一度見て、引き返した線も消える。

 

 今の状況からして、魔物使いが罠を仕掛けた可能性は低い。

 同じ様にこの軍勢を前にして、面食らっている筈だ。


 仮に軍勢を召喚するスキル持ちだとしても、私達の選択肢は一つだけ。

 この状況を切り抜けるのみ。


 例の如く、鑑定スキルがラットスパイダーの構成を表として展開する。

 30レベル台が29万。

 40レベル台が1万。

 60レベルが50程度。

 そして……、100レベルが5匹。


 部屋の最奥で威圧感を放つ五つの巨大な影。

 私達が朽ち果てるのを遠くから眺め、笑いを浮かべているようにも見える。


 圧倒的物量の中、他の攻略者達は無事なのだろうか。

 答えは死傷者、重傷者無し。

 その立役者となっているのは、私の幼馴染二人だった。


 50レベル台の冒険者の周囲に浮かぶのは4本の浮遊剣。

 時に彼等と連携を取り、攻撃を払い、身代わりとなって攻撃を受ける。

 およそ、50人の人間をサポートするのに必要な剣は200本。

 意思を持つかのような剣群を生み出したのは一人の錬金術師だった。

 私は術者の名前を叫ぶ。


「ソフィア、状況は!」

「最悪! 皆が死なない様にサポートするのがやっと!」


 そして、魔物で埋め尽くされる空間に、不浄の世界を作り出す銀髪の魔術師。

 大地の力を利用した、黄金の壁。

 点字魔法により多重展開し、疲弊した攻略者達の一時的な避難所を生み出す。

 障壁には常にラットスパイダーが体当たりし、爆炎が生じていて、


「コイツ等、自爆するの!」

『解析完了。ラットスパイダーの特性を表示します』


 私だけに見えるホログラム型表示フレーム。

 そこに記載されているのは、


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*

【ラットスパイダー】

 属性:地

 複数の女王蜘蛛を頭として、軍勢を構築する魔物。

 鼠の繁殖力を有し、僅かな期間で大規模な軍勢を作り上げる。

 強い地属性を利用して、土や岩で構成された地面を泳ぐことが可能。

 背後や側面から獲物を襲うことが得意。

 女王に危機が迫れば、自らを犠牲にして自爆攻撃を敢行する。

 遭遇すれば生き残れる確率が低いことで有名。

 女王を先に倒せば、下部全員が一斉に自爆する。

 下部を先に倒そうとしても、軍勢の前に力尽きてしまう。

 攻略法は同じだけの戦力をぶつけ、短期決戦に持ち込む他ない。

~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*


 ラットスパイダー強すぎでは?

 私が女王をワンパンしても、皆が爆発に晒されてしまう。

 範囲攻撃で空間ごと殴ってもいいけど、今は駄目だ。

 どこを見ても、攻略者達が居て、誰かを巻き添えにする可能性が高い。


 他の70レベル台の少女達は何をしているのか。

 三人は勇猛果敢にボスへと突撃を敢行していた。

 民族が右から、元気が左へ、中央を委員長が。

 それぞれ、同じタイミングで女王蜘蛛に向かって疾駆する。


 しかし、転移陣から女王蜘蛛がいる最奥まで100メートル。

 半ば50メートルまで進んだところで、子蜘蛛達が壁を形成する。

 三人がその壁を抜けようとしたところで一斉に大爆発。

 かなりの距離を押し戻されてしまう。

 恐らく、近付けば近付く程に自爆攻撃は苛烈になるのだろう。

 これ、どうやって攻略すんねんとかいうレベルの魔物である。


 方法は一つ。

 攻略者達を部屋の隅に集めて待機。

 私が三万の軍勢を空間ごとワンパンする。

 レベル幾つ上がんだよ……。

 ワイは経験値100倍の呪いに掛かっとるんやぞ。

 人命優先だが流石にコレは大分、迷う。


 そう思った時だ。

 強力な何かが空間を支配する感覚。

 その余波を最初に受けたのは、幼馴染二人の力だった。

 

 浮遊剣の幾つかに亀裂が生じ、ある剣は完全に砕け散っている。

 そして、黄金の障壁も何かによって完全に壊されてしまった。

 他にも魔法の展開が鈍くなった者もいるようだ。

 

 反応したのは、私ともう一人。

 犯人と思われる一人の少女へ私達の視線が集中する。 

 同じく異常を察した民族が大声を上げて、


「貴様! 何をした!」


 声の先、佇むのはスケッチブックを大事に抱える色白金髪少女。

 彼女は柔らかな笑みを浮かべ、攻略者達を静かに見据えていた。


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