大会前夜②:クリスの視点
「魔法防壁は張っておいたよ」
「有難う」
早めに寝ようかというところでソフィアに呼び出された。
要件は部屋全体に防護壁を張る為。
いつもの日課である特訓で宿に被害が出ない様にとの配慮だ。
村に居る時は周囲に何も無い草原などで行っていたので必要はない。
なのでいつもならソフィアに呼び出されることは殆ど無かった。
僕への配慮は無いのかな、と思うけどいつも通りなので気にしないでおこう。
「精が出るね」
「いつも通りの日課をやってるだけ」
「それが凄いことだって気付かないのが凄い」
リルアは朝型特訓人間。
ソフィアは夜型特訓人間。
二人とも短い時間に集中して行う事がほとんどだ。
僕は朝昼晩にバランスよく行うタイプ。
時たま一緒に頑張ることもあるけどね。
最近だとソフィアと一緒に魔物のガイル達とかと修行したかな。
ソフィアが机にカードを並べ始める。
この前リルアとの鬼ごっこでも使用したモノだ。
「最近はカード主体だね」
「今まで色々な媒介を使って来たけど他人にも使わせるにはコレがいいかなって」
少しだけソフィアに変化が生じたように思う。
自分主体ではなく、他者を前提とした錬金術による生成。
「転移可能な錬金ナイフとかはカード化しないけど」
「突き刺した場所に移動するとか用途的にはナイフの方が便利そうだしね」
不思議に思う事がある。
僕が強くなろうと思うのにはそれなりに理由がある。
ソフィアはどうなのだろうか。
始まりは過去の事件で僕は視力を、ソフィアは右腕を失ってからだ。
学園への入学も障害を理由に断られ、反骨精神が最初に在ったと思う。
ソフィアと僕、共通に持っていた思いだった筈。
そこに変化が生じたのはいつの頃だろうか。
「ソフィアは何のために強くなりたいの?」
「飽くなき探求心よ!」
「半分はそうだろうけど、もう半分は?」
「今日はやけに踏み込んでくるわね」
「たまにはいいかなって」
「うーん、私もヒーローになりたい。そう思ってるのかもね」
「リルアみたいに?」
「私なりのよ」
私なり、の形は決まっているのだろうか。
更に踏み込んで聞くのは野暮な気がする。
それこそソフィアが自らの思いを体現した時に確認すればいいだけのことだから。
「で、クリスは何のために強くなりたいのよ」
「僕は皆のためにって考えてたら強くなったかな」
「半分はでしょ」
「フフフ、もう半分はこの先の僕を見てから確認して欲しいかも」
「言わないなんて、ちょっとズルくない?」
少し拗ねながらも淡々とカードに効果を与えていくソフィア。
傍からは何もしていないように見えるけど危険なことをしている気がする。
失敗すればボカンとなるようなことを。
そのために僕を自室に招いたのだろうけど。
「そういえば明日の大会、もし僕と当たったらどうする?」
「本気にならない程度に制限して戦えばいいんじゃない?」
「途中からムキになって攻撃して来そうな気がするんだけど……」
「否定は出来ないわね」
「冗談で言ったのに、そこは冗談で返してよ」
部屋に二人の笑い声が満ちる。
「何はともあれ、同い年くらいで強い子達と出会えれば面白いかな」
「そうだね。また友達とか作れればいいよね」
僕の言葉にソフィアも頷きを見せる。
大会は国を挙げてのお祭りみたいだし、皆で楽しめればと思う。
その後、他愛無い雑談を交わしながらソフィアと僕の夜は過ぎていった。




