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090.齟齬

「ど、どう言う事ですか?」


 ハツカは、自身に生じた動揺を隠そうとするも、隠し切れずにいた。

 コウヤが、何をもって、あのような言葉を掛けてきたのかは分からない。

 しかし、ハツカが黒爪狼の位置を掴めていないのも事実。

 それをコウヤは見抜いていた。

 その不可解な齟齬(そご)が、ハツカの足を止め、この場に繋ぎ止める。


 その様子を見たコウヤは、真剣な眼差(まなざ)しでハツカに訊ねた。


「やはりそうか。ハツカ、いつから黒爪狼(ブラッククロー)を見失っている?」

「それに答える必要があるのですか?」


 ハツカは、コウヤの真意を計り切れずにいた。

 その為、言動の一言一句に警戒の色を浮かべる


「おれ達は、互いに大きな見落としをしている可能性がある」

「……黒爪狼(ブラッククロー)の現在の位置を教えてくれるのなら答えましょう」

「良いだろう」


 ハツカは、自身の手の内を晒す事を躊躇(ちゅうちょ)する。

 ゆえに、交換条件を持ち掛けたのだが、それをコウヤは、アッサリと受け入れた。


黒爪狼(ブラッククロー)が交戦状態に入ったと思われる直後から、探知範囲外に消えて、そのままです」

「センが接触を持った頃か……ちなみに、センの位置は掴めているか?」

「私はセンを知りません。黒爪狼(ブラッククロー)の相手も探知範囲外だったようで識別出来ていません」

「そうか、それで納得がいった」


 コウヤは、ハツカが黒爪狼の下へと駆けつけようとしていたナナメ前方を指差す。


黒爪狼(ブラッククロー)とセンは、この先40メートルの辺りにいる」

「えっ?」


 ハツカは、黒爪狼が自身の探索範囲内に居ると知らされ困惑する。

 そして、指定された地点を菟糸で調べた結果、そこに三体の存在が確認出来た。


「確かに、そこに反応が三つ固まっていますが、その中に黒爪狼(ブラッククロー)の反応はありません」


 だが、菟糸から伝達された情報には、黒爪狼の反応がない。

 ゆえに、ハツカは、コウヤからの情報を疑ったのだが──


「そうか、やはり三体か……」


 コウヤは、納得がいく情報が得られた事で、自身の情報を開示した。


「ちなみに、おれの熱探知でも魔力探知でも、そこには二体しか存在しない」

「えっ?」

「ハツカさんとコウヤさんでは、結果が違うんですか?」


 ハツカとコウヤの計三種類の探知方法。

 その全てで異なる結果が浮かび上がる

 その不可解な結果に、ルネは驚きの表情を浮かべ、ハツカは顔をしかめた。


「そうだ、正しくは、熱探知に掛からない者が一体、魔力探知に掛からない者が一体だ」

「そんな相手がいるんですか?」


 ルネは、訳が分からない、と疑問の声を投げ掛ける。

 しかし、これまでの間に、すでに、いくつかの前例があった。


「少なくとも、魔力が無いシロウは、魔力探知に掛からないのでしたよね?」

「そうだ、そして百二足(ヒャクニ)装飾蠍(デコスコーピオン)は、熱探知に掛かりづらい傾向にある魔物だ」

「確かに、コウヤは、そんな事を言っていましたね」

「でも、それならハツカさんが黒爪狼(ブラッククロー)を見失ったのは?」


 コウヤに起きた齟齬(そご)の理解は追いついたが、まだハツカの問題が残る。


「それについてですが、菟糸はザムザとシリィを同一視した事があります」

「他人を同じ人物だと勘違いしたんですか?」

「そうです」

「まぁ、今回は直前まで能力を失っていたんだ、そう言う事も起き得るだろう」

「そうですね……」


 ハツカも菟糸の識別の齟齬(そご)は気になっていた。

 しかしながら、コウヤが考察を保留にした事で、その思いを言葉にする事を(とど)める。

 

「ともかく、ハツカ、黒爪狼(ブラッククロー)の事が気に掛かるなら、向かう先はそっちだ」


 コウヤは、改めて黒爪狼の方角を指し示す。

 そして、ハツカの視線は、(おの)ずと指し示された方角に向かった。


「どう言うつもりかは分かりませんが、コウヤ、感謝します」

「おれにとっては、どう転んでも構わない問題だからな。ただ……」


 コウヤの言葉が、わずかに途切れる。


「先にも言ったが、百二足(ヒャクニ)装飾蠍(デコスコーピオン)のような魔物も一緒にいるはずだ、気を抜くな」

「コウヤの熱探知に掛からなかった者ですね」

「そうだ」

「分かりました、では行ってきます」


 ハツカは、コウヤの間が気にはなったが、未知の魔物への警告を素直に受け取る。

 そして、コウヤから得た情報を元に黒爪狼の下へと駆け出した。


 目的地までの距離は、直線距離で、わずか40メートル。

 しかしながら、ここは岩場の峡谷である。

 その行程には、直進を許さない高低差はもちろん、邪魔な障害物も多数あった。


 ハツカは、(はや)る気持ちに()かされながら駆ける。

 岩場を跳び継ぎ、必要に迫られれば崖に菟糸を打ち込み、身を引き上げる。

 一刻も早く、黒爪狼の下へと辿りつく為に、赤髪化による身体強化を全開で行使する。

 それにより、常人を遥かに超える速度で移動した。

 しかしながら、ハツカは、それですら遅い、と、もどかしく感じる。


「いっそ、空を飛べれば、一直線に向かえるのですが……」


 ハツカは、(むな)しい願望を思わず吐露(とろ)する。

 子猫達(ネコレンジャー)子猫列車(ネコライナー)が使えたなら、それこそ最速で向かえただろう。

 しかし、無関心になっていた子猫達(ネコレンジャー)も、黒爪狼を前にすれば敵意を再燃させかねない。

 何より、無いものねだりをした所で、事態は好転しない。

 結局は、いまある戦力を有効に使う以外に、やりようはない。


 ハツカは、降り立った岩場を力強く踏み込む。

 それにより、自身の倍はある高さの岩壁を飛び越え、また一歩前進する。

 その時──


【バッ!】


 ハツカの後方で、何か音がした。

 突然の出来事に、ハツカの鼓動が跳ね上がる。

 慌てて後ろを振り返るハツカ、


「えっ?」


 そこで目にしたのは、前日に消失した燕麦の姿だった。

 しかも、それはまるで翼のように展開し、羽ばたいていた。


 ハツカの身体が浮遊感に包まれる。


 それは峡谷に落下した際に、燕麦の滑空で減速を試みた時とは明らかに違う体感。

 この瞬間、ハツカは(まぎ)れもなく飛行していた。


「バカなっ、燕麦が復活しただけではなく、更に進化したのですか?」


 赤髪化と言う変化に(ともな)って、身体が活性化したのは、すぐに把握出来た。

 しかし、その影響によって、燕麦の復活まで起きているとは思ってもいなかった。

 しかもそれは、ハツカの意思を汲み取ったかのような飛行能力をも発現させて……


 これから戦闘になる可能性が高い現状での、戦力強化は喜ばしい。

 しかしながら、これがハツカだけに起こっている現象であるはずがない。

 立て続けに身に起きる異常な強化現象。

 それが逆に、ハツカの不安を掻き立てた。

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