閑話 シレンシアでの一幕①
二話連続ギード(盗賊)視点です。
「頼みがある――あの腐った神父共を、皆殺しにしてほしい」
ああ、やっぱりあっしの読みは当たってやした。いやしかし、まだ罠だって可能性も捨てきれやせん。どうしやしょうか……
* * *
「お頭、今日はどうしやす?」
「最近は大罪とやらのせいで街に聖騎士が多い。貴族も護衛の質を上げてるし参ったな」
「……じゃあ、アレやりやせんか? あっしも食いっぱぐれるのは嫌だ」
お頭は苦虫を噛み潰したような顔をしやした。討伐証明部位を弱小冒険者に売り付ける……あっしだってあまり気乗りはしやせん。それでとっ捕まった知り合いも多い。ただ今は動きにくすぎる。
「アレは密告した方が美味いんだ。最早仕事としちゃ成り立たねえよ」
「そうでありやすか……しっかし困りやしたねえ」
恥ずかしながら、一応今日明日を生きていく程度の蓄えはありやす。ただそれ以降は……。
「素性を問わない傭兵の仕事でもありゃあな」
「そりゃ厳しいでやしょう。ギルドを通さないのはいざこざの元だ」
仲介手数料も安くなったせいで、今や依頼のほとんどはギルドに集中していやす。冒険者じゃなければ、小銭を稼ぐのにも一苦労ってなもんで。
「あれあれえ、君たち手配中の盗賊かなあ? 反応があった大罪を探しに来ただけのつもりだったけど……思わぬ収穫だねえ」
「――聖騎士……!」
角を曲がったところで聖騎士にぶち当たりやした。ツイてねえでありやす。なんの用でこんな貧民街に来てやがるんだか。
まぁ隙を見て逃げ出すとしやしょう。二対一でも勝てる相手じゃありやせん。
「確か二人ともそれなりの賞金かかってたよねえ。ここで殺していけば、おやつ代くらいにはなるかなあ?」
「ギード!」
「へぇ――白煙!」
あたり一面に広がる白煙。あとは帰還で……
「――大嵐」
……一瞬で煙が吹き飛ばされやした。それどころか、石畳が抉れて宙を舞っていやす。こいつぁ不味い。
「甘いよう。僕は聖騎士、子供騙しは通用しないよう?」
「ギード、飛ばすぞ。下がっとけ」
「へぇわかりやした」
ただの白煙で逃げられないなら、無理やり相手の動きを止めるだけでありやす。
「おおおおぉぉぉぉぉぉ地撃覇ォ!」
「――風壁」
お頭の渾身の一撃……が、風の障壁に阻まれてあっさりと消えちまいやした。地面に亀裂が入ってるのにもかかわらず、聖騎士には傷一つない。それどころか、余裕そうな笑みまで浮かべてやがる。
「おっとと、これは風壁使ってなければ危なかったなあ。妙だと思ったら……盗まれた神器じゃないか。まさか聖騎士以外にも扱えるとはねえ」
盗まれた神器……確かにあの斧は教会を出るときに拝借したものでありやす。神器だったとは考えもしやせんでしたが。
「次はこっちから仕掛けさせてもらうよう――風刃!」
「ぬぁ……っ」
「お頭! ――魔影短剣」
「――大嵐!」
痛え。身体が投げた短剣と共に宙に舞い上がったのがわかりやす。だがあっしの傷は深くない。比べてお頭は風刃をモロに受けてやしたから恐らく――
「はぁ……はぁ……終わりか……? 俺ぁこんなんじゃくたばらねえぞ……」
「これを受けてまだ息があるとはねえ。反動が残る身体に直に撃ち込んだはずなんだけどなあ……君たち、本当にただの盗賊かなあ?」
やっぱり、ああは言ってやすが立ってるのもやっとって感じでありやす。だがあっしは治癒の類いはてんでダメだ。深い傷なら塞ぐのすら厳しい。
「何はともあれ、盗賊ごときが神器に触れてるのは許せないなあ」
「逃げ、ろ、ギード」
「アハハ、逃がさないよう――風壁」
元より逃げる気はありやせんでしたが、例の風の障壁によって周囲を覆われちまいやした。
麻痺の魔術結晶はまだ残ってやすが、聖騎士に効くほどの高級品ではありやせん。
「仕方……ねえな……コイツを解放する」
「お頭!?」
確かにあの斧には不思議な力がありやした。お頭が魔力を込めれば、それに反応して途轍もない爆発――軽い魔力暴走のような――を起こせるんで。
ただ、こんな場所で解放したら大変なことになりやす。あっしもここにいれば巻き込まれやすが、何も知らない一般人が大量に死にかねやせん。
「止めてくれるなよ、犠牲は覚悟の上だ。だが聖騎士、お前は俺を止めねえと不味いんじゃねえのか?」
「……冗談もほどほどにしてほしいねえ。神器を扱えるのはまだわかる。ただ、解放となると話は別だよう。聖紋も持たない者が、そんな――」
「――じゃあ試してみるか? 俺は一向に構わねえぜ」
まさに一触即発。一般人を巻き込むのは信条に反しやす。どうか考え直してほしいもんで。
「僕までこんな場所で解放したら怒られるだけじゃ済まないよう。……なるほどねえ。丁度''今日''だし、王宮の占術士に聞けばこれもまた運命とか言われそうだなあ」
「……何を言ってる?」
聖騎士はそれには答えず、あっしの方に振り向きやす。
「念の為、そっちの君も使ってる神器を見せてほしいなあ。ああ、もう取り上げる気はないから安心してよう」
あっしに向かって笑いかけると、手に握っていた杖を地面に置きやした。同時に風の障壁も解除。最早敵意も感じやせん。どうやら本当に戦う気はないようで。
「じ、神器? あっしのは賭けで巻き上げたもんでして……それも、酒場で飲んだくれてたごく普通の冒険者からでありやす」
楕円形の金属板に、お世辞にも大きいとは言えない魔石がはめ込まれた安っぽい魔道具。これが神器なわけがありやせん。
「ううん、じゃあ君は神器なしであんな芸当をしてみせたってわけだねえ。やはり天使の子だ。僕らと同じ、ねえ」
あっしらが天使の子? 貧民街の孤児だったあっしらが?
「聖騎士の素質を持つままに、不完全な状態で教会を出ていっちゃったんだよう。君たちの名は……ローランに、ギード」
「お前、何故俺らの名を知ってやがる?」
「アハハァ、その様子じゃ僕の予想は当たってたみたいだねえ。殺さなくて良かったあ」
わけがわからねえでありやす。何故あっしらの名前を? 酒場の主人と、ごく少数の知り合い以外は知ってるはずがない。
「今日の夜、刻22に教会の二階東三番目の窓を覗いてほしいなあ。それでなにか思うことがあれば、明日また同じ時間にこの場所に来てよねえ。これは、聖紋を持たぬ君たちにしか頼めないんだよう」
「だからさっきから何を言ってやがる。俺らがむざむざ殺されに行ってやると思ってんのか?」
「だから殺さないってえ。夜は聖騎士は教会にいないし、明日ここに来るのは僕じゃないよう」
じゃあ誰が、と訊こうとするのを遮るかのように聖騎士が続けやす。
「――ルファス。この名前に聞き覚えがあるはずだよねえ?」
「お前……!?」
聞き覚えがあるなんてもんじゃありやせん。ルファス。
……ルファスは、あっしらの旧友の名だ。




