36 土鎖
「で、でも副隊長。迷宮なら管理されているはずですよね」
「うん。基本的に外部からの転移はできないはずだ」
あ、それは全迷宮共通なのか。まぁ転移門を通せばなんのその!
「でも、罠が仕掛けられているのはおかしい。上層に罠がある迷宮なんて聞いたことが……いや、本当に上層なのかな。今のスライムは中々に手ごわかったし、転移可能ならここが上層だという確証はない」
「しかも、王立図書館の魔物図鑑にさえ載ってない種類でした。迷宮内で進化した新種かもしれません」
「どの迷宮にせよ、未踏の階層に来てしまった可能性が高いね。もう少し進めば外への出口があると思っていたけど……それも怪しいかもしれない」
いやその予想は正しい。出口は次の階層だぞ。
ミノタウロス――ミノっちが狩れればな!
「私たち、無事に帰れるんでしょうか」
「断言はできない。だけど、きっとなんとかなるさ。俺たちは栄えあるシレンシア騎士団員だ。仲間との絆は――」
「――何より強い武器になる、ですね。なんだか不安もどこかにいっちゃいました!」
「よし、じゃあ進もう。階段はすぐそこだ」
ムムッ、俺のリア充センサーが反応してやがる。奴らさてはいい雰囲気になりかけてるな?
ダンジョンでいちゃつくのは間違っているだろうか――その通り。彼女いない歴=年齢の俺の迷宮でデートしやがるとはいい度胸だ。吊り橋効果の餌にしよって。
次の階層に休憩用の個室を急造しようか。いい雰囲気になった瞬間に天井が落ちてくる罠を添えてな!
とかなんとか言ってたらもう次の階行きそうだ。そりゃそうか、もう魔物は全滅してた……。
「隊長! 今、今」
「ああ、俺もはっきり見ていた。皆、どうやらこの玉座に触れると消えるらしい! どこかへ飛ばされるような消え方だった」
おお、こっちは気付いたか。さてさて、あの二人がミノっち狩るのに間に合うかな?
「俺が先に行く。皆俺に続け――いや、ルートス。お前はシレンシアに戻れ」
「な、なんでです?」
「そりゃお前、エクィトスの扱いが一番上手いからだよ。仮に俺らが全滅するようなことがあったら、誰も報告に行けないだろう? 目的はレイス討伐だが、それ以前に問題が起こりすぎた。城の件もこの怪しげな玉座の件も、全て団長に伝えてくれ」
「――はっ! ご武運を!」
「ああ、お前も気をつけろよ」
ありがてえ。この人数で行ったらミノっちには余裕で勝てるだろうが、報告に行ったってことはまたすぐ次がくるってことだろ。これが終わったら迷宮も続きを造らないとな。
さて、フィルたちはどうしてる?
「なっ!? またか!」
何が……って、おい。ワイズスライム!
"賢さ"はどこに置いてきたんだ! 全員で行くのが一番勝てる可能性が高いってか?
数体ずつわかれて奇襲の方がまだいいと思うんだが――待てよ? さっきの攻略はパミルに前衛をさせるっていう強引な作戦だった。確かにあと一押しで勝てたが、まさかそれも考えた上で?
なんだよ……結構賢いじゃねえか……。
「くそっ、この狭さじゃ剣も振れない!」
「副隊長、また私が土鎖で足を止めます。その間に――」
「うん、だけど魔力がまだ十分じゃない。詠唱が長引くけど、頼めるかな」
「なんとかしてみせます――魔術障壁。土の精霊よ――」
あんた正気か? 副隊長みたいな地位にいる人間の判断じゃねーな。その作戦はパミルが危険すぎる。さっきギリギリだったような方法が次も成功するなんて保証はどこにもないぜ。何より、それじゃワイズスライムの思うつぼだ。
「古なる炎の精霊よ、契約者、フィルリート・レジームナウスが願う――」
長引くっていうか詠唱がかなり変わってる。そんなペースで大丈夫か。
せめて魔力全快くらいまでは前の階に戻って待つべきだろ。それなりの攻略者なら誰だってそうする。多分俺もそうする。
頼むからあっさり負けてくれるなよ。なんならミノっちまで二人でやっちゃってほしいんだ、俺は。
「土鎖――!?」
四発目の土鎖。パン! という軽快な破砕音と共に、パミルの杖先が魔石ごと砕け散った。
この迷宮入ってから使いっぱなしだったしな。逆に今までよくもったもんだ。
あの宝箱から出たのが杖で良かったな。さぁ遠慮なく使うがいい!
「副隊長、あの杖を使います!」
フィルは詠唱しつつ頷く。それより、今のロスで距離を詰められてるぞ。何でもいいから早く撃たないと。
「――土鎖!」
無詠唱で撃ったか。さて威力の方は……って。
「ぱ、パミル?」
「ええと、その……」
ワイズスライムは、俺の杖を計算に入れ忘れたらしい。それとも、どうにせよこうなると予測し、その上でパミルが俺の杖を使わない可能性に賭けたか。流石にそこまで賢くないか。
「……はは、炎界なんていらなかったね」
とっさの無詠唱の土鎖。にもかかわらず、だ。
百をゆうに超える土の鎖に貫かれ――地下10階の魔物は全滅した。




