35 ワイズスライム
「また階段か。どんどん下がってきてるね。うーん、あの場所からは帰れなそうだったしなぁ」
「そうですね……。でも、きっとすぐに出口が見つかるはずです! あんな子供騙しの玩具で、遠くに飛ばすことができるとも思えません」
「ははは、まぁ飛ばせちゃう時点で中々の代物ではあるんだけどね。思った以上に厄介かもしれない」
子供騙しとは侮られたもんだ。一応転移門なんだぜ、アレ。確かに遠くには飛んでないけどな。
すぐに出口が見つかる――あながち間違いでもない。ボス部屋攻略後には、玉座と同じ一般人利用可能な転移門が設置してある。勿論地上行き一方通行だが。
「! 下がって!」
お、地下9階か。二人が足を踏み入れた途端、紫色が通路一杯に広がっていく。
盗賊組が逃げ帰ったワイズスライムだ。さてさてどう対処する?
「副隊長も下がってください! 土の精霊よ、我が願いを聞き届けたまえ。永久の契約に従い、その力を貸し与えたまえ。さすれば、汝が器を我が力で満たさん! 我と彼とを隔絶せよ――土壁!」
フィルは撃ち出された魔術を解呪しつつ後退、パミルの土壁で一旦距離を取った。とっさの判断にしてはいい方な気もするが、時間が経てば経つほど集まってくるぞ。
「副隊長、あれって……」
「ああ、スライムの変異種だろうね。上の方で見かけたのより強いような気がする……っ、離れて!」
土壁が魔術に耐えきれず崩壊する。今回もここで終わりか? まさかな。だって騎士様だぜ。
「俺に考えがある、少しの間時間を稼いでくれるか?」
「わっわかりました! 魔術障壁」
「炎の精霊よ、我が願いを聞き届けたまえ――」
「土の精霊よ、我が願いを聞き届けたまえ――土鎖!」
ワイズスライムと二人の間に土の棘が生える。略式詠唱だと威力が下がるとは聞いていたが、こんな感じで利用もできるのか。
そういや時空魔術の詠唱とか全く知らないな。なんとか発動はできてるものの、この前は屍竜にすら効かなかったし……そろそろ覚えておきたい。どこに載ってるのか、そもそもあるのかもわからんが。
っと、魔力球がパミルの頬を掠った。そろそろヤバいんじゃないか?
ワイズスライムはじわじわ距離を詰めてきている。詠唱からして炎系だろうが、火球じゃこの量はキツいだろ。
「――彼の者らを焼き尽くせ――炎界!」
おお。何重にも重なった炎のカーテンが広がり、通路を覆った。ワイズスライムが触れた先から蒸発していく。かなり広範囲だった……ってかパミルの髪に少し引火してないか? 肩先あたりがチリチリになってる気がする。
威力の方は……あれだけ詠唱していただけあって悪くないな。フィルは魔法剣士的なアレか。
「パミル、いい耐久だった……って、少し火傷してるじゃないか! 待ってて、今治癒を」
「い、いえいえ! 自分で治せますよ――治癒。ほら元通りです! それより副隊長、あんな広範囲の魔術を扱えるなんて流石です!」
盗賊たちが逃げ出した相手を、今のでまとめて吹き飛ばしたんだもんな。俺もああいう派手な魔術使ってみたい。
「ありがとう。まだ詠唱が長すぎて実戦ではほとんど役に立たないんだけどね。……前衛を魔術師の君に任せた上に、自らの魔術に巻き込むなんて副隊長失格だな。本当にごめん」
「全然気にしてませんって! 副隊長の炎界がなければ、私きっと今頃ゴーストになっちゃってますよ」
「はは、怖いこと言わないでくれよ」
確かに、後衛に前衛させるって中々派手な作戦だった。あの威力の土鎖と解呪だけでよく持ちこたえたもんだ。
次は分散して四方八方から急に飛びかかるとかやってほしいな。咄嗟に詠唱するにしても炎界レベルの魔術は撃てないだろうし。
残りの数は……
【地下9階:ワイズスライム 0/50】
???
つまり、つまり……どういうことだってばよ?
"ワイズ"スライムってことは賢いんじゃないのか。なんで全滅してんだ、おい。
突然のヌルゲー化にクレーム殺到だぜ。これはまずい。非常にまずい。次の階ではちゃんと"賢く"あってくれよ。
「魔物の気配が消えましたね」
「うん。気配を消す種類かとも思ったけど、静かすぎる。まさか今の群れだけで終わりだったとか?」
残念ながらそのまさかなんだよ。俺も驚いてる。
「確かに異常な強さでしたけど……」
「まぁ、何が起こるかわからない。気を抜かずに行こう」
「ふふ、隊長みたいですね」
何が起こるか……そうだ、罠がある。軽い罠だって急に来たらビビるはずだ。と思ったがこの二人ここに来てから一度も踏んでないな。盗賊たちみたいに隅まで探索してるわけじゃあないにしろ、少しくらい引っかかってくれても良さそうなもんだが。
どっちかの運でも高いんだろうか。それとも勘がいいのか。
「あれ? 副隊長、左通路の奥に何か影が――」
「魔物か。俺が前に出よう……いや、違うね。箱、かな?」
宝箱発見! しかもこの位置は当たり箱か。
地下9階と地下10階の宝箱にはそれぞれ一本ずつ武器を入れてあるんだ、それなりの出来だし喜んでもらえるはず。
勿論武器の宝箱前には罠あり。落とし穴より少しだけ高級なのを設置した。さあ踏み抜け!
「副隊長、そこで一旦止まってください。嫌な予感がします――土鎖」
あっ馬鹿! そんなことしたら起動するだろ!
「やっぱり。私の勘は当たるんです」
「危ないところだった。助かったよ、パミル。まさか急に天井が崩れるなんて。一体誰がこんなことを……誰が? 待てよ?」
「確かに自然にできるものではなさそうですよね。誰かが狩りにでも利用していたんでしょうか?」
「いや、それならまだいい。とりあえずあの箱を開けてみよう――炎弾」
宝箱の前の土壁が吹っ飛ぶ。別に天井崩れるったって炎弾で吹き飛ばせる程度だぜ? 素直に食らってくれても良かったのに。
「これは……杖、だね」
「杖! でも、私が魔石の交換をしてもらう鍛冶屋では見ない型ですね。他の場所で作られたものなんでしょうか?」
杖か。確か属性なしの代わりに魔力上昇と魔力持続回復かなんかが付いてるんだったかな。
ま、丁度パミルは杖握ってるし大当たりだろ。ここで装備していくかい?
「ふ、副隊長! この杖かなりのものですよ! 握るだけで魔力が湧き上がってくるのを感じます!」
「な!? そんなの神器級じゃないか? 聖騎士ですら持ってるかどうか……」
「そうかもしれません。心なしか魔力の回復が早まった気も!」
神器ってのは言いすぎだろ。一応試したが、時空魔術だと威力に大した差は出なかった。まぁ詠唱は多少短くなるかもしれんが。
「……いや、それが仮に神器だとしても手放しでは喜べないね。今思えば、スライムを殺して核すら残らないのもおかしな話だ」
「こ、この杖実は危なかったり……?」
フィルは首を横に振り、深刻な顔で言う。
「それはわからない。だけど、死体の残らない魔物に、罠と宝箱だ。どこなのかは知らないけど――ここは立派な"迷宮"だよ」




