25 忠義
俺のせいで人が死んだ。
いや、正確にはゴーストだ。だがまぁ、ちゃんと生きて会話もできる「人間」だった。
「なんでだよ、なんでノナとお袋が死ぬんだ。なんで」
レイは虚空を見つめて呟き続ける。迷宮に戻る前からあの調子だ。
まさか死者が出るとは思わなかった。ただのレベリング。言うなれば雑魚狩りのはずだったのに。
「死ぬ必要なんてなかった。死ぬわけなんてなかった……」
詫びる言葉もない。何故あんな強い魔物が湧いておたんだろうか。時空魔術も効かないほどの。
「お前が……お前がレルア様を遣わせてさえいればっ!!」
レイが、部屋の隅に立てかけてある剣をひっ掴む。そして駆け出した――俺に向かって。
刹那、ギィン! という金属音と共に、レイは剣諸共弾き飛ばされる。
光る片手剣を構えてレイを睨むは、レルア。
「お怪我は?」
「大丈夫だ、ありがとな」
俺が調子に乗って出てなければ二人は救えていたかもしれない。いや、恐らく救えていただろう。ゼーヴェが俺に気を取られることもなかった。
通信からヤバそうなことは分かってた。勇者とはいえ戦闘に慣れてるわけでもない元一般人が、いきなり実戦なんてのも――無理に決まってた。
「仕えるべき主人に……貴様はなんということを……!!」
何やらゼーヴェがキレてらっしゃる。が、これは百パー俺が悪い。
「親父はそれでいいのか!? 無能に仕えて、その慢心から家族を殺されて!」
「元より我々は一度蘇らせていただいた身だ。その恩を忘れて切りかかるなど言語道断」
「わからない。生かすも殺すもあいつ次第だって? 俺は嫌だ」
今にも殺し合いそうな剣呑な雰囲気が漂う。参った。「命」が重すぎる。元いた世界と変わらない。
「レイ」
返事は返ってこない。そりゃそうか。家族の仇みたいなもんだし。
「お前は、どうしたい」
「…………ここを出て自由に暮らしたいね。また家族四人で、幸せに」
厳しいことを言ってくれる。
ちょっと待てよ? ゴーストって蘇生できるのか?
『迷宮内で死亡した魔物の蘇生は自動で行われる。平均して数時間~数日後に復活する。「死霊術師:500万DP」であれば、その場での即時復活が可能(制限あり)。迷宮外で死亡した場合はいかなる場合でも不可能』
要するに無理と。
このままここにいるのも苦痛だろうし、使い魔としての契約解除とかできるのかね。
『可能。但し、魔力を迷宮に依存していた場合消滅する』
なるほどな。この点は魔力タンクで解決できそうだ。
「どうやら『ここを出て自由に』の方だけならなんとかなりそうだ。どうする?」
「さっさとやれ。ノナとお袋が蘇らないのは残念だが、無能にしては上出来だ」
「いい加減に――」
ゼーヴェが魔力を剣として顕現させる。
「ゼーヴェ」
「しかし!」
「いいぜ殺せよ。家族よりも忠義が大事なんだろう? 俺は親父の主を侮辱した。殺したいなら殺せ」
レイは全身から力を抜いて壁によりかかる。
ゼーヴェは、意外にも剣を収めた。
「貴様如きに振るう剣などない。どこへなりとも行ってしまえ」
「所詮その程度か。じゃ、お言葉に甘えて」
『使い魔:レイの契約を解除しますか?』
はいを選択。
レイは無言で転移門を踏み転移していった。
「ゼーヴェはいいのか? 確かに蘇らせたのは俺だが、それも元はと言えば俺の勝手だ。遠慮ならしなくていい」
ちょっと睨まれた。
「……それは私に対する侮辱ですか?」
「いやいや、そんなつもりじゃ」
「私はロードに深い恩を感じています。一度死んだ身でありながら、再び現世の空気を吸うことができ、仇まで討たせて頂きました」
ゼーヴェが俺の前に跪く。
「戦士ゼーヴェ・アーゲンデルト、まだまだ未熟ではありますが――再び命尽きるまで、貴方の剣となりましょう」
「あ、ああ。よろしく頼む」
ほぼニートの俺に格好いい戦士が跪く様子は、恐らく最高にシュールだっただろう。風格ある迷宮王なら様になったんだろうが。
「早速何かございますか?」
「いや、取り敢えずは小屋で待機していてくれ。色々あって疲れたからな、少し寝たい」
「承知しました。ごゆっくりお休みください」
一瞬で目は覚めるが、寝た感じはするし疲れも取れる。何より、この現実から少しの間逃げられる。
そうだ。これは「ゲーム」のようだが確かな「現実」だ。
気付くのが少し遅すぎたような気もするが、まだやり直せる。そう考えないとやってられない。
俺はベッドに寝転がり目を閉じた。




