邂逅
ローガンが放った言葉で会議室の空気が重くなった。
「皆が知っている通りヴァローナ周辺のゴブリンの凶暴化が問題になっている。実際にたくさんの冒険者の命を失った。本来ここにいるはずのキッドたちも犠牲になった。この問題は一個人だけで解決に出来る問題ではない。そこで実力者を揃えてさっきもいた通り、ゴブリン討伐部隊を結成したいと思う。誰か異議がある者はいるか?」
ローガンは周囲に視線を送る。
そのまま可決されるかと思われたが、一人の男が手を挙げたことにより流れが変わる。
「ローガン。そんなもの作ってまでゴブリンは脅威なのか? キッドたちには悪いが、たかがCランクパーティーとそれ以下の冒険者が死んだだけだ。しかも、ゴブリンの指揮官を追い払ったのはそこの新人冒険者らしいじゃないか。そんなやつらにたいしてわざわざ馴れ合う必要があるのか?」
手を挙げた男―― ハロルド・ヴァーンは眼鏡を指で上げながら否定的な意見をだした。
「なんだ……」
遥人は立ち上がりそうになったオーフェンを止める。
「いいんだ。その場にいなければそういう意見にもなる。怒ってくれるのは嬉しいけど今は抑えてくれ」
オーフェンは納得出来ていないようだが、渋々席に着いた。
「確かにゴブリンの話だけしか聞いていないと必要性を感じないかもしれない。だがゴブリンの指揮官、ルノクはおじさんが本気で放った岩石を無傷で受けきったんだ」
「なんだと……? ありえん」
「ルノクを倒した彼。ハルトもおじさんと試験で引き分けた実力者だ。その彼と同等。いや、それ以上の力をルノクは持っていた。しかもハルトたちの話ではゴブリン王もいるらしい。王というからにはルノクより高い実力を持っている可能性が高い。最悪、ヴァローナを侵略される可能性もあるかもしれない」
「お前にそこまでいわせるか……」
ハロルドはローガンの発言から事の重大さを感じたのか険しい表情を浮かべた。
「しかも、父もぜひゴブリン討伐部隊を創設して欲しいいっていました」
「領主殿もか」
ローガンを後押しするディランの発言にハロルドは舌打ちをする。
「わかった。そのゴブリン討伐部隊とやらの創設に賛成だ」
「ありがとうハロルド。ゴブリン討伐部隊の創設が決まったところでハルトからゴブリンたちの情報を話しもらおうと思う」
「え? 俺ですか……?」
「ゴブリンの二人の王子を撃退したのはきみだろ?」
遥人はいきなりローガンに話を振られ困惑してしまった。
「パラネの話とかゴブリン側の幹部の名前とか話せばいいんだよ」
慌てふためく遥人にリアムが小声で助言をした。
「OK。ありがとう」
遥人はリアムに親指を立てた。リアムに助言を貰った遥人は席を立って話し始める。
「彼らはパラネと呼ばれる黒い物質を取り込み大幅な大幅なパワーアップしました。パラネを取り込んだ者をパラネストと呼ぶそうです。基本的にはパラネストは身体、知能、を大幅に強化するのですが、個体差があるようでゴブリンと思えない力と能力、容姿を手に入れたゴブリンと二匹……いや、二体いました一体はキッドさんたちを殺めたゾイ。黒髪に白い軍服着た男です。能力は幻術です。基本的には彼と戦ったときには既に幻術に掛けられていると思ってください。実力としてはBランカーほどだと感じました」
「幻術か……厄介な能力だな。お前はどうやって対抗したんだ」
手に顎を当てたハロルドが質問した。
「俺はあえて相手の斬撃を受け居場所を予想して戦っていました」
「かなり狂気的な戦法だな……」
遥人の対策にハロルドは少し顔を引きつらせる。常人では相手を倒す前に自分の身が持たないだろう。
「それ以外に対策方法はないのか?」
「あるとしたら、会った瞬間に倒すしかないかもしれません」
「その方法はもはや対策といえないな」
「すみません」
ハロルドはあきれるように顔を抑える。
「気を取り直しまして、二体目の説明をしたいと思います。名をルノクといい。彼は人間とゴブリンのハーフらしく、見た目はエルフのような容姿をしています。藍色の髪に白い肌。ゾイと同じように白い服を着ています」
「白い服? ゾイとかいうやつと同じ軍服か?」
「いや、えっと……」
遥人はハロルドの質問に言葉を詰まらす。この世界でパーカーという言葉が伝わるかわからなかったからだ。しかし、聞かれたからには思ったことをいうしかない。遥人は覚悟を決める。
「袖が短い白いパーカーに白い短パンです」
ハロルドと視線が交わる。
「なるほど。それなら最初からそういえ」
遥人は心の中で安堵のため息をつく。
「では続けます。二人は兄弟関係にあるらしくゾイが兄、ルノクが弟です。しかし、実力はローガンさんがいっていましたがルノクの方が圧倒的に上です。能力は恐らく、相手の能力を模範するだと思います」
「おじさんの能力もパクられたしね」
「しかも、オーフェンの瞬間移動まで模範していたようです。なので彼と戦うときは極力能力を使わない方がいいです」
「ローガンに匹敵する実力を持つ敵に能力を使うなと……? そんなこと出来る人間がいるならこの街にAランカーが一人しかいないなんて状況になってない」
ハロルドの発言に遥人はなにも言い返せない。
会議室の空気はピリついてしまう。遥人が説明をするにつれて絶望的な状況であることをこの部屋にいる全員が理解してしまったからのだ。
ピリついた空気を破るように扉が開かれる
「お待たせいたしました。帝都から思った以上に時間がかかってしまいました」
来訪者の凛とした美しい声に遥人は懐かしいさを感じ彼女の方へと振り返ろうとした。
「うわっ」
遥人はオーフェンに頭を押さえつけられ頭を地面にぶつける。
「なにするんだよ」
「馬鹿頭をあげるな」
オーフェン手を振りほどいて頭をあげる。
目の前には腰まで伸びた美しい青髪に金色のティアラを頭に付けた少女がいた。
「その方は神聖ラシアニア帝国第二皇女アイリーン・ラ・ラシアニア皇女殿下だぞ!」
「え」
オーフェンの言葉で遥人は固まる。
神聖ラシアニア帝国第二皇女アイリーン・ラ・ラシアニアはその孔雀緑に輝く瞳がこちらを見ていた。




