瞬刻
遥人の目の前には青のドレスに鋼鉄の鎧を身に纏った青髪の少女が立っていた。
「おい、ハルト」
オーフェンは小声で遥人の足を肘で叩く。
「お、おう」
遥人は自分以外の人間が少女に向かって跪いている状況にやっと気づき、そそくさに跪く。
「アイリーン皇女殿下。私、冒険者のローガンと申します。今回はどのような用件でこんな田舎までいらしゃったのですか?」
ローガンは跪きながら質問した。
「その話をする前に皆さん椅子に座ってください。今日は同じ冒険者として来たんですから」
「冒険者? 確かに帝都の本部に救援を求めましたが……」
「その救援が私です」
青髪の少女―― アイリーンは胸に手をあて答えた。
「そういうことなので皆さん席に着いてください」
アイリーンの強い念押しに遥人たちは席につく。
「はじめまして。アイリーン・ラ・ラシアニアです。皆さんどうぞよろしくお願いします」
遥人の左側の席についたアイリーンは挨拶をした。
突然の出来事で状況が飲み込めていない遥人だが、最初にローガンが「来ていない者たち」は帝都からの救援のことを指していることだけは理解出来た。しかし、実際に救援で来た彼女はローガンが予想していた帝都からの救援とは違ったらしい。
アイリーンは困惑気味の遥人たちに経緯を説明し始める。
「ローガンさんの救援はクエストとしてギルドに掲載されていました。そして、そのクエストを私が受けて今に至ります」
「改めまして私は冒険者のローガンと申します。今回お越しなのは皇女殿下だけですか?」
「はい」
「なぜ、共を連れずに……?」
「今回は私一人でクエストをこなしたかったからです」
質問に淡々と答えていくアイリーンにローガンは苦い顔を浮かべる。
遥人は帝国の事情を知らないが、普通に考えてヴァローナの命運を握るレベルのクエストに一国のお姫様を巻き込むのは問題になるはずだ。それに加えて供を連れず来たとなると状況は最悪としかいえない。
ローガンが頭を悩ませるのも理解出来た。
「なるほど。皇女殿下が一、二か月前に冒険者として活動を始められたことは存じております。しかし、私は本部にはAランク以上の冒険者を送ってもらうように要請したはずですが……」
ローガンは少し申し訳なさそうに事実を伝える。
彼はアイリーンを帰らせるために冒険者を始めて数か月の彼女に”Aランカー以下„はクエストを受けられないことを遠回しに伝えようとしたんだろう。
だが、彼は忘れている。身近にいるイレギュラーの事例があることを。
アイリーンはローガンの真意が伝わったのかため息をつく。
「だからAランカーである私が来たんです」
会議室の中でどよめきが起こる。
遥人と同じぐらいの年齢でヴァローナに一人しかいないAランカーにたったの一二か月でなったというのだ。驚くのは仕方がない。
だが、遥人には驚きはなかった。最初に彼女の姿を見たときからなんとなくわかっていたのだ。普通のお姫様ではないと。
「皇女殿下がAランカーですか?」
ローガンは信じられないのかアイリーンに聞く。
Aランカーである彼でさえ信じられないぐらいあり得ないことなのだろう。
「あとローガンさん。そろそろ皇女殿下と呼ぶのは辞めてくれませんか? そして堅ぐるしい敬語も辞めてください。私はまだ新米冒険者なんですから」
アイリーンに煽られたローガンは一瞬、渋い顔をしたがすぐに困ったように笑みを浮かべる。
「わかりました。こう……いや、アイリーン様。しかし、皇族に敬語を使わないわけにはいきません。最低限の敬語はお許しください」
「わかりました。ではそうしてください」
アイリーンも満面の笑みを浮かべ冷たく言い渡す。
遥人は急に変貌したアイリーンに苦笑いをした。
どうやらこのお姫様は実力だけではなく性格も普通ではないらしい。
「話を戻しますが、Aランカーというのは本当ですか?」
「はい。でもそんなに信じられませんか?」
「正直言葉だけでは……」
「冒険書を見せたいところですが、防具を着ているので簡単に見せることが出来ません。どうしましょうか……?」
アイリーンはわざとらしくローガンを聞いた。
「じゃあ、アイリーン様。僕とやりましょうよ」
ローガンの変わりに返答した垢ぬけない声はアイリーンを挑発した。
「君が……? 私強いわよ?」
アイリーンは声の主に疑惑の視線を送る。
「僕一応この街で二番目に強いですから。甘く見てると怪我しますよ」
ローガンのパーティーに所属するニールは無邪気な笑顔を浮かべ剣を抜いた。
「へぇ……面白いそうじゃない」
アイリーンも鞘から剣を抜く。
「待ってください。ここは冒険者ギル……」
―― 会議室で火花が散る。
ローガンの制止は虚しく、二人の剣は交わる。
お互い一撃を放つと瞬時に距離をとる。
「っ!」
刹那、距離を取ったばかりのニールはアイリーンの懐に入り込んでいた。
「もらい」
ニールは勝利を確信し、アイリーンの喉元に斬りつける。
「こっちのセリフよ」
アイリーンはニールの斬撃を既に剣でいなし、刃を返す。
「ふん」
ニールは余裕を崩さない。
彼は”距離を操る„能力でアイリーンとの距離を再びとった。
が、彼女は剣を納めると冷淡に言い放つ。
「だから、こっちのセリフっていったでしょ」
「どういう……」
アイリーンの意図を理解出来ず、ニールは彼女の視線を追い後ろを振り返る。
「なっ!?」
水の槍が目の前まで迫っていた
―― 死。
迫りくる死にニールは目を見開くことしか出来ない。
会議室内に水が飛び散る。
「ふーん。やるじゃない」
ニールに迫った水槍は斬り裂かれ形をなくす。
アイリーンが興味深そう見つめる先には右手に剣を持った遥人が立っていた。




