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ラストヒーローズ   作者: やましくないヤマシィ
江戸懐古編
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戦1

「急げ、雲雀!早く!!」


ハッハッと息を切らしながら町を駆ける。

前を走る兄の葦切よしきりは手に式神を持つ。

それは以前うちで作ったものだった。

雲雀ひばりや葦切たち、薩美の家系は昔から龍神家が使う道具の製作を担ってきた。

そのため、龍神家とは親交があり今もこうしてその道具を使うことが可能なのだ。

『ザクッ!』

その足音は突然後ろで発された。


「雲雀っ!!」


後ろを振り返る間もなく、前を走る葦切が投げる式神がほほをかする。

直後、まばゆい閃光に辺りは包まれた。 






紅葉と常田の二人は闇隠れ衆が現れたという町に向かって、全力で森の中を駆けていた。


紅葉こうよう様!!」


「あぁ、見えているさ。」


前の林の中から一瞬昼かと見まがうほどの光が溢れてきた。


「悪い、先行くぞ。」


そう言い残し、紅葉はそれまでの速度をはるかに超える速さで光が見えた方向へ進んでいく。


「!?」


常田は驚きを隠せなかった。二年前は常田と紅葉の走った際の速さはほぼ互角だった。

それが今、追いつけないほどの速さで紅葉が先行していくからである。

通常の身体能力の向上もさることながら、あれほどの速度を出せているのは陰陽歩行術『風渡かぜわたり』を併用しているからだと常田は理解した。

『風渡』—それは、使用者の魂の一部を推進力に変える陰陽術の一つである。その効果は使用者の移動速度を三倍から五倍にまで引き上げることが可能になるという非常に便利な技であるが、魂の存在を感じ取れる陰陽道に長けたものであっても、推進力への変換は困難を極めるため使用できるものは数少ない。


「ご立派に……」


常田は闇に消えていく紅葉を見てそう思ったのだった。







「雲雀!大丈夫か!?」


「うん……」


今、葦切よしきりは長髪の男と睨み合っている。


「俺の後ろにいろ。何とか耐えてみせるさ……」


葦切は雲雀の前に立ち、手に式神を握る。今手に持っているのは先ほどと同じ、光を発するだけのものだった。


「何者だ?闇隠衆の人間か?」


少しでも相手に戦う武器がないことを悟られないように、静かな口調で話す。


「あぁ、ご名答。俺は闇隠衆・半月の位を与えられし者、加賀 紫水しすいサ。」


闇隠衆ということを聞き、葦切は一歩後ろへ後退りをしていまいそうな自らの心を鼓舞し、何とかその場に踏みとどまる。


「さっきはびっくりしたゼィ。まさか式神を使う奴が龍神家以外にいるとはナ。まぁ、もう死んじまうやつのことなんかどうだっていいけどナ。」


そういって紫水は背筋が凍るような笑みを浮かべた。

裾から一枚の札を取り出し、それを天に向かって放る。

その瞬間辺りに煙が立ち込める。それはなにか匂いがあったり、むせてしまうような煙ではなかったが、葦切と雲雀を恐怖させるのに十分な材料であった。


「雲雀!俺に捕まっていろ!」


「うん!」


雲雀は兄の袖をしっかり握りしめる。

震える手を兄の袖をつかむことで何とか抑えたい一心だった。


「安心しナ。すぐに終わるサ。」


だんだんと煙が薄れて、視界が回復していく。


「な、、、何んなの、あれは、、、」


雲雀の袖を掴む力が徐々に強くなっていく。


「これが俺の口寄せ獣、、、神獣・八咫烏やたがらすだゼ。」


煙の中から現れたのは、大きさが森の木より一回り大きなカラスであった。ただ、それは普通のカラスとは大きさもさることながら、羽も異なっていた。一枚一枚が次の光を綺麗に反射しているのである。


「なんだ……その羽は?普通のものではないな?」


葦切が目の前にいる紫水に問いかける。

すると、紫水はニタァと笑う。


「あァ、コイツの羽は一枚だけでも鉄すら切っちまう恐れ多いものなんだゼ……まァ、食らってみれば分かるサ!」


言い切るや否や、八咫烏が羽を一振りする。

八咫烏が羽を振り切るのを見終わる以前に、葦切は雲雀を抱きしめ後ろに倒れこむ。一枚の羽は葦切が直前まで立っていた地面に深くめり込んでいた。


「よく避けたナ。だガ、複数枚ならどうダ?」


八咫烏は再び羽を後ろへ引く。

一枚ですら地面を抉る(えぐる)のに、それが複数枚となったらその範囲は広がり、とても今からでは走って逃げ切れるものではないと雲雀は感じ、ぎゅっと目を閉じる。

戦いの最中に目を閉じるというのは愚かな行為と言われるが、死を感じたものに対しそんな言葉は意味をなさない。


「さァ、死にナ!」


紫水が手を前に突き出す。

八咫烏に攻撃を命じるものだった。


「陰陽術・魂縛の二十『吊り蜘蛛』。」


その声と共に黒装束の青年-龍神紅葉は葦切と雲雀の前に現れた。

そこに八咫烏から放たれた鉄をも切り裂く羽の雨は降っていなかった。

八咫烏は羽を後ろに引いたまま、動きを止めていた。

魂縛の二十『吊り蜘蛛』—未来の世界で龍神響が紅葉から教わった『鬼蜘蛛』の原型であり、この術は魂を縛り上げ動きを肉体の動きを止める効果を持つ。

響が教わったものは、この後紅葉が改良し、その縛り上げることができる距離を大幅に長くしたものである。


「久しいな。二年ぶりか?」


「……誰ダ!?」


「おいおい、二年前自分が倒した相手を忘れるなよ。まぁ弱い奴のことは覚えてないか。」


「……龍神の小僧カ!?ハハハ……あの時の雑魚っぷりには笑っちまったゼ。今回ものこのこ出てきやがっテ……潰してやるヨ。」


二年前、紅葉は闇隠れ衆の襲撃時、一矢を報いることが出来ずその力の差を痛感した。彼らの身体能力、陰陽術を応用した死した生物の魂蘇生の前では、まだ陰陽道に入りたてだった紅葉は歯が立たなかった。


だが今は……


「魂滅の十三『不知火の巫女』。」


紅葉の周りに白いもやが立ち込める。靄はゆっくりと八咫烏に向かう。ゆっくり動いてはいるが、『吊り蜘蛛』の効果下にある八咫烏には、避けるすべがない。

靄が八咫烏に触れると、触れた部位から力が抜けていく様子が見てとれる。ロウが解けるように脱力し、片側の羽全体を靄が覆ったとき鈍い音を立てて―八咫烏は地に落ちた。




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