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でたとこクエスト チュートリアル②

よ、ようやく8話投稿。


「阿鼻姫! 力を貸せ!」


 俺がそう叫ぶと同時、世界は一変した。

 何がどう変わったかを説明するのは難しいが、他人の目で見る世界とでも言えばいいのか。

 ともかく俺は誰かの意志に促されるようにして、妖魔をつぶさに観察していた。


 その肉の付き方から敵の攻撃力を予測し、関節の稼動域から制空圏を割り出す。


 どうやら俺は俺であると同時、阿鼻姫でもあるらしい。

 その証拠というほどのことでもないのだろうが、阿鼻姫と深く感応した結果、俺の髪は長く、濁った朱色へと変化していた。






 俺の内から溢れるのは破壊の衝動。

 心臓が早鐘のように拍動し、血管を流れる血液が大量の酸素を筋肉へと送り込む。

 両の拳に蒼白い炎を灯し、俺は我知らず、ニィと、残虐な笑みを浮かべていた。


 おもむろに、俺は一歩を踏み出した。

 トン。と軽く地面を蹴る。

 ただそれだけで、10数メートルの距離を一気に詰め、俺は妖魔へと肉薄する。


「ぎゅぎゅを?」


 俺の存在にようやく気付いた妖魔は驚きの声らしきものを上げる。

 当然のようにソレを無視し、妖魔の懐へと潜り込んだ俺は「フッ!」と、呼気を鋭く吐くと、息を詰め、妖魔の腹へと拳による渾身の一撃を叩き込んだ。


 じゅおっ!


 という肉の灼ける音がして、続いて「ボッ」という、くぐもった破裂音。

 俺の一撃に腹に大穴を空けられた妖魔は、胴体のほとんどを失い、残った肩から上と、腰から下がドチャリと音を立てて、地面へと落ちた。


「うえぇぇぇ!」


 俺は思わず、嫌悪の声を上げてしまう。

 自分でやらかしたこととはいえ、突然のスプラッタに、喉へと酸っぱいものがこみ上げて来る。

 俺はそれを無理やり飲み下し、涙目でショタを見やる。

 いや、だって。あんなゴツイのがワンパンでパーンってなるとは思わないじゃない?


「おい、ショタ。これで終わりか?」


 口の中が苦臭い。早く終わらせて、口の中をゆすぎたいんだが?


「何を言う。これからが本番じゃろうが」


 ショタは「ふー、やれやれ」と言わんばかりに肩を竦めて見せる。


「ほれ、見ぃ。アレが妖魔の本体じゃ」


 俺はショタの指差す方へと、恐る恐る視線を向ける。

 そこには妖魔の残骸から立ち昇る、黒いもやのようなものが見えた。


「アレは低位の妖魔じゃから、存在も希薄じゃが、高位の妖魔ともなれば、その邪気だけで人を死に至らしめることもある。油断は禁物じゃぞ?」


 あー、それなら大丈夫だ。

 ショタは存在が希薄とかって言ってたが、これまで幽霊やらオカルトやら全く縁のなかった俺にしてみれば、十分にインパクト大だ。

 油断なんて、したくても微塵も出来ねぇ。


 それにしても、スプラッタ直後からのオカルトって何だよこのチュートリアル。

 MPゴリゴリ削られてく気分よー。


 その黒い靄はゆらゆらと揺らめき、形を結ばず、禍々しい気配を放っていた。

 どうやら俺を次の憑依先に選んだらしい。


 つーか。ここにいる人間は俺だけなんだから、選ぶも何もありゃしないのだが。



 んじゃ、まぁ。試してみますか。封魔術式。


封魔術式グリモワール起動」


 俺の宣言トレイルと同時、俺の手の中へと豪華な装丁のほどこされた、ブ厚い本が出現し、俺の足元に魔法陣が展開する。


 俺の手の中で、本のページが勢い良く捲られて行く。

 それと同時に、俺の脳裏へと声が溢れた。


 ―――――我は『魂の簒奪者』にして『仇なす者』なり――――――。

 ―――――幾つもの夜を巡り、黒き刃を奮いし者なり――――――。

 ―――――我が名はトライシオン=カデナ。裏切りの鎖縛者にして、盟友の首を所望する者なり―――――――。


「我が名は火臣儀一。汝の新たなる契約者にして、命運を共にするものなり。我、ここに汝へと誓う。汝が盟友の首を捧げんことを!」


 俺の口から勝手に言葉が溢れた。


 ―――――契約、ここに成れり。ただ一言唱えよ! リザルチメントわせよ、と!


リザルチメントせよ!」


 力ある言葉と同時、足元の魔法陣からジャラジャラと音すら立てて、這い出したのは数条の鎖だった。

 その鎖は蛇が鎌首をもたげるようにして、動くと、素早く妖魔へと絡みつき、瞬時に締め上げる。


 妖魔は断末魔の声を上げ、目映い光を放ち、ズクズクと空気に溶けたかと思うと、粒子になり、グリモワールへと吸い込まれた。




 俺は、反射的に閉じていた目を開くと、そこには何もなかった。

 妖魔本体は当然として、依り代となったはずの肉体も存在しない。


 そう言えばショタのヤツ『旅人の骸にでも、憑依したんじゃないか』って言ってたよな?

 妖魔に憑かれると、最期は骨すら残らんのか?

 一応、見ず知らずの誰かさんだが、手ぐらい併せておいても罰は当たるまい。


 そう思って俺は「なんまんだぶー。なんまんだぶー」と、適当な祈りを捧げておく。








「ええっと? これでいいのか?」


 俺は届くのかどうかも判らない、自己満足でしかない祈りを、適当な所で切り上げて、ショタへと尋ねた。


「うむ。まぁ。上出来じゃろう。トライシオン=カデナとの契約も無事に結べたことじゃしの」


「おおー。ようやくかー。よくよく考えると大したことしてねーんだが、見た目がグロいだけで、イロイロとシンドかったな」


 ちょっとした達成感に満足している俺に、不満足なあの方が獰猛な声を上げた。


 ――――――チッ。相手が雑魚過ぎて、全く暴れ足りねぇぜ! 次はもうちょい骨のあるヤツとヤらせろや!


 阿鼻姫が、そう毒付くと、さっさと俺の深層域へと回帰する。

 それに伴い、俺の髪が黒く、元の長さへと戻った。


 むー。女のクセに、とは言わないが、本気で口の悪いやつめ。誰に似たんだ? って俺かー!


 とか、やっていたら、不意にグリモワールから、「ポーン」と電子音じみた音が鳴った。


 何事かと思って見ると、グリモワールが勝手に開き、ペラペラとページが捲れると、何も書かれていない空白へ文字が浮かび上がった。


 そこには『妖魔封印完了しました!』との文字が。

 その一文の同じ行の、その一番端っこに、黒いデフォルメされたお化けらしきアイコンが明滅しているのが見える。


「何だコレ?」


 俺はそのアイコンに触れてみる。


 途端、俺の目の前へと、ゲームでお馴染みの半透明のウィンドウが出現した。


「おお! 何か出た!」


 そこに書かれた文字にザッと目を通すと、どうやら、グリモワールに封印された妖魔の詳細であるらしかった。


 そこにはこうある。



 名称/グリムザード(低級妖魔の総称)


 捕獲難易度:1


 固有名/なし


 固有スキル/なし


 魔力含有量/60


 売却価格/500ゼベク(1ゼベク≒1円)


 捕獲した妖魔をスロットに装備しますか?(空きスロット:3)

 YES/NO


 捕獲した妖魔をグリモワールに絶対封印しますか?(空き枠:1000)

 YES/NO


 捕獲した妖魔を紅蓮ノ阿鼻姫に上納しますか?(獲得経験値:60)

 YES/NO




 

 何だコレ? いや、だいたいのところは判るんだが、俺の言いたいことはソコじゃなくて。


「何で、こんなゲームみたいな仕様になってんだ?」


 俺の呻くような独り言に、ショタが応えてくれる。


「ふむ。これはアレじゃ。因子を開発した神にしてグリモワールの真の所有者たる、トライシオン=カデナのいわば、趣味じゃ。

 やつは古代神の1柱にして、我ら新しき時代の神に与みする変わり者なのじゃが、そもそも数字と変動を司る神で、人間共には『遊興』の神とか『博徒』の神として崇められておる。

 そんな、あやつが、今、傾倒しておるのが、お主らの世界の娯楽なのじゃよ。

 何か思いつく度に、因子にちょいちょい、仕掛けを施しておってな。お主のいうゲームとやらに酷似しておるのはそう言うわけじゃ」



「ふーん。神様ってのもイロイロなんだな。で、いまいち、よく判らん項目があるんだが、説明はないのか?」


「あー。面倒じゃから、判らんとこだけ、我に聞け」


「んじゃ、さっそく。固有名ってのがあるが、名前持ってる妖魔なんているのか?」


「おるぞ? 名前持ちは、すべからく高位妖魔じゃから、もし出くわすようなことがあったら、迷わず逃げた方が良いじゃろうの。今のお主ではどう転んでも勝ち目はないじゃろうしな」


「スキルは・・・、ま、いいか。売却価格ってあるが、妖魔が売れるってのもいまいちピンと来ないが、そもそも、どこで売れる?」


「最寄の封魔ギルドで売買されておる。それなりの規模を誇る町ならどこにでもある」


「へー。ギルドなんかあるのか。テンプレだな?」


「お主らの先人が作ったんじゃがな。かれこれ120年前の話じゃったか?」


「おお。興味津々だが、今はいいや。 んで? スロットてのは?」


「そのスロットに捕獲した妖魔を装備すれば、その妖魔の持つスキルを使用できたり、魔術を使った際の魔力を肩代わりさせたり出来るのじゃ。

 魔力含有量という項目があったじゃろ? 妖魔というのはアストラル体であり、アストラル体とは高純度の霊的エネルギーの塊りじゃからな」


「ほー。良く考えられてんねー。トライシオン=カデナって神様、いい仕事してんなぁ。

 で、次は『絶対封印』と『上納』について教えてくれ」


「絶対封印というのは、アレじゃ、空き枠とかいう項目があったじゃろ? 妖魔を絶対封印することで空き枠を埋め、その達成率に応じ、グリモワールの機能が強化されたり、拡張されたりするのじゃ。


 上納は妖魔の霊的エネルギーを阿鼻姫が吸収することで、いわゆるレベルアップを図ることが出来るのじゃ。

 むろん、阿鼻姫と一心同体であるところのお主も強化されるゆえ、初めの内は積極的に行うといいじゃろう」


「よし。大体のところは理解した。後は自分でイロイロ試してみるわ」


「そうじゃの。教えられるより、実感した方が身に付くじゃろうしな」


 ショタの言う通り。


 さっそく俺はショタお勧めの『上納』を試してみることにする。




 捕獲した妖魔を紅蓮ノ阿鼻姫に上納しますか?(獲得経験値:60)

 YES/NO


 YESを選択する。


 途端、ブブー。と拒否音が鳴った。


『受け取りを拒否されました』というメッセージが届く。


 んん? 何でじゃ?


 もう一度、YESを選択する。


 再度ブブーッと拒否音。


 YESブブーッ。YESブブーッ。YESブブーッ。何度か繰り返すものの、全て拒否。


 頭に来た。俺は意地になって、YESを連打する。


 オラオラオラオラオラー!!!


 ブブブブブブブブブブブブブブブブブ・・・・・・・・・・・・・・・。


 拒否音が木霊して、


―――――――いらんっっちゅーとろーがっ!!!!!


 俺の脳みそに声(というか、思念波とでもいうのか)が炸裂した。

 そのあまりの衝撃に頭が「くわんくわん」する。



 ―――――――儀一よぉ。お前、昔、小学生のころ、神社の裏手に一縷と一緒にノラ猫飼ってただろ?


 阿鼻姫が、低い声音でそんなことを言い出す。

 まだ衝撃から立ち直っていない俺は、阿鼻姫の話を聞くどころじゃなかったが。


 ―――――――いつだったか、そのノラ猫が神社で遊んでる時、お前に寄って来て『いつも、お世話になってます。これ、みんなで食べて下さい』と言わんばかりに、セミの死骸、置いてったろ。


 ―――――――今の俺が、まさにそんな気分だわ。気持ちは嬉しいんだけと、俺、セミ食わねーし。


 ―――――――今の俺の心境をぶっちゃけてやる。んなハナクソみたいな妖魔が食えっか! もうちょい、高位の妖魔持って来いや!!!



 言いたいことを、言いたいだけ言うと、阿鼻姫は俺の深層域へと戻っていった。


 いや、何かスッゲー剣幕で、怒ってましたけど?


 ホントにあの娘。俺の娘なんでしょうか? 早くも育児放棄したい気分っす。



 俺は「どうしたもんかな? この低級妖魔?」と、途方に暮れるのだった。




次回は『低級妖魔の使い道』です。

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