でたとこクエスト 突然異世界へ。
異世界です。
雪乃のオッパイを巡る攻防戦は、罵り合いからツバの飛ばし合いというさらなる低次元なものへと発展していた。
いや、発展はしていないか。むしろ大きく後退しているように思う。
ま、良くも悪くも事態が進んでいると言う点では進展しているとも言えなくはないが。
アイツらがそれでいいんなら、俺もそれでいいさ。
目の前で展開するアホな争いから逃避するため、俺は窓の外へと視線を移した。
すっかり黄昏時である。
ここは部室棟の三階なので、それなりに見晴らしが良い。
ビルを始めとする、高層建築物のほとんど建っていない田舎町だけに、ここからでも隣町までが一望できる。
僕が眺めている先で、浴衣を着た家族連れが仲睦まじく歩いて行く。
なんとなく「夏も終わりだなー」とか思って・・・・・・・・。
それは突然のことだった。
ドンッ!
という突き上げるような衝撃があって「キャッ!」と短く悲鳴を上げたのは、雪乃と一縷どちらだったか。
次の瞬間、俺は目撃することになる。
窓から見える景色が一変するのを。
「えっ!? なによもぅ? 地震?」
「おお! 一瞬、体浮いたぞ俺!」
「はぁ。びっくりしたわねぇ?」
三者三様の声が上がるものの、俺はそれどこじゃなかった。
その時の俺は、あまりのことに声も出せず、バカ面下げて、酸欠の金魚みたく口をパクパクさせていたに違いない。
「何、変顔で固まってんのよギー。面白くないわよ?」
俺の異変に気付いた一縷が、イタイ子を見るような、冷ややかな視線を浴びせて来る。
その視線は、ドMなら『むしろご褒美』レベルのものだろうが、そういう性癖のない俺にしてみれば、軽く死にたくなるレベルのものだった。
それでも俺は凹たれず、窓の外を指差し、3人へと声を上げる。
「違う! ウケとか狙ってねぇよ! 外! いいからお前ら、窓の外見ろって」
俺の必死な様子に、3人が訝しげな表情のまま、窓の外へと視線を移した。
「ええ! どうなってんのよコレ!?」
「おい。町が消えてるんだが?」
「えーっとォ? どういうことかなギー君?」
「いや、俺に聞かれたって、判らねぇよ」
俺は改めて窓の外を見やる。
そこにはいつもの見慣れた校庭や町の景色はなく、見渡す限りの大草原が広がっていた。
俺はとりあえず、ポケットからケータイを引っ張り出してみる。数世代前の二つ折りケータイだ。あいにくと、スマホは持ってない。
開いてみると、当然のように圏外だった。
いや。分かってはいるのだ。ここが日本どころか、地球ですらないってことは。
何せ、窓から覗く空にはやたらとバカでかい朧月が昇っており、その月の周りを無数の岩塊が浮かんでいるのだから。
「ギー君。ケータイどうだった?」
俺より少しだけ背の低い雪乃が、こちらを上目使いで見上げ、首を傾げている。
「ん。ああ、圏外だった」
そう端的に答える俺に、
「だろうな」
と、応じたのは憲吾である。
「うーん。やっぱり異世界転移で決まりね。燃えるわー」
「つーか、何でお前はそんなに元気一杯なんだ?」
背筋を伸ばしつつ、どこか嬉しそうにしている一縷とは対照的に、俺は多少疲れた表情はしているだろうが、ツッコミは忘れない。
「ほほう。意外と落ち着いておるのじゃな? もしやお主ら、案外大物なのやもしれんな?」
唐突に俺たちの背後から、声が上がる。
慌てて振り向けば、そこには子供がいた。
白髪に碧眼の、どこか浮世離れした雰囲気を纏う、美貌の少年。
「ええっと? 何だこの子、どこの子だ? もしかして迷子か?」
「外人? じゃねぇみたいだな。異世界人ってやつか?」
「多分そうだよ。それにしてもこの子、めっちゃキレイな子だねー」
「そうねぇ。お人形さんみたいねぇ」
雪乃がその少年の前まで近づいて行くと、しゃがみ込み、子供と目線の高さを合わせると、安心させるように微笑んで見せた。
「ハロー。マイネームイズ、ユキノ・ミヤマ。アナタノ、オナマエ、ナンデスカ?」
と、カタカナ英語と英語風なまりの日本語を交えて少年へと話かけた。
「いや、雪ちゃん先輩。その子日本語喋ってたから」
思わずツッコミを入れる一縷。
「雪ちゃんセンパイ、なんて恐ろしい子!」
とか、小さく呟きつつ、流れてもいない顎の下の汗を、手の甲で拭うような仕草をする。
「あれ。そだっけ?」
と、悪びれもせず、無邪気に小首を傾げる雪乃。
あーまー。なんと言うか、異世界人とのファーストコンタクトは概ねこんな感じだった。
ショタ神様です。




