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でたとこクエスト 思い①

エ、エタるとこだった・・・。

 頭の打ち所が悪かったのか、雪乃が変なことを言い出した。

 いや、あの。清々しい顔で「わたし、部室棟になる」って宣言されても・・・・・・。

 なんだろう。ウチの近所に住むチビッコが「わたち、おっきくなったらハンバーグになうの!」とか言ってたけど、そんなカンジだろうか?

 いや、それを聞かされた俺は、その時なんて答えた?


「あーそー? お兄ちゃんはチーズインハンバーグが好きだから、今日からチーズ一杯食べな?」


 とか、テキトーに返した覚えがある。

 だってその娘、その当時、3歳だったもの。時間が彼女をまともにしてくれると俺は知ってたから。

 それに4歳になった今、その娘の夢は、フツーに某魔法少女になることへと移行してたはずだ。

 主に肉弾戦で敵とかやっつけるヤツ。


 だが、今の雪乃はどうだ。

 今年の9月で17歳の誕生日を迎える、そこそこおっきい子だよ?

 どちらにせよ、幼馴染一同、雪乃のその夢は全力で阻止します。



「ゆ、雪ちゃんが。雪ちゃんが。――――名実共にアホの子になっちゃったよぅ」


 一縷が中々にシツレイなことを口走りつつ、雪乃へと抱きついた。


 いや、一縷さん。その口ぶりだと、つねづね雪乃のこと半分アホの子だと思ってたってことになりますが?

 ま。確かに『タレ目』『巨乳』『天然』とくればイコール『アホの子』という図式が成り立ってもおかしくはない。

 なんせ巨乳な人は『脳みそに行くはずの養分が、チチに行ってるからアホの子が多い』という訳の分からん都市伝説もあったぐらいだし。




 さめざめと泣く一縷に、慌てて手を振る雪乃。


「あっ! ああ! いやいや、違うの一縷ちゃん! そうじゃないの。ねぇ聞いて?」


 さすがに自分でも変なことを言った自覚が出てきたらしい雪乃は、俺たちへと説明をしてくれた。



 雪乃の説明を聞き終えた俺の正直な感想は「反対」だった。

 確証のない話だし、管理者とやらになるメリットがない。

 それにこの場所が妖魔に襲われた場合、雪乃がこの場所を離れられないのも頂けない。

 襲って来た相手が強力で勝てそうになかったら、俺は恥も外聞もなくスタコラ逃げるだろう。

 当然、雪乃を連れて、だ。

 問題は雪乃を力づくでこの地から引き剥がした場合、雪乃にどんな影響が出るか解らないということだ。

 この地域一帯が荒れ果てたり、部室棟が瓦解する程度で済むならイイが、もし雪乃に毛筋ほどの危険が及ぶ可能性があるのなら、俺は断固反対する。


 雪乃は俺に反対されているの感じとっているのだろう。まだ何も言っていない俺へと頑な表情を向けている。

 一縷はすでに、お怒りモードで柳眉を跳ね上げ、雪乃へと食ってかかっていた。


「雪ちゃんにそんな危ないことさせられないし、させたくない! する理由もない!」


 説得というよりはもはや駄々っ子だ。




 そんな俺たちの中にあって、唯一雪乃に賛成しているのが憲吾である。


「俺は雪乃のしたいようにしたら良いと思うぜ!」


 とか、言いつつ、まるで『体操のお兄さん』を彷彿とさせる爽やかな笑顔で破顔すると、こちらへと親指をグッと立てて見せる。

 妖魔の唾液でベッタベタだったが。


 俺は、そんな憲吾の何も考えていない発言にイラッくる。

 どうせ、この脳筋のことだ。


「幼馴染の我侭も聞いてやれねぇで、何が男だ!」


 とか単純にそう思ってやがるに違いない。

 その憲吾の不用意な発言に、俺より癇に障ったのは一縷である。


「ヌメ男はちょっと黙ってろ」


 冷ややかな視線で一瞥され、思わずたじろぐ憲吾。

 相当、キレてんなー。一縷のヤツ。

 ま、気持ちは解らなくもないけど。



「一縷ちゃん。気持ちは嬉しいけど、もう決めたことなの。わたしはあんまり強くないから、みんなのサポートに徹しようと思うの。

 そうでもしないと、わたし、みんなに合わせる顔ないから・・・・」


 そう言うと、雪乃がおもむろに手を伸ばした。

 その先には、さっき妖魔が激突して出来た穴が、ぽっかりと開いている。

 怪訝な表情をする一縷。


 雪乃の指先が「ポゥ」と、優しい光を灯したかと思うと、まるでビデオテープを逆再生したかのように、壁が修復されていく。


「それに、もう契約しちゃった。ゴメンね?」


 寂しそうな笑顔を浮かべる雪乃。

 驚いたように目を(みは)る一縷。

 その顔が徐々に歪んで――、


「なんでよぅ! 雪ちゃんいっつもそう! いっつも肝心なこと、勝手に決めて、相談してくれない。何でよ? 私らって、そんなに信用ないのっ!? 雪ちゃんのそういうところ、大っ嫌い!」


 怒りつつも、ボロボロと大粒の涙を流す一縷。

 一気にそう捲くし立ててから、自分が何を口走ったのか理解したらしい一縷は「ハッ!」とした表情を浮かべると、自分でもどうしたらいいのか分からなくなったのだろう。

 突然、全速力であらぬ方へと駆け出した一縷。


「あ、一縷のヤツ、逃げ出しやがった。ほら、行け! ヌメ男。出番だぞ? チビッ子を確保して来い!」

「うっせーな。ギー! 誰がヌメ男だ! 言われなくても分かってるっての!」


 憲吾は下駄を脱ぎ捨てると、逃げる一縷を追って走り出した。


「うおらぁー。一縷、それは言い過ぎだぞー! 雪乃に謝れー! このアホタレチンがー!」


 という雄たけびを残し、爆走していく憲吾。

 チョップする気、満々なようだ。


 さて、一縷のことは憲吾に任せるとして、俺は雪乃かー。

 つーか。俺には荷が重すぎるんじゃないですかねー。



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