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第二十九階層の死闘、氷の巨竜フロストドラゴン

(ここが、この氷河地帯の中ボスがいる場所か…)

俺は〈エクソルシウム〉を強く握りしめ、深呼吸一つ。覚悟を決めて、その氷の大扉へと手を伸ばした。ギギギ…という重い音を立てて扉が開くと、内部はさらに巨大な、円形の氷の闘技場のような空間だった。天井はドーム状に高く、まるで自然の造形物のように見えて、それでいてどこか人工的な美しさも感じさせる巨大な氷の柱が円を描くように何本も均等にそびえ立っている。しかし、その多くは長い年月の経過か、あるいは過去の激しい戦闘の跡なのか、上半分が欠けていたり、根元から倒れていたりした。それらがまるで古代の円形劇場コロッセオの観客席の残骸のようにも見え、中央の開けた空間を巨大な舞台のように際立たせていた。


そして、その舞台の中央。小山のように丸まり、白い息を深い眠りのように静かに吐き出しながらうずくまっている巨大な影があった。全身を覆うのは、極寒の氷河そのものを体現したかのような、青白く、そして所々が水晶のように透明に輝く巨大な鱗。鋭い爪を備えた四肢は大地をしっかりと掴み、長くしなやかな尾はわずかに床を打っている。そして頭部には、天を衝くかのような威圧的な双角。この部屋の主であることは疑いようもなかった。ファンタジーの世界に転生してから、ゴブリン、スライム、アンデッド、そして神獣と戦ってきたが、目の前にいるのは、空想上の生き物として最も有名と言っても過言ではない存在――ドラゴンだった。

俺はドラゴンに対して恐怖よりも、ある種の畏敬と、それを超えるほどの凄まじい武者震いを覚えていた。鑑定を発動する。ウィンドウが開き、その強大さを示す情報が流れ込んできた。


名称: フロストドラゴン(Frost Dragon) 分類: ドラゴン/竜型 HP: 約2,000 属性耐性: 氷+75%、風+25%、火-30% 主な行動: 「ブリザードブレス」(前方扇形に凍結効果付き氷ブレス)、「飛行突撃」(空中から急降下しての一撃)、「アイススパイクストーム」(周囲に氷の槍を無数に生成・射出)、「テールスウィープ」(広範囲物理攻撃) 特徴: 飛行状態で飛び回り、動きが掴みにくい。氷結効果と高火力ブレスが脅威。極めて高い知能とプライドを持つ。

(HP2000! リッチより高い上に、ドラゴンか…! 火属性が弱点なのは救いだが、氷耐性が異常に高い。そして行動パターンも増えている…!)

俺が鑑定を終えたのとほぼ同時に、フロストドラゴンがゆっくりと、しかし確かな意志を持ってその巨大な瞼を開いた。万年氷のような、冷たくも鋭い蒼氷の輝きを宿した瞳が、正確に俺を捉える。

「グルルルルルルルルルルルルルッ!!」

地響きと共に、フロストドラゴンの咆哮が氷の神殿全体を揺るがした。それはただの威嚇ではない。明確な殺意と、この領域の支配者としての絶対的な自信に満ち溢れていた。

翼が大きく広げられる。その翼長は優に20メートルを超え、一度羽ばたくごとに凄まじい突風が巻き起こり、周囲の氷の破片を舞い上げた。部屋全体に、絶対的な支配者の威圧感が満ち、空気が凍てつくように張り詰める。


「いくぞ!」

先手必勝! 俺は〈紫電のレイピア〉を抜き放ち、床を蹴って電光石火の勢いでドラゴンに肉薄する! だが、ドラゴンは巨体に似合わぬ俊敏さでそれを回避し、翼を一度大きく羽ばたかせた。「羽ばたきの突風」だ! 瞬間、暴風雪と化した凄まじい突風が、無数の氷の礫と共に俺を襲う!

「うおっ!」

咄嗟に腕で顔を庇うが、コートと鎧で防ぎきれない衝撃が体を打ち、HPが削られる。視界も悪く、体勢を立て直す間もなく、ドラゴンは大きく息を吸い込み始めた。その顎が青白く輝き始める。

(ブレスが来る!)

「ブリザードブレス!」

ドラゴンの顎から放たれたのは、全てを凍てつかせる絶対零度の吹雪! 前方扇状に広がるそれを、俺は全力で横に跳んで避ける。ブレスが通過した床や柱は、一瞬で分厚い氷塊に覆われ、触れただけで凍傷になりそうな冷気を放っている。

(掠っただけでも凍りそうだ…! 火力も範囲も玄武の比じゃない!)

俺は距離を取り、詠唱を開始する。「ファイアーボール!」

弱点である火属性の魔法が、ドラゴンの側面に直撃する!

「ギャオオオン!」

ドラゴンは苦悶の声を上げ、炎に焼かれた箇所から白い煙を上げる。効果はある! しかし、ダメージは思ったほどではない。HPはまだ潤沢に残っているようだ。それどころか、ドラゴンの瞳に明確な怒りの色が浮かぶ。


挿絵(By みてみん)


ドラゴンは怒りの咆哮と共に天高く舞い上がり、その巨体で太陽光(のような天井からの光)を遮り、巨大な影を俺に落とす。そして、俺目掛けて「飛行突撃」を敢行してきた! 巨大な質量が、ミサイルのような速度で迫る!

(避けきれない! しかも上からだ!)

俺は〈エクソルシウム〉に持ち替え、「破魔の聖域」を展開! 突撃の轟音が闘技場に響き渡り、聖域全体が激しく揺るがされ、俺のMPが一気に減少する。


HP: 9350/10200 | MP: 5600/6800 | 状態: 正常

(聖域も万能じゃないか…! このままではMPが持たない!)

ドラゴンは体勢を立て直し、再びブレスの予備動作に入る。俺は柱の影に隠れながら、今度は「ライトニングボルト」を詠唱する。紫電の槍がドラゴンの翼膜を正確に撃ち、バチバチと紫電を散らしながらわずかに動きを鈍らせた!

(よし、雷も効く! 麻痺効果も入ったか!?)

ドラゴンは苛立ちを隠せない様子で、周囲の氷柱をその強力な尾で薙ぎ払い、「テールスウィープ」で巨大な氷の礫を無数に飛ばしてくる。俺はそれを避けながら、あるいは剣で弾きながら、反撃の機会を窺う。柱を盾にし、時には倒れた柱を足場にして跳躍し、ドラゴンの懐に潜り込んでは斬りつけ、離脱する。その繰り返しだ。

ドラゴンは知能も高い。俺の動きを学習し、攻撃パターンを変えてくる。先読みして氷の槍を地面から突き出させる「アイススパイクストーム」で俺の逃げ場を塞ぎ、そこにブレスを叩き込もうとする。

「くそっ、芸達者め!」

俺はファイアーボールで氷の槍をいくつか破壊し、爆風を利用して辛うじてブレスの直撃を避ける。だが、爆風と熱で体勢を崩したところに、ドラゴンの鋭い爪が迫る!

ガキンッ! 〈エクソルシウム〉で受け止めるが、衝撃で腕が痺れ、数メートル吹き飛ばされる。


何度もブレスの掠り際に凍りつきそうになり、爪で切り裂かれ、叩きつけられた。そのたびに〈ハイポーション〉を飲み干し、〈ヒール〉で傷を癒す。MPもHPも、もはや風前の灯火に近い。

(まずい…このままでは削り殺される…! 何か、何か手は…!)

鑑定でドラゴンのHPを確認するが、まだ半分以上残っている。絶望的な数値だ。


HP: 2500/10200 | MP: 1200/6800 | 状態: 負傷(重)、凍傷(中)、疲労困憊

(もう後がない…! ポーションも残り僅かだ…!)

ドラゴンもまた、その巨体に無数の傷を負い、翼の動きも鈍くなっている。だが、まだ倒れる気配はない。奴の蒼氷の瞳が、消耗した俺を嘲笑っているかのようだ。

(こうなったら、一か八かだ! 全てをこの一撃に賭ける!)

俺は最後のMPを振り絞り、〈エクソルシウム〉に全聖属性魔力を、そして残りの手に持った〈紫電のレイピア〉に全雷属性魔力を込める! 二つの剣が、それぞれ白銀と紫電の輝きを極限まで高め、バチバチと激しく火花を散らす!

「これで、終わりだァァァッ!!」

ドラゴンの最後のブリザードブレスを、最小限の動きで紙一重で避けながら懐に飛び込む! その瞬間、世界がスローモーションになったかのように感じた。ドラゴンの驚愕に見開かれた瞳、俺の荒い息遣い、そして二本の剣が放つ圧倒的なプレッシャー。

(今だ!)

二刀流の乱舞を、ドラゴンの心臓部と思われる、わずかに鱗の薄い箇所に叩き込む! 聖と雷の力が複雑に絡み合い、螺旋を描いてドラゴンの巨体を内側から破壊していく!

「聖光! 雷迅! 合技――サンダーブレイク・ホーリークロス!!!」 (心の中の魂の叫びだ!)

俺の持てる全ての力を込めた連続攻撃が、フロストドラゴンの心臓部で炸裂した!

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!!」

フロストドラゴンは、これまでで最大の、そして最後の断末魔の咆哮を上げ、その巨体が氷の床に激しく叩きつけられる。地響きと共に、その体から急速に力が失われ、蒼氷の瞳から光が消えていく。やがて、その生命活動が完全に停止したのが分かった。


『レベルが上がりました』


名前: (前世の名前)

種族: ヒューマン

レベル: 30 → 32

HP: 10200/10200 → 10800/10800 (全快)

MP: 6800/6800 → 7200/7200 (全快)


【ステータス】

筋力(STR): S

体力(VIT): S

敏捷(DEX): S

知力(INT): S

魔力(MAG): S

幸運(LUK): S


【スキル】

「鑑定」、「無限インベントリ」、「言霊理解ルーン・リーディング」、「氷寒耐性」


【魔法】

「ファイアーボール」、「ヒール」、「ライトニングボルト」


【称号】 「ゴブリンハンター」、「スライムハンター」、「ウルフスレイヤー」、「神獣殺し」、「スケルトンスレイヤー」、「ゴーストイレイザー」、「リッチスレイヤー」、「ドラゴンスレイヤー」

「はぁ…はぁ…勝った……のか…」

俺は床に倒れ込み、大の字になって荒い息を繰り返す。レベルアップのおかげで体力も魔力も全快したが、精神的な疲労は凄まじい。指一本動かすのも億劫だ。

(本当に…死ぬかと思った…これが、ドラゴンとの死闘か…)

しばらくして、俺はゆっくりと体を起こし、フロストドラゴンが消滅した後に残された、ひときわ大きな宝箱へと近づいた。これまでの苦労に見合うものが入っていることを祈りながら、宝箱を開ける。

中には二つのアイテムがあった。一つは、白虎を模したと思われる美しい装飾が施された鍵。


名称: 〈第三十階層神域への鍵(白虎)〉 分類: 特殊キーアイテム(★★★★★) 備考: 神獣・白虎が守護する第三十階層への扉を開くための鍵。フロストドラゴンの魔力によって封印されていた。

そして、もう一つは、禍々しいまでのオーラを放つ、黒い刀身の長剣だった。


名称: 〈竜殺しの魔剣 - ドラグヴェイン〉

分類: 魔剣/対竜族宝具(★★★★★)

攻撃力: 物理攻撃+300、対竜族ダメージ(極大)

特殊効果:


竜鱗貫通: ドラゴン種の硬い鱗や皮膚を貫通しやすくなる。

竜気圧りゅうきあつ: ドラゴン種の放つ威圧感を大幅に軽減し、自身の闘気を増幅させる。

血啜りの刃: ドラゴン種の血を啜ることで、一時的に剣の切れ味と所有者の力を増す。 備考: 古代の竜狩りが、ドラゴンの怨念と自らの魂を込めて鍛え上げたとされる伝説の魔剣。所有者の血を求め、共に成長するとも言われる。強大な力を秘めるが、扱いを誤れば所有者自身を蝕む危険性も孕む。

「ドラゴンスレイヤー…対竜族宝具か!」

とんでもないものを手に入れてしまった。〈エクソルシウム〉とはまた違う、荒々しくも強力な力を感じる。

俺は新たな鍵と魔剣を手に、この氷の神殿のさらに奥、第三十階層へと続くであろう道を見据えた。白虎の試練とは、一体どんなものなのだろうか。



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