第二十一話 決着
「ごめんタイシ、ミラ!お待たせ!」
ミラさんと僕のいる部屋に聞き覚えのある声が入って来た。
「トラジさん!」
ベットへとトラジは近付き、ミラに手を置く。
「よしよし…痛かったよね、今治すからね…」
トラジの手から白い光が溢れ出す。魔法とはまた違う輝きだ。
「タイシは初めて見たよね、これが神聖力だよ。昔仲良くなった神様に分けてもらったんだ。ただの回復魔法じゃ治せない、呪いを解くための1番ポピュラーな方法さ。…使い手は少ないけどね。」
ミラさんの顔色が段々良くなっている…気がする。治療が早いわけではないらしい。
「タイシ、君は先に行くんだ。呪いを解くのは時間が掛かるからね。君はサーチでメルニの魔力を探して追いかけて、ベズルからエレナを取り返せ。」
「…分かりました!」
正直、ミラさんがまだ心配だけど…トラジが付いてるなら大丈夫だろう。駆け足で部屋を出た。
「トラジ、さっきタイシさんがそこに何かを…」
治療中、ミラはサイドテーブルを指差した。そこを見ると…
「ギルドカードじゃん…置いてっちゃったのか…?」
そこに書かれたステータスを見て、僕は本当にびっくりした。
[素早さA.642,体力S.740,力SS.823,防御S.722,魔力A.650]…
ステータスは上がれば上がるほど上昇のスピードは遅くなる。それでもこの成長速度…
「素早さがちょっと低いけど…そろそろレベルも上がりそうだね。」
ギルドカードはとりあえずストレージに入れて、治療に戻った。
「はあ…はあ…【サーチ】!」
ほんの一瞬拾ったメルニさんの魔力を、シューレントも使って必死に追いかけるが…全然追いつけない。
ステータスのお陰で元の世界よりも体力は多いし走るのも速い。なのに姿すら見えないとは…やっぱり、メルニさんもレベルアップしていて、僕よりも脚が速いのだろうか?
「おやおやー、もしかしてお困りですかー?」
いつの間にか、横を並走している人が居た。水色髪のオッドアイ。
「スカイさん!?無事だったんですね…」
「ちゃんと覚えてくれてて嬉しいですよ♪さて、今のあなたはメルニを追いかけてますが、速度が足りません。そんな時におすすめの魔法を使ってあげましょう!【アイセラ】」
僕とスカイさんが魔力の光に包まれる。すると、急に息切れが治り、脚が力強くなった。
「これは…強化魔法ですか?」
「いえいえ、この魔法は対象者達のステータスを分配出来る魔法です♪素早さや力、防御といったステータスを戦闘中にでも素早く変えることが出来るんですよ。なので、強化とも弱化とも言い切れないんです。」
ステータスを分ける…じゃあ、この脚の速さも誰かの素早さを分けてもらったというわけか。
それを伝えると、「トラジは今動けないですから。私達に素早さを分けてもらってるんですよ。」と答えられた。
なかなか面白そうな魔法だ。仲間の防御を1人に集めれば、どんな攻撃も通らなく…とか出来そうだ。
「ほら、メルニちゃんが見えましたよー」
色々使い方を考えていると、サーチで感じ取っていた魔力がかなり近付いていた。
「メルニさん!」
前を走っているピンクのくせっ毛の女性に声を掛ける。
「タイシくん!…スカイちゃんまで。」
「僕は何をすれば良いですか?」
「今、ヴェノス城でハレラとベズルが交戦してます!私よりも貴方たちの方が早く行けるはずだから先に向かって、彼を援護してください!」
「はい!」
ヴェノス城の位置はこの国に来た時に既に調べた。急いで向かい始め、スカイさんと一緒に走っていると…
「うおっ!?」
突然魔力の光が切れる、ブーストが無くなってしまった。
「たぶん…トラジが治療し終わったんですね。…私のステータスだけでも分けて、速くしましょうか?」
「いえ!僕は後から着くので先にハレラさんを助けてあげてください!」
「…!分かりました!」
スカイさんがぐんぐん加速していく。
僕も早く追いつかなきゃ…
遠くに見える城へと足を進めていく。
「んー!むー!」
広い部屋の端っこで私は放置されていた。喋れないように魔法をかけられ、魔法を封じる手錠と足かせのおまけ付き。
「チッ…黙ってろよ!これからコイツにトドメを刺すっていうのによぉ!」
「んっ!」
転がっている私を、ベズルは蹴り飛ばす。
…お腹が痛い。ただ蹴られただけにしてはやけに…?
「エレナ様に…触れ…るな…」
衝撃でヒビ割れた壁の中央、ハレラが喋る。
ハレラはベズルを、途中まで剣術で追い詰めていたが…鍔迫り合いで力負けし、生まれた隙で壁に叩きつけられた。
…彼ももう限界だ。これ以上は動けない。
ハレラは魔法が苦手だから、回復をしようにもポーションでも使わないと…
ハレラにベズルが近寄る、剣を高く上げ…
「【トライト】!どいて!」
そこで乱入者が入る、光線を指から放った少女…スカイさんだ。
「…また生き返りやがったのか。」
「トラジの為なら何度でも帰ってきますよー♪…じゃあ、さっさとくたばってください。」
二人で剣の打ち合いが始まる。
ハレラはその隙に急いでポーションを飲んで、回復を待っているようだ。
「お前じゃ俺には勝てねえんだよ!」
「ぐっ…」
しかし、スカイさんでもベズルに押されている。このままだとやっぱり負けてしまう。
「今援護を…!」
ハレラがベズルに攻撃をするが、いなされる。
「2人でも…関係ねえんだよ!」
剣の大振り、ハレラは掠った程度だが…
「うぅっ…げほっ…」
スカイさんへ命中してしまった。彼女は壁に打ち付けられる。
「お前もまた、ああしてやるよ!」
「ッ…!」
まずい、ハレラがやられる。この2人が今やられると誰もベズルを足止め出来ない。
「【アイセラ】…」
スカイさんが何かを使う。
ハレラとスカイが水色の輝きに包まれる。
「ぐッ!?てめえ、急に力が…!」
「うおぉ!!」
ハレラが突然、ベズルを圧倒し始める。
どうやら補助魔法だったらしい。
ベズルを壁に追い詰めていき…
「これで終わりだ!」
そう言って剣をベズルへと突き出し…
「ごふっ…?」
ハレラは吐血した。そのまま倒れ込む。
「…は、ははは!なんだよ、やっぱり呪いは効いてんじゃねえかよ!ふう〜…」
「な…うそ…」
スカイさんは想定外だったようで驚愕している。
「じゃあ、今度こそお前にトドメを刺してやるよ。」
「こんなところで…」
スカイさんにベズルが迫る。距離をじりじりと詰めていき…そこでベズルにテルが届いた。
「チッ、良い所なのによ…何の用だ?」
ベズルは呑気に通話をし始める。
…何か言い合っているようだ。
「だから、今俺様が逃げたら面倒な奴らを放置することになるじゃねーか!せっかく今殺せるっていうのによ!」
「…【レテラルト】」
スカイさんは体に血の五芒星を描いて、自分の治癒をし始めた。
…あの魔法は、確か本に載っていた…人魚族の魔法だ。
「今始末すれば文句ねーだろ!…なに?メルニもトラジももう到着する?…クソ!仕方ねえ!」
「んー!」
私を横に抱えて、ベズルは逃げ出した。
「…遅かったか。」
あの後、追いかけて来たトラジさんとメルニさんと共に、僕はヴェノス城に到着したが…もう戦いは終わった後だった。
「スカイ、お疲れ様。」
「もっと早く来てくださいよー…」
トラジがスカイを助け起こす。
「メルニ様…申し訳ありません…」
「ハレラ!ボロボロだし…呪いで傷が全然治らないじゃない!…もう後は私達に任せて休んでて。」
ハレラはメルニに助け起こされる。
…僕は、また助けられなかった。
「タイシ、そんな顔するな。」
「トラジさん…」
「サーチで探して、今度こそベズルを倒すよ。儀式まではまだ1日はかかるんだから。」
トラジの言葉に頷く。まだ終わってない、エレナが生きている限り。
「…ねえ、トラジ。さっきからサーチを使ってるんですけど…ベズルの魔力が見つからない気が…」
「な、なんだって?【サーチ】」
スカイさんの一言にトラジは焦る。そして…
「無い…ベズルも…エレナの魔力も…見つからない…」
「へっ…このまま明日まで耐えきれば俺の勝ちだ…」
姿を隠せる隠蔽魔法の【エスト】に、魔力を隠す【エルレント】。
この魔法達を俺にかければ、例え同じ部屋に居ようと、サーチとかいう魔法を使われようとも関係ない。俺が見つかることは絶対に無い。
更に、城の出入り口全てから部下共を突撃させる命令も出した。
その混乱に乗じて逃げ出し、儀式を終了させてから奴らを倒す。完璧な作戦だ。
周りに人がいないのを確認してから、謁見の間に入る。万が一、同じ部屋に人が来ても広いから触れる心配がないし、いざという時には非常口がある。
「次のヴェノス帝国王は…俺だ!」
「ダメだ…私も見つけられない…」
メルニさんもサーチを試すが、ベズルを見つけることが出来ない。
「クソ…しかも沢山の兵士が城へ迫ってる…多分ベズルの命令だろうな…」
トラジは歯噛みする。
「【サーチ】本当に沢山の人が城へと…」
感じ取った魔力は数百はある。とんでもない規模だ。
「…ん?」
「タイシ、どうした?」
今…何かを感じた。
もう一度サーチを使う…
「…エレナが、いました。」
「えっ…どうやってですか!?さっき、ベズルはエレナさんを抱えてました!あの状況なら、魔力の隠蔽はエレナさんも対象です、感じ取れるはずないのに…」
「それは…分からないです。魔力を隠されたらサーチに引っ掛からないのも知ってます。でも、確かに感じたんです!」
「…!タイシ、左手の指輪じゃないか?」
指輪、ギルドで再会したエレナに貰ったもの。
…思い出した、「繋がりの指輪」だ。ペアの指輪の間に特殊な繋がりを作り、テルみたいな"繋がり"を強化する魔道具。
「…タイシ、エレナの所に行くんだ。君にしか出来ない。」
「でも、そこにはベズルが…」
「…タイシくん、私を倒せる君なら、もう倒せるよ。」
ハレラさん…
「タイシ君、私達はベズルの部下達を止めておきます。彼女を…私の妹を助けてください。」
…やれるはずだ。
今の僕なら、ただ気絶させられたあの時とは比べ物にならない戦いが出来るはずだ。
「…行って来ます!」
ベズルに拘束されたまま…暗い部屋でじっと転がっている。
寂しい、助けて、死にたくない。
喋れないようにされていなければ、きっと叫んでいただろう。
メルニお姉ちゃん…ラリノお姉ちゃん…
顔が思い浮かぶ。死ぬ前にもう一度会いたかった。
…タイシ、あなたともっと…恋人らしいこと、したかったな…
その時、部屋の扉が開いた。
部屋に入り、灯りをつける。
誰もいない…ように見えるが…
ここに彼女はいるはずだ。
「ベズル!ここにいるんだろう!今出て来れば牢屋に入るだけで済むぞ!」
…やはり出てこない。想定通りだ。
そして、僕の予想通りなら…
「【斬月】!」
エレナの魔力の方、その右隣に剣を放つ。
ガキィン!
「チッ…なんで分かりやがった?」
隠蔽が解け、ベズルとエレナが見えるようになる。
「…勘ですよ。」
嘘である。普通にエレナを右脇に抱えて逃げたと聞いたから、エレナの横に攻撃をしただけだ。
「【テプロ】!…【フェールン】!」
ベズルの後ろからテプロで壁を作り出し、ベズルを跳ね飛ばす。更に、強い風で遠くへ飛ばす。
「エレナ!大丈夫かい?」
拘束をトラインで消し飛ばして解いていく。
「ありがとう…大好き。」
「僕だって。」
むくり、とベズルが起き上がる。
「ムカつくなぁー!そのいかにも「以心伝心です!」って感じの面がよぉ!」
切りかかってくるベズルの剣を受け止める。
「今見て分かったけど…その剣、ヤバい魔力を放ってませんか…?」
鍔迫り合いに持ち込まれ、ジリジリと押し込まれる。
なんという馬鹿力だ。
「【アイナトレス】、【ルシェレンド】、【ザラバルリン】!」
「うおっ!?」
「ナイス!エレナ!」
エレナの補助で窮地を脱する。流石のベズルもあのつららを受ける程の自信は無いらしい。
「【トライン】!」
「クソッ…【ルシェンド】!」
光線をかき消した火球を避ける。やはり、純粋なステータス勝負では勝ち目は無い。上手くこちらの土俵に持ち込まなければ。
「俺のルシェンドで今度こそ焼き尽くしてやる!」
来た、乱れ撃ちだ。
「【シールド】!」
ある程度の魔力でシールドを張る。しかし、奴のルシェンドは威力が高く、シールドが削られていく。
「ほらほら!さっきまでの威勢はどうした!」
ベズルは魔法を撃ちながら近付いてくる。
7m…6m…5m…距離はどんどん縮まる。
テルでエレナから合図が来る。
シールドも持たないし…やるしかない!
「【斬月】!!」
気合いを入れ、剣を振る。
ベズルの放った火球を真っ二つにしながら、奴に迫り…
「ぐッ…クソッタレ!」
ギリギリで当たる。ベズルは大体4.6m地点にいた。エレナとの鍛錬が無ければ絶対に届かない距離だった。
「エレナ!」
「【ザラバ…──きゃあ!」
ベズルに近くから魔法を放とうとしたエレナは、頭を掴まれる。
「そこから一歩でも近付いてみろ!コイツを殺してやる!」
しかし…それは本当のエレナじゃない。
「残念だけど…それは魔法体…【ザラバルリン】」
「ぐおッ…うおぉぉぉ…」
強力な電撃でベズルは痺れる。
「そして…魔法体も攻撃出来る…【ルシェレンド】」
ベズルの身体で、魔力の爆発を起こす。
「【ガーロンズ】!」
更に上から岩を落とす。
「…終わった?」
爆風が収まって粉塵が晴れる。奴はピクリとも動かない。
「あ…」
生み出した魔法体が砕け散る。
魔法体は核になる魔石やエルティナ鉱石を用意しないと、魔力が足りずに体の再生が出来ず、砕け散ってしまう。次からは気を付けよう。
「行こう、エレナ。アイツの処理はトラジさんとかメルニさんに任せて…」
扉へと歩き出すタイシについていく…
「これで、終わりだと思ったのか?」
急いで後ろを振り向く。ベズルが起きあがろうとしていた。
「【トライ──
「【ルシェ──
「【ゲヴェルド・ビレへルゼン】」
ベズルの何らかの魔法が先に放たれる。
「ぐっ……重っ……」
「ッ……やば……」
僕らは地面に押し付けられて動けなくなる。まるで、重力がとんでもなく強くなったようだ。
「こいつは俺の持つ呪いの力を魔法に混ぜた物だ。本来、相手の動きを遅くするこの魔法は、俺の力で身動きすら出来ない魔法に変わった。」
ベズルがこちらに近付いてくる。
「お前からだ、俺様の邪魔をしやがって…」
「き……てな…………ね」
「ああ?遺言でも言ってんのか?」
奴は僕の目の前に座り込む。
「気付いてないんですね…!その魔法に…【時限爆破魔法】に…!」
「なっ…!?」
奴の足元、僕の目の前が光り…
大爆発する。
「うぅ…」
身体強化とシールドで軽減はしたが、ダメージを受けた。まだ重力魔法も続いており動くのは難しいだろう。
「ちくしょう…舐めやがって…!」
ベズルは意外にダメージが薄い、せめて動けるようにならないと…
そう思っているうちにもベズルは手をこちらに向け…
「【ルシェンド】!」
再び火球の乱れ撃ち。
シールドを全力で張るが、魔力もそんなに残っていない。すぐに削られていく。
どうすれば…どうすればいいんだ?斬月だってこの重力じゃあ剣が振れず使えない、エレナに魔法体を出してもらっても、結局動けないだろう。
「やっと、シールドが無くなったな。」
迷う内に魔力は削り切られシールドは消え去っていた。
「まずい…」
魔法を撃とうにも魔力が無いし、そもそも重すぎて手をベズルに向けられない。
「最後は1発で決めてやるよ。【ルシェレンド】」
かなりの魔力を込めたんだろう。1m程もある、太陽の様な火球が迫ってくる。
熱が伝わってくる。防ぐ事の出来ない死が近寄って来ている。
「…無理だ。」
せめて、怖いものは見ずに死のう。
横を向いてエレナを見た。
「タイシ…?ダメだよ…そんなの…絶対に…」
「もういいんだ…全力は尽くした…最期に君を見れて良かった。」
目を閉じる。
最初は不思議な夢から始まったんだよな。エレナと一緒に歩くだけの夢。起きたら湖にいて…町に行ったら、夢と同じ姿の君がいたんだ。
パーティを組んで、ダンジョンにいった。憧れているファンタジーの世界そのものだった。
短かったけど…楽しかった思い出には、いつも君がいたんだよ。
「ダメ!タイシ!」
目を開ける。エレナは立ち上がって…
「そんな、エレナ!ダメだ!」
僕と火球の間に割って入った。
「───ッ!!!」
声にならない悲鳴。
目の前で…燃えていく。
…エレナから、魔力線が伸びてくる。
「私ね、あなたに会えて、とっても嬉しかったんだ。」
想いが伝わってくる。
「あなたに助けられて、あなたと冒険して、死にかけたりもしたけど…楽しかったんだよ。」
涙が頬を伝う。
「あなたに受け入れられなかったらって、何度も怖くなったけど、あなたはずっと受け入れてくれた。私は人との付き合いが上手くない。きっとあなたも不思議に思った部分はあったはず。でもずっと私を見てくれた。ずっと守ろうとしてくれた。だから私はあなたに見合う人になりたかった。」
「君は…最初から…僕には勿体無いぐらい凄い子だよ…」
「…ありがとう、タイシ…あんまり早く…会いに来ないでね…?」
魔力線がぷつり、と切れた。同時にベズルの魔法も消え去った。
「おいおい…すげえな、コイツ。」
目の前に、エレナだったものが…倒れている。
黒焦げ、息も感じない、ピクリとも動かない。
生気を…一切感じ取れなかった。
僕のせいだ。僕が勝手に諦めたから。死を受け入れようとした僕を、彼女は自分の身で止めたんだ。
視界が歪む、頬を伝って涙が落ち続ける。
「まあ、お前もすぐに送ってやるよ。じっとしてな?」
…でも、彼女は会いに来るなって言っていた。
それに、ベズルは魔力を使い果たしたのか魔法が全て消えている。無論、重力魔法も。
立ち上がる。剣を取る。
「なんだ?やる気か?」
「地獄に送ってやる…!」
走り出す、体の中の魔力はもう無いが、気合いで魂から魔力を絞り出す。その魔力で身体強化をした上でシューレントを掛けスピードを上げる。
「ッ!?クソ、こんな力じゃなかったろ!?」
力勝負なんて関係無い。力任せに剣を振り抜き攻め続ける。
ガンッ!カキン!という剣同士の当たる音。ベズルだって力の有利が無ければただの雑魚だ。次で抜ける。
そう思い、振るった剣は…
バキンッと真っ二つに折れた。
「へっ!ざまあみろ!呪剣の魔力を吸い続けたらそうなるさ!」
「…【斬月】」
これなら折れてようが関係無い。腕を切り落とす。
「ッッ…!?クソ!痛え、痛えよお!!」
「次で終わり。」
もう一度剣を振ろうとすると…
「【ルシェル】!」
見当違いの方向にベズルは魔法を撃つ。その方向を見ると…
「ッ…エレナ!」
生きてる訳が無い。そう思っても、庇ってしまった。
「ぐぅ…!」
モロに火球が当たる。身体が燃える。
「はっ…ははっ!そのまま燃えて2人で死にやがれ!」
ベズルは部屋の向こうへと逃げようとする。
…何か、ベズルを倒せる魔法は無いか?教えてもらった魔法達を思い出す。
威力を出すには質量、つまり岩や氷が向いている。
速度を出すには電気が向いているだろう。
そして、爆発力は…エレナが教えてくれた。炎と電気を合わせる。
全部を…良いとこ取りした魔法を撃ってやる。
「…【メテオ…バースト】」
自分の全てを絞り出すようにその魔法を撃った。
炎を纏った隕石は、電気の尾を残しながら進み…
「ぐああぁ!!」
ベズルに命中する。
「あ…れ…?」
しかし、目の前の景色が暗くなっていく。前がよく見えない。
手の感覚が薄くなっていく。エレナを触れてることも分からない。
…これは…エレナに怒られそうだな…
「トラジさん!ここはもう私に任せてくれて良いですよ!」
エリが戦いながらこちらにテルを飛ばしてくる。
「分かった、メルニ!そっちは?」
「こちらも大丈夫でしょう。スカイさんだけで余裕です。」
「じゃあ、ベズルを探しに行こう。」
メルニとも連絡をとって城へ入ろうとすると、引き止められる。
「トラジさん、こちらに裏口があるんです。こっちから行きましょう。」
「…そうなの?分かった。行こう。」
城の裏、何の変哲もない石レンガに魔力を流すと仕掛けが動き、裏口が開く。
そこの階段を登って行く。
「ところで、タイシさんやエレナはどこにいるか分かりますか?」
「ああ…ちょうどこの階段を登った部屋かな…」
そこで、向こう側からゆっくり階段を降りてくる者がいた。
「ベズル!?【トライト】!」
容赦なく脚に魔法を叩き込み、移動出来なくする。
「ぐおぉ…いてぇ…」
もうほとんど動ける力は残っていないようだ。
「メルニ、コイツを任せていいかい?」
「良いですけど…ここまでベズルが追い詰められたんですね…」
右腕が切り取られ、背中には大きな打撲と焼けた跡。かなり重傷だ。
「僕の弟子が優秀だから…って言いたいけど、ちょっと不安になってきたよ。ならべく急ぐけど先に戻ってて!」
メルニと別れ、階段を駆け上がる。
ここは…謁見の間だろうか?かなりの戦いの跡だ。
そして、向こうを見て気付いた。2人が倒れている。
「タイシ!エレ…ナ…」
駆け寄って、その惨状を目にした。
タイシはまだマシだ。火傷もあるし、剣も折れてるけど、絶対に死んでない。
ただ、エレナが酷い状態だ。全身が焼け焦げている。冒険者用の頑丈な服もほぼ残っていない事からかなりの長時間焼かれたのだろう…死んでる。
「……?」
しかし、気付いた。
確かに体は死んでいる、でも…まだ、魂に輝きが残っている…これならまだ。
「タイシ!起きろ!【エルシエラ】!」
「…トラジさん…?…エレナが…」
タイシの消耗も正直ヤバい。でも、彼女を救うにはこれしかない。
「タイシ!エレナの身体は想像出来る!?」
「えっ…?」
「彼女の体を治せ!今なら間に合うかも知れない!」
タイシは彼女の体に触れる。
「…【エルシエラ】」
彼女の全身に負った火傷をタイシが治す。
…彼も魔力を使い過ぎて魂を消耗してる。だからこれはかなりの賭けだ。
「エレナ!戻ってこい!」
彼女の魂に、片っ端から神聖力を叩き込む。
神聖力は神や天使、精霊の扱える力で生命のエネルギーに近い。呪いに蝕まれた体や魂も治せるし、ゾンビみたいな魔物の穢れも祓える。
そして、魂の力を神聖力で増やせば死んでから数秒ぐらいなら生き返らせる事だって出来る。
だからこれは、タイシのイメージ力と僕の神聖力の量、そしてエレナの、現実に戻りたい気持ちの勝負だ。
「あら、エレナちゃん。若いのにもう死んでしまったのね?」
いつの間にか、真っ白な空間に私は居た。目の前には白い服を着た女性がいる。
「あなたは誰…?それにここは…?」
「私は転生神フランフォーゼ。ここは…まあ、いわゆる死後の世界ってやつよ。中には知ってる人もいるけど…この世界では死んだ時、魂は記憶や力を無くして、新しく産まれ直すってのがルールなの。それで、私は亡くなった人を転生させるってのが仕事。ここまで分かった?」
こくり、と頷く。
…それに、確かに神々しい気がする。本当に神様なんだろう。
「それでね、どんな感じに生まれ変わりたいか教えてもらえる?要望も少しだけなら聞いてあげられるってのも転生のルールなの。何かある?」
「私は…」
最期の記憶を思い出す。
「…私は、タイシともっと一緒に居たい!あの人に何度も会って、何度も恋をして、結ばれたい!あの人なら、隣に居れるだけでも私は良い!だから、あの人と…また出会える人生が良い!」
一つ、絶対に曲げてはならない部分を言い切った。
これを優先しなければ、私は私じゃない気がした。
「ふーん…やっぱりそうなのね、貴女は。」
やっぱりってどういう事?前もあったみたいな言い方…
「…良いわ、貴女にピッタリの場所、今送ってあげる。」
目の前が光に包まれる。何も見えない。けど、不思議と不安は無かった。
「…けほっ!けほっ!」
「エレナ!起きた…起きたんだね!」
「…ピッタリって…そういう事か…」
「やっぱり治らないんじゃないか」という自分の弱い心を押さえて治療をし続け、とうとう彼女は目を覚ました。
「ふうー…良かったー、神聖力も切れそうだったし、君がもし死んでたらメルニになんて言われるか…」
トラジは軽口を叩く。
「タイシ…良かった…あなたが死んでなくて…」
「…だからって、君が死んだら意味ないだろ?」
「…あなたの事、好きだから。死なせたくなかったんだ…」
あの重力魔法の中エレナが動けたのはきっと、その意志の力のおかげだったんだろう。
「僕も…大好きだよ。」
キスをする。トラジが目を離している今がチャンスだ。
「私も…大好き…」
2人から目を話しているとテルが届いた。
「私もトラジの事大好きですよー?」
「僕だって大好きだよ。わざわざテルで言わなくたって良いだろ…」
タイシ達がキスしたそうにしてたから目を離すと、無限にキスをし始めた。
でも、邪魔をする訳にもいかない。この時間は誰にも邪魔されるべきではないのだ。
「でもー…それで今、凄い暇になってません?私、出来れば…そろそろ交代したいんですけどー…」
「…君は強いから大丈夫。」
「鬼!悪魔!せめてアイセラでステータス送ってくださいよー!」
チラリとタイシ達を見る。
…まだまだ時間を潰す必要がありそうだ。
実は体の見せ合いっこをしてなかったら危なかった21話です。
はい、というわけで第一章、後はエピローグのみです。やっと終わりが目の前に見えて来ました!
…1月に更新しなかったのは自分なんですけどね…
どーも、とらじです。今回は10000文字と相変わらず長いです。文を区切るのが下手、表現も下手。ないないづくしです。
まあ、話したい事も無いので次話で会いましょう。
…ならべく早めに。




