表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらナニしよう?  作者: とらじ
第1章 異世界転移編
20/24

第二十話 稽古

2年前、私はヴェノス帝国の兵士になった。

剣の才を認められた私は、隊を任せられる程に昇進させてもらい、訓練によって、レベルも2に上がった。

生まれ育ったヴェノス帝国を守るために兵士になった私は、治安の維持や帝国領を荒らす魔物の討伐などをして今まで過ごしてきた。

自分が国を守っている、そんなやりがいを感じて私はこの仕事に誇りを持っていた。


そんな兵士としての仕事がおかしくなったのは今年に入ってからだった。

「【治安維持のため彼を殺害せよ】…どう考えてもおかしいでしょう!彼は犯罪者じゃない!ただの善良な政治家だ!」

与えられる任務がどう考えても正当性の無い、異常な物だったのだ。上に何度も訴えても、任務は変わらなかった。

…私は任務に従わずに政治家を逃した。部下も同意した判断だった。

自分が正しいと思ったことをした。

しかし…それが理由で、私は奴を知ることになった。

「よお、ハレラ。俺の司令に従わなかったらしいな?」

「…誰だ?」

「お前さん…知らないのかよ?ベズルだ。お前さんの上司のな。」

ベズルは自分を"上司"と言ったがありえない事だった。

私に命令を出来る立場の者は帝国軍のかなり上の立場になる。その立場にいるのなら、普通は顔も名前もある程度有名になるはずだからだ。

私も、部下も、誰もベズルなんて名前は知らなかった。


その後も、奴は何度も司令を出した。

その全てが、正当性のない殺害命令だった。

私はその任務全てに反発し、自分の正しいと思う事をし続けた。

その結果、私は部下や階級を失い、ただの兵士まで立場が落とされた。

「俺の言う事を聞いておけばこんな事にはならなかったのになあ…」

階級が剥奪された私に聞こえる様に奴が言う。

ただ、ひたすらに悔しかった。


雨の降る中、私は建物の脇に座っていた。

今まで、国のために頑張って積み上げた物を、あっという間に崩された私は、ただボーっとしていた。

当時はあまりにもショックで何をするにも気力が湧かなかったのだ。このまま死んでしまっても良いと思えるほどに。

そんな、無気力になっていた私を呼び覚ましてくれたのが、メルニ様だった。

「そこの兵士さん、大丈夫ですか?」

ピンクの髪の女性が傘を傾け、私にかかる雨を遮る。

「気にしないで下さい。ただ…疲れただけですので。」

彼女はジッと私を見つめる。

「…疲れたわけじゃないでしょう。何か…大事な何かを失われたのでしょう?物じゃなく…立場とかでしょうか?」

私は顔を上げる。赤い瞳と目が合った。

「なぜ…分かるのですか?貴女は何も知らないはずでしょう。」

「私は人の心が読めるんですよ。警戒されてると難しいですけど…心を許してくれている人や、今のあなたみたいに無気力になっている人からは読みやすいんです。」

「心を読む」その行為は魔法でも難しいと聞いた。それを、こんなにも簡単にやってのけるとは只者ではない。

その後も彼女は私を見つめ、私の情報を言い当てていく。そしてしばらくした後に…

「…!ベズルにやられたのですか!?」

彼女は驚いた。

「そんなことまで分かるんですか…」

私の記憶から、最近起きた出来事を知った彼女は私の手を取る。

「…突然で申し訳ありません、私の部下になってくださいませんか?」

「…なぜ?」

最初は意味が分からなかった。軍からほぼ追い出されたような私をわざわざ勧誘する意味が無いからだ。

彼女は説明をしてくれる。

「私は…ベズルを倒そうと考えています。ベズルは…やがて、この国を乗っ取ろうとしているのです。」

なんでも、王女であるメルニは、ベズルがやがて国を乗っ取るという宣言を聞いてしまったらしい。

ベズルを調査していくと、計画を立てており、それがそのまま実行されてしまえば、彼女の妹も父親も殺されてしまうのだとか。

それを阻止するために、自分の兵を集めようとしているのだが、同じタイミングで、ベズルも部下を増やそうとしており、兵のリソースを取られて全然集まってこないらしい。

「どうか…あなただけでもいいのです、私の部下になってください…お願いします。」

彼女は頭を下げる。

自分が育ってきたこのヴェノス帝国が、あの男の手に渡るなど考えたくもなかった。だから…

「こちらこそ、お願いします。」

私は彼女のための部下になった。


「タイシ!そんな腑抜けた剣でエレナ様を守れるか!」

…しかし、今は「タイシ」という男に稽古をつけている。これもメルニ様からの命令なのだから仕方ないのだけれど。

「【トライ──」

「遅い!」

木刀でタイシを打つ。

ステータスは悪くないのだろう。モンスター相手なら充分だが…剣の腕が追いついていない。

力任せなこの剣では、ベズルを倒すどころかエレナを奪われておしまいだろう。

しかも、魔法も威力が高くないし、タイミングが微妙だ。あまり、彼が強くなる想像が私には出来ない。

「タイシ…大丈夫…?」

「平気だよ、エレナ…」

けれど、エレナが彼を好いている以上は、彼を鍛え上げてエレナを守れるようにしなければならない。

「ハレラさん、もう一度…お願いします!」

それに、負けてもすぐにもう一度挑んでくる前向きな姿勢は、私も好きだ。


「いてて…」

「タイシ…ボコボコだったね…」

見張りのシフトの無い空いた時間、そこで僕はハレラさんに稽古をつけてもらっていた。

しかし結果は惨敗、まだ一度も攻撃を入れられていない。

「どうかな…タイシ…痛み引いた…?」

「いい感じだよ、ありがとう。」

エルリラを使い終えた彼女は微笑む。

「うーん…どうすれば勝てるんだろうなあ…」

ハレラさんとの戦いを思い出す。

剣は防がれ、魔法は使う前に叩かれ、彼の攻撃は防ぎ切れずに防御が崩される。

…正直、勝ち目とかないんじゃなかろうか。

「ハレラの言う通り…タイシの剣の腕なのかなあ…」

2人で首を傾げる。

注意されたのは、剣の扱い方や魔法のタイミングなどだ。

それらを意識するべきなのだろうか…でもどんな風に…?

「2人とも、首をかしげてどうしたの?」

見張りのシフトが終わったようだ。笑鈴えりさんが中庭へ入ってくる。

ありのまま今起こった事を話す。

「なるほど…ハレラ君との模擬戦に勝てないのか〜…参考までに、今のステータスは?」

カードを取り出す。

「…めっちゃ上がってますね。」

ギルドカードには、[素早さB.523,体力A.602,力A.615,防御A.610,魔力B.540]という数字が書かれていた。

前に見た時より…体力と防御が著しく上がっている。

笑鈴さんとエレナもカードを覗き込む。

「一昨日セントルーアで見せてもらった時より上がったね、ハレラ君の稽古がよく効いたのかな?」

「…稽古でステータスってこんなに上がるんですね。モンスターと戦ってるよりも効率が良いような気がします。」

「大志君が全力で戦えたからだろうね、ステータスはモンスターを倒すと上がるわけじゃなくて、よく使った能力が上がるから。」

「ちなみに…素早さは走ると上がって、体力は身体を長い間動かすことで上がる…力は剣を振るった時で、防御は攻撃を受けたり、防いだ時に上がる…魔力はそのまんまだね、魔法を使えば上がる…」

…なるほど、今回は今までにないぐらい動き続けたし、木刀でけっこうボコされたから体力と防御が大きく上がったのだろう。

「…このままステータスが上がれば、ハレラさんに勝てますかね?」

そう聞いてみたけど、笑鈴さんは首を横に振る。

「そんな「いつか勝てるかも」っていう気持ちで戦っても絶対無理だろうね、レベルが上の相手に勝つには「今回だけでも絶対に勝ってやる!」みたいな強い気持ちが必要だよ。」

「そうですか…」

やっぱりこのままじゃ勝てないんだろう。ならすることは一つだろう。

詳しい人に聞く事だ。

「笑鈴さん、剣の扱い方を教えてください!」

「任せて!」


少し離れて、剣の打ち合いをする二人を見つめる。

「大志くん!そんな持ち方だと…」

エリはタイシの剣を強く打ち、剣が地面に落ちる。

「こんな風に叩き落とされちゃうよ?」

実演多めでタイシにエリは剣を教えていく。タイシは吸収が早いので、みるみるうちに成長している。

「…私も頑張らないと。」

メイズドで頑丈な壁を作って、そこに魔法を撃ち込む。

魔力をたくさん込めてみたり、魔法が素早く飛ぶように意識してみたり、魔法を同時にたくさん使ってみたり…出来るラインを見極めて伸ばしていく。

タイシの頑張りに報いるため、私は魔法を徹底的に鍛えていった。


しばらくして、ミラさんがシフトの時間になった。つまりハレラさんのシフトも終わりだ。

「ハレラさん、リベンジさせてください。」

「…分かった、中庭へ行こうか。」

立て掛けられた木刀を手に取る。

外は暗くなって、もう夜だ。

笑鈴さんやエレナは部屋に入ってもう寝てもらっている。

ミラさんのシフトが終われば僕の番だし、ハレラさんもシフトが終わったばかりで疲れている。

出来るだけ早く終わらせたい。

「それじゃあ…行きます。」

「さあ、来い。」

返事を聞いた瞬間、素早く走り出す。

狙いは胴体、大振りで攻撃を入れようとする。

「甘いな。」

もちろん防がれた。剣の腹で木刀を滑らせられて、左へと攻撃が受け流される。

でも、まだ終わったわけじゃない。

「ふぅッ…!」

力の向きを上手く変え、再び胴体を狙って剣を振る。

しかし、ハレラさんの下から上への斬撃で剣は上へと跳ね上がられた。

「終わりだ!」

繰り出される突きを右へとギリギリで回避する、そして…

「えいっ!」

左の脇で木刀を挟み、押さえ込んでからハレラさんの首へと剣を振り…当たる直前で止めた。

「…どうですか。」

「ふむ、面白い…だがそれだけだ。」

ハレラさんが自分の木刀を素早く引く。

「あっ…」

結構全力で脇で抑えていたのに簡単に引き抜かれてしまった。

「昼にやった時よりも機転を利かせようとしていたし、私の攻撃もいくらか防いでいるが…Lv.1の君では私やベズルのLv.2のステータスには勝てない。自分よりも強い相手には、こんな技一つだけじゃなく地力を上げて、更に策を練らないと勝つ事は出来ない。」

木刀を立て掛け、ハレラは部屋の扉に手を掛ける。

「ベズルは6日以内に襲撃してくる可能性が高い、それまでにエレナ様を守りながら、時間を稼げるようになっておきなさい。」

「…分かりました。」

シフトの時間までしっかり休むように、と付け加えてハレラさんは部屋に入っていった。

「はあ…仮眠だけ取ろうかな…」

【時間を見る魔法】でシフトまでの時間を見てから、僕は室内に戻った。


自分のシフトの後に模擬戦、笑鈴さんに教わりながら模擬戦、そして今日の反省を生かしての模擬戦。

仕事は座りながら6時間見張りをするだけだし、一応休憩はあるけど、それでもかなりハードなスケジュールだ。

でも、その成果はすぐに出始めた。


「そうそう!大志くん、いい感じだよ!」

2日後の21日、ハレラさんとの模擬戦が終わり、笑鈴さんと戦っていると、褒められることが多くなってきた。

「よし、いったん休憩!」

キリのいい所で木刀を地面に置き、中庭に座り込む。

「はあ…はあ…」

「いやー大志くん、剣の扱い方が本当に良くなって来たよ!」

息切れを整えている所へ、笑鈴さんが話に来る。

…まるで息切れしたり疲れている様子が無い。彼女もやっぱりレベルアップしているのだろう。でも、魂の感じが不思議だ。Lv2よりも高いような…

余計な雑念を振り払う。

「笑鈴さんに教えてもらったお陰ですよ…受け流し方とか、攻め方とか…自分でそれっぽくやってるだけじゃあ、ハレラさんに対しては一切通じなかったですし、本当にありがとうございます。」

「どういたしまして!それで一つ聞きたいんだけど…これである程度剣術は教えられたと思うの、そこでそろそろ魔法を教えたりした方が良いかなって思って。大志くんはどうしたい?」

剣術は確かに結構鍛えられたと思う。相手への攻撃も剣での攻撃の受け方もかなり分かるようになったからだ。

そして、ハレラさんとの模擬戦を考えると、純粋な剣術よりも、自由な発想で戦える魔法を鍛えた方が良いかもしれない。

ベズルと戦う場合のためにも。

「そうですね…そろそろ魔法を覚えたいです。」

「うん、分かった。何から教えようかな…便利なサーチとか、脚の速くなるシューレント、戦闘にも使えるテレポート…どういうのが良い?」

「…全部でお願いします!」

とりあえず、魔法の選択肢を増やして色んな戦法を使えるようにする。ただでさえレベルが低いのだから、上手く相手の弱い所を突けるようにしたい。

「ふーん…じゃあ、時限爆破エルトルドとか隠蔽エストとかも教えちゃおうかな…魔力を隠すのもあるよ!」

まだ日数はある。少しずつ覚えていこう。


「シューレントはね、腕とか脚に魔力を纏わせるんだよ!それを「速くなれー!」って考えながらやるの!」

「は、速くなれ!【シューレント】!」

休憩中、タイシを見つめる。

今は足の速くなる補助魔法、シューレントを教えてもらっているらしい。やっぱりタイシは飲み込みが早い。

「…私だって教えてあげられるのに。」

ふと、口から言葉が溢れ落ちる。完全に無意識だった。

…やっぱり私、タイシが他の人と仲良くしてるともやもやする。たぶん、独占欲って言うやつなんだろう。

「【シューレント】…」

使った事は無くても大体の魔法は知ってるし、簡単に使える。だからこそ、あの女の人じゃなく私に聞いて欲しいと思ってしまう。

「エレナ!やっぱり君も使えるんだ!」

下を向いてたから、いつの間にかタイシが近寄ってたのに気が付かなかった。

「うん…本で読んだ事あったから…」

「読んだだけで使えるんだ…やっぱりエレナは凄いなあ。」

「えへへ…」

自然と頬が緩む、タイシが私を見て、褒めてくれてる。凄い嬉しい。

「僕もエレナに見合えるように頑張るよ!」

「うん…がんばれ…」

タイシがまたエリさんに聞きに戻る。

…私ももっと頑張ろう。

「【テプロ】【エリテルーナ】」

頑丈な壁を作ってから、魔法体を生み出す。

この壁は私の魔法でもなかなか壊れない。でも…

「【【ルシェレンド】】」

魔法体と同時に魔法を撃つ。

1発ずつなら5発分の魔法を耐える壁は一気に崩れる。

二点に同時に衝撃を加える事で特殊な荷重を掛け破壊したのだ。

それに、魔法体の扱いを鍛えれば手数を増やしたり、影武者を作ったりと色々汎用性が高い。

「…次は、絶対倒す。」

そう決意し、ベズルへの対策を練っていった。


「【ルシェル】!」

ハレラさんとの模擬戦、やはり火球は斬られる。

「それで終わりですか!」

「くっ…【フェールン】!」

風で少しハレラとの距離を離す。

「【テプロ】!」

壁でハレラを囲み…

「【ルシェレンド】!」

上から大きな火球を2発叩き込んでから距離を取る。

「はあ…はあ…【エルトルド】」

息切れを整えつつ、小声で魔法を仕込む。そのタイミングでハレラは壁を破壊して出て来た。想定よりも早い。

「【シューレント】!」

動きを速くして、仕込んだ魔法の近くで剣によって迎え打つ。

やはり、攻撃を捌ききれず、少しずつ傷が増える。

「急に受け身になりましたね、もう終わりですか!?」

「いいえ!これからです!」

魔法エルトルドが爆発する。

僕は爆風を耐えきるが、ハレラさんは耐えきれず宙に浮く。

「【フェールラン】!!」

浮いた彼を強風で地面に叩き付ける。

流石のハレラさんでも少しの間は動けなくなる。

「【ルシェレンド】!」

小さな太陽のような火球を、倒れたハレラに撃ち込む。

「…やり過ぎたか?」

よく考えたら最後の魔法はオーバーキルだったかも知れない。

「いや、大丈夫だ。この程度ではくたばらんよ。」

ハレラさんは普通に起き上がる。…怪我はしているが、頑丈過ぎる。

「正直、舐めてたよ。私は君がここまで強くなるとは最初は思っていなかった。」

ハレラさんは続ける。

「君は魔法の使い方が上手い。同じ攻撃魔法でも、私をエルトルドに誘導する為に使ったり、トドメの為に使ったり。同じレベルの相手だったらきっと倒せただろう。魔法の手札も多いようだしな。」

…ありがとう、笑鈴さん。

「しかし、このままじゃあベズルからエレナ様を逃がし切る事は出来ないと私は思っている。何故か分かるか?」

顎に手を置き考える。足止めとかは今なら出来る気がする。でも…逃がし切れないってどういう意味だ…?

「あ…」

もしかして、と答えを思い付いた。ハレラさんはさっきの戦いで負傷をした。でもどれも軽傷、きっと再戦すれば魔力が切れそうな僕を今度は倒せるだろう。

つまり、動けるのだ。ベズルを僕が足止めしても、奴はすぐに追いついて来るんだ。

「そう言う事だ、君は強くなった。でも威力が足りないんだよ。このままでは途中で魔力が切れ、ステータス勝負になって君は負ける。だから、相手に深手を負わせるような何かを身に付けなさい。」

ハレラさんはそう言って屋内に戻った。

…威力を出すならやはり剣だろうか?しかし、ステータスが上の相手に近付くと思わぬ反撃を食らうこともある(昨日ハレラさんに実際にやられた)。

「あ!あれなら…」

一つ思い付いた。


シフトが終わりハレラさんとの模擬戦(今日は魔力切れまで粘られて負けた)もやった後、中庭で座って休んでいるとエレナが中庭に来た。

「タイシ…魔力からっぽ…」

「ははは…昨日は勝てたんだけど、今日は魔力使い過ぎて負けちゃったんだよ…」

「だから傷も放ったらかしなんだ…【エルシエラ】」

みるみる内に傷が治る。

「おお…ありがとう。」

「あと、魔力も回復してあげるね?」

エレナは僕の手を両手で包むように握る。そして、温かい何かが流れ込んでくるような感覚がした。

「…これは?」

「私の魔力…多分、タイシ20人分くらいあるから分けてあげれるの…」

…そこまで差があったのか。どおりで一日中魔法の特訓を出来るわけだ。

「うん、これで大丈夫…もう魔法は使えると思うよ…」

「やっぱりエレナは凄いなあ…」

なんとなく、抱き締めて頭を撫でる。

「タイシ…やっぱり私を怖がらないでくれるんだね…」

「だって…可愛いし、強いし…怖くなんかないよ。」

そう僕が言うと、エレナは離れる。

「エレナ?」

「ごめん…なんか、褒められすぎておかしくなっちゃいそう…こんなの初めてだから…」

…褒めすぎてもダメなのかな?


今日は笑鈴さんがいないので、中庭にいるのは僕とエレナだけだ。ちなみにミラさんはシフトの時以外は基本、外出している。初日以外はシフト交代の時しか見ていない。

「ねえエレナ、ハレラさんと模擬戦した時なんだけどさ、魔法で上手く動きを封じることは出来たんだけど…トドメの威力が足りないって言われたんだ。一応ルシェレンドを撃ったんだけどピンピンしてたし。」

エレナは手を休めて近寄ってくる。

「魔法の威力は込める魔力の量で決まるから…タイシがトドメを魔法で刺すのはあんまり向いてない…やっぱりタイシが最大の威力を出すには剣しか無いと思う。」

「だよねえ…」

そこで、考えていたアイデアを伝える。

「剣をほんの一瞬伸ばす?…もしかしてスカイさんがやってたやつ?」

エレナは立ち上がって剣を抜く。

「スカイさんがやってたのはこういう感じだと思う。【メイズド】」

エレナは銀の剣にメイズドを使い、剣先を伸ばしていく。

「メイズドは物を作る時、どのくらいの時間保つかを決められる。時間の長さには上限があるけど短さには無い。だから…」

彼女は空に剣を振った瞬間、5m程まで剣を伸ばした。伸びたのはほんの一瞬、剣先はすぐに魔力の粒子となって消え去る。

「こんな風に使える…でも、これをそのまま使えばタイシは一瞬で魔力が切れるだろうね。」

メイズドの剣先が魔力の粒子になって消えるのなら、この魔力を回収出来ないかを聞いてみたけど…

「うーん…無理だと思う。エルティナ鉱石でも回収しきれないんじゃないかな…」

今の僕の剣はエルティナ鉱石製だが…それでも無理らしい。

何か無いのだろうか…何か…

「エレナ、シールドって確か、壊れなければ魔力を回収出来たよね!それなら良いんじゃない?」

「良さそう…って思ったけど、シールドって身体から出すのが精一杯なんだよ…?剣先からは難しくない?」

実際に剣を抜いて試してみる。身体と同じように循環させてから…傘のように広げる!

「…タイシ?だいぶ歪じゃない?」

「…はい。」

イメージはなんとなく出来たんだけど…体とちがって感覚が無いからだろうか?思っていたのと違う場所から、シールドは出てきた。

「でもタイシ…アイデアは良いと思う。剣先から伸びる、シールドに似た物を作れば良いんだよ。」

「…どうやって?」

「魔法を作るんだよ。」


「タイシ、伸ばしたい所まで剣先をイメージして?」

「う、うん。」

「そしたらそこに魔力を流して…固体にして!」

魔力を固める。剣先には20cmほどの固まった棒状の魔力が出来上がった。

「そうしたら…固体の魔力を剣を通して回収して?」

剣先からゆっくり溶かすようにして魔力を回収する。

剣先は元通り、僕の中の魔力もほぼ減っていない。

「よし…原型は出来たね…これをもっと素早く、長くしていけば実戦にも使えるようになるよ…」

「ほ、本当に!?」

「私、急に嘘吐かない、本当だよ…魔力のロスもほとんど無いし、タイシ用の魔法としてはかなり良いと思う…」

自分専用…まるで必殺技のようではないか。心…いや、魂が踊る。しかし、エレナが肩を掴む。

「じゃあ、もう一回やって?」

「え…いや…も、もうちょっと喜びを噛み締めたいなーって…」

「実戦で使えなきゃ意味が無い…でしょ?」

「…はい。」

何度も繰り返して練習する。1mmでも長く、1秒でも素早くする為に使い続ける。

「つ、疲れた…」

腕を振りすぎて痛い、それに疲れた。エレナ曰く「実戦では振った瞬間伸ばすんだから…タイミングを掴めるように振って練習した方が良い…」との事で。100回はとうに超えたと思う。

「…タイシ?やめるの?」

「えっ?えーと…そう!ちょっと腕が痛くなっちゃってさ…やりたいんだけどね?」

「なら任せて?【エルリラ】」

綺麗に痛みが消える。

「…そうだ魔力も切れちゃって!」

「手…貸して?」

温かい魔力が流れ込み、身体が魔力で満たされる。

「じゃあ…続きやろっか。」

「…はい。」

言い出しっぺは僕だ。それは言い返せない。でも、誰か助けて欲しい。


昨日はとりあえず、ハレラさんに新魔法は使わずに模擬戦を終えた。ステータスのお陰で攻撃も更に防ぎやすくなったし、魔力切れは起こさなかった。新魔法もバレていないはずだ…多分。

今日の朝も使わずに戦う。やはりステータスが上がっているのだろう。どんどん戦いやすくなる。

「やはり君は決め手に欠けるな…何か秘密の技とか無いのか?」

「…ナイデス。」

「…そうか。」

バレているのかいないのか…微妙に分からず声が変になってしまったが、とりあえずハレラさんはシフトの時間になって中庭を去った。

「ふう…やっと休め──」

「【エルシエラ】…じゃあタイシ、始めよっか…」

…たすけて。


「じゃあ練習はこんなもんで終わりだね…」

「つ、疲れた…」

体はエレナに治されるが、心はエルシエラじゃ治らない。気分的には凄い疲れているのだ。

「よし、最後に…私に向かって全力で伸ばしてみて…実戦で何処まで伸ばせるかの目安になるから…」

「わ、分かった。」

エレナはテプロで透明な壁を1mごとに作っていく。

「もういいよー…」

合図で剣を左から右へ振り抜く。そして剣を素早く伸ばす。

5m程離れたエレナ…には届かず、4m地点までの壁が綺麗に切れた。

「大体…4.3mかな…元の剣から3.6m伸びてるね。」

これなら…かなり意表を突けそうだ。しかも、威力は手元の振る速度が一定なら、長さが伸びれば伸びる程上がる。

「じゃあ名前付けよっか…どんなのが良い?」

「な、名前かあ…」

ネーミングセンスに自信はない。それでも、ダサくない名前にしなければ…

剣に関する魔法だろ…剣…切る…斬る?…ざんならカッコいいんじゃないか?

でも1文字で良いのか…?うーん…

悩んだ末に、目を開けて空を見上げる。そろそろ夜だ。いつの間にか月が昇って来ている。…月か。

この魔法で、月は斬れるのだろうか?試してみたい。

目標を名前にするって言うのも、悪くないだろう。

「…【斬月ざんげつ】にする。」

「ザンゲツ?」

「僕の世界の文字で月を斬るって意味になる。」

「…そっか、ふふ…良いね、ザンゲツ…」


「【アイナト】!」

つららをトラップのように地面から生やす。そして、ハレラが動きずらい所へ剣で斬り込む。

「いくら足元が不安定でも…まだ負けませんよ。」

勢いよく振られた剣は防ぐ事は出来たが、姿勢を崩してしまう。その間にハレラはつららのトラップから脱出する。

「【フェールラン】!」

手だけを向けて、強風を放つ。しかし、ハレラの体勢は崩れず、耐えている。

「【テプロ】!」

ならば、と空へ打ち上げる。

10m程吹っ飛んだハレラは流石に体勢が崩れた。

落ちてくるハレラの元へと走る。

きっと、着地する瞬間を狙っているとハレラさんは思うはず。

その証拠にハレラは着地後しか警戒していない。

浮かんでいる間、魔法を撃たれても致命傷にはならないと思っているのだろう。でも今回は違う。

6m…5m…そして、4mに入った瞬間、剣を振る。

「【斬月】!!」

「!?【シールド】!」

伸びてくる剣に対して、ハレラはシールドを貼るが…いともたやすく貫かれ…足に深く斬り込みが入った。

「【フェール】!」

ハレラさんの落ちる勢いを魔法で殺し、キャッチして地面に降ろす。

「す、すみません。今治します。」

エルシエラで急いで傷を治す。

「タイシくん。」

「は、はい…?」

「本当に、強くなったな。」


地面に座り、休憩タイム。目の前にはハレラさんが座っている。

「まさか、足りないと思っていた威力をああやってカバーするとは…ここまでの怪我をしたのは訓練兵の時以来だよ…」

ハレラさんはなんだか嬉しそうな顔をした。

「ここまで強くなった君になら、エレナ様を任せても安心だ。心の底から言えるよ。」

「あ、ありがとうございます。」

そう言った所で、ハレラさんは何か引っかかる様な顔をした。

「…どうされました?」

「いや…念のため伝えておこう。ベズルの事なんだが…奴は私と同じLv.2だ。ステータスは私と同格かそれ以下、剣の腕は確実に下だ。」

「それが…?」

「そう、アイツは私より弱い筈なんだ。なのに実際に戦うと、同じレベルとは思えない力を奴は持っているんだ。会わないように行動するのが一番だが…くれぐれも気を付けてくれ。」

「…分かりました。」

まあでも、とりあえずシフトの時間まで休もう…立ち上がって僕達は屋内への扉に手を掛けた。


「…動き始めたよ、メルニ。」

「え?…こんな時間にですか?まだ儀式の行える時間までは24時間以上あるんですよ?」

「いや、でもミラから報告が…ごふッ!」

僕は"繋がり"に乗って来たダメージで倒れ込む。

「トラジさん!?」

駆け寄るメルニを手で制止する。

「あの野郎…ミラを…」

起き上がり、隠れ家の方面を見る。

何も起きていないように静かだが…

「メルニ、向かおう。もう侵入されてる。」

「は、はい…急ぎましょう。」


エレナの部屋の前に立ち、扉をノックする。

「エレナー?開けるよー」

ベットに膨らみが見える。寝ているのだろうか?

布団を軽くめくる。

「エレナ、斬月のお陰で──」

…そこにいたのは、ミラさんだった。

「な…え…?」

布団を全部めくる。

「う、うわ!?」

一目見て、死んでいると思った。

お腹に腕よりも太い、巨大な穴が空いている。

血が流れ出ている。

「タ……さ…」

「ひえっ!?」

でも彼女は生きていた。

そして、必死に喋ろうとしている。

「【テル】!何を伝えたいんですか!?」

…数秒して、声が魔力線に乗って聴こえてくる!

「…私の手を握って、魔力を流し込んで下さい…」

急いで手を包み、その冷たくなっている手に、魔力を流す。

…ほんの少し、彼女の眼に光が戻る。

「そうしたら…私の手を…お腹の辺りに動かして下さい…」

言われた通りに動かす。

「…【グラブド】【エルシエラ】」

声は出ていないが、魔法を発動させるのはその意志だ。彼女のお腹の穴にそれを埋める人体のパーツが出来る。そして、それがエルシエラでくっつき、再生する。

「…ありがとう、ございます…♪」

声の出る様になった彼女は笑うが…かなり無理をしていそうだ。

「えーと…安静にして下さい。さっきまで死にかけてたんですし。」

「そう…ですね。…すみません、トラジさんを…呼んでもらえませんか?」

「は、はい。」

テルでトラジに魔力線を繋ぐ。

「タイシ、どうした?」

「ミラさんが瀕死の重傷を負わされていました。ハレラさんの隠れ家のエレナの部屋です。傷はなんとか治療出来たっぽいんですが…呼んで欲しいと。」

「…!分かった。急いで向かう。」

魔力線が切れる。とりあえず…ミラさんの側にいた方が良いだろうか…?

迷っていると、魔力線が伸びてくる。…知らない魔力だ。

「はい、タイシです。」

「急で申し訳ありません、メルニといいます。」

聴こえて来たのは女性の声だ。

「メルニさんって、確かベズルを倒す隊の?」

「はい、とりあえず用件を伝えます。まず、エレナが連れ去られました…犯人のベズルをハレラと共に追跡中です。」

…やっぱり連れ去られていたのか。

「二つ目、あなたはミラさんの側にトラジさんが到着するまでいて下さい。彼が到着したら、私達と合流してベズルの追跡を共にして下さい。分かりましたか?」

「はい!」

魔力線が切れた。

振り返って彼女を見る…やはりミラさんは具合が良くなさそうだ。

「【エルリラ】!」

本来、回復魔法をかければ具合もある程度良くなるのだが…やはり良くならない。

彼女が説明してくれる。

「私に…今かけられているのは…呪いです…これは精霊とか…神様の与える「神聖力」とか…特殊なものじゃないと…治せないんですよ…」

苦しそうな声を聞きながら、僕は何も出来ない。

…トラジさん、早く来てください…彼女を早く…助けてください。

マジでごめんなさい。1月中って余裕だと思っていたら全然更新できず2月になってました。本当にすみません。

あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたします。遅いですねすみません。

とらじです、12000字です。ヤバいです。


ちょこっと話 シフト順

0〜6タイシ→6〜12笑鈴→12〜18ハレラ→18〜0ミラ

という順番でシフトは回っています。

え?タイシはずっと模擬戦してたけどいつ寝てたんだって?…隙間時間に細かい睡眠をとっています。たぶん、長く続けると身体がおかしくなる奴です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ