第十六話 冒険者の基本
カランカラン、という音をベルが奏でつつ、扉が開く。
「失礼しまーす…」
声を掛けてみるが返事がない。店内を見れば、所せましと片手剣や大剣、斧やナイフ…とにかく沢山の武器が並んでいる。しかし、客も店員も見当たらない。
「留守…ですかね?」
「それは無いんじゃない?営業中の札がかかってたし扉も空いてる…鍛冶屋なんだしそろそろ聞こえてくるんじゃないかな?」
「そろそろ…?それって──」
カン!という音がエレナの言葉を遮り、奥の部屋から鳴る。
少しの間聞くと、どうやら規則的なリズムで音が鳴り続けているようだ。
「仕事中だったんだ、通りで人がいなかったんだね…でも、商品が盗まれちゃったりしないのかな…?」
「それは大丈夫ですよーお嬢さん、この通り旦那さんのいない時間は私が見てるので。ぶい。」
カウンターの下から女性がダブルピースをしながら出てくる。薬指に指輪をしている所をみるに店主の奥さんだろう。
「なんでカウンターの下から…?」
「元勇者のお兄さん、それは屈んでいる時にあなた達が来ちゃって出るタイミングを失ったからです。ぶい。」
「…知ってるんだ。」
「前に助けられましたからねー」
…なんだか変わった人だ。自分も人のことを言える質でもないが…
雰囲気もなんだかほわほわしている。
「ところで、ご用件はなんでしょう?武器を見てるわけでもないし…武器のお手入れ?」
「いや、依頼の納品に参りました。エルティナ鉱石です。」
用件を忘れかけていたが、僕らは依頼を終わらせるために来たのだ。本題に入らなければ。
「まあ、早くて助かりました。では向こうでお茶でもどうぞー。旦那さんは一度仕事に火が付くと周りが見えなくなってしまうので…終わるまでちょっとしたお話でも。」
「じゃあ…お言葉に甘えて。」
奥さんに着いていき奥の部屋へ入る。
…少し気温が上がった感じがする。
「お店は狭いのに旦那さんが本格的な設備のためだって言って聞かなくて、不思議な構造の家になっちゃいました。さらに向こうの扉が工房です。…お紅茶とコーヒーはどちらがお好きですか?」
「僕は紅茶をお願いします。」「私も…」「僕はコーヒーかな。」
「はーい、そちらの席に座って待っててください。」
近くの…ダイニングテーブル?の席に着く。
「トラジさん…あの人に会った事あるんですか…?」
「うーん…直接何かしたわけでは無い…と思う、たぶんね。どっかの戦いを止めた時とかにいた人かなあ…」
…そうか、トラジは勇者だったのだから、かつて助けられた人がいてもおかしくはない。…でもあの歴史の本には姿までしっかり書いてあった、なのになぜ今まで知っている人と会わなかったんだろう?そういえば、エレナのメイロンドによってできた水球からすぐに脱出した時も(何者だ…)みたいな視線こそ向けられていたのに正体は誰も気づいていなさそうだった、何故だろう…?
「飲み物持ってきましたよー」
目の前に紅茶が置かれ思考が中断される。
「ありがとうございます。…あちっ」
「猫舌さんですねー牛乳でも入れて温度下げちゃいましょうか。」
奥さんはティーカップを手に取り台所へと持っていく。戻ってくると見事なミルクティーになっていた。
「ありがとうございます…おいしいです!」
「良かったです。じゃあ…何のお話をしましょうか?」
何か聞きたい事はあっただろうか…?考えているとトラジが口を開く。
「僕に前、助けられたって言ってましたけど…いつ頃のどこでしたっけ?」
「一年ぐらい前でしたかね…その頃のパルプーナです。当時は南下してきたヴェノス帝国軍に困らされていた時で…防衛線が破られかけていた時にあなたが駆けつけてくれたんです。トラジさんは覚えてませんか?」
「…しっかり覚えてます、その時だったんですね。」
「はい、あのままだったら才能もない私はどうなっていたかも分かりません。だから…本当にありがとうございました。」
頭を下げる奥さんにトラジがあたふたしていると奥の扉が勢いよく開き、剣を持った男が出てくる。
「おい!これ、ここ最近で一番の出来…その人たちは?」
どうやら旦那さんが出てきたようだ。
「冒険者さん達です。エルティナ鉱石を取って来てくれたみたいですよー」
それを聞き、剣を置いて彼は近づいてくる。
「そうか!ありがとうな!俺はリンズだ。あんた達は?」
それぞれ自己紹介を済ませる。
「なるほど、タイシか!それで…鉱石を見てもいいか?」
はい、と袋から鉱石を取り出して手渡す。
「ほう…確かにエルティナ鉱石だな…質も良さそうだ。多分まだあるんだよな?工房で出してもらってもいいか?」
奥の扉から工房に入ると先ほどよりも明らかに暑い。炉や金床が見えるし、リンズさんはさっきまで作業していたからここまで暑いのだろう。
「よーし、ここに残りを出してくれ。」
そう言われた机にエルティナ鉱石を置いていく。
僕の袋からエルティナ鉱石を出していく。リンズさんは出すにつれて笑顔になる。
「こんなに持ってきてくれたのか…!じゃあお礼を──」
隣でエレナがエルティナ鉱石を出し始める。笑顔だったリンズさんの顔が出すにつれて曇っていく。やがて一つだった鉱石の山の隣にもう一つ山が出来上がる。
「…ストマ、依頼は一体何個必要って書いたんだ?」
奥さん、もといストマさんは依頼書を取り出す。
「そういえば書いてませんねー…貴方が武器の試作に使いたいと言っていたので…」
リンズさんはばつの悪そうな顔でこちらに向き直る。
「あんた達にこんなに鉱石を持ってきてもらっておいて悪いんだが…俺じゃあこの鉱石の量に見合う報酬を用意できない。」
「…それは…どうして…?」
「さっきの店内の様子をあんた達も見たと思う。客が全然いなかっただろ?」
…少し失礼な気がするが頷く。
「最近はずっと赤字続きでな…何か新しいことにチャレンジしないと店が潰れるのは明らかだ、だからエルティナ鉱石で武器を作ることにしたんだよ。自然に魔力が溜まるあの鉱石なら魔力の扱えない奴でも攻撃力を上げられると思ったからな。」
「結果はどうだったんです?」
「失敗したんだ、自分で魔力を溜めないと効果を発揮しない本末転倒な代物が出来ちまった。純度が高ければ上手くいくだろうと思ったんだが…その辺で高純度のエルティナ鉱石を仕入れられるほどの金ももう残ってなくて…最後の望みとして相場よりも安い金額であの依頼を出したんだ。もちろん、持って来てくれた奴にはそれに見合うだけ埋め合わせをするつもりだったんだが…流石にこの量の鉱石の見返りは今の俺じゃ用意できない。」
リンズは鉱石の山をこちらに動かす。
「俺は今必要な分だけ貰って見返りを用意する、だから残りは持って帰って、もっと金のあるやつに売るんだ。良いか?」
リンズは鉱石をいくつか手に取る。詳しくはないけど…剣が一、二本作れるかどうか…という量だ。
(タイシ、君はどうしたい?)
トラジからテルで聞かれる。
(僕は…正直、彼にあげたいです。リンズさんはたぶん良い人だし…何より店に並んでいた武器もかなりの出来だと思うんです。きっと才能がある筈です。)
(…オーケー、じゃあ上手い事言って渡しちゃいな。)
どう言えば受け取ってくれるかを少し考え、口にする。
「いえ、リンズさん。その鉱石は全部受け取ってください。」
「…見返りが用意できないって言っただろ?それに別の奴に売った方がお前らも儲かる。それじゃダメなのか?」
「見返りが用意できないのはあくまで今の話でしょう?それに僕らは別に急いでるわけでもないから例え、見返りがいつになったって困らないんです。僕らはお金が今すぐ必要な訳でもないんです。ただ、あなたが困っているなら少しでも力になりたいんです。」
「…でも最低限の鉱石があれば今度こそは作れるはずなんだ。この量の鉱石は流石に過剰だ。」
「絶対に失敗しないって言い切れますか?」
「それは…」
「成功したとして、人気が出たのに在庫が足りなかったら?」
「………」
「受け取ってください。きっと役に立ちますから。」
リンズさんは僕が押し返した鉱石の山を見つめる。瞳が揺れている。まだ迷っているようだ。
「頑固さんですねーお言葉に甘えて受け取っちゃいましょうよ。」
ストマさんが口を開く。
「でも…俺は見返りなんて…」
用意できない、そう言おうとした口をそっとストマが塞ぐ。
「いつでもいいって言ってくれてるんです。一生かけて返しましょう?」
リンズはこちらをしっかりとした瞳で見つめる。
「タイシくん、本当にありがとう、絶対に恩は返す。」
そう言って差し出された手を握り返した。
「ひとまず、今の俺でも出来る事をしよう。あんた達の剣を手入れする。ダンジョンに行ってるんだからだいぶ切れ味が落ちたはずだ、しっかり元に戻してやる。まずはタイシの剣からだ。」
剣を鞘ごと渡すとリンズは少しだけ剣を抜いて状態を確かめる。
「銅の剣だな。魔力を通しやすく性能も上がりやすいのが特徴だが…結構無茶な使い方もしたんじゃないのか?だいぶへたって来ているな。預かるよ、次はエレナの剣をくれ。」
エレナも鞘ごと薄刃の剣を渡す。状態を確かめたリンズはしかめっ面を隠したような顔になる。
「お前…ろくに手入れしてないだろう。」
「すみません…」
「まあこのぐらいなら何とかなるが…ん?もしかしてこれ…銀の剣か?おいおい…一体どんな使い方したんだ?さては銀は魔力を流せば耐久性が上がるからって力いっぱいスケルトンに叩き付けたりしたのか?」
「…その通りです。」
「そうか…次からはもっと早く来てくれ。じゃあトラジ、お前の番だ。」
「…必要あるかな?多分大丈夫だと思うけど。」
そう言いつつトラジは剣を渡す。鞘から出てきた剣身は綺麗な水色だった。
「なんだ…これ?まさかエルティナ鉱石の剣か?」
「色はそれっぽいけど違うよ。ヨイガクシっていう木、知ってる?」
「確か…硬くしなやかでちと珍しい木だったか?魔力も通しやすいから貴族が子供に与える練習用の木刀に使われると聞いたが…色が全然違くないか?」
「魔力だよ。その剣はスカイが魔力を通しながら作った。もう魔力が定着しきってその色から変わることは無い。それで、手入れは必要そう?」
「あ、ああ…いらないみたいだな、傷一つ見あたらん。じゃあ、とりあえずさっきの二本を手入れしてくる。」
リンズは水色の剣を返し工房の扉を閉める。僕たちは再びテーブルに座る。
「トラジさん、スカイさんって…何者なんです?」
何故だかどうしても聞きたくなった。会ったこともない人なのに。
「うーん…どこから話そうか…あの子はまず…最強だ。一対一の真っ向勝負で勝てる人は存在しなかったよ。魔力の量も凄かったなあ…エレナも多いけど彼女は君の二倍は魔力があったよ。」
「に…二倍…?エレナって魔力切れしたことないよね?」
「人生で一度もない…私の二倍なら…一人で国は落とせてもおかしくない。」
「あとはねえ…」
トラジは溜める、なにか凄まじい事の前振りのように。
エレナと共に固唾を飲んで待っていると口が動き始める…!
「かわいかった。」
「へ…?」
間抜けな声を二人して出す。
「本当にかわいかったんだよ。あの眼に、あの髪に、あの声に…僕はずっと夢中になって…」
…これは長くなりそうだ。聞かない方が良かったかもしれない。
「ふう…やっと終わった。」
特に状態の悪かったエレナの剣から手を付け、タイシの剣も切れ味がたった今回復した。なんなら新品以上と言っても過言ではない出来だ。
「ん?なんか書いてあるな…」
輝くタイシの剣を鞘に戻そうとした時に小さく書いてある文字を見つける。
「ゲッカ…?剣の名前か?」
不思議には思いつつもリンズはあまり深く考えずに工房を後にした。
「引っ越しにオーク肉の納品、エルティナ鉱石の回収、三つの依頼の達成を確かに確認いたしました!報酬、合計2100ルリズです!」
「ありがとうございます!」
金貨二枚、銀貨一枚を受け取り袋に入れる。
「いやぁ~私も鼻が高いです、いくらトラジがついているといっても…こんなにすぐに立派な冒険者になっちゃうなんて…」
「そんな…まだ立派とは程遠いですよ。まだまだ弱いし、銅級から銀級にならないとヴェノス帝国にも行けないし…」
「でも私は頑張ってる姿が立派だと思いますよ!」
「…ありがとうございます。お仕事頑張ってください。」
「はーい!」
ノアさんと話していると手放しで褒められるから何だか少し恥ずかしくなってしまう。
「タイシは…褒められた方が嬉しい…?」
「エ、エレナ!?いつの間に?」
不意に背後から抱き着かれる。
「どうやら君とノアの会話が聞こえてたようで…僕には止められなかったよ。」
「それはいいんですけど…エレナ!落ち着いて!」
最終的にエレナを抱きしめて何とか落ち着かせる。
「…よし、今日やったのが冒険者の基本的な流れ、言わばルーティーンだ。依頼を受け、目的地に行き、目標を達成する。ちゃんと覚えた?」
「はい!」
「じゃあ…しばらくはこのルーティーンを続けていこう。きっと君たちならステータスもすぐに上がるだろうしね。それじゃあ、ひとまずホテルに帰ろうか。」
そう言ってギルドを後にする。
「荷物の配達に道の開発、オーク肉の収集にスライム粘液の回収…四つの依頼達成で2100ルリズです。さらに!今回ので依頼の達成数が22回になったので…銀級試験の条件を達成しました!」
ルーティーンを続け一週間。いつの間にか銀級試験への切符を手にしていた。
「あ、もちろんエレナさんも達成数の条件を満たしたので昇格試験を受けられます。受かればヴェノス帝国一歩手前、エリさんに会うのも目前です!」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」
「陰ながら応援させていただくのできっと合格してくださいね!」
頷きを返しトラジ達の席に向かう。
「トラジさん!依頼の達成数が20件を超えたから銀級試験を受けられるようになったみたいです!」
「…もう?早いね、ルーティーン始めてからまだ一週間なのに。」
「私もタイシも頑張った…その証拠がこの早さ…」
「まあ頑張ってたし、早いのもその通りだね。ただまあ…一つ問題があるんだよね。」
「…も、問題?もしかしてレベルが足りないとか…?」
恐る恐る聞く。もしそうなら時間がかなりかかってしまうかもしれない。エリさんがずっとヴェノス帝国にいるとは限らないのだから出来るだけ早く向かいたいが…
「いーや。違うよ、多分君らの連携を見るに全然受かると思う。ただね、次の試験の日程が再来週なんだよ。」
「…そうなんですか?」
トラジは日程表を取り出す。
「今日が7月の16日だ。ただ銀級試験は月に一度と決まっててね…次にやるのは30日。だからまあ、レベルを上げるのを目標にした方が良いだろうね…」
まあ、元の世界も1年に2度しかないような資格試験はあったしそんなもんだろう。逆に1年に1回とかじゃなくて本当に良かった。
「まあとりあえず帰ろうか。ここに居たって仕方ないしね。」
トラジに続き僕やエレナもギルドの出口に向かう。
そこでトラジが耳打ちしてきた。
「ホテルでご飯食べてお風呂に入ったら僕の部屋に来てくれない?ちょっとだけ話したいんだ。」
頷いて了解の意を示す。
「ありがとね♪」
…語尾が弾むトラジは何だか珍しく思った。
ホテルの一室、僕とエレナの隣、トラジの部屋をノックする。
「開いてるから入っておいでー」
本当に鍵は掛かっておらず普通に部屋に入れた。
「話ってなんですか?エリさんの事とか?」
「いや、そっちは今は関係無いかな…単純に君のステータスの話だよ。ギルドカード出して?」
銅っぽい色のカードを魔力を流してから手渡す。
「…やっぱり成長が随分早いね。」
「そうなんでしょうか…?」
「ああ、君は冒険者になって1週間ちょいしか経ってない。なのに力はもう600に届きそうだし魔力も502だろう?大体は2,3ヶ月でなるものだよ。」
元の世界では成長が早い、みたいな話とは無縁だったから意外だ。…それとも元の世界ではここまで打ち込んでいたものが無かったからだろうか?
「はあ…レベル上げを目標って言ったけどこの分じゃすぐに終わりそうだな…いっそLv.3を目標にする?」
「いつかはなりたいですけど…まだ早過ぎません?」
「ま、そーだよねー」
トラジも流石に本気ではなかったようで安心する。
「そうだ、後もう一つあるんだ。」
トラジはそう言って服を脱ぎ始める。
「ねえ、僕の体ってどう思う?太り過ぎに見える?」
上裸になった彼はそう聞いてくる。
鍛えられた身体だ、それは間違いない。しかし、筋肉の上には確かに脂肪が付いているように見える。
「痩せていないのは確かですけど…太ってはいないんじゃないですか?」
「ほうほう、ならダイエットはまだ大丈夫か。」
トラジは服を着なおす。
「よし!じゃあタイシ、夜食でも食べに行こうじゃないか!」
「それは食べ過ぎです。」
「…ちぇ、じゃあギルドでいい感じの依頼でも探してくるよ…」
トラジは少しだけ荷物を持って部屋から出て行った。
「うーん…僕はどうなんだろう…」
自分の部屋に戻ってから体型が気になり姿見の前で服を脱ぐ。
元々鍛えていたのもあって腹筋は割れているし脂肪もほとんど付いていない。一応カッコいい部類だとは思うのだが…前衛に向いている体なのだろうか?
「タイシ?服脱いでるけど…どうしたの?」
エレナが風呂から出てきたようで、聞いてくる。
「僕の体ってどうなのか知りたくてさ…君はどう思う?」
「うーん…触ってみてもいい?」
どうぞ、と答えるとエレナはペタペタと体を触り始める。
「筋肉が良く付いてて…カッコよくて…安心できそう…」
彼女はそのまま抱き着いてくる。
「この身体でもし抱かれちゃったら…私、嬉しすぎてどうにかなっちゃいそう…」
頬を赤らめながらエレナは言う、嬉しいけれど…求めてた回答とは違うことを伝える。
「冒険者としてどうか…?うーん、多分冒険者に向いた良い体だと思うよ…?」
「そっか、ありがとう。」
そう伝えエレナと離れる。
「そうだ、私だけ見せてもらったら不公平だよね…」
止める間もなく彼女は服を脱ぐ。
「タイシ、私の身体を見て、どう思うか伝えて…?」
エレナが脱いだのは上半身だけだ。下着だって着けている。しかし、風呂上がりの滑らかな肌やシンプルな下着を押し上げる胸が心臓を無理にでも鳴らさせる。
「えっと…引き締まってて無駄な物が付いてない…筋肉も少ないけど魔法使いだからあんまり気にしなくていいんじゃないかな…?」
鋼の意志で冷静に分析する。
「そういうことじゃなくて…恋人としてどう思う?魅力的に感じる?…私で興奮してくれる?」
答えを必死に考えるがいい答えが見つからない。口を濁しているとエレナが動き始める。
「そういえばタイシは上に何も着てなかったんだから下着を着けてたら不公平だよね…今外すね?」
彼女は背中に手を回し下着を外す。
パサッと軽い音で下着は落ちる。
「ねえほら、タイシ、どう?」
彼女は距離を詰めてくる。その距離がゼロになりかけた時、扉が開く。
「タイシ!ギルド行ったら良い依頼見つけたんだけど…」
ドアを勢いよく開けたトラジは固まる。彼からはベッドに押し倒された僕と追い詰めたエレナが見えたことだろう。
「お邪魔しました本当にすみません僕お墓行ってきます」
とんでもないスピードで言い切り彼は部屋を出ていく。
「え、エレナ…今絶対誤解されたよ。」
「誤解されたら…嫌?」
少し寂しげな顔を彼女は見せる。
「そんなことないよ。」
「じゃあ…本当にしちゃう?」
「それはナシ。」
「意気地なし、ヘタレ…」
二人で服を着なおす。
「エレナ、僕だって君のことは好きだ。でも、僕にはまだやらなきゃいけない事がある。レベルを上げること、銀級試験に受かること、エリさんに会ってみてどうして僕がこの世界に来たのか調べること。これが終わるまではキスぐらいまでにしよう?」
「…約束ね?全部終わったらいっぱいしようね?」
「…ああ。おやすみ。」
部屋の電気を消してそう伝える。
「おやすみ、タイシ…」
それぞれベッドに入って眠り始める。
「ねえ、スカイ。一週間だよ?あんなに関係って進むものなのかい?」
一応聞いてはみたが答えは返ってこない。
今ごろ二人で…してるのだろうか。
そんな風に考えているから誰かが近づいて来ていたのに気づくのが遅れた。
「トラジさん、やっぱりここにいましたか。」
「…ヴェノス帝国の王女が何の用だい?」
「メルニです。覚えてくださいよ。」
「覚えてるさ…それで、どうしたの?」
ピンクのくせっ毛の彼女に聞く。わざわざ会いに来たのだから何か用があるのだろう。
「…国が乗っ取られかけているんです。実権をある人物に奪われていっていて…」
「…止められなかったの?」
「はい…」
悔しそうに彼女は言う。
「でも、なんで僕に?大体の相手なら君の方が強いだろ。」
「一つは妹…エレナを狙っているんです。エレナを狙っている部隊を止めるのに精一杯で…貴方がいるから大丈夫だったかもしれませんが…」
「やっぱり君の妹だったか。強いから狙われるだろうしそれにヴェノス帝国は軍が多いもんね…もう一つは?」
「実権を握っていってる彼の名前は…ベズルです。」
その言葉を信じられなかった。
「…アイツはスカイを殺そうとして、失敗した後に死んだって聞いてたんだけど…どういうことだ?」
「何らかの方法で姿をくらましていたのでしょう…その方法や理由を知るにも生け捕りにしないと…」
「…分かった、明日にでも向かう。エレナとタイシは向かわせなくていいよね?」
「はい。ただ、護衛は付けてください。」
「分かった。…ところで君はエレナに会わなくていいのかい?」
「いいんです、無事に成長していってるのは確認していますから。」
彼女は僕に迎えの時間を伝えて立ち去った。
…テルを使い連絡を取る。
「ねえ、エリ。久しぶり。」
彼女なら護衛を十分こなせるだろう。
約9100文字…?どうなってるんだ?
今回も筆が乗りましたとらじです。
「人魚に恋した冒険者」で先行登場したベズル、実は十四話で名前が出ていたメルニの登場です。自分でも名前を覚えるのが大変になって来ました。
そろそろ一章もクライマックスに入ります。たぶん…
感想、評価、お待ちしてます。




