4-16 戻ってきた日常
学園が再開した。休校期間に領地にも一旦戻ったよ。
母からは義父との再婚話も聞いた。流石に皆に話すのは、もう少し落ち着いてからになるみたい。だからその間、私も黙っておく。
予めその可能性を聞かされていたとはいえ、義母の後釜みたいな状況は、第2夫人にという当初の予定よりも遥かに複雑な気持ちにさせた。
事情があるのは理解してくれるだろうけど、義兄弟達が納得し切れるかはわからない。難しい問題だ。
この家は定期的に家族関係で問題が起きるな。呪われてるのか。
溜息を吐きながら登校するのは私達くらいで、大多数の学園生が笑顔だ。スタンピードから生き残って、魔物も全部倒してハッピーエンドだもん。そりゃ浮かれもする。義母の事がなかったら、私達もきっとあの輪に入っていた。
呑気で羨ましいこと、と心の中はクサクサしているが、私もヒーローとして祭り上げられて話しかけられる。笑顔で対応しなければならない私は、加速度的に心が荒んでいく。
でも救いはあった。殿下方が気付いてくれて、すぐに殿下守護フォーメーションを組み、人垣バリケードを張ってくれたのだ。
説明しよう。殿下守護フォーメーションとは、両殿下をお守りする為に、取り巻き及びその寄り子貴族が隊列を組み、人垣を作って他人を寄せ付けない陣形のことである。そのまんまである。
なんでも1年生の時、殿下達に近づこうとする令嬢令息が後を絶たなかったそうで、殿下達は非常に迷惑したそうだ。
そこで取り巻きメンバーが、寄り子や信頼出来る人に声を掛けた。殿下達が移動する時は、いつの間にやら彼らが集まって陣形を組み、擦り寄ろうとする輩を鉄壁のガードで排除している。
これを今回私にも貸し出してくれたのである。とてもありがたい。
ちゃっかりイザイア様も囲われている。この人、知らない人に話しかけられるの嫌いだもんな……。相手は褒めたたえてるのに、さっきまでガン無視してた……。
とはいえ、バリケード学生にも、私達が気になる人は当然いて、チラチラと視線が飛んでくる。中には誇らしそうに胸を張ってる人もいる。可愛い。
そうして食堂に辿り着く。私はニコール様達と一緒に専用ブースへ。その周囲の席は、バリケード学生が確保している。
学園としても、余計な問題が起きないに越したことはないので、バリケード学生達の席は指定席になっていて、他の学生はそのエリアに近づいてはいけないという不文律が出来ている。
こういうのも多少慣れたけど、こんな事なら高位貴族や皇族は学園に来るべきじゃないと思う。ていうか、高度な教育を受けている皇族や高位貴族が、学園で学ぶ意義もあんまりない。
トーマスも言っていた事だけど、高位貴族にとっての学園の存在意義は、確かに微妙な所だ。
でも、社交や統率の経験を積むという意味では、有意義かも?
そんな日々を過ごしながら、学園も徐々に落ち着きを取り戻してきた。そんなある日の事だった。
剣術の授業中、ディラン・コバルト侯爵令息が話しかけて来た。
ちなみにコバルト侯爵令息は親戚なので、排除対象ではないから、普通に話しかけられる。
ていうか高位貴族クラスの人は、礼節がある人ばかりだから、派閥関係なく排除対象ではない。
「剣聖殿、俺に指導をつけて頂けるでしょうか」
「よろしくてよ」
私は称号を貰ってしまったので、騎士として対する時は称号で呼ばれる。貴族としてはシャモア男爵当主として扱われ、シャモア男爵またはシャモア男爵のシヴィル・ホワイト様と呼ばれる。
なので、コバルト侯爵は目上なのだが、彼はまだ当主ではなく準爵なので、私の方が上になる。
それでこんな感じだ。そのうち立場逆転するのに、面倒この上ない。
それにしても、強くなって私を超えてやると啖呵をきったのは本気らしい。
指導して欲しいとの事なので、まずは型を素振りしてもらう。これはコバルト流剣術だね。受け止め、捌き受け流しつき崩す。対軍特化の剣術だ。
「いかがでしょうか」
「概ね良いけれど、ほんの少し基礎鍛錬が必要だと思うわ」
「基礎……」
いや、正直な話、並の騎士くらいの実力はあると思う。でも私に勝ちたいなら、並の訓練では無理なのよね。
「体力作りと筋力トレーニングを増やすことが一つ。それと、自分と向き合って素振りをしましょう」
「自分と向き合う?」
「ええ。もう一度振ってみて」
「わかりました」
返事をしたディラン様が、剣を振り下ろす。それを、声をかけて途中で止めた。
その体勢で静止させたまま説明する。
「重心が右に寄りすぎているわ。利き足側に体重が乗るのは多少仕方ないけれど、それは意識して修正した方がいいわ」
「はい」
「それと、少しだけ剣が傾いているのがわかる?」
「あ……本当だ」
「対象に対して剣の角度は垂直に。でなければ力が伝わりにくいし、剣も痛みやすくなる」
「なるほど……向き合うという事は、そう言う事ですか」
「ええ。小さな事だけれど、疎かにしてはいけないわ」
「わかりました!」
ディラン様は素直に返事をして、じっくりと素振りを始める。
うんうん、基礎は大事よ。
見守っていると、クインシー殿下の取り巻きの騎士団長子息、ザカライア・セラドン伯爵令息もやってきた。
「剣聖殿!俺にも指導お願いします!」
「いいわ」
それを皮切りに、見て欲しいと他の学生も集まってきた。それぞれの剣をじっくり観察して、細かく指導していく。
授業が終わる頃には、彼らは声を揃えて「御指導ありがとうございました!」と頭を下げた。
それを見ていた教師とニコール達。
「俺、教師辞めようかな……俺完全に空気だし、自信なくした……」
「まぁ、先生。元気を出してくださいな」
「そうですわ。シヴィルには先生の邪魔をするなと言い聞かせますから」
「優しいな。ごめん……」
落ち込む教師を慰めるニコール達。後でシヴィルはしっかり怒られた。
その代わりにクインシー殿下の提案で、剣術サークルを発足するに至り、教師は退職せずに済んだのだった。




