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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第4章 学園生時代

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4-13 国葬

スタンピードは終息したものの、学園はしばらく休校になった。

国葬や論功行賞、戦勝パーティなんかもしなきゃいけなくて、そちらに出席する学園生が多かったためだ。もちろん私達も。


国葬は終息してから1週間後に行われた。実際の葬儀は既に家族で済ませているので、これは儀式的なものだ。

母を含めて、死者は32名。殆どは騎士だけど、武闘会参加者や貴族にも、わずかに死者を出した。

祖父によると、かつて地元を襲ったスタンピードでは、近隣の村を含めて死者は500名を超えたらしいから、それに比べたら被害は軽微なんだろう。

でも、そんな比較に意味はないと思う。少なくとも感情の上にはね。


学園都市を襲ったスタンピードの話は、皇都にも知れ渡っていたようで、大通りには多くの市民が立ち並び、黙祷を捧げてくれていた。

国葬の中で、殉死者の名前が一人一人呼ばれていく。そして義母の名前が呼ばれて、義母は名誉男爵、名誉騎士に叙された。名誉騎士に与えられる、凝った装飾の儀礼剣を、義父が受け取る。あの儀礼剣は、義母の名誉を形にしたものだ。今後我家の家宝として、大切にされるだろう。


国葬も終盤となった頃、憔悴した顔の少年と、老成した貴族男性が挨拶に来た。少年は同級生だし、男性は本部で顔を見たから知っている。

少年はディラン・コバルト。男性はフィリップ・コバルト侯爵だ。


「ギデオンよ」

「義父上」


コバルト侯爵は義母の父だ。愛する妻、愛する娘を失った2人の男性は、互いに惜別を滲ませていた。


「義父上に、改めて御礼申し上げます。サフィナという素晴らしい妻を私に与えてくれたこと、感謝してもしきれません」

「それを言うなら私こそ。君と結婚してからのサフィナは、幸福そのものであった。サフィナに代わって礼を言う」


2人はそんな言葉を交わしあった後、コバルト侯爵は気遣わしげにしながらも、ディラン様の背中を押した。


「さぁ、ディラン」

「久しぶりだな、ディラン」


押し出されたディラン様は、父に挨拶はしたものの、俯いたままだんまりだ。

その様子に気の短いルサルカお姉様と、急遽やってきたユージェニー様、義弟のジャスティンがイライラしているのがわかる。


肝心のディラン様は、不貞腐れている様子は無い。責められて憤っているようには見えないから、言葉を選べないくらいに、困り果てているのだと思う。

ふと、ソフィアお姉様が前に進み出た。


「ディラン、あなたが無事でよかった」

「……ありがとう」


いとこ同士だからか、それなりに気安い仲ではあるのだろう。ソフィアお姉様の言葉に返事をしたが、ディラン様はやはり俯いている。


「ディラン、自分を責めているの?」

「当たり前だろ。俺のせいで叔母様は……」


ディラン様は、ぐっと拳を握りしめて震える。その気持ちは深く理解できた。だって私も、同じ辛苦にどれほど喘いだか。

その苦しみを、少しでも和らげてあげたかった。


「ディラン様、消えてしまいたいですか?」


私の問に、ディラン様は途端にボロボロと涙を零して、「消えてしまいたい」と、掠れた声で言った。

自分を庇って死んだ叔母。それを武門の子息であるディラン様が、自分を許せるわけが無いのだ。

守られたばかりか、自分のせいで叔母が死んだ。周りが許しても、自分が自分を許せない。

その苦しみは、泣きたいくらいにわかった。


「私もかつて、戦いの中で、大切な仲間を失いました。その方の兄君に言われました。君にこそその栄誉を誇って欲しいと。お義母様にも、あの頃は励まされました。1人で立ち直る必要は無い、誰かの手を借りて良いのだと。受け売りですが──ディラン様、あなたにこそ、お義母様の栄誉を認めて欲しい。その方が、お義母様も喜ばれますわ」


ディラン様は泣きながら、黙って何度か頷く。


「俺……、俺が馬鹿だったんだ。増長していた。俺のせいで叔母様が……。どうして、俺を責めないんだ」

「ディラン兄様を責めた所で、お母様は生き返りません」

「ちょっとジャスティン」


困った義弟だこと。ジャスティンは不貞腐れた顔をしながらも、ディラン様をまっすぐ見つめた。


「お母様は強かったよ。シヴィル姉様と俺と、よく一緒に稽古してくれた。お母様が言ってた。騎士になったら死ぬ覚悟はしなきゃいけない。でも、死ぬ事に誇りを持てるのは、騎士くらいだって。ディラン兄様は、そうは思わない?」

「……わかっては、いる」

「ディラン兄様が死ねばよかったなんて、俺達は思わないよ。でもそんな風にウジウジされるのは嫌だ」

「もう、ジャスティンたら」


困り顔のソフィアお姉様がジャスティンの頭を撫でて、ジャスティンはそれを払い除けている。もう、反抗期なんだから。


「私のオススメは親しい人とのお話、美味しい食事、それと告解ですわ。私はそれらに救われました。世界は残酷ですけれど、救いもありますわ。どうか、その苦しみを乗り越えて下さいませ。その先には、必ず光がありますから。己の弱さを厭うなら、強くおなりになって。今のディラン様になら、容易いことでしょう?」


消えたいと願うくらいなら、その命を燃やさないのは、お義母様への冒涜よ。

それはしっかり伝わったらしい。ディラン様は私をまっすぐに見た。睨みつけていると言っても良いくらいの、強い視線。ああもう大丈夫だなと思える。


「俺はいずれ、コバルト領最強の騎士になってやる。いずれ君も超えてやる」

「楽しみにしておりますわ。まぁ、その頃には、私はもっと昇格しておりますけれど」


私は敢えて胸を張って偉そうに笑ってやった。ディラン様は呆気に取られた後、苦笑した。


その後コバルト侯爵とディラン様は立ち去った。

義母が嫁いだのが、ホワイト家で良かったと、言葉を残して。


私も、心からそう思う。そして、義母の冥福をお祈りした。


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