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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第4章 学園生時代

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4-12 スタンピード4

スタンピードの終息は聞いたけど、詳しい事を聞いていなかった。そんな暇もなかったしね。本部に行けばわかるだろう。


という訳でやってきた本部。昨日はたくさん人がいたけど、帰ったのか今日は人が減っていた。皇帝陛下もいない。まぁ陛下は皇城を長く空けるのは良くない。落ち着いたら帰るべきだ。

お目当ての団長はちゃんといた。クインシー殿下とジョナサン殿下及び取り巻きメンバーは、別室で書類仕事祭りらしい。


団長に聞いた所、私が休憩に入った後、グレイ伯爵が大魔術ブッパして一掃したそうだ。


なにそれー!なんか最後に美味しい所持ってかれた気分なんですけど!


内心ムカムカしていると、団長が悩ましげな顔をして言った。


「グレイ伯爵は基本、話が通じないからな。まぁ気にするな。お前の功績が目減りしたわけではない」


そりゃそうだけどさ。トリを飾るってやっぱり違うじゃん?

別にそこまで名誉にこだわってないけどさ。モヤモヤはするよ。

昨日は心配してくれた感じだったくせに。


相変わらずむくれていたが、どうも団長の表情が硬いことに気がついた。

スタンピードが終息しても、後始末で色々忙しいからだろうか?

不思議に思っていたら、団長が暗い表情のまま口を開いた。


「悪い知らせがある」

「……はい」

「姉上が亡くなった」

「え?お義母様が、どうして?だって、学園は、団長とグレイ伯爵が、守って……」

「姉上は戦場に出たんだ」

「そんな、なんで……」


サフィナお義母様。最初は義姉だったけど、養子縁組して義母になった人。コバルト侯爵の娘で、若い頃は騎士をしていて、戦乙女なんて呼ばれるくらいの実力者で。

庶子だった私にも優しくしてくれて、悩みを聞いて励ましてくれて、義父の事が大好きで。

その義母が、死んだ?

私はその場にいた義父に振り返った。よく見れば義父も、憔悴している。


「嘘ですよね?」

「事実だ。未明、私が看取った」

「そんな……」


私が寝てる間だ。義父が看取ったなら、誰かの勘違いじゃない。

確定した義母の死に、ボロボロと涙が止まらない。


やっぱり、やっぱりもっと戦うべきだった。私がその場にいたら気づけたかもしれない。義母を助ける事が出来たかもしれないのに、呑気に寝ていたなんて。

疲れた位で、休もうなんて思うんじゃなかった。

死力を尽くして戦って、義母は死ぬまで頑張ったのに。

自分の能天気さが、吐き気がする程忌々しい。


「此度のスタンピードは災害だ。殉死者は国葬にて弔う事となっている」


団長が何か説明してくれているけど、頭に入ってこない。

悲しみと自己嫌悪で、頭がおかしくなりそう。


「……姉上は、少しでも力になりたいからと、直談判しに来てな。止めたが無駄だった」

「戦場には、サフィナの甥もいてな。彼を守って負傷したそうだ。サフィナらしい、立派な騎士の最期だ」


義母の甥と言えば、同級生のコバルト侯爵の孫だ。そう、彼を守って亡くなったのか。

うん、うん、そうだ。義父の言う通り、義母は立派だ。


数年前に私を庇って亡くなった騎士ライアン様。葬儀で出会った兄上のキナリー伯爵。自分を責めて泣くばかりの私に、キナリー伯爵が言った言葉を思い出す。

ライアンの栄誉を、君にも認めて欲しい。

私は涙を拭って、顔を上げた。


「はい。お義母様を、誇りに思います」

「あぁ」

「素晴らしい、妻だった……」


義父も限界だったのか、「失礼」と退室してしまった。私も断りを入れて、義父を追いかける。

義父はいつもしゃんとしていたのに、その背中は丸まって煤けているようだった。


「サフィナ……」


よろめいて壁に手をつく義父に、慌てて駆け寄った。触れた広い背中は、震えていた。


「お義父様」

「……っ」


震える義父を見ていたら、私もまた涙が込み上げてきて、2人でしばらく泣いていた。


しばらくして義父が落ち着いてから、提案した。お義母様に会いたいと。

義父はやはり憔悴していたけど、頷いた。


義母は学園の室内訓練所にいた。そこには布をかけられた人が何人もいて、貴族や学園生もいた。

一番人がいる場所に、義母はいた。

私達に気づいた家族が、こちらに顔を向けた。


「父上!」

「シヴィル!お母様が……」


トーマス、ソフィアお姉様、ルサルカお姉様。あぁ、そうか。朝はいなかった。ニコール様が付き添っていたのは、そういう事だったのか。

今まで私に伝えられなかったのは、私に聖女の仕事が待っているとわかっていた、誰かの指示なんだろう。

そうだね、その判断は正しい。義母の死を聞かされたら、私はきっとマトモに治療出来なかっただろうから。


正しいのはわかってるけど、やり場のない怒りを覚える。

その指示をしたのが誰かなんて、犯人探しをする気はない。糾弾するつもりもない。

頭ではわかってる。義父に初めて会った時に言われた。

放置させてくれなかったのはお前だと。

私にしか出来ない事があった。わかってる。


わかってるけど、でも、もっと早く、そばにいたかったな。


義母の顔の部分だけ下げられた布は、花柄でどうやらカーテンを使ったみたいだ。けれど胸の当たりが真っ赤に染まっている。

その布を取り払う。


「姉上?」

「シヴィル!」


トーマスとルサルカお姉様が声を上げたけど、無視する。

義母の右胸には穴が空いている。即死ではなかったはずだけど、これではもって10分ちょっとがいいところ。でもきっと、息が出来なくて苦しかっただろう。

周りは腐ったり焦げたりはしていない。こんな芸当が出来るのは鬼だ。高ランクは優先的に全部倒したつもりだったけど、討ち漏らしたのがいたらしい。

穴は鬼にしては小さい。子どもの鬼かもしれない。それで見落としたのか。


既に死んだ人は、私には修復出来ない。でもせめて、美しい義母の姿に戻って欲しい。

私は自分の服をめくって、服の裾を口に咥えた後、剣で自分の腹の肉と皮膚を削ぎ落とした。

絶叫を上げそうになったけど、歯を食いしばって噛み殺す。

痛みにぜいぜいと息を荒らげながらも、肉を集めて穴を埋めて胸を作る。皮膚を繋げて被せる。私の脂汗が滴り、義母の体を汚したからカーテンで拭き取る。

その様子を家族は呆然として見ていたけど、義母の傷口が塞がれているのを見て、涙を流した。


「ありがとう、シヴィル」

「いいえ、こんなことしか、出来なくて」

「いいの、いいの」


ソフィアお姉様が、義母にすがりついて泣き出した。トーマスもルサルカお姉様も号泣した。義父は泣きながら、義母の頬を撫でていた。


ジクジクと痛む腹の傷が、涙を引っ込めさせてはくれたけれど、私達は義母を失って、その犠牲の上にスタンピードは終息した。

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