4-7 武闘会2
武闘会は順調にトーナメントをこなしていた。途中全くトラブルがなかった訳では無いけど、学園を守護する騎士たちが速やかにドナドナしていた。
まぁ、誓約書書いてるからね。この国の誓約書は神に誓うものなので、誓約を破ったら神罰が下る。だから、余程の事がなければ誓約はしないし、守られる。
今回は人の命が危ぶまれるイベントなので、名誉欲よりも命大事にしなさいよという圧力を込めての誓約書だ。
スケジュールは既に準決勝。騎士にも魔術師にも、学園生にも光るものを持つ人はいて、中には敗退してもその戦い方を賞賛されて大歓声で見送られる人もいた。
「今の試合は面白かったな」
「そうですね。僕には真似出来ないや」
「騎士アーロンが槍を取り落とすも、それを拾うまで待っていた魔術師ドム。結果敗退でしたが、魔術師ドムの誠実さは、心にくるものがありますわね」
後日談、魔術師ドムにはめっちゃ求婚の手紙が来たらしい。女子はこういうの大好きよね。彼は目出度く子爵令嬢と婚約したらしい。私の夫探し大会で婚約出来て良かったね。グギギ。
「それでは準決勝と行こう。次の試合は騎士ナイゼル対バーソロミュー・スレート伯爵令息だ」
「これまでの対戦を拝見しますと、このお二人は面白い組み合わせですわね」
「そだね。パワータイプの騎士ナイゼルと、闇魔法を駆使した短剣術のバーソロミュー。騎士ナイゼルは搦手には弱そうだけど?」
「そうですわね。相性で言えば一見バーソロミュー様に利がありそうですが、騎士ナイゼルのタフさを、バーソロミュー様が切り崩せるかがポイントでしょう。あれほどの守備力を削るのは並大抵ではありませんわ」
「面白くなってきたな。それでは両者準備は良いだろうか。準決勝第1戦を始めよう」
重装の騎士ナイゼルと、学園制服のバーソロミュー様が向き合う。力とタフさは騎士ナイゼルが圧倒的に強い。でもバーソロミュー様の技術は目を見張るものがある。これは楽しみな対戦だ。
審判の合図で始まった。その瞬間、バーソロミュー様の気配が掻き消される。見えているのに、目を離すと見失ってしまいそうな程だ。
騎士ナイゼルもそうらしく、表情が険しい。
「おっと、バーソロミューが姿を消した!」
「お得意の影渡りですねー。さて、どこに?」
闇魔術で影の中を移動したバーソロミュー様は、ジョナサン殿下が口を開く前に、騎士ナイゼルの背後から飛び出した。
持っている短剣の刃先は、鎧の隙間を狙っていた。
だが騎士ナイゼルは、素早く振り返りそれを盾で弾いた。全身鎧に盾の重装備で、この反応速度。騎士ナイゼルも流石だ。
バーソロミュー様は影の中を渡ったり、落ちた投げナイフの影から別のナイフを飛ばすが、それらはほとんどが盾や鎧に阻まれて、騎士ナイゼルには傷一つない。反対にバーソロミュー様は、盾で弾かれたり斬られたりして、ダメージが蓄積し始めている。
戦いの場面では、大きくて強くて硬い者が、そうでない者よりも強い。これは分かりきった道理だ。
「これは予想とは裏腹に、相性が悪いのはバーソロミューの方だったかもしれんな」
「騎士ナイゼルは本気を出していないとは思っていましたが、予想以上に実力差がありましたわね」
「んー、でもまだわかんないよ?」
またバーソロミュー様が影渡りで姿を消した。次に現れたのは、騎士ナイゼルの盾の影、盾の内側だった。
すかさず掌底でヘルメットを叩き上げたバーソロミュー様は、その短剣を喉元に突きつけた。
「参った」
「勝負あり!勝者バーソロミュー・スレート!」
拍手と歓声に湧く観客に見守られる中で、バーソロミュー様は騎士ナイゼルに背中をバシバシ叩かれて痛そうだ。
「相手の懐に入り動きを封じてからの一撃必殺の手、お見事ですわ」
「流石はバーソロミューだ」
「あはは、殿下も鼻が高いですねぇ」
学園生で勝ち残ったのはバーソロミュー様だけだ。準決勝も終わり、最後の決勝は、総当り戦だ。私が3名と戦う。
最初の対戦者は魔術師オーエン。次がバーソロミュー様。悪いけど私が勝ちました。
そして最後が──。
「待ちに待った最後の対戦!流石にシヴィル嬢も年貢の納め時だろう。帝国最強の騎士、皇帝陛下の剣!近衛騎士団団長バネッサ・コバルト伯爵!」
紺色の髪をたなびかせた小柄な女性が、不敵に笑って礼をとる。
突っ込みたいことが山ほどあるが、まずはこれだけ確認したい。
「団長お疲れ様です。あの、任務は」
「問題ない。陛下より許可は得ている」
「そうですか……」
なんで女性である団長が、この大会に出てるの。ていうか団長何してんの。負けたら私は団長と結婚しなきゃならないのか。それって法律上どうなの。ていうか団長普通に旦那さんいるし。
「何か言いたいことがありそうだな」
「それは、まぁ」
「心配するな、私は同性愛の趣味は無い」
「それはわかっておりますが…」
「姉上にお前の事をくれぐれもと言われたのでな。その鼻っ柱へし折ってやる」
前半と後半が繋がらない気がするのは、私だけだろうか?
でも、団長と戦った事はなかった。団長が帝国最強の騎士であることは疑いようもない。戦乙女と呼ばれた義母の妹であり、女性でありながら数々の武功を立てて伯爵にまでなった唯一無二の騎士。
ぶるりと、体が震えた。
「私も、団長とやり合ってみたかったのです」
「生意気なヤツめ」
帝国最強の騎士、バネッサ・コバルト伯爵は、この国の騎士の憧れでもある。普段団長は忙しいから、こうして戦う機会は中々ないのだ。
これは私にとっても、チャンスかもしれない。
団長は義母の妹だから、目をかけてくれてたのは知ってた。
でも団長も、騎士のたしなみはお好きなようで。勿論私も。
審判の合図で、最後の対戦が始まった。




