4-2 ニコール様マジ天使
前回までのあらすじ
売られた喧嘩を買おうとしたら怒られた。
イザイア様と友達に戻るのは無理そうだ。あっちが絡んでこなきゃ、こっちだって普通にするのに。ホント、男って子どもよね。
それより、こんな事で殿下やニコール様を煩わせちゃダメだよね。しっかりしなきゃ。
入学式はスムーズに終わった。トーマスは残念ながら新入生代表ではなかった。同級生に公爵令息がいるなら仕方がない。
朝の話を思い返せば、トーマスにはどうでもいいことかも。
入学式の後は、ニコール様の傍に下がって教室へ向かう。高位貴族のクラスだ。下位貴族になるとクラスも複数あるけど、高位貴族のクラスは1クラスだけだから、3年間メンバーは同じだ。
私やルサルカお姉様みたいな境遇の人は、実はそこそこいるらしい。貴族は複数の妻を持つのも割と普通なので、異母きょうだいなんかゴロゴロいる。
なんなら跡継ぎを作ったら、夫婦でそれぞれ愛人を作る人もいる。愛人を作るのは一種のステータスみたいなもので、流石に庶子はちょっと少ないみたいだけど、いないこともない。みんながみんな、そういう考えなわけではないみたいだけどね。
学園で気に入った人がいたら紹介しなさいと父には送り出されたけど、私また好きな人とかできるのかなぁ?恋をするのは1度きりじゃないって樹里は言うし、あの大奥様でさえ、若い頃は恋ばかりしていたと言うし。そんなもんなのかねぇ。
とはいえ、素敵な人がいたとしても、高位貴族なんてほとんど婚約者決まってるし、私は既に出遅れている。この辺はルサルカお姉様に頑張って頂こう。
担任のマゼンタ先生から、ニコール様の護衛騎士に任命されたので飛び級して編入してきたと紹介されたので、私も自己紹介した。
なんというか、大体の人が興味津々にしている。女性騎士って珍しいし、15歳で正騎士になる人は更に珍しいからかな。ま、ニコール様の敵にならなければなんでもいい。ニコール様の交友関係は既に聞いて把握済なので、後で挨拶しなきゃね。
私の席はニコール様の後ろ。ニコール様の隣にはジョナサン殿下。その周りをイザイア様やバーソロミュー様を初め、ソフィアお姉様やルサルカお姉様、取り巻きが取り囲む防衛陣が出来上がっている。
これはジョナサン殿下がそうして欲しいとお願いしたらしい。殿下は身を守る気満々だ。
ふと思いついて教室を眺めると、第1皇子殿下を見つけた。第1皇子殿下の周りには、婚約者で隣国花の国から留学してきた王女殿下、その護衛騎士、第1騎士団長のご子息、魔術師団団長のご子息でイザイア様のいとこ、法務大臣の子息、教会の大司教の孫、ニコール様の兄上と、こちらも鉄壁の布陣。
権威関係では圧倒的に第1皇子殿下が上だなぁ。ジョナサン殿下の周りは、仲良しグループで固めてる感じで、その辺ジョナサン殿下は興味ないのか。もしくは兄君に忖度して、その気はありませんよアピールしてるのか。
うーん、ニコール様の進退にも関わることだし、そのうち確認しとこ。
今日のところは入学式とオリエンテーションで午前中で終わりだ。何もなければこれで帰れる。
本来ならニコール様を送迎するべきなんだけど、それは必要ないと言われた。毎日朝夕ジョナサン殿下が、ガッチリ騎士で固めて送迎しているらしい。ジョナサン殿下の防衛にかける情熱は一体どこから……。
なので私がお守りするのは、基本学園がある日の日中だけだ。
「シヴィル、この後時間はあるかしら?」
後ろを振り返ったニコール様に問いかけられて、時間はあると答える。
「それなら、これから一緒にサロンへ行かない?」
「お供致します」
「やだ、違うのよ。みんなにあなたのことを紹介したいの」
サロンは予約制の談話室で、ジョナサン殿下が3年間借り切っている部屋があることは聞いている。
そのサロンに寄りたいからかと思ったが、まさか私のためとは。
「よろしいのですか?」
「当たり前じゃないの。せっかくだもの、あなたにもお友達を作って欲しいわ」
「ニコール様……」
え、天使?天使がいるよ?
私はただの護衛で、しかもニコール様の意思ガン無視して皇帝陛下がゴリ押しした護衛だよ。それなのに、こんなに気遣ってくれるなんて!
感激のあまり泣きそうだよ。
「はい、ありがとうございます。お言葉に甘えさせて頂きます」
「もう、硬いったら。私もあなたとお友達になりたいのよ。もっと気楽にしてちょうだいね」
「はいっ」
笑顔で返事をすると、ニコール様もニッコリ笑ってから前になおった。その後ろ姿を眺めながらポツリと「ニコール様マジ天使」と呟いたら、視界の隅でジョナサン殿下が、何度も深く頷いていた。
ニコール様にお誘いを受けて、ぞろぞろとサロンへ向かっていたところ、後ろから声をかけられた。
「騎士ホワイト殿!」
「はい。セラドン伯爵令息」
「おお!俺の事知ってるのか!」
「ええ、もちろん」
そりゃもうクラス全員覚えたよ。しかもセラドン伯爵令息は第1皇子殿下の取り巻きの、第1騎士団長のご子息だからね。
黄緑の短髪で、かなりの長身で、がっしりした体つき。流石に鍛えてるね、いい筋肉してる。
「年下の女性で正騎士になった子がいるなんて驚きだ。今から手合わせしてくれるか?」
「申し訳ありませんが、これから用がございまして。また日を改めてお相手させて下さいますか?」
「あ、そうか。引き止めてごめん!じゃあまた今度頼むな!」
「ええ」
笑顔で去っていくセラドン伯爵令息。うーん、爽やかだなーと思いながら見送っていると、ルサルカお姉様達は心配そうだ。
「シヴィル、その、大丈夫なの?」
「何がですか?」
「だって、手合わせなんて……」
あぁ、心配してくれてるのね。普通のお嬢様は戦いなんか怖いだろうしなぁ。
「大丈夫ですよ。騎士の嗜みのようなものですから」
「嗜み?」
「強い騎士がいると聞いたら、確かめずにはいられないのですよ。領地でも散々挑まれましたわ」
「そういうものなの?」
「ええ。それに見る限り、セラドン伯爵令息は、とても騎士らしいお方ですわね。朗らかで爽やかなお方でしょうから、きっと楽しく手合わせして頂けますわ」
「そう?それならいいのだけど」
「心配無用ですわ。絶対、私が勝ちますから」
「もう、シヴィルったら!」
私とルサルカお姉様の話を聞いていた人達もクスクス笑った。勝てばいいのよ、勝てば。




