4-1 入学式
新品の制服に袖を通す。黒いセーラーに赤いスカーフ、黒のロングプリーツスカート。全身真っ黒で喪服みたいで笑える。
樹里は「スケバン!」と言って爆笑している。スケバンてなに?
だいぶ後になって知ることになるのだけど、この制服はジョナサン殿下が考案したらしい。この制服を着た女には、絶対目移りしない自信があったとかなんとか。よくわからないけど、ニコール様は別腹だそうだ。
閑話休題。
新品の制服に袖を通して、大きめの馬車で学園に通うのは、ソフィアお姉様、ルサルカお姉様、私、そしてトーマスだ。トーマスはピカピカの1年生だね。
私はというと、護衛の都合で2年生に編入だ。皇帝陛下の命令でゴリ押し──も、不可能ではなかったはずだけど、学園から試験を受けてくれと言われた。
皇帝陛下の命令と言えど、飛び級で編入できる学力が私にない、となったら、不満を持つ人は必ず現れるし、学園の対応にも限界があるから。
入試がある事は予め聞いていたので、準備期間や移動中も、ずっと勉強してたよ。
試験にはちゃんと合格したし、学園も納得の点数を取れた。2問しか間違えなかったんだから。エッヘン!
ていうか、大奥様の教育がスパルタだったのが、ここに来て発覚した……。
というわけで、私も学園生活が始まる。ドキドキするけど、ワクワクもしてる。ソフィアお姉様とルサルカお姉様もいるから安心だし。
「シヴィル姉様は、楽しそうですね?」
隣のトーマスはつまらなそうだ。
「トーマスは学園が楽しみではないの?」
「あまり。僕は学園の存在意義に、多少疑問がありますから」
「そうなの?」
「ええ、僕の役目は次期辺境伯。交友よりも領地経営と防衛に力を入れるべきですから、正直時間の無駄です」
「はっきり言うわねぇ……」
もー、斜に構えちゃって。思春期なんだからー。
「でもほら、婚約者のセシリア様とも、毎日会えるわよ」
「……別に」
あらあら憮然として。照れてるのか、それとも実は婚約が不服なのかな?
「セシリア様のこと、気に入らないの?」
「そういうわけではありませんよ」
「なら仲良くするべきよ。私なんか振られたのに、これから毎日イザイア様と顔を合わせるのよ」
「なるべく喧嘩はやめてくださいね?」
「あちらの出方次第よ。トーマスもそうなりたくなければ、ちゃんと仲良くするのよ」
「……わかりました」
3人とも気まずそうな顔をしているけど、私が一番気まずいっての。とりあえず喧嘩売らないようにだけ気をつける。後は流れに任せよう。もしかしたら友達に戻れるかもしれないし。
そうこうしていると学園に到着した。黒い石材の学舎はとても大きくて、敷地も広い。
私は3人と別れて職員室へ。3人は入学式があるので講堂に向かった。
職員室で校則やら教えてもらい、学園のスケジュールや学生名簿、地図を貰う。これは護衛の為だ。
「では騎士シヴィル様、ニコール・シルバリー公爵令嬢の護衛をお願いします」
「承りました」
ふと、クラス担任の先生──40代くらいの赤毛のおばさんでマゼンタ先生──が、優しく微笑んだ。
「あなたも学園生として、学園生活を楽しんでね」
「はい!」
先生としての言葉だ。私は嬉しくなって、笑顔で頷いた。
その後は講堂へ移動。入学式の席は決まっているので、その席を目指す。話には聞いていたけど、銀色の頭が見えるとドキドキしてきた。
私が席の前に来ると、気付いたニコール様が、顔を上げて微笑んだ。
銀色の髪と緑色の瞳、勝ち気そうなつり目と華やかな美貌。本当に何回みても見応えのある美女。
「シヴィル、待っていたわ」
「お待たせ致しました。本日よりニコール様の護衛に着任しました、シヴィル・ホワイトでございます。よろしくお願いします」
「こちらこそ。さぁ、おかけになって」
「失礼いたします」
ニコール様は公爵令嬢で、次期皇子妃だ。緊張する!いや、騎士としての正式な挨拶は、もう昨日で済ませてるんだけどね。やっぱり今日からだからね。
私がガチガチだからか、ニコール様は苦笑いだ。
「そんなに固くならないで。まずは仲良くなれたら嬉しいわ」
「あ、ありがとうございます」
「シヴィルの事も色々知りたいわ。その剣、とても綺麗ね?」
私は護衛なので、常時帯剣を許可されている。携えているのはもちろん、私を守って亡くなった騎士ライアン様の遺品だ。
「ありがとうございます。大切な方から頂いたものですから、そう仰って頂けると嬉しいです」
「ふーん、大切な方ってどうせ男だろ?」
聞き覚えのある声が、刺々しく届いた。相手はニコール様の向こう側に座るイザイア様だ。イザイア様の隣のジョナサン殿下が、イザイア様を小突いているが、彼は知らんぷりしている。
「そうですが、それが何か?」
「別に?」
こっちを見もせず、吐き捨てるように言われる。ムカつくわ。
「この剣は、魔物との戦いで、私を庇って亡くなった騎士の遺品です。あなたに侮辱される謂れはありません」
「僕がいつ侮辱したの?被害妄想やめてよね」
確かに何も言ってないけど、雰囲気が侮辱してんのよ!
本当に腹が立つと思って睨んでいると、ジョナサン殿下に溜息交じりに言われた。
「ニコールを挟んで喧嘩するな。お前らそれでも護衛か?」
言われてハッとして、慌てて頭を下げた。ジョナサン殿下の目は、私を叱る時の大奥様と同じ目をしている。これは反論したらダメなやつだ!
「ニコール様、ジョナサン殿下、申し訳ございません!」
「すいません」
「……せめて人のいない所でやれ。……はぁ」
ジョナサン殿下には溜息つかれるし、ニコール様には苦笑いされた。
もー!イザイア様が絡むから!
お互い思ったことは同じだったのか、睨み合って、ふんっとそっぽを向いた。
そっぽを向いていたので、頭を抱える殿下をバーソロミュー様が肩を叩いて励ましていたことには気づかなかった。




