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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第2章 少女期-未成年―

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2-30 冬の定期討伐 2

 下草と木の葉を踏む音すらも耳につく。そのくらいシンとしていて、緊張感が漂う。騎士達はグループ毎に別れて森に入り、私とザック様は中央グループの最後尾を歩いている。


 しばらく歩いていると、前方で騎士が止まって、何やら魔物と闘っているようだ。気配は強くないので、弱い魔物だろう。当然戦い慣れている騎士達はそれを難なく倒し、そう時間を置かず歩き出す。

 戦いは何度も繰り返され、そして森の奥に進むにつれて魔物の脅威度が徐々に上昇していく。それに比例して戦闘時間が伸びていき、最初は戦いに参加していなかった魔術師の魔法が不可欠になっていく。



 森林虎に牽制で斬りかかっていた騎士が退くと、すかさず弓と魔法が飛んだ。2本の弓が胴体に突き立ち、火球が虎の顔を焼く。その隙を見逃さず、再度前衛が躍り出て、視界を奪われて暴れまわる森林虎に斬りかかる。しかし、あまりにも暴れまわるので、近づいた一人の騎士が森林虎の爪で引き裂かれた。


「シヴィル!」

「はい!」


 返事をして飛び出し、すぐさま倒れた騎士に駆け寄って担ぎ、即座に後退。後退しながら治癒をかけると、チェーンメイルごと切り裂かれた胸部は元通りになり、破れたチェーンメイルだけが傷跡を残していた。

 その間はほんの数秒。その数秒を稼いでくれた前衛の騎士に、私が治癒した騎士も加わる。それでもやはり大暴れする森林虎に近づくことが出来ない。ならばと距離を取っても、弓や魔法では決定打にかけるようだった。森林虎は5mを超える巨体で、並みの騎士や魔法使いでは歯が立たないAランクの魔物だ。それでもこの領地の第3は精強で、ここまでのダメージを与えられるのは彼らくらいだ。だと言うのに、怪我人は増える一方。私が治癒に協力する機会も上昇し、更には奥から毒駝鳥の群れまで現れた。


「撤退しろ!」


 流石にこの状況は不味い。すぐにザック様は撤退を指示する。騎士達は全力で駆ける。でも体を鍛えていない魔術師は遅れがちで、私は並走して疲労を消して走る。森林虎はダメージもあってか追いつけなさそうだが、毒駝鳥は毒のある大きなダチョウで、この魔物の最大の脅威は毒ではなく、時速100㎞を超えると言われるスピードだ。最後尾にいた私と魔術師は、あっという間に追いつかれた。だから私は反転して、愛剣を抜いて地面を蹴った。


「聖女様!」

「行ってください!」


 魔術師が足を止めて振り返るけれど、貴重な魔術師を失うわけにはいかないのだ。魔術師はその場を動く気配がない。早く逃げて欲しいから、苛立ちを覚える。だけどそんなことなど関係ない毒駝鳥の群れは、すぐさま私に飛びかかり――着地した瞬間、一斉に首を落として、ドサドサと地面に滑り落ちた。

 ひゅんと剣を振って、血糊を落とす。サフィナお義姉様に教わった剣、剣鞭術というそうだ。鞭のように剣を振るう技術。柔らかく強かに振るわれる剣は、その一閃が細く鋭く研ぎ澄まされて、並みの相手では斬られた事にも気づかず絶命する。

 遅れて到着した毒駝鳥も一刀両断し、匂いを辿ったのか更に遅れてやってきた森林虎も、突きを放って頭を吹き飛ばした。


「……ふぅ。大丈夫ですか?」


 

 振り返ると、魔術師は地面に尻もちをついて座り込んでいた。怪我をしたのかと思って診察をするが、どこにも異常がない。それでも立てない様子だ。


「す、すまない。腰が抜けて……」

「まぁ。それでは失礼いたしますわね」

「うわぁ!」


 立てないなら仕方がない。私はヨッコイショと魔術師を抱きかかえた。そのままザック様達に追いつく。毒駝鳥と森林虎は倒したと報告すると、騎士達は一様に胸をなでおろしていた。そして、私がお姫様抱っこする魔術師のおじさんに憐憫の目を向ける。


「慣れてくれ。この子はいつもこうなんだ」

「その、なんだ。気持ちはわかる」

「慰めないでくれ! 余計辛い!」


 私の腕の中で、いい歳をしたおじさんが顔を覆ってむせび泣いていた。




 この日の討伐はこれで切り上げて、森を出た。私達が最後だったようで、他のチームは既に森を離れていた。ザック様は無理をするなと言っていたし、いい所で切り上げたのだろう。勿論狩人も慣れているので、引き際を誤ったりはせず、むしろ騎士より先に森を出ていたようだ。それを見て怠けているなんて誰も思わない。命大事に。これ大切。


 砦に戻って各チームの報告をした。ちょっと懸念があったのだけれど、案の定狩人チームからウチのチームに不服そうな声が上がった。毒駝鳥と森林虎は、強さも相まって金になるのだ。何故持ち帰らなかったのかが不満なのだ。

 その気持ちすごくわかるわ。私だって勿体ないと思うもの。森林虎と毒駝鳥8羽。羽毛や毒袋、牙や毛皮、肉なんかを換算して、ざっと500万近い利益が出る。今から森に戻って取ってこようかなと、本気で思うくらいには惜しい。


 しかしながら、騎士団の目的は討伐であって狩猟じゃない。この辺りの目的の相違で、狩猟組合とは微妙に仲が悪いんだよね。勿論、帰り道で食肉になりそうな魔物はゲットしたけれど、その程度。狩人が狩った魔物に関しては、彼らで如何様にもしていただいて構わないのだけれど、危険を冒してまで素材を持って帰る理由が騎士団にはないのだ。彼らが後日森林虎や毒駝鳥を森から回収する分には文句はないと思うけれどね。多分。


 この調子で私達は森に入って、ある程度討伐して砦に戻るというのを、数日繰り返していた。手前のエリアの魔物を減らしすぎると、奥の強い魔物が手前に出てきてしまうので、なるべく弱い魔物は殺さず、強い魔物を倒す必要がある。中々シビアな日々だ。


 討伐に参加して1週間が過ぎた頃、夕食のシチューを味わっていたら、同じくシチューの入った皿を持ったルパートが、私の隣に腰かけた。私は驚いてルパートを見ると、少し居心地が悪そうにしている。せっかく勇気を出して傍に来てくれたのに、変に突っ込んだらへそを曲げそうだ。ここはあまり突っ込まないでおこう。


「ルパート、お疲れ様ね」

「……貴女の方が余程疲れているだろう」

「大丈夫よ。ありがとう」


 私が既に最前線に出るようになったことなんか、ルパートだけじゃなくて全員知っている。だから労ってくれるのだろう。しばらく森での戦闘の事を聞かれて、それに答えながら、本題が出てくるのを待つ。

 話しながらシチューを食べ終えた頃に、ルパートも空になった皿を横に置いた。それを見て私も皿を置く。


「教えて欲しい、ことが、あって……」

「何かしら?」

「その……」


 余程聞きにくい事なのか、ルパートは中々口を開かない。火に照らされた瞳は、ろうそくの炎みたいにユラユラ揺れている。それでも意を決したように、やっぱり俯き加減で口を開いた。


「その……女性は、どういうプレゼントを貰ったら、嬉しいのだろうか?」


 まさかのジェニファーへの贈り物の相談! よくよく考えたら、身近に相談できそうな女性は私しかいないのだ。今までずっと避けていたのに、これまでの恥をかき捨てて私に聞くくらい、ルパートはジェニファーに喜んで欲しいのだと解釈した。 

 私は茶化したい気持ちを抑えて、勿論茶化したりはせず、真剣に考えた。


「そうね……ジェニファーが欲しいものが一番だけれど、それがわからないのであれば、ルパートと揃いのものとか……ジェニファーは華美なものは好まないので、シンプルで、それでいて可愛らしいものがいいかもしれないわ」

「……例えば?」

「揃いのものなら、リボンとクラバットを同じデザインで揃えたり。彼女は聖女見習いだから、魔力補助の魔道具の指輪なんかも、実用を兼ねたアクセサリーとして、良いかもしれないわね」

「なるほど……」


 アドバイスを聞いて、ルパートも真剣に考え込む。ルパートは実家が大金持ちなので、なんでも揃えることが出来るはずだ。後は気持ち次第だね。ちゃんと悩んで考えた物なら、きっとどんなものでもジェニファーは喜ぶだろう。


「喜んでくれるといいわね」

「……そうだな。ありがとう」


 初めてルパートは、私の眼を見てお礼を言ってくれた。それが嬉しくて、つい顔が綻んだ。


「きっとルパートの想いは伝わるわ。応援しているから、頑張って」

「……」


 応援したというのに、何故かルパートは俯く。不思議に思って覗き込むと「どうして」とルパートが呟いた。


「え?」

「あの日から、最初から、貴女は僕を応援していただろう? 少し前まで揉めていたのに、何故だ?」


 超絶大喧嘩した相手に、恋を応援されるのが不思議で仕方がなかったようだ。確かに普通なら振られろとでも思うだろう。これには当然打算がある。弱みを握って、ルパートが悪評をジェニファーに語られたくなかったら、真面目に働くだろうと考えたのだ。この子はプライドだけは一丁前だからねぇ。でも、そんなことを正直には言えないので、別の理由を告げた。


「ジェニファーは、自分が落ちこぼれだって言っていたの。それでも健気に頑張っている子。あなたも知っているでしょう?」

「あぁ」

「ジェニファーみたいな子を見ていたら、ルパートは変わらずにはいられないと思ったのよ」


 ルパートは小さく苦笑した。


「そうだな。彼女を見ていると、自分が恥ずかしくなった。彼女に恥じない自分になりたくなったんだ」

「ふふ。そうなると思ったの。それが理由」

「……前から思っていたが、改めて貴女は嫌な女だな?」

「あら、今頃気が付いたの?」


 悪戯っぽく笑って見せると、ルパートは苦々しい顔をして、やがて呆れ笑いした。そして、真剣な顔をして私を見た。


「今まで言えなかったけど、言わせてほしい。僕のこれまでの態度を謝罪する。僕は間違っていた。彼女に出会って、討伐に参加して改めて気付かされた。詰め所なら平民にやらせても良いかもしれない。だが、戦場に小間使いなんて連れてくるわけにはいかない。僕達がやらなければならないんだ。どんな小さな役割でも、雑用でも前線には必要な技術なのだと理解した。洗濯だって、皿洗いだって……例え、小さな傷しか治せない聖女だって、僕には必要なように――」


 ルパートの言葉を聞きながら、私は溢れそうになる涙を必死にこらえて、どうにか笑みを繕った。謝ってくれて、理解してくれて、成長したことを教えてくれたことに、たまらない感動を覚えたのだ。だけど泣くなんて恥ずかしいから、どうにかこうにか押し込めて、微笑み返した。


「そうね。無駄な事なんか、何もないわ」

「そうだな」



 ようやく和解に漕ぎつけた私達は、ルパートが先輩騎士から呼ばれるまで、これまでの時間を埋めるように、訓練の事や魔物のことなど、沢山の事を語り合った。

 寒く冷たさが厳しい季節だけれど、今夜は温かな良い夜だった。

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