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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第2章 少女期-未成年―

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2-20 騎士団入団試験 4

 午後からの実戦は剣、槍、斧、弓の順で、剣と槍、斧は丸太に斬りかかり、弓は射撃だった。剣と弓は問題ないけれど、普段槍を使わないので、槍には少し苦労するかもしれない。基本的な使い方くらいしか知らないけれど、できるだけのことをしよう。



 地面に立てられた丸太に打ち込むというもの。動かない丸太だけれど、なるべく魔物を想定して打ち込むようにとのことだ。私は17番なので、5本並んだ内の4本目の丸太の4列目に並んで待つ。待っている間は当然受験生の観察だ。


 普通は、貴族やその従士、猟師や傭兵でもない限り、子どもの内から武術を学ぶ人はいない。そんな環境ではないからだ。だからほとんどの平民、自由市民らしき人は剣筋もおぼつかず、木剣に振り回されている人も珍しくない。大半が10歳~15歳くらいの少年なので、今できなくても入団後訓練すればそれなりにはなるのだろう。


 反して、貴族出身なんかの戦闘経験、実戦経験がある人は、危なげなく剣を振るっている。ウサギの獣人さんは剣筋が綺麗だし、丸太も傷だらけだ。あの人は大人みたいだし、もしかしたら傭兵か他領で騎士をしていた人かも。鹿の獣人さんも戦い慣れている感がある。鹿の獣人さんはまだ若者だから、私みたいな狩人かもしれない。

 何人かが私をチラッと見て丸太に斬りかかっていく。まだ私の順番じゃないのだけれど、既にライバル認定されたのだろうか。その人は思い切り丸太に木剣を叩きつけて、手が痺れたようだった。下手くそめ。


 やっと私の順番が回ってきた。渡された木剣をぎゅっと握り、丸太に向かって構える。さて、何の魔物でシミュレーションしようか。サイズからしてオークかな。それとも灰銀狐にしようか。少し考えて、体高1mくらいある灰銀狐の想定で行くことに決めた。

 

 素早い狐の動作に追いつけるよう、姿勢を低くして走り出す。灰銀狐が口から吹いた火をスライディングするように躱し、右に逃げようとする狐の退路を断つように僅かに体を右に傾けると、それに引っ掛かった灰銀狐は左に跳ねる。それを見計らって、一気に灰銀狐の左目に突きを放った。


 というイメトレをして放たれた突きは、丸太のちょうど私の肩くらいの高さ位置を貫通していた。うん、上出来。

 自分でも満足していると、木剣を回収しに来た試験官が、木剣と丸太を見比べた後、私に尋ねた。


「先程の動きは?」

「灰銀狐を斬ることをイメージしました。毛皮が高く売れるので、毛皮は傷つけないよう目玉と脳を潰しました」

「なるほど」


 普通に走って斬りかかる他の受験生と違って、私の動きは不思議だったようだ。先ほどのシミュレーション内容も説明していると、試験官は納得したようで木剣を回収していった。



 次は槍の試験だ。また順番に並ぶ。

 槍はイノシシ・熊・牛系魔物相手に有利な武器で、対人なら払いや打撃も有効だけれど、狩りにおいては刺突がメインだ。パワー系の魔物に非力な人間が相対する時は持って構えているだけでいい。でもウチの家系はパワーに優れているので、今まであまり使ってこなかったのだ。平原での狩りなら剣より重宝すると思うけれど、私は魔の森でしか狩りをしたことがなかったから、ほとんど実戦で使ったことがない。

 でも一応扱い方くらいは教わっているので、またシミュレーションしながらやってみよう。


 私がしっかりシミュレーションして剣の試合に臨んでいたからか、以降は他の受験生もその辺を意識した立ち回りを真似するようになっていた。一際目を引いたのが鹿の獣人さんで、低く構えてダッシュした後高く跳躍し、天辺から丸太に槍を突きさしていた。体重も乗せてしっかりした攻撃だ。すごく参考になる。思わず感嘆の声を上げながら待っていると、私の順番が回ってきた。


 ここはセオリー通り、月光熊相手でシミュレーションしてみよう。月光熊は体格がとても大きくて、牙も爪も鋭く、とにかくパワーがある厄介な相手だ。散々苦戦させられたのを思い出しながら、槍を構える。

 咆哮を上げた月光熊がこちらに突進してくる。飛びかかってきた月光熊の前足を槍で払いながら右に飛び退り、すれ違いざまに横腹に槍を突き刺す。

 

 現実はこんなにうまくいかないだろうなぁと思いながらも、またもや貫通した丸太から槍を引き抜いて試験官に渡した。またシミュレーション内容を聞かれたので、それも答えておいた。



 今度は斧。斧は剣のメンテナンス中に私も時々使っていた。見た目に反して斧は使い勝手がいい。基本的に振り下ろすという単純な動作だからというのもあるけれど、剣より強い打撃と斬撃を一辺に与えられるからだ。亀系、甲虫系とかの外皮が硬い魔物にピッタリの武器。

 飛行して来た毒クワガタのハサミを掴んで振り回し木に叩きつけ、すかさず斧を振るうイメージで叩いた。丸太は真っ二つになった。木斧なのに……。


 最後は弓。弓は剣と同じくらい慣れ親しんだ武器だ。とはいえ、弓の飛距離は大したことがなく、ゆえに貫通力もそんなに高くない。主に捉えにくい角兎なんかを隠れて射撃するのに使っていた。

 弓の試験は的に射るだけなので、イメトレもくそもない。とはいえ、弓の技術は当てるだけじゃなくて、連続発射も大事な要素。祖父が言うには、平均して1分で30射くらいが普通のようで、渡された5本なら10秒くらい。それを私は倍速で全部真ん中に当てて、さっさと矢を回収して試験官に渡した。



 すべての試験が終わって休憩した後、ズラリと並ぶ試験官の前に、受験生が集められる。例によって男性に囲まれたくない私は端っこにいた。


 いよいよ合格発表だ。


 合格基準は実は明確じゃなくて、総合評価でも科目評価でも決まる。例えば実戦で高い評価を貰えれば魔法は使えなくてもいい。私はこれを狙っている。逆に体力だけとか、生活魔法だけでも図抜けていたら採用される。特に生活魔法や魔術は、努力だけじゃどうにもならない部分があるから、そういう人は他がダメでも採用されるだろう。

 勿論、突出したものがなくても、総合評価が高ければ採用される。基本的には総合評価での判断で、各試験20点ずつ割り振られて合計100点。最良、良、普通、低、最低で評価が分かれて、それぞれ20,15,10,5,0で点数がつけられる。ボーダーは受験生の平均点なので毎回変動するけれど、大体半数は受かる計算なので、案外緩いのだ。その分訓練は厳しいものになるのだろうけれど。


 受験生が緊張の面持ちで沈黙する中、バレンタイン団長が紙を広げて読み始める。


「合格者を得点順に発表する。先ずは1位、80点。シヴィル・ホワイト!」

「はい!」


 やった1位だ! 80点ということは、生活魔法以外では満点だったということね。やったぁ嬉しい! 今まで頑張ってきて良かった!

 喜んでいる間にも次々に合格者が呼ばれていく。呼ばれた人は試験官の前に来るように言われて、呼ばれなかった人はそのまま帰宅を許された。帰っていく人の中には、私にヒソヒソ言っていた人達もいた。泣いている人もいた。次の試験は頑張って。


 合格者は私を含め12名だった。周りを見ると、茶髪の少年、黒い尻尾の少年、鹿の獣人さん、ウサギの獣人さんもいた。貴族もいて、服装などから判断するに割合は半々くらいだ。


 これから制服の採寸をして、寮住まいを希望する合格者は部屋の鍵を渡すそう。入団のオリエンテーションは明後日なので、また明後日詰め所にくること。制服が出来るのは1週間前後で、完成したら寮の部屋に送るようだ。私の制服? 受かると思ってたから、もうあるよ。


 説明が終わると解散になり、私は一目散に祖父達の待つ観客席に駆けていった。階段を上るのがもどかしくて、壁をジャンプして観客席に飛び乗った。それにルサルカお姉様が目を丸くして声を上げた。


「まぁ、シヴィルったら! はしたなくってよ!」

「ごめんなさい! でも嬉しくて!」

「あらあら。おめでとう」

「シヴィル、おめでとう!」

「ははは。お嬢、おめでとうごぜぇます」

「ありがとう!」


 ルサルカお姉様には怒られたけれど、ユージェニー様、ジャスティン、祖父には祝福してもらえた。本当に嬉しい。騎士になることは人生の目標というわけではなかったけれど、やっぱり合格すると嬉しい。


 これで私も騎士小姓だ。小姓の内は大したことは出来ないと思うけれど、きっと従騎士になったら手柄を立てて、結婚させるにはもったいないと父に思わせてやるのだ。なおかつ大活躍して、トバイアスお兄様が言っていたように「アレを嫁にするのはちょっと」と周りに思わせるのだ! 何なら手柄を立てて一目置かれたい。



 とはいえ、同期がどんな人たちかもわからないし、男だらけ数百名の所に行くのは、ちょっと心細い……。いや、その辺はサフィナお義姉様にアドバイスを貰えば大丈夫。


 よーし! 頑張るぞ!



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