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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第2章 少女期-未成年―

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2-18 騎士団入団試験 2


 結論から言うと、筆記試験は楽勝だった。簡単な計算と、地理と歴史、法律問題もあったけれど、これは奥様からの教育で充分にカバーできる内容だった。事務仕事なら四則演算が出来れば十分だしね。稼ぎどころは有名なモンスター、例えばゴブリンやスケルトンなどの特徴を述べろという問題。子どもの頃から祖父に習っていたことだから、思いつく限りのモンスターの特徴を書き連ねてやった。

 回答欄もずれていないのは何度も確認したし、ポカがなければ全問正解していると思う。確かな手ごたえを感じながら、私達受験生は少しの休憩を挟んで、試験官の案内で訓練場に移動した。



 訓練場は陸上競技場くらいの広さがある、だだっ広い場所だ。ここでいつもは騎士達が訓練しているが、今日は試験の日なのでお休みのようだ。試合なども行うためか、コロシアムのように観客席も多少はある。そこから心配そうに見ている祖父と、面白半分でついてきたらしいジャスティンとルサルカお姉様、ユージェニー様を見つけて手を振ると、4人も手を振り返してくれた。


 まずは生活魔法実技。私はサクッと生活魔法は使えないと告げて棄権。足掻いても使えないものは使えないので、切り替えて受験生の様子を観察することにした。

 私を含め生活魔法が使えない受験生は10名いないくらい。数人は私と同様に試験会場を見学し、残りは実戦に望むべくか、体を動かしていた。過半数の人は生活魔法を使えるみたいで、水の球を出したり、小さな風を起こしている。


 その一部でどよめきが起きた。注目を浴びているのは、茶髪の細身の少年だ。遠目からは彼が何をしているのかは、さっぱりわからない。だけど、試験官が満足げに頷いて言った。


「周囲の気温の調整に虫よけ、温水に収納まで。これは素晴らしい」


 試験官の言葉を聞いて、他の受験生もわぁっと驚きの声を上げる。称賛を受けた茶髪の少年は、照れたようにはにかみながら、ペコリと試験官に頭を下げた。態度もすごく謙虚だし、彼は正しく旅の魔術師だ。生活魔法のトップは茶髪の少年だろう。



 続いて、魔術実技だ。私は生活魔法が使えないくらいなので、実戦向けの魔術なんてとんでもない話だ。なので、ここでも棄権すべきなのだろうが、ここは家族からのアドバイスに従っておくことにした。


「17番、シヴィル・ホワイト。生活魔法で棄権しているなら、今回も棄権……」

「いいえ。出来れば参加させていただけますこと?」

「しかし……」


 生活魔法が使えない者が、魔術を使えるはずがない。困惑して当然の試験官に、私は首元に提げたネックレスを取り出して見せた。それを見た瞬間、試験官が顔色を変えた。


「私、こう見えて聖女ですの。聖女の能力も、評価基準になりますでしょうか?」

「っ、じょ、上官に相談してみる。少し待ちたまえ」

「はい」


 ちゃんと持ってきてよかった。聖女認定された後日、教会に行ったときに聖者聖女の証として、この虹水晶のペンダントを貰った。このペンダントは教会でしか作成することが出来ないもので、虹水晶自体の宝石の価値はそう高くはないけれど、水晶の中には琥珀のように神の印璽が刻印されているのだ。これは教会関係者の身分証明みたいなもので、司祭様や司教様達は指輪や杖などの形で、聖者聖女はペンダント。これを身に着けているだけで、一目で聖女とわかる優れモノだ。

 お行儀よく待っていると、先程の試験官が戻ってきて、上から許可を貰えたとのことだった。


「しかし、今日は訓練も休みで、都合よく怪我人もいなくてな」

「それなら問題ありませんわ」

「どうするんだ?」

「こう致します」


 ニッコリ笑って、私は自分の左手首を掴むと、一旦両腕を振り上げるようにして、突き上げた左膝に思い切り叩きつけた。

 ばきっと音を立てた腕が折れ曲がり、皮膚を突き破って出てきた。ちょっと折るだけのつもりだったのに、ウッカリ開放骨折してしまった。


「き、君! なんてことを!」

「ちょっとやりすぎましたわ……流石に痛いですわね。治します」


 開放骨折をするのは初めてではないし、治せるが痛いものは痛い。私より余程狼狽える試験官を尻目に、激痛を堪えながら骨の位置を戻し、骨を繋げ筋肉や血管、皮膚をくっつけて治癒した。

 綺麗に治ったので、痛みもない。折った左腕をプラプラしてみたり、右手で叩いて試験官の前に差し出した。


「完治しましたわ。いかがでしょう?」

「……見事だが、あまり無茶をしないように」

「慣れておりますので、大丈夫ですわ」


 無駄に驚かせたのは申し訳ないが、これで私も魔術実技で点数を稼げたはずだ。やったね。

 安堵して一息つくと、周囲が私に注目していることに気が付いた。


「マジか……聖女?」

「いや、ていうか普通、腕折るか?」

「どうかしてるぜ……」

「可愛いけど、あれはナイわー」


 わぁ、引かれている。初めて訓練に参加した時のジャスティンみたいな目をしてこちらを見ている。なによなによ。可愛いと思うなら、そのまま可愛がってちょうだいよ。なんで皆引くかな。怪我人が居なかったんだから仕方がないじゃない。


 そういえば、先程の茶髪の少年は魔術実技に参加しているだろうか。周りを窺うと、その少年も参加していたようだ。けれど、生活魔法ほど魔術は操れないようで、風を起こす程度に留めていた。

 やはり生活魔法と魔術は全然違うのね、どちらも使えないからわからないけれど。などと考えていたら、別方向からわぁっと声が上がった。


 その方向に顔を向けたら、大きな土の壁が出来ていた。その手前に見た目は黒髪の人間と変わらないけれど、長い尻尾の生えた、少し猫背の少年がいた。


「自分は、土魔法しかできないので」

「いや、見事だ。これほどの壁を作れるなら、即戦力だろう」

「ありがとうございます」


 黒い尻尾の少年は、ボソボソ言うと頭を下げて、すぐに下がってしまった。それを見送っていると、周りからコソコソと話す声が聞こえた。


「あれ、獣人とのハーフか?」

「そうみたいだな。ハーフなんて生まれにくいのに、珍しいな」


 へぇ、やっぱり珍しいんだ。ゾンもハーフエルフだったけど、ハーフはあの村にはゾンしかいなかったし、やっぱりハーフは出来にくいんだなぁ。

 それにしても、あれだけ魔法を使えるなら魔術師団でもいいと思うけれど、なぜ彼は第3騎士団を志望したんだろう? 何か事情があるのかな?

 とはいえ、魔術実技のトップは黒い尻尾の少年だろう。私は魔法を使えないから、魔法を使える彼が羨ましい。


 そうこうしていると、体力測定の試験になった。まずはランニング。この訓練場の外周――およそ1km――を5周走り、早い順から高い点数が付く。よーし、ここからが本番だ! 気合入れてこ!





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