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その聖女、ゴリラにつき  作者: 時任雪緒
第2章 少女期-未成年―

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2-4 教会

 教会にやってきた。領都ストルファの教会は、白亜の神殿という言葉がピッタリだった。模様の彫られた白い石柱が何本も立って、4mを超えそうな高い天井を支えていた。

 アズメラ神や、アズメラ神の妻と言われる花の神の宗教画、神代戦争の宗教画、神獣と言われる土竜亀の彫像……これツチノコじゃない? こっちの世界でもUMAなのか。

 やはり都会の神殿だけあって、田舎の教会とは規模が違った。王都の総本山なんか、これよりもっと壮観なのだろう。

 

 辺境伯と執事のセバスチャン、祖父も随行して教会に来たのは、私の戸籍登録と聖女認定の儀式のためだ。


 戸籍の登録は基本10歳式で行われる。出生時に行われないのは、スキル授与で10歳でも来なきゃいけないから二度手間なのと、新生児・乳幼児死亡率が高いせいだ。だから10歳式ついでに戸籍の登録を行う。

 鑑定で見ると、私はゴリンデルでもホワイトでも表示されるのだけれど、公式にはゴリンデルなので、教会の精霊眼持ちの人からはゴリンデルしか見えない。これが登録内容になる。

 だから、私みたいに嫡子として認定された庶子や、養子なんかは、戸籍の登録や養子縁組の手続きに教会に来るわけだ。

 戸籍の登録は窓口で助祭様が受付をしてくれて、サクッと終わった。




 続いて聖女認定の儀式。これは戸籍登録とは違って、準備があるので予約もいるし、簡単には終わらない。

 正直に言うと、私はこの儀式は楽しみにしていた。単純に大きな教会を見物できるというのもある。でも、それ以上に、私のスキルが看破出来ない以上、聖女として認定されないのではないかという目論見があったからだ。

 色々考えたけれど、聖女というのは貴族にとっては美味しい存在だ。教会とのコネもでき、人民からの支持も得られる。なんなら自宅で急病人が出たら、すぐに対処してもらえる。

 ただでさえ令嬢は政治のコマだけれど、これほど使い勝手のいいコマもないだろう。そして、そんなコマになるなど御免被るわ。

 それをこの儀式でご破算に出来るとなれば、私もウキウキしちゃうわ。



 案内役の司祭様に連れてこられたのは、神殿奥の斎場の一つ。アズメラ神の像があるのみで、過度な装飾はない真っ白な部屋だ。その部屋には7人のおじいちゃんが待ち構えている。白い服、赤い服、青い服。司教様、大司教様、枢機卿猊下。この儀式には高位の聖職者が立ち会うのだ。

 お仕着せのクリーム色のドレスの裾を蹴りながら、私は誘われるままに部屋の中心に歩みを進める。

 審理眼持ちの司祭様の前で、真偽の宣誓をし、精霊眼持ちの司教様が私に杖を掲げる。途端に司教様が訝しがる。


「この者には、治癒魔法の適性も、治癒スキルもございません」

「真なり」


 審理眼にも精霊眼にも判定されない。この時点で治癒能力などないと看破されたも同然。私は心の中でガッツポーズをした。

 しかし、大司教猊下が声を上げた。


「ワルト司祭の報告によれば、その者が魔法もスキルも使わず治癒したことは間違いないことです。さぁ、ワルト司祭」

「はい。間違いございません。この目で確認しました」


 ワルト司祭と呼ばれた司祭様には見覚えがある。ギデオンお兄様と一緒にお迎えに来た司祭様だ。ギデオンお兄様に言われて実施した騎士8人抜き試験の時も、きっとあの場にいたのだろう。くそう。


「真なり」


 審理眼持ちの司祭様が肯定したことで、その場がざわついた。あぁ本当に、敵に回すと審理眼・精霊眼は厄介だわ。

 以前も話したけれど、国教と定めるだけあり、国内では教会の権威は強い。概ねどの国も政府との結びつきは強く、中には教会の予言で政が左右される国すらある。


 この国に関しては、アズメラ教の関与は、聖女聖者などの高位治癒術師による治療、そして司法権である。

 アズメラ教の上層部はおおよそ世襲なのだが、教皇をはじめとするその血縁の第1スキルに「審理眼」が、枢機卿の血統には「精霊眼」が発現する。審理眼は物事の真贋を見抜く目とされており、うそ発見器としてはかなり高性能であり、精霊眼は他者の第1スキル偽装や変身すらも見破る。


 よって、事件が起きて容疑者が上がった時、その容疑者が有罪か無罪かを判定するのが教会の仕事の一つである。

 勿論刑罰を決めるのは国法であり、その裁量は各自治体の領主に委ねられているが、どんなに些細な裁判であっても、教会を必ず経由しなければならないのだ。


 この法を定めたのは100年ほど前の皇帝で、当時はまだ皇太子だった。のちに賢帝と呼ばれる偉大な皇帝だ。

 当時の法律では、より位階の高い人物の証言が優先された。つまり、貴族対平民なら貴族が、自由市民対奴隷なら自由市民が、平民対平民なら、多く賄賂を渡した者が優遇されていた。

 これを憂慮した皇太子が、教会へ介入を頼み込み、それが受理された。


 当然貴族の一部は猛反発したし、平民からも、審理眼・精霊眼を持った人物が賄賂に靡くような人物だった場合、教会自体を信用できなくなると難色を示す者がいた。

 そこで教会は教皇自らが、審理眼・精霊眼を持って生まれた者には、その目を正しく使えない者を死に至らしめる戒めをかけると宣言した。

 そしてその戒めは、当時の宮廷魔術師によって研究開発された呪術の一つで、その呪術は末端の助祭・修道女にまで広く学ばされ、裁判のたびにその呪術をかけなおされるという徹底ぶりだった。

 そうして信用を得た教会による罪状認否は、この100年の間、一度も冤罪を起こさなかったと言われている。


 これは被害者の立場としては僥倖であり、加害者には地獄の入り口だ。そして今の私の気分としては、自白を強要される犯罪者みたいな気分です。おうちにかえりたい。



「では、実証に移りなさい」


 私が何を言っても「偽なり」と言われるのはわかっているので、粛々と従う。ゲンナリとした私の前に、奴隷のような身なりをした青年が連れてこられた。その青年は上衣を着ておらず、背中には痛々しい傷跡があった。


「えっ、なんで……」

「この者を治癒して見せなさい」


 私の儀式当日に、偶然にも怪我人が出るなんて、そんなに都合のいいことはないはず。では、この青年はどうして怪我をして、ここに連れてこられたのか。

 それを問いただしたいのは山々だったが、それ以上に放置している事が出来ず、私はすぐさまその青年の傷を治癒した。


「あなた、どうしてこんな傷を?」

「お許しください」


 私は疑問を呈しただけなのに、その青年は私に平身低頭して許しを乞うた。何が起きているのか、さっぱりわからない。

 私が混乱している間に、赤い服を纏った大司教猊下が再び高らかに声を上げた。


「ご覧になりましたか、今の奇跡を! 魔法もスキルも使わず、まるで呼吸するがごとく傷を癒した! これぞまさに神の所業! 彼女こそ真の聖女です! 彼女、聖女シヴィルこそが、神に寵愛されし存在です!」


 大司教の口上に、「おぉっ」とどよめきが広がる。司祭様の一人が走って外に出た。枢機卿猊下と大司教猊下が高らかに神の恩恵を歌い上げている。

 お願いだから、そんなに盛り上がらないで。マジで本気でやめて。すごく迷惑!




 私の願いは神には聞き届けられなかった。翌日目出度く聖女認定の通知が来た。畜生。



 

 

背中を怪我した奴隷風の青年について。彼については本編で今後述べることはない(と思う)ので、こちらで述べます。


 聖女認定の儀式には予約が必要で、それは色々と準備が必要だからです。

 一つは高位聖職者のスケジュール調整、斎場の確保(普段から斎場は結婚式やら様々な儀式で使用されている)、そして怪我人か病人の用意です。


 教会では管理下にある聖女聖者による治療も行っています。この時に融通が利きそうな相手に、怪我人病人役をお願いします。

 試される聖女聖者の力が本物であれば、その人は治癒されます。神の恩恵を受けることになるため、犯罪を犯して拷問を受けている罪人などは選ばれません。つまり、役割をお願いするのは、善良な市民です。


 今回協力してくれたのは奴隷商です。奴隷商に入荷されたばかりの奴隷には、怪我や病を患っている奴隷も珍しくなく、こうして儀式や見習い聖女聖者の練習台、治験などに奴隷をレンタルしてくれます。これにはどちらにも金銭の授受はありません。完全なボランティアです。

 教会直営の治療院で練習台や儀式の役割などを募集することもありますが、市井の患者さん達は失敗されるのが怖いので、余程親切な人でないと中々受諾してくれません。中には信心深いとか、聖女聖者に恩があるとかで、何度も協力してくれる人もいますが少数派です。

 奴隷商の場合は、仮に術を失敗されたとしても、どの道治療院に連れて行くことに変わりはないので同じだし、成功したらその分の経費が浮くことになり、教会としても無償で人材を借りることができるので、この点で教会と奴隷商はwin-winの関係です。 



 シヴィルの儀式に連れてこられた奴隷の青年は、就労した時から雇い主に虐待に近い扱いを受けて育っており、人から施されても謝罪する、許しを乞うことが癖になってしまいました。

 シヴィルに怪我を治癒されて許しを乞うたのは、「自分が聖女様に癒していただくなど、自分の身に余る、許されない事なのではないか」と思ってしまったからです。

 雇い主は罪を犯し、財産を没収されるという罰を受けたため、奴隷の青年も雇い主から行政に没収されて、奴隷商に流通したところです。



 シヴィルも心配していましたが、儀式のためにわざわざ怪我を負わされた訳ではないので、その点はご安心を。

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― 新着の感想 ―
[一言] 聖女なのですから怪我人を目の前にしたら自分の置かれた状況など頭からすっ飛んでとにかく治療してしまいますよね、と言うかそう追い込んだ教会勢力が一枚上手。
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