1-10 7歳
稽古の内容に、打ち込みが加わった。剣も弓もだ。剣の打ち込みをする時は、庭の木にぶら下げられた丸太に木刀で打ち込む。
弓を使う時は、人のいない場所を選ばなければならないから、村の外れまで行って木に射っていた。
授業の後、雑談中にそれをイザイア様に話したら、後日「父様がウチの訓練場を使っていいと許可をくださったから、うちにおいで」と言ってくれたので、お言葉に甘えて利用させていただいている。
その内イザイア様が祖父の訓練を見たいと言い出して、準男爵様も許可したそうなので、祖父と一緒に訓練場に毎日顔を出すようになった。多分だけど、準男爵様も自分が訓練をつけるよりは祖父の方が良いと思ったんだろう。楽ができるし。
勿論、魔法が使えるイザイア様の、魔法の師匠は準男爵様なのだけれど、私とイザイア様は祖父を師匠と仰ぐ兄妹弟子のようになった。
私はまだ丸太に打ち込むだけなので、祖父と打ち合いをするイザイア様が羨ましくて仕方がない。
私も早く強くなって、祖父と模擬戦出来る様になりたいと、ガツンガツン打ち込む。私はいつも全力で打ち込むので、木剣も丸太も消耗が速い。
ばきっと音を立てて、木剣が割れた。
「あぁ、予備を作ってなかった……」
「3日に1本のペースで折られたら、こっちもたまんねぇんだが……お前には木剣はもう弱いな。石剣か鉄剣にしろ」
「えぇ、石なんて切り出すだけでも大変なのに」
「それも訓練だ」
「はぁい」
口を尖らせつつも、この日は好意で訓練場の模造剣を貸してもらった。壊さなくてよかった。
祖父の言いつけ通り、1mほどの鉄槌を持って開拓地に向かう。大きな岩目掛けて鉄槌を振るい、砕けた大きな部分をノミや金槌で削って石剣を作る。
私が余りにも木剣を壊すので、最近は木剣だって自分で作れと言われていた。石剣にグレードアップして、威力も労力も倍増である。
訓練にはなるので、頑張るけどさ。頑張るけど、地味な作業って精神的に疲れる。こういうコツコツした作業が得意だった樹里が羨ましくなる瞬間だ。改めて樹里と私は別人なんだなと思う。
心の中でぶつくさと文句を言いつつ、どうにか石剣を1本作って家に帰った。
今日も午前中に青空教室を済ませて、午後からは訓練場で訓練。イザイア様は時々青空教室にもお顔を出されるので、何気に一緒に過ごす時間は多い。お陰でかなり仲良くなった。
勿論それは私だけじゃなくて、授業後の短い雑談タイムで、人の家の事情に首を突っ込むのが大好きなリカが、イザイア様に絡んでいる。
「イザイア様は次男ですよね? 準男爵はお兄さんが継ぐのでしょう? イザイア様は大きくなったらどうするのですか?」
貴族もそうだが、家業のある自由市民の多くも、長子相続が基本だ。中には自由人の長子もいて、次男が継ぐこともあるそうだが、そういうのはレアケース。だから大抵の次男以降は、長子の補佐か、騎士になるか、自分で商売を始めたりする。
「僕は将来、騎士か魔術師になろうと思っているよ」
「辺境伯領の騎士団?」
「いや、王都のだよ」
「やっぱり都会に行きたいんですか?」
「あはは。それもあるけれど、祖父が魔術師団にいるんだ。祖父は僕の目標なんだ」
「へぇ、魔術師団にいるなんて、お爺様はすごい魔法使いなんですね」
「うん、そうなんだ」
お爺さんは魔術師団にいるのか。確かにイザイア様も魔法はかなりお上手だ。素振りをしながらチラ見していたが、大きな火の矢をバカバカ打ち込んでいた。祖父が「あの歳でこれほどの使い手は中々いねぇ」って感心していたから、イザイア様は相当な腕前だろうし、大人になったらひとかどの魔術師になるのだろう。
でも、そうか。イザイア様は大人になったら都会に行ってしまうのか。きっと私はこの村を出ることはないし、イザイア様にお会いすることはなくなってしまうのだろう。
そう考えたら、なんだかとても寂しい気持ちになった。気が早いけど。小さく溜息を吐きながらイザイア様を窺うと、みんなと笑顔で楽しそうに話をしている。
ここが田舎だから出来ることなのだろうけど、普通は貴族の子どもが平民の子どもと遊ぶことなんてない。きっと都会の方には貴族のお友達ばかりで、それも今みたいに頻繁には会えないだろう。
せっかく出来た友達と別れるのは、イザイア様もお寂しいはずだ。多分。一緒にいられる間に、沢山遊んで思い出を作ってもらいたい。
私がそんなことを考えているなんて、イザイア様には知る由もなかったはずだ。それが、ふとイザイア様がこちらを向いて、にっこりと微笑みかけた。
「シヴィル、どうしたの? 君もこちらにおいで」
笑顔で私を手招きするイザイア様の、細められたグレーの瞳が優しくて。何故だかはわからないけれど、私の心の中に突然、春風が吹き抜けていった。




