鎧
一話何字くらいがいいか、リクエストお待ちしています。
3000から5000くらいで考えています。
先輩魔物のキイラに連れられ、妖しげな店に連れてこられた俺。
そこでの会話を聞いていると、どうやら俺に鎧を調達してくれるようだった。
「……今はユニオンとの戦時。アヴェンタゴールド家の跡取りであるアズメリア様も、新しい魔物をお迎えするということですな。キイラ様?」
怪しげな店の店主がいう。皺のふかい老人だが、その眼光は鋭く、才能を見極める才能がありそうだった。
「ええ。そうよ。でも、アズはがっかりしてたわ。初めて、上級じゃない魔物を配下に加えることになったんだもの。アズの高いたかーいプライドが、傷ついたのかもね。うふふ」
俺が召喚されたときを思い出して、少女姿のキイラがにんまりと嗤う。口角の上がり方が意地悪だった。
「さようなようで」
とくに老店主も否定しないで、会話が続く。ちょっとは否定して欲しいものだ。
「でも、戦時の共和国にとって、あの駄熊さん――グリちゃんが貴重な戦力であることも確か。だから、店主には鎧を見繕ってほしいの。戦用のね」
「畏まりました。中級の魔物用ならば、さほどお時間はとらせません。早速……」
店主は、そういって一度下がった。恐らく、店の裏で品物を探しているのだろう。
「グリちゃん、もう少しであなたのお洋服がくるわよ? 待ち遠しい?」
父親に新しい洋服を買ってもらうときみたいに、キイラが邪気のない笑顔で振り返る。
「待ち遠しいって、服じゃなくて鎧なんだろ……ですよね」
一様先輩なので、丁寧語で話そうかと思ったが、
「私、堅苦しいの嫌い。二人のときはもっと砕けたのでいいわ。でも、アズやベルがいるときは、ちゃんとした言葉でね?」
キイラは砕けた性格らしい。アズメリアやベルベラと比べると、擬人化の姿が子供なのも、何か関係があるのだろうか。
そんなことを思っていると、裏だなから老人が戻ってきた。手には、人間用のリングが幾つか。たぶん、首にかけるアクセサリーだろう。
「お待たせいたしました。キイラ様。早速、試着を……」
「じゃ、つけてみて?」
そういって、店主からいくかの首飾りを差し出される。
差し出されるままに、俺は首飾りを身につけたのだが、そのたびに老人が渋い表情で取り上げていく。人間の姿のままなのに、それで試着ができるらしい。
そして、最後に残った銀色の鎖とルビーの玉で出来ているアクセサリーを身につけた。
「…………これは。……ふーむ。そうですか」
「これが、ぴったりなのか?」
アクセサリーを身につけた後、苦い表情を崩さない店主に聞いてみる。
そうすると、不思議な表情で店主がこちらを見つめ返してきた。
「……あなた様は、もしや…………」
老人はまだ何かいいたげだったが、それを長い試着にしびれを切らしたキイラがその後を遮ってしまった。
「――ね! それでいいの!? すぐ終わると思ったから、待ちくたびれちゃったわよ。足がしびれそう。擬人化した姿って、ずっと同じ姿勢だと疲れるのよね。鷲の姿だとそんなことないのに!」
キイラの催促を聞いて、老人は弾かれたように俺から顔をそらした。
「――はは。この品で間違いないようでございます、キイラ様。お待たせさせてしまい、申し訳ございません」
「そ。ありがとう、店主。お代はアヴェンタゴールド家に請求してちょうだい。もう行くわ。次の仕事があるもの。行くわよ、グリちゃん」
「え、ああ。おじゃましました!」
慌てて店主に挨拶し、俺達は店を後にした。
だが俺は、老人が言い掛けた最後の言葉が何なのか、気になってしまう。
――――あの老店主は、最後に何を言おうとしたのだろう?
そればかりが気になるが、待ちくたびれたらしいキイラは、早足で次の目的地へ向かっていた。
静かな店内から、姦しい街の人混みに戻り、俺は再びキイラの後を追う。その足取りからすると、どうやら都の中心部へ向かっているようだった。どんどん人混みが過密になっていく。あとを追うのも一苦労だ。
「あんな急に、買い物切りあげなくたって良かったんじゃないのか? まだもとの姿で確認すらしてないんだぞ?」
道すがら俺がそう聞くと、
「いいのよ。私のときもそうだったから。知らないの? 多少の誤差は収縮の魔術で調整できるのよ。魔術が使えない奴隷の服選びじゃないんだから。もっと勉強しなさいよね、魔物のこと」
そう言い返されてしまった。ぐぬぬ。
しばらく歩くと、闘技場のような場所についた。見世物として決闘をやっているのか、チケット売り場があったり軽食の売り子までいる。とても大きい施設で、都の中心といった感じだ。
「ここが闘技場よ。都で一番大きい、中央闘技場。奴隷同士の決闘や、死刑囚の刑執行、そして貴族の配下同士の試合も執り行われるわ」
「へえそうなんだ。貴族の配下同士ね」
なんとなく他人事で相槌を打った。
「そう。貴族の配下同士。……見て。今日の見世物でも、そういう試合が組まれているわ。ほら、あれよ」
「えーと、どれどれ」
キイラが指差した方を見ると、こう書いてあった。
『名家同士の試合、アヴェンタゴールド家の新顔魔物。対するはコクシネル家の毒大蛇。名家の誇りをかけた決闘の結末やいかに!?』
「……え? ええええ!? 聞いてないぞ!?」
俺は闘技場の前で大声をあげた。
周りじゅうが俺の顔をじろじろ見る。そして、そのそばにいるキイラを見る。
そして、画点したようにうやうやしくキイラに挨拶して、闘技場の中へ入っていった。
そういう観客達の中には、たまに俺にも「がんばってください」だとかのエールをかける人もいた。
つまり、試合はもう公然の事実なのだ。俺以外、皆知っていたのだ。
「いや、まずいだろ!」
俺の抗議を、キイラは澄まして受け流す。
「何が?」
「試合だよ。し、あ、い!! 聞いてない!!」
「聞いてないと、試合もできないの。情けない熊さんね。ぐだぐだいわずに、闘ってきなさいよ」
「そういうものじゃないだろ……!」
「もう手おくれよ。さあ。選手の控室入り口はあっち。私は来賓席でみてるから。じゃ、頑張ってね?」
意味深な笑みを浮かべ、キイラは人混みの中に消えていく。
対象的に俺は、まるで監獄に送られる犯罪者のように選手部屋へ引っ立てられてしまった。闘技場の屈強な役人たちは、俺に有無を言わせない。
あれよあれよと引っ立てられて、地下牢のような広いがらんとした空間に閉じ込められる。ここは地下だ。魔力のエレベーターで地下牢ごと上に上がり、選手を入場させるのだろう。
地上から、歓声とアナウンスが聞こえる。物騒な煽り文句と血に餓えた歓声。日々のうっ憤を晴らすための血なまぐさい娯楽が、始まろうとしているのだ。
心拍数が上がってくる。心臓が口から出てきそうだった。頭痛もするが、泣き言ばかり言ってられない。
この世界はときに残酷で、容赦のないものなのだ。俺を突きとばして急に命を奪った前世とおなじように。
深呼吸して、俺は擬人化を解除する。今の俺の姿がある。体長七メートル、体重はトン単位の魔物の姿。
妖しい店で貰ったアクセサリーは、俺が魔物の姿に戻ると、確かに鎧として本当の身体に装着された。金属製の兜、肩当て、腰あては、それぞれ鈍い銀色に輝いている。表面には炎をもした装飾もされており、なかなかの一品だった。
体の動きが制限されるということもない。さすが名家の行きつけ店だ。いい店には、いい品がある。金と権力が集まる貴族の家には、その情報が集まるわけだ。
選手の入場を告げる野太いアナウンスメント。戦いが始まる。
その予感と同時に地下牢が上昇した。戦いの場に運ばれる感触を足の裏に感じる。
(大丈夫なのか、俺!?)
初陣の不安と共に、俺は闘技場へと運ばれた。
陽の光と興奮が俺を迎え入れる。
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