共和国の都
続きです。まったり更新します。
人混みのにぎわいの中、俺は新しい姿で立ちつくしていた。
擬人化した俺の姿は、身長170センチほど。前世とそれほど変わらないが、魔物のときの姿とは大きさが違い過ぎるので、なんだかくらくらしてしまう。
「まだ姿に馴れていないみたいだけれど、待つ暇はないわ。グリちゃん、行くわよ?」
グリちゃん? 俺をそう呼んだキイラを見ると、いつもの悪戯好きな表情があった。
「ニックネーム。あった方が、呼びやすいでしょ。ついてきてね」
そういって、歩き出すキイラ。俺はついて行くしかなかった。
首都の朝市はにぎわっていて、その人混みをかき分けて歩くのは簡単じゃなかった。キイラの小さな後ろ姿を見失わないように、いきなり与えられた人の姿で前の客や商人を押し分けていく。
追いかける途中で視界に入った露天商には、肉、魚、金属細工、工芸品、美味しそうな軽食など、様々な種類があった。どの店も活気で満ちている。共和国は、経済的に豊かな国なのだろう。朝市を歩く人々の目にも活気があった。たまに物乞いや身分の低い奴隷の姿も見受けられて、それはこの国が厳格な身分制の上に存在していることの生の証として、俺の脳裏に刻まれた。
通り過ぎていく建物は全て石造りの堅牢そうな建物で、屋根は平らだ。日本のような三角形の屋根は見当たらない。あれならば、屋根の上も移動したりできるし、ちょっとした居住スペースにもなるだろう。実際、幾つかの建物の屋根にはテントのようなものが設営されていて、人が出入りしていた。
街ゆく人たちの服装は、世界史の教科書で見たことのある長衣に似ていた。特に、少し高価そうな装飾物をつけた人間が男女問わずその恰好をしている。たぶん、身分の高い市民階級がする格好なのだろう。アズメリアの来ている豪奢な吹くほどではないが、装飾の凝った服が多かった。
反対に、市民が連れている奴隷たちは、より簡素な短い衣を纏っている。どういう理由で市民と奴隷になるのか分からないが、市民階級には金髪碧眼――アズメリアと同じだ――が多く、奴隷はそれ以外が多かった。たぶん、共和国はアズメリア達が属する人種によってつくられたのだろう。
だが、奴隷には金髪碧眼のものもいた。どうやら、人種で身分が分かれるわけでもないらしい。
フレスベルグのキイラを追い掛けながら、俺はこの国の情勢を漠然と把握した。まとめると、そう――古代ローマだ。欧州で起こった史上最大の帝国に、この国は似ていた。(無論、違う部分もおおい。今も、俺はもとの世界では見慣れない動物の隣を通り過ぎている。巨大な狼のような生きものだ。あれも、魔物だろうか?)栄えかたからしても、この国は古代ローマ帝国のような軍事力や経済力を持っているのかもしれない。
――それで、俺はその中で名門の貴族の家の跡取り娘の配下になった訳だ。わりと当りなんじゃないだろうか。少なくとも、ただ人間の奴隷に生まれるよりは、力のある魔物として生を受けた方が融通は利きそうだな。
そんなふうに、俺は思考する。だが、まだ分からないことが多い。喜ぶのはまだ早い気がした。
(兎に角、与えられた仕事をこなさなきゃな。でないと、主人の信用も勝ち取れない。魔物としての人生は、主人との関係がモノを言いそうだ。だから、使える魔物になることが第一なんだろう)
そう一人画点しながら、俺は頭一つ分小さいキイラの後ろ姿を追った。俺より背が低くて体が小さいからか、狭い水路を泳ぐ俊敏な魚のように、彼女は人混みを進んでいく。
俺は、それについて行くだけで精一杯だ。
いつまでこの人混みが続くのだろうと思っていると、キイラの後ろ姿が狭い路地に吸い込まれていった。俺も後に続く。
細い路地の先には、小さな看板を掲げた店がある。キイラは、その店に迷わず入っていった。
小さな扉を通ると、中も狭い。なのにも関わらず、所狭しと妖しげな商品が並べてある。得体のしれない生物の目玉、瓶詰めされた腸、グロテスクなそれらと対象的な鉱石・宝石類……。一体ここは何の店なのだろう。見当もつかない。
そんな異様空間で、店と同じくかなり年季のいった主人と話しこんでいるキイラ。見かけは小さな少女だから、なんだか心配になるけれど、たぶん一番離れしていないのは、俺なのだろう。
「……ええ。そうよ。だから、鎧を調達して欲しいの。――――あの魔物のためのね」
「熊型の魔物ですか、キイラ様? 珍しいですな」
そんなやり取りが聞こえてくる。俺のための仕事道具をそろえてくれているのだろうか?
キイラが言った。
「そう。この魔物に、鎧を用意して欲しいの」
続く
ローマ帝国好きですみません(笑)。前作のとけゆく翼にもコロッセオが出てきましたが、好きなのかもしれませんね。ローマ以外の要素(近未来帝国や経済連合、それに人型ロボット兵器)も出すつもりなので、よろしくお願いします。




