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魔物として生きるということ

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 まどろみの中にいたら、体に違和感を感じた。唐突な違和感。眠りの世界から現実に引き戻される。


 いつの間にか眠っていたらしい。だがそれよりも、見えない巨大な手に掴まれて何処かに連れていかれていることの方が重要だった。見えない手というのは比喩だが、体全体に圧迫感を感じる。すごい勢いで何処かへ拉致されている。


 困惑していたが、何処に向かっているかは見当がついた。主人のアズメリアのところだ。明朝に俺を呼びだすと言っていたからな。いよいよ初仕事がやってくるのだろう。楽しみでもあるが、不安の方が多い。熊の魔物として、第二の人生を送るわけだが、果たして俺はうまくやっていけるのだろうか?


 移動は、じきに終わった。軽い衝撃と共に、視界が開ける。昨日の広いホールだ。高そうな深紅の絨毯。豪奢なクリスタルのシャンデリア。黒い石造りの天井と壁。


 そして、高潔な我が主人。アズメリア・アヴェンタゴールド嬢。名門貴族の次期当主で、召喚術の天才であらせられる。らしい。因みに冴えない俺のことをあまり気にいっていない。


 二人の従者もアズメリアの両脇に控えていた。左の背の高い大人びた方がベルベラ。右の小さな女の子がキイラだったっけ。ベルベラは俺に全く関心がないのか、一瞥しただけで目をそらされた。キイラのほうは、気安げにこちらに手を振ってくる。現在の姿は巨熊なのだが、全く怖がられていない。


(というか、二人とも魔物ではなく人間の姿だよな。人間の姿になれる術なんかが、あるんだろうか。人の姿に馴れれば、昨日もベッドで寝れたのに)


 昨日は熊の姿のまま寝たので、備え付けのベッドは使わずじまいだった。惜しいことをしたかもしれない。


 そんなことを思っているうちに、俺を呼び寄せたアズメリア嬢が口を開く。


「お前に仕事を命じるわ。私の下僕として初めての仕事よ。全身全霊で取り組みなさい。いいわね?」


「は。畏まりました。我があるじよ」


 昨日寝る前にやり方を調べた返事の仕方で、うやうやしく頭を垂れる。


「そこまで重要な任務でもないのだろう? 手短に済ませて送り出せばよいだろう、アズメリア」


 アズメリアの左にいるベルベラが冷淡に言う。


「私とキイラへの新しい軍務の説明もまだだ。この小物を先に相手にする必要があるのか」


「うふふ。ベルベラの言う通りかも。ちょっと妬いちゃう」


 右の銀髪娘のキイラも、俺に意味ありげな視線を送ってくる。


 なんだか、彼女達二人は俺を仲間と思ってくれていないのかもしれない。二人の言葉遣いには、やはり疎外感がある。新人に良くしてくれる雰囲気はなさそうだ。


 それに、二人は上級の魔物だからか、主人であるアズメリアにも多少は不遜な態度がとれるようだ。これが上級と中級の差なのだろうか。


「二人とも。あるじは私よ。少し大人しくしていなさい。すぐに済むわ」


 しかし、主人はやはりアズメリアだ。鶴の一声に、両脇の魔物たちは服従の沈黙を返す。


「さて。よく聞きなさい、駄熊」


「は、はい!」


 威圧的な碧眼の光。緊張してくる。


「共和国情報部が、国内での強襲作戦の気配を察知したわ。明確な対象は不明だけれど、ユニオンの手によることは確かよ。貴様にはそれを阻止してもらう」


 強襲作戦? テロみたいなものだろうか。国内の施設で爆弾でも使うのかもしれない。


 アズメリアが話を続ける。


「内国の共和国軍が捉えた、作戦の構成員から手に入れた情報によると、故意に捕虜として捕まることで共和国内に侵入、監視の目がゆるんだすきに獄から逃げ出し、計画を進めているらしいわ」


 なるほど。わざわざ捕虜になってこちらに侵入したのか。敵ながら狡猾だな。


「共和国軍も迂闊ね。わざわざ敵の特殊工作部隊を自国に招待するなんて」


 くすくす笑いながら、キイラがちゃかす。


 それを黙殺しながら、アズメリアは俺を指差す。


「それを止めてきなさい。いいわね?」


 度肝を抜かれた。わかってはいても、いくらなんでも急な気がする。






 続く。



次回から、『階級のない社会作戦』編へ入ります。お楽しみに。


申し訳ないのですが、一身上の都合で一カ月ほどお休みします。続きは必ず書くので、のんびり待っておいてください。

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