表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

魔物に向いてる!?

 ※久しぶりの投稿です。気楽に読んでね。

「君は、人間よりも魔物がむいてるね」


 目の前の神様が言った。


「まもの?」


 俺は聞き返す。まもの? なんだそれ。干物の亜種だろうか。アジやカレイとかの末路みたいな。


「魔物だよ。異世界である魔界の生物。呼び出される世界とは別の世界の住人で、生態も全然違う。そういう妖し~い存在さ。悪魔ともいうね。君達の世界では」


「悪魔。ああ、あの魔物ね。ソロモン七十二柱とかの。バルバトスとか、アスタロトとか」


 画点がいった。ファンタジーだ。


俺もガキの頃好きだったよ。闇の存在って奴だよな。中学二年生ぐらいの頃にすきだった。腕に紋章なんかマジックで書いたりして。黒歴史ってやつだ。思い出して、ちょっと恥ずかしい気持ちになる。でも、あの頃の俺は、自分の人生がこんな風になるなんて思ってなかったろうな。


「そうだね。腕に自分でデザインした紋章を書いていた十四の君には、理解できないかもしれない。自分がその六年後に死ぬなんて」


 驚いて中性的な顔立ちの神様を凝視する。だが、彼(彼女)はさも当然といった顔だ。自称しか証拠がなかったから怪しんでいたが、全知全能の片鱗を見せられると、信じてしまいたくもなる。


「自分がすでに死んでいるから、こうして神と対面していることに?」


 神様が言う。この空間に初めて来たとき驚きは、もう薄れてきている。人間、なんにでも馴れてしまうのだ。なんとなく、神様の放つ気配で納得できる。できるというか、納得させられてしまう。そもそも突然、神様とやらと対面させられたら、考えるのなんかやめてしまいたくなるし、俺は実際そうつつある。頭のいい人間なら、もっと何か思い浮かぶのかもしれないが、平凡な俺にはこの『現実』に圧倒されるのが関の山なのだ。


「そう。迂闊だったよ。歩きスマホのサラリーマンにぶつかられて、それで特急に――」


 ラグビー選手のようだった俺の死因を思い出す。忙しそうで高めのスーツを身につけた若い勝ち組。


「つまらない死に方だ。誰かを助ける訳でもない。誰かに恨まれた訳でもない。君が死ぬ原因をつくった相手は、自分の生涯を終わるそのときまで、君の間抜けな死に、苛まれる」


「一応、後悔ぐらいはしてるんだな。あのサラリーマン」


「君より遥かに深い考えの持ち主だ。七十七歳まで幸せに生きる。――君のことを除けばね」


 無感情な神様の言い方が、妙に鼻についた。


「死んだのはこっちなのに。被害者面かよ……」


「モノの見方さ。全ての角度からモノを見れなければ、神は務まらない。それに、ある意味、幸運だ。あれだけ痛みも恐怖も感じる暇なく生命を手放せるのは、珍しい」


 俺の訴えは、神様に一蹴される。これ以上彼(彼女)の話の流れに逆らっても取り合ってもらえそうにないので、俺は渋々ではあるが自分の死因についての話題を諦めた。


「まあ、いいさ。もう済んだんだろ。戻らないんだろ? 俺も、他の誰もそれを予想していなかった。不慮の事故だ。仕方ないさ。仕方ない……」


 やりたいことはまだまだあったが、仕方ないと口にして考えないようにするしかない。


 ここはもう、さっきまで俺がいた前世とは別の場所なのだ。関われない場所のことに、思いを馳せても仕方ない。


「不慮の事故。まあ、そういう言い方もできるだろう。君からすれば」


 長い白髪をすこしも揺らさずに、目の前の相手は唇だけを神秘的に動かす。

 性別も判断できないが、年齢も分からない神様だ。光の当たり具合によって、生まれたばかりのようにも見えるし、ものすごい歳月を生きているようにも見える。掴みどころがなさすぎるのだ。相手の邪推を阻むかのように、その白い神様は限られた情報しか、俺に与えてこない。


「そう。ぼんやりしてた。高い学費を工面するための金策で走り回って、その日も地元の信用金庫に学資ローンの話をしにいってた。奨学金だけじゃ、足りなくてね。それで保証人やら返済期間やらの話で頭が一杯になって、バイトの情報誌をホームの一番前で読んでいたら、急に……」


「おやおや。もう考えないようにするんじゃなかったのかい? また考えているよ。もう戻れない場所のことを」


 神様の微笑みがそこ意地悪く見えるのは、きっと俺が急に取り上げられた人生に未練があるせいだ。


「わかったよ。でも、そんなに簡単に整理なんてつくわけないだろ。あまりにも急だったんだ」


「でも、君にはこれから、別の人生がある。それを今度は生きないといけない。分かるね?」


「わかるわからないじゃなくて。そうするしか、ないんだろ……?」


 ため息をつきたくなる。どうしようもない倦怠感。でも、この大きな流れに抗うことはできない。俺は無力だ。冴えない一人のモブに過ぎない。


「そうだ。でも、冴えない君にも新しい人生、いや魔生がある。転生するさきの世界で、それを生きてもらうよ」


 話が魔物として生きることで進んでる。もう抵抗する気力も何処かへ行ってしまったが、不安はある。


「魔物として生きるって、どういう風にすればいい? 訳が分からないんだが」


「まあ、そうだろうね。でも、心配はいらない。転生先で、いろいろ君の主人が教えてくれるさ。チュートリアルってやつだ。色々頼るといい」


「主人? 俺、誰かに使えるの?」


 琥珀色の神様の両目が、柔和に細められる。


「そうだよ。さ、時間だ。そろそろ、お喋りは終わりにしよう。神様は忙しい。冴えない君と違ってね」


 嫌みのない嫌みな笑みを浮かべて、忙しい神様はこちらに右手をかざす。


 より多くの説明を求める前に、俺は白い光に包まれ神様の目前から消された。


 そして辿り付く。


 次の冴えない人生(魔生)の舞台に。











 


 



 


 ※評価・感想等あれば、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ