不戦敗
追手から逃れたファルガ、レーテ、レベセスの三人は、そのまま大瀑布の麓まで一気に駆け下りた。
本来、このルートはシュト大瀑布の海面への着水点を間近に見る為の展望台に通じている散歩コースだった。その展望台は、大瀑布の一番手前部分に肉迫する地点であり、轟音と水しぶきと強い風で体が水浸しになるのは間違いなく、カタラット国の観光案内所で袈裟を借りない限りは、近寄る事が無謀であると言われる場所だ。
レベセスは、その場所を通過する。展望台を踏み越え、更に少し岩場に降り、波打ち際へと近づくと、そのまま左手に進路を取り、滝の横に広がるうっそうと茂る森に歩みを進めた。
森の中では、周囲の様子は勿論の事、空を見上げて時刻を知ることすらできない。
天空へと向かって両腕を差し伸ばすように、更に上へと葉を生え揃え続ける広葉樹たちの生の営みは、彼らの視界を完全に奪い去っている。上を目指す戦いの勝者となるべく、枝を縦横無尽に張り巡らせる木々たちは、まるで森への進行を拒絶するかのように深く絡み合い、目の前の枝をかき分けても更にその先に枝が控える。結果、彼らは道とは呼べない道を延々に進むことになる。まるで森の木々の枝の海を泳いでいるように見えるその光景を見た昔の人は、この森を『樹海』と呼んだ。
枝の処理を間違えると、枝に額や頬を張られることもざらだったが、レベセスは躊躇なく進行していく。不思議なことに、レベセスが押しのけた枝も例外なく反発し、レベセスを襲うのだが、頬や額に当たる直前に止まる。まるで無色透明の何かが彼の周囲を覆っているかのように。
ファルガはその様子を驚きながら見ていたが、いつしか枝に張られ弾かれる痛みに耐えきれなくなり、顔を完全に伏せて進行し始めた。
枝に苦戦しながら進む彼らだったが、徐々にシュト大瀑布の轟音が背後に移っていき、急に足元が安定したと感じた瞬間、視界が開けた。
三人の眼前に広がるのは、光り輝く回廊だった。
思わず歓声を上げ、歩みを止める少年と少女。
ちょっとした規模の教会の回廊を思い浮かべるほどに、その場所の天井は高かった。立ち尽くす彼らの左側面の壁から天井にかけては、無機質で金属然とした曲線の全くない壁が、視界の続く限り奥までずっと続く。対する右側面は美しい曲面を描いた壁が揺らいで見える。その曲面の壁が同様にずっと奥まで続いている。
幾何学的で冷たい雰囲気を与える左側の壁と、流動的で温かい光を微かに通す右側の壁とが作り出す回廊は、ひたすら真っ直ぐ、地平線の彼方まで続いているように見えた。回廊の右上、左上、右下、左下の角が奥に行くに従って収束していき、真ん中で一点になる。
文字通り完全な一直線の回廊。ここにいる観察者たちには、そうとしか見えなかった。
回廊中を漂う無数の光の粒。光が反射してそう見えるが、これはどうやら細かい水滴のようだった。水煙が回廊内を漂い、右側の壁から透過する光を受けダイヤモンドダストのように輝いている。絶妙な角度で流れ込む大量の水は、轟音を回廊外に向けて解き放つが、不思議と回廊内は静寂に包まれていた。
回廊の床は、ここが滝の裏と言われる場所であるとは到底思えない程に、磨き上げられたタイルの床のように平らだった。床の右手はさらに一段階落ち込んでおり、そこには水が溜まっている。この水はイア海の海面そのものなのだが、不思議なことに、回廊の右壁を形成する滝は、泡一つ立てずに水面に吸い込まれていく。大量に流れ込んでいるはずの滝の水が音もなく沈み込んでいく様は、ファルガとレーテにとって全く想像を超えた光景だった。
シュト大瀑布に向かっているときに聞こえていた、莫大な量の水が流れ込む際の轟音は、回廊の中では逆にその大量の水の壁に阻まれ、微かにしか彼らの耳には届かない。この大量の水量で、発生した音すら滝つぼに飲み込んでいるのではないか。そんなバカバカしい想像が、何の違和感もなく普通にできてしまう。
思わず手を伸ばして水の壁に触れようとしたレーテは、レベセスに激しく止められる。
いわれてみればその通りだ。何千万トン、何億トンという水が静かに眼前の水面に吸い込まれていく。音も聞こえず、泡もたたない水流ではあるが、その瞬間のエネルギーはとんでもないものになるはずだ。そんな莫大な水量に指一本でも触れれば、指は粉砕骨折し、更に肩を脱臼させながら滝つぼに滑落することは間違いないだろう。
只の滝の裏側とはとても思えないほどの壮大な景色だった。
レベセスから、ディカイドウ大河川とその川幅に引けを取らない活断層が、シュト大瀑布としてこの滝を成立させているという説明を受けて、背筋が凍る思いをしたレーテだが、それはレベセスの脅しのせいだけではあるまい。
回廊内は光の粒を作り出す途轍もない水量のせいで、気温は周囲に比べて低く、常初夏の気候であるカタラット国内では体感したこともない程の肌寒さになる。
ファルガもレーテも防寒はしっかりしていたが、レベセスだけは、傍から見ていても寒そうなほどに薄着だった。だが、彼に言わせると、氣のコントロールができていれば、体表に氣の薄い膜を作る事も可能で、その氣の膜が保温材の役割も果たすらしい。
だが、その割にはレベセスの鼻の頭が赤いところを見ると、どうやらこの元聖勇者は少し見栄っ張りのようだ。
ほんのちょっぴり見栄っ張りな元聖勇者は、二人についてくるように促した。この芸術的な滝の裏の回廊をさも自分の作品であるかのように少し誇りながら。
そんなレベセスに失笑しながら歩みを進めるファルガたちだったが、ふとファルガは左手に存在する壁を調べはじめた。自然界で出来上がる壁にしては、余りに人工的な造りをしていると感じたからだ。
表面は苔むしており、薄暗さも相まって岩壁が延々と続いているように感じられる。だが、ファルガは聖剣を抜くと、岩壁の表面を軽く叩き、その後表面上を覆う苔を剣で削いでみた。
なんと、苔を削った後の表面は、金属然としていた。
「……鉄? でも、鉄にしては綺麗だし。でも、何かの金属っぽい」
ファルガの分析を背後から聞いていたレベセスは、ファルガに賛辞を贈った。
「左の壁が良く金属であることに気づいたな。ヒントなしでそれに気づいた人間は君が初めてだ、ファルガ君」
ファルガはちらりとレベセスの方にちらりと視線を向けたが、対して嬉しくもなさそうに、再度壁に注意を向けた。文字通り舐めるのではないかという程に顔を壁に近づけ、暫く動かずに観察する。
「……この滝は、人造なのですか?」
呻くように出たファルガの言葉に、レーテは驚きを隠さなかった。
人造の滝は、あるにはあるが、この莫大な水量を誇るシュト大瀑布が人造などとは、到底考えられない。
だが、レベセスは眉一つ動かさなかった。無言で壁を調べ続ける少年ファルガを見つめる。
「……正直、それを私が知っているわけではない。だが、君と同じ疑問を持った人間は確かにいた。そして、その人間は、君の言葉と似たような結論を導き出したよ。
この大瀑布は、古代帝国の浮遊大陸の墜落現場だったのではないか、と」
今度は、ファルガが壁を調べている動きを止め、レベセスの方に振り返った。
「浮遊大陸の伝説は本当だったんですか?」
「それも、私が確認したわけではない。彼もそれについて証拠を発見したわけではなかったが、彼は最後までそれを信じているようだった。
実際、カタラット国には無数の古代帝国の遺跡が残されており、そこからの出土品を研究者や国家に売却して外貨を得ているのは君も知っている通りだ。その出土品を海外に売却することを決定しているのが、今は亡きビリンノ王だったわけだ」
シュト大瀑布は、結果的に人造物の上に出来上がった巨大な河川と海のとの境界だった。
これは、公式の内容ではない。一人の考古学者の一考察に過ぎない。
だが、ここにいる人間は勿論の事、その周囲の人間たちも、真実であるかの様に感じているようだった。
ファルガは一度滝の左壁……回廊を構成する水壁とは逆側の壁……に視線を戻すと、調査をやめ、ゆっくりと立ち上がった。
「進みましょう、レベセスさん」
ファルガは回廊を先陣切って進み始めた。
少年は、レベセスの言う者が、自分の父親であるという男の事を指していることを薄々感づいていた。
ラマ村での、育ての親ズエブ=ゴードン。SMGの頭領リーザ=トオーリ。その孫でありSMGの実働隊を一人で担う稀代の飛天龍パイロットヒータック=トオーリ。そして、レーテの父であり元聖勇者、ラン=サイディール国の元兵部省長官でもある、レベセス=アーグ。
皆、彼らはどういう訳か自分の父親の事を知っている。
だが、自分はその父親の事を少しも知らない。話には聞こえるが、どういう人間が皆目見当もつかない。彼と二度剣を交えたガイガロス人の男、ガガロ=ドンですら恐らく知っているにも拘らず。
皆知っているのに、自分だけ知らない。
確かめることもできない。
そのことが、ファルガを妙に苛立たせた。
まだ見ぬ父親に対する嫉妬なのか、それとも自分がどこの誰だかわからないことに対する漠然とした不安なのか。それすらわからずに。
……なぜ自分には父も母もいないのか。
改めて考え込みそうになり、それに対して言及することも、考えることもやめた。
いない理由を知ったところで、自分の周りに親がいないことに対して納得できるとはとても思えなかったからだ。
そして、その疑問は少なくとも、今の自分にとっては不要なことだ。
考えたところで調べたところで何かが変わるわけではない。いろんなことが分かってくる頃には、その男の全貌も見えてくるに違いない。
ファルガはそう考えることで、彼の行く先々で影をちらつかせるその男の事を、頭の隅に追いやった。
どれくらい回廊を進んだだろうか。
来た道を振り返っても、既に回廊の端は見えなくなっている。進行方向も相変わらず先は見えずに回廊が延々と続くだけだ。
さすがにファルガもレーテも疲労の色が色濃く出てきていた。
耳に届くのは、大瀑布の轟音だけだが、それも防音室にいるときのような、過剰に密閉された空間で聞こえるくぐもった音であり、それがさらに彼らの心理的な圧迫感を増していた。
そして、延々と続く同じ風景。右手の滝の壁は、光を透過するためにきらきらと輝きはするものの、その輝きもパターンが決まっているようで、一種催眠効果のようなものを彼らにもたらす。
低い気温も彼らの体力を如実に奪っていた。
回廊の奥に進むと光の粒は飛ばなくなった。どうやら、入口の滝壁の水滴が中に立ち込めていただけのようで、回廊内は床にも壁にも苔すら生えていない。無機質な空間が出来上がっていた。
さすがにレーテも我慢の限界だったのか、その場に座り込んでしまった。
だが、それも無理はないだろう。
密閉された空間で、進めど進めど、景色に代わり映えがないのだ。自分が進んでいるのか、立ち止まっているのか、はたまた逆行しているのか、理解するのに時間が掛かる。景色に全く変化がなく、時間の経過すらわからない。
目から入ってくる情報が乏しく様々な状況の変化を判別することが困難である現在、発狂という悲惨な状況と背中合わせになっている事は、彼等自身よくわかっていた。
「後、どれくらい進めばいいの?」
言葉には出さないものの、ファルガも同じような疑問を持っていた。だが、文句を言っても嘆いてもうろたえても、この回廊はまだ延々と続く。
飛天龍を着陸させるポートの傍から見たディカイドウ大河川も、対岸が見えないほどの広さだった。仮に橋が架かっているとしても、橋の先も見えるはずもない。その橋を歩いて渡ろうとしたら、半日やそこらではたどり着かないはずだ。それと同じか少し長いだろうこの水の回廊についても、渡り切るまでにはまだ相当の時間を歩かなければならないはずだ。
ここに来た以上、ここから光龍剣の保管してある場所にたどり着くのだろうが、その場所がどこなのか、どのような工程でたどり着くのか、皆目見当のつかない状態では、ファルガとレーテは、レベセスからあとどれくらいかかるのか尋ねるくらいしかできなかった。
「そうだな、あともう少しだな」
レベセスは事もなげに言うが、その言葉を聞いても、全く事態は解決しない。レーテの気持ちの動揺が落ち着くことはなかった。
レベセスの言葉が終わるのとほぼ同じタイミングで、ファルガとレベセスは立ち止まった。一瞬立ち止まるのが遅れたものの、レーテもすぐに立ち止まり、二人が行なっているように、氣の探索術≪索≫を走らせた。
床と壁を走らせる氣功術≪索≫は、ファルガ、レーテ、レベセスともに使用可能だが、聖剣を発動させたファルガと、元々第三段階の使用が可能なレベセスは、聖剣なしの第一段階しか発動できないレーテに比べて、拡張速度も格段に速い。
「レーテ、持っていてくれるか?」
ファルガは進行方向から目を離さずに静かに言うと、背負った袋から大陸砲と聖剣を取り出し、大陸砲をレーテに預け、袋そのものを装束のポケットにしまった。そして、聖剣をゆっくりと鞘から引き抜いた。
レベセスは、腰に矯めたラン=サイディールの兵士に支給される鋼の剣を抜き、次に発生しうる戦闘に備えた。
レーテは二人の向く方向が逆であることに驚く。
ファルガは進行方向に対し、レベセスは今まで歩んできた通路に対して剣を構えている。明らかに、挟み撃ちを食らっている事をレーテは推して知ったが、自分が何をしていいのかは皆目見当もつかなかった。
突然、ファルガは聖剣を発動させ、そのまま剣を何度となく振り続けた。その一振りごとに、金属音がレーテの耳に届く。そして、彼らの足元に何本ものナイフが散乱した。
「投げナイフ……!」
レーテには全く見えなかったものが、ファルガには見えていた。
そして、一本たりとも逃さず、完全に叩き落した。
金属製のナイフは、周囲の様子を反射し、一見すると周囲に同化してしまう。それゆえレーテにはそのナイフを見ることができなかったが、ファルガはそれが見えていたのか。
落ちているナイフを手に取ったレーテは、その磨き上げられた短剣を目の当たりにして、驚きを隠さない。ナイフの表面は鏡面のようだった。
その一瞬のうちに、レベセスの向き合う方向……彼らが歩いてきた方向には、十数名の人影が並んでいた。そして、後方に気を取られたわずかの隙に、進行方向にも十数名の人影が並ぶ。
完全に挟まれた。
もはや、この状況では脱出することすら困難だ。
この明るさで、人影にしか見えない理由は、彼らが漆黒の装束を身に着けていたからだ。異なるのは、ファルガが身に着けているSMGの戦闘用装束のような肩当てや胸当て、腰当てが存在せず、完全に漆黒の布を身に巻き付けているような装束だ。頭巾も口と鼻が覆われるように身に着けられており、身長の差や体形の差はあるが、表情を伺い知ることはできず、個人を判別することはできない。
ファルガたちの進行方向から出現した装束群の中央にいる、背丈こそ小さいが、装束を通してすら伺い知ることのできる筋肉質の人間が、言葉を発する。
「ラン=サイディール国兵部省長官、レベセス=アーグとお見受けする。貴方はもうお気づきのようで、争いの意志を示していないのは見事という他はない」
ファルガとレーテは思わず振り返るが、既にレベセスは先ほど抜き放った剣を鞘に納めていた。レベセスは、このまま戦い続けても勝ち目がないと、早々に降参の意志を示していたのだ。
「ファルガ君、ここは剣を収めるんだ。この状況下で、この戦力差では、我々は殲滅されて終わる。何人かの敵は屠れるかもしれんが、我々は確実に全滅する」
ファルガは思わず構えた剣をおろす。だが、レベセスのように戦意喪失を示す納刀行為はすぐにはできない。
「無価値な殺し合いの回避にご協力いただき感謝する。その少年も、中々心に折り合いはつかないかもしれんが、現状を把握する能力に長けているのは素晴らしい」
嫌らしい男たちだ、とレベセスは口角を歪める。
現状確かに、この状況を打破できないわけではない。だが、非常に困難であることに違いはない。それを、相手を尊重しつつ自分たちの要求を既に察しているかの如くに伝え、自分たちの主張の通りに対象を動かすコミュニケーション術は、見事と言わざるを得ない。
レベセスは、相手の思惑に完全に乗ることを是非とせず、言葉を紡ぐ。
「カタラット国の政治家は、みな私兵を抱えると聞く。貴方たちは、私兵軍団の最大勢力『影飛び』ではないのか?」
「それを答えるには及ばない。我々の要求も既に熟知しているとお見受けする。元々は我々が主の所有物である。回収の代行について感謝しても、し足りない。全てが終了したのち、主の下に訪うて頂きたい。主がおもてなしさせていただく事になるだろう」
負けだ。
レベセスはそう感じた。
数も、場所も、状況も。
無傷で切り抜けるのが最善手だ。
彼らの目的は、光龍剣を手に入れること。大陸砲ではない。
レベセスは、レーテから大陸砲の結晶を受け取ると、ファルガの前まで歩みを進め、足元に結晶を置いた。
背後で突然爆発が起こる。一瞬、三人の意識が背後に移った次の瞬間、地面に置かれた大陸砲の結晶は消失し、同時に進行方向にいた十数人の黒装束は消えていた。
振り返るレベセス。
既に後方を抑えていた人影も、既に姿を消している。
後には、微かに聞こえるシュト大瀑布がイア海に流れ落ちる音だけが残された。
短く長い時が過ぎ、誰の≪索≫にも黒装束たちが探知できなくなった頃、レベセスは口を開いた。
SMGが欲していた大陸砲が、再度カタラット国の手に渡ってしまった。そこに不安を覚え、しゃがみ込んでいたファルガとレーテ。
彼等を落ち着かせる為もあっただろうが、レベセスははっきりと呟いた。
「大陸砲は、恐らく仮王ゴウ=ツクリーバの元に行くだろう。今の奴らはゴウの私兵だ。今ここで戦っても、双方傷つくだけでメリットはない。我々は大陸砲の為に傷つくべきではないし、彼等もここで『影飛び』としての戦力を失いたくはなかっただろうからな」
「ビリンノ王が亡くなって、これからカタラット国はどうなっていくの?」
「ゴウは卓越国家主義者だ。カタラット国が世界のどの国家よりも国力がある状態を欲している。ビリンノ王が在位時からそうだったが、奴の卓越国家主義が、そのまま軍事国家への意向に繋がらなければよい、とは思っているが」
「大陸砲を持って行ったのは、その状態にしたいからじゃないんですか?」
「いや、そうとも限らん。大陸砲を抑止力としての軍事力として扱えば、それだけで他国からの侵略はない。もともと、そう軍事的拠点としてのメリットはない国家だからな。それに、大陸砲にちょっと細工をしておいた」
細工をした、とレベセスは言った。だが、レベセスが大陸砲に触れたのは、ファルガが袋からレーテに手渡した大陸砲を手に取り、床に置いただけだ。何か細工を施す時間があったとは到底思えない。
不信そうな眼差しを送るファルガとレーテに対して、レベセスはニヤリと笑う。
「まあ、大丈夫だ。大陸砲は暴発もしなければ、連中に発射することはできない。
さあ、それより光龍剣の隠し場所まではもう少しだ」
レベセスは立ち上がると、今度は三人の先頭に立って歩み出した。




