エンディング
ヒヒヒッ、と【チェシャ猫】が笑う。
「おもしれーモン見せてくれたし、スポンサーのカスどもも前代未聞の展開に湧いてっからいいけどよォーッ……そろそろ、説明してくれネ? なァ【ジャバウォック】さん、テメーは何者だ?」
「ただの占い師です」
歯車はわざとらしく両手をかざした。
「歯車がこのゲームに参加すること、このゲームの総則、それはずっと以前から見えていました。それ故に立てることができました、あらかじめ対策を」
【眠りネズミ】はどんよりした瞳を輝かせる。
「えっ、えっ、じゃあ超能力ってことですか!? すっごい……! 本官、初めて超能力者を見たかもしませんっ!」
「超能力とは違います。詳しい説明は……」
うーん、と歯車は首筋を撫でた。
「中止にします。めんどいため」
「えーっ」
どうせ、してもしなくても同じことだ。
「ここでの歯車たちの記憶は消されます、このゲームが終わったら。だから、ここで歯車にとって世界がどう見えているかを説明しても、古都子はすっかり忘れてしまう仕組みになっているのです」
「ヒヒッ。すげェな、マジで未来が見えてんジャン。わりーけどお偉いサンの関係で、そういうシステムになってるから、勘弁な。ちょっぴり余計な記憶も消しちゃうかもだけど、そっちは戻る予定ダシ。賞金は振り込まれるから安心してチョ」
【眠りネズミ】は震えながら言った。
「ど、どうして知ってるんですか……?」
「ですから、少し先が見えてしまう体質だと」
「違くて。本官の名前ですッ! 新町、古都子!」
――あっ。
余計なことを言ってしまった。
ああ、だから最期はああなるのか?
いや関係ないか。
わかんない。
わかるのは、一度決まった現在は変えられないことだけ。
こうなったら、仕方ないか。
歯車は――古都子に向き合った。
「歯車はいずれ、ある人物に殺されることになります。殺人事件の被害者になる――そこで、その事件を解決してくれるのが古都子なんです。そのあたりの話は既に読了済みなのですが……そういったわけで、こんなデスゲームで古都子に死なれてしまうと困ります。なんかむかつくので、歯車を殺した野郎がのうのうとしてるのは」
野郎、とは言っても性別は女なんだけど。
「そのために歯車は色々と面倒なことをしなくてはならなくなりました」
古都子は小動物のように首をかしげる。
「面倒って、たとえば?」
「事前に古都子をさらって、拷問フェチの変態を装って爪を全部剥いでおくとか」
これも必要な工程の一つ。
古都子にはデスゲームの直前に全ての爪を失ってもらう必要があった。
☆☆☆
「えっ、いまさら気づいたんですかっ? 本官はですねぇ、ゲーム前からちゃあんと装着してますけど」
【眠りネズミ】は誇らしげに両手の手袋を見せる。
☆☆☆
新町古都子の爪はあらかじめ剥いでおかなくてはならない。
歯車にしか理解できないパズルのピース。
そうしなければ、古都子と歯車の両方が生存することは出来ないから。
もっとも――本当は足指爪を剥がすことによる0枚入札(歯車はこれを裏ルールと呼んでいる)について教えても良かったのだが。
そこまですると、途中で正体がバレて変な流れになりそうだったし。
古都子はゲンナリした顔をする。
「あーっ、やっぱり【ジャバウォック】ちゃんの仕業だったんですね。最初に会ったとき、監禁されたときと似た匂いがすると思ったんですっ!」
「肯定します。ですが、匂いとは?」
「焼きたての甘いお菓子みたいな……ふひひ」
「キショ……」
っていうか【ジャバウォック】ちゃんってなんだ。
急に馴れ馴れしい。
「でも、未来が見えるなら――もっと多くのプレイヤーが救えるように手を打つことが出来たんじゃないでしょうか?」
見えるといっても、そこまで万能ではないのだが。
というか、そもそも――
「歯車にメリットがありません、そんなことをしても」
☆☆☆
総則16:全ラウンド終了時に生存していた者全員に賞金を分配する
☆☆☆
まったく、馬鹿馬鹿しい。
「どうして賞金を減らす必要が? せっかくデスゲームに勝てるのに」
先が短い人生なのだ。
もう残りは1年もないとされている。
お金はあればあるほど良い。
夢はデカくなけりゃつまらないだろう。
「ふれんどしっぷ計画っ!」
出た。毎回のように出てくる意味不明ワード。
「【ジャバウォック】ちゃん、本官の友達に……」
「否定します。嫌です」
「だって、【ジャバウォック】ちゃんもちゃっかりしっかりしっとりじっとり人殺しのサイコパスじゃないですかあっ! 類友ですよ。本官の嗅覚に狂いはありませんでした。甘くていい匂いする体臭の女の子って、だいたい危ない感じなんですっ」
「古都子ですよ、一番危ないのは」
こいつだって甘ったるいし。
「ひどいっ!」
「ふふっ」
――ちっ、くやしいな。
歯車と古都子が、こうして話すのは初めてなのに。
初めてで、これが最後なのに。
楽しい。
ずっと近くにいるのはうっとおしいけど、遠くで見てる分には。
なんて思ってたけど。
近くでも結構面白いやつ。
認めたくないが。
本当はもっと話したい。
こういう終わってる女が好みだったっぽい。
歯車、ショック。
マジでか。
うーん。
次があれば、と思うけど――
次はあるんだろうか?
わかんない。
ひとまず、シリーズはここまでっぽい。
続きを読みたいなぁ。
今はただ。
読者として、別れを惜しむばかりである。
――伏線でも、張っておくか。
「忠告します。未来が見える者として」
「おっ。先の展開のネタバレですかッ!?」
「芥川龍之介の蜘蛛の糸」
「国語の教科書で読みましたねぇ」
「古都子みたいな奴でも、一度くらいは善いことをしてみるといいかと」
「善いことってどういうのですか?」
「人の道を説く、とか……」
「…………」
「肯定しますが。無理そうという顔をしない」
歯車の人生はあらゆる時系列がバラバラになっている。
視点は歯車を離れ、あらゆる歯車に転移する。
最初から最後までエピソードごとに分かれている。
その終点がこれだ。
これが、エンドマークだ。
新町古都子に最後のあいさつを。
「……【ジャバウォック】ちゃんじゃ、寂しいです」
「疑問です。どうせ忘れるのに?」
「忘れたことを、覚えていたいです」
別れの時間がやってくる。
記憶が消えるのは、もう間もなくだ。
泣いても笑っても最後の機会。
一度くらいは、付き合ってみようか。
愛しき名探偵のフレンドシップとやらに。
偉大なる友情の始まりの終わり。
あるいは終わりの始まりか。
どちらでも、かまわない。
まずは自己紹介から始めよう。
友達になるには、それが第一歩である。
「この歯車の名は――」
罪園ゆかり。
(読 了)
これにて、この物語は完結です。
ご愛読ありがとうございました!
連載はここで区切りとなりますが、モデルとなる仮面ライダーはまだまだたくさんおります。
(お気づきの方もおられると思いますが、実は本作の事件は全て平成・令和ライダーを元ネタにしてるのです)
異世界に転生した後の新町が遭遇する怪事件など、まだ見ぬ美少女殺人犯もたっぷり。
もし、続きが気になりましたら、ぜひレビュー・評価などで応援よろしくお願いしまーすッ!
というわけで。
新町古都子でした。




