9話 この世界の基準
昼の全国ニュースにて、
ベーダー10体の地球襲撃が報道される。
そして――それをたった1人で駆除した、
紡時風の姿が全国放送された。
避難活動が解除され、
マンションへ戻った風の母親は、目に入ったテレビの映像に絶句した。
風が侵略者を倒すシーン。
衝撃のあまり、画面から目を離せなかった――
「これって……風……よねぇ?」
――――――
能力がない人間は、ゴミとして扱われる世界。
正式な割合は発表されていないが、特殊能力持ちは人口全体の7割程度。
つまり残りの3割は、能力なしの普通の人間というわけだ。
能力ありの人間――
それは何百年も前にこの地球へやってきた、
宇宙人と交流を持ったことが発端だった。
見た目がグロテスクで好戦的な宇宙人なら、
宇宙戦争とかになっていただろうけど、
その宇宙人たちは、耳がエルフのように尖っているだけで
見た目も文明も地球人に似ており、性格も良しときた。
彼らはヴィジョン星人と呼ばれ、友好的であり、
地球として、初めて宇宙人を受け入れたのが彼らだった。
互いの星をワープゾーンで繋ぎ、行き来できるようになり、
物資の交換や旅行なども可能にした。
年月が経つほど関係は深くなり、異星間結婚する者が現れた。
見た目も文明も近い宇宙人同士、最初から互いの抵抗感は薄かった。
異星間で生まれた子たちは、
肌の色や、耳の長さに多少の特徴が見られたくらいで
ほとんど違和感のない地球人として扱われた。
ただ、生まれて5歳を迎える頃、“覚醒”を起こす子供が現れる。
覚醒を起こすと、一晩中全身の痛みを訴えるが、
その後に不思議な能力を発揮することになる。
その能力は多種多様だ。
現在では、数多の特殊能力が確認されている。
能力ガチャなどと呼ばれ、
子供に特殊能力を持たせるために、異星間結婚が流行った時期もあった。
能力によって一族の安定をもたらすこともあり、
恐ろしいほど、ハーフの人口増加が見られた。
また一時期、
「男性宇宙人と女性地球人の間でしか能力者は生まれない」
という噂が広まり――(のちにデマだと正式発表される)
女性地球人の誘拐が横行した。
そして、
無理やり子供を孕ませる犯罪行為が横行したこともあった。
そのことから、
異星間同士の関係性に、歪みが生じ始めた。
友好的だった関係が、
距離を取り始めることになった。
ただ、交信がまったく無くなったわけではなく、
上層部のみ、ワープゾーンを使った行き来は続いた。
しかし、そのワープゾーンに異変が生じる。
地球とヴィジョン星を繋げていたはずが、
他の宇宙人たちからの干渉を受け始めたのだ。
ヴィジョン星人のような温厚な宇宙人たちばかりではない、
ベーダー星人のように、侵略を目論む連中が現れた。
そのような侵略者と、幾度か戦争を起こすことになった。
そして――
地球とヴィジョン星を繋げていたワープゾーンは封鎖されることになる。
しかし、長き年月の中で繋げられたワープゾーンは無数にあり、
犯罪者が違法に作ったものや、地球が管理できていないものも多くあった。
そこから数々の侵略者が地球を脅かした。
それに抵抗する手段として、
地球人とヴィジョン星人の間に生まれた能力者たちが
必要不可欠となる。
日本では侵略者対策に防星省を立ち上げ、
国家公務員に属する防星官が、侵略者から国を守るようになった。
防星省とは別に、企業や個人が防星省から許可をもらって活動する――
ブレイカーと呼ばれる集団・もしくは個人が創設された。
彼らの活躍で、地球は今日も侵略者から守られている。
いまでも――侵略者は後を絶たない。
――――――
防星省・第6支部 事務室。
監視モニターには、手枷・足枷を付けられた紡時風が、
映し出されていた。
「どういうつもりですか!
彼はわたしたちの命の恩人です!
彼がいなければ、副隊長も、わたしも――あの場にいた全員が死んでいた!
それを――!」
普段温厚な虎落が激昂していた。
それもそのはずだ。
事情聴取と銘打って、防星省・第6支部に連れてくるまではよかった。
しかし、連れて行ったのは侵略者留置所――
侵略者として捕獲した扱いになった。
防星官の事務員が驚きながら説明する。
「氷河小隊長の命令でして……」
「雷鳥副隊長は、紡時さんをこのような扱いにするなんて許可していないはず!」
「わっ、わたしに言われても……」
そこに氷河が姿を見せた。
「言いたいことがあるなら、直接言ったらどうだ……」
「氷河さん! あなたはなんてことを!」
「氷河・小隊長だ!――虎落」
「!」
「副隊長が動けない今、第一小隊長のこの俺が指示を出す。
紡時は拘束する――奴は絶対に逃がさない」
「あなたって人は!」
その時――
氷河の後ろから、女性の声が聞こえた。
「副隊長が動けないなら、第一小隊長じゃなくて、
もう1人の副隊長が指示を出すんだよ、馬鹿者……」
「!」
赤髪のロングヘアを靡かせた、
いかにも姉御肌のグラマラスな女性が氷河の肩を掴んだ。
あれほど強気だった氷河が震え上がっている。
「剛海副隊長!」
「久しぶりだね、虎落。
ずいぶん大変だったんだって?」
防星省の支部には、隊長とは別に副隊長が1名、ないし2名配置される。
第6支部は現在隊長不在のため、副隊長2名で運営されている。
「剛海……副……隊長……」
冷静沈着な氷河が一気に取り乱した。
なにやら因縁があるようだが、それはまた別のお話。
「貴重な仲間候補を、侵略者扱いしてるんだって?
……お前?」
氷河は剛海の方を向き直し、慌てて説明に入る。
「副隊長!
あれは危険です。あんなのを野放しにしておくわけにはいかない!
俺の判断は間違ってないんです!」
「でも、みんなを助けたんだろ?
うちの弟も助けられたって言ってるしさ……」
「しかしですね!
アイツはとんでもない力を――」
遮るように剛海が口を挟む。
「まぁ、あんたの気持ちもわからんじゃない……」
「!」
剛海は虎落を見下ろした。
「ちょいとどんな奴か、この目で見てみたいんだ。
――虎落、案内を頼めるかい?」
現状、第6支部トップの剛海が――
風の面会へと向かう。
彼女は――
風の“正体”を見極めるために動き出した。




