11話 女王の判断
拘留室の空気が、変わった。
重い――いや、違う。
その場にいる全員の意識が、無意識に彼女へと向けられる。
視線を向けるだけでわかる。
この建物内にいる誰よりも、格の違う存在だということが。
――防星省 第6支部・副隊長
剛海 要
彼女もまた、
この日本において知らぬ者なしの力を持つ。
はち切れそうなバスト、
見事なくびれに、色気のあるヒップ。
胸の谷間を見せながら、ミニスカートを履いている。
場違いなほどにセクシーな防星官。
そのグラマラスボディの内側を、
波打つように筋肉が動いている。
紡時風は、一瞬見間違いかと思ったが――
本当に“筋肉が動いている”ようだ。
彼女の能力は――筋肉操作。
全身の筋肉を自在に変化・強化する。
筋肉のうねりが、纏まりつつあった。
「15tねぇ……インパクト値10tが我々の夢の数字。
うちの隊長の9.5tが最高値なんだ――わたしでも平均8tが限界……」
「……俺……本気で行きますよ!」
「やれやれ、威勢がいいなぁ。
とりあえず脚筋5割増しの――他は筋力増し無しからの首にチョップかな……」
剛海の足の筋肉が膨れ上がった。
「!」
「もう少し……
わたしの身体を見たかったろうけど――お・し・ま・い」
次の瞬間――
みんなの目から剛海が消えた。
一瞬のうちに、風の背後に立っていたのだ。
「!?」
しかし今度は、
剛海の目の前にいたはずの風が消えた。
「なっ?」
留置室の壁に怖がるようにへばり付き、
剛海の動きに反応していたのだ。
「……見えていた?」
約50坪の広さの部屋中、剛海の速さについていくなど不可能だ。
「やばいって! なんて速さだよ!」
「……よくいうよ」
――次は7割の脚力で試す。
脚筋がさらに盛り上がる。
再度、剛海が動いた――
風は呼応するように、彼女以上の速度で反応した。
ところが、
剛海は風の動きを読み取っていた。
躱した先へ、すでに攻撃に移っていたのだ。
次の瞬間――
剛海の身体が弾き飛ばされ、
壁にめり込んだ。
「斥力――」
虎落が震えた声で呟いた。
「ベーダー星人の能力を……使った」
虎落が驚く中――
「あぁ!
やりすぎたかも……
斥力の能力は加減ができないんだよ」
風が、申し訳なさそうに言った。
めり込んだ壁の中から、剛海がゆっくりと姿を見せる。
「……やるじゃん。完全能力持ちでしょ、君」
「今のがまるで効いてない!?」
「ぶち当たる瞬間、全身の筋肉を硬質化したからね。
でもノーダメージじゃないよ……」
剛海の顔が真剣になった。
下半身に見られていた筋肉の膨張が、全身に巡っていく。
――これが噂の剛海の能力だ。
「全身筋力7割の力でいく、油断してると死ぬよ!」
筋肉が波打ち――セクシーなスタイルだった剛海は、
筋肉という鎧を纏ったような体型に変わった。
腰を低く下ろし、完全戦闘モードで突っかかる。
しかし、それを斥力で弾く。
――ドーンッ!
「チッ!」
さらに攻撃――しかし、また弾かれる。
剛海は、何度突っ込んでも風に届かなかった。
「なんだい、これ!――バリアを張る能力かい!?」
剛海は何度も弾き飛ばされながら――作戦を巡らした。
そして、吹き飛ばされながらも体勢を整え、
再度攻撃に転じた瞬間だった。
――デコピン。
剛海の額を、風が指で弾いた。
「あいた!」
風が剛海にデコピンを決めた。
「勝負あり!
……でしょ?」
剛海は呆然としながら、おでこをさすった。
今の出来事が、まるで信じられない様子だった。
「副隊長! 紡時さん!
もう終わりにしましょう」
「!」
「副隊長!
ここは……紡時さんに勝ちを譲ってもいいのでは?」
「……」
剛海は納得いかない顔を見せながら風に質問した。
「あんたさ……何割くらいの力で戦ってたの?」
「何割……?
そんなのわかんないですよ、あなたに合わせて動いてただけだから」
「合わせていた!?」
「……はい」
「合わせられるってことは、
実力の半分くらいしか出してないってことだよ……」
そして虎落に目をやった。
「わたしのインパクト値はどれくらいだった?」
「……5tほどでした」
「彼は?」
「……移動スピードだけでの推定値ですが、
7t……です」
――半分ほどの力で7t。
「7tって……
能力なしでそんな強い奴いないよ……」
「……能力発動は見られませんでした」
「10割の力で試したい気もするが……
そこまでやると違う問題が発生するかもしれないね……」
「……」
「OK!
わたしの負けだ。妹さんも君も解放しよう――」
虎落の顔がほころんだ。
――――――
ナギはというと、
風とは違い――
ラウンジで優雅な時間を過ごしていた。
テーブルには予約しないと買えない人気店のドーナツとコーヒーが並び、
手の空いた防星官と談笑している――
「なんだよ、この差は?」
風に気付いたナギ。
「お兄ちゃん! 終わった?」
「お前……心配したんだぞ!」
「心配してたのはこっちだし!」
2人のやり取りを見て、剛海は微笑んだ。
虎落はスマホを確認。
1階ロビーに、風とナギの母親が来ていることを知る。
「紡時さんのお母様がロビーでお待ちのようです。
早く行って差し上げてください」
剛海と虎落の案内で、ロビーまで向かう。
ナギは両手にドーナツの袋を抱えていた。
「そんなにいる?」
「くれるって言うんだもん……」
「行儀が悪いんだよお前は、
くれるって言っても、全部もらったり――」
その時だった――
「風! ナギ!」
目の前に母親の姿が見えた。
2人に気付いて走って来た。
「だっ、大丈夫だったの?」
「母さん」
「ニュース見て、びっくりして、
みんな助けたのに、拘留されたって聞いて」
「もう誤解解けたみたいだから、帰れるって……」
「誤解って、あなた」
剛海が母親に声をかけた。
「この度は突然申し訳ありませんでした……
少々調べたいことがあり、協力いただいておりました」
「調べたいこと?」
「風さんには、5歳の子供にしか発動が見られない
覚醒の兆しが見えます。
もし、この覚醒が実現すれば、
日本の――いえ、世界の大きな力となるでしょう」
「……」
「素晴らしい息子さんです。
能力覚醒……その時にはぜひ、
この第6支部で採用させていただきたい」
剛海から、これ以上ない賞賛を受けた風。
しかし――
母親の反応は、予想していたものとは違った。
「……ふざけないで」
「?」
「うちの子たちを急に留置所に連れて行って……
何が採用ですか……」
「……申し訳ありません。
ただ、彼には我々の知り得ない能力が――」
次の瞬間だった。
剛海が話し終わる前に、母の怒りは爆発したのだ。
「うちの息子に能力なんてない!」
「!」
1階ロビーに、母親の声が響き渡った。
多くの行き交う人たちがこちらを見ている。
「たとえ能力があったとしても、
こんな危ない職場に、息子を働かせたりしません!」
「母さん……落ち着いて!」
「あなたは黙ってなさい!
この人たちは強いから、好きなこと言ってるだけ!
能力を持たないわたしたちなんて、
ただの実験材料ぐらいにしか見ていない!
そんな連中に、うちの子を好き勝手させない!」
こんなにも母が怒った姿を見たことのない風とナギは、
この状況に呆然とするしかなかった。




