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検査結果は能力なし 〜能力なしで死んだ俺は、なぜか今日も死なせてもらえない〜  作者: 鬼喜怪快


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1話 命日に死ねなかった



 

 能力がない人間は、ゴミとして扱われる世界だ。


 

 生まれた瞬間に、人生は決まる。


 男か女か――

 そして、“特殊能力持ち”か“能力なし”か。

 

 それだけで、すべてが変わる。

 

 就職も、給料も、進学も。

 能力がなければ、最下層だ。

 

 ――例外はない。



「俺には関係ない話だよ」


 

 紡時風つむじふう、21歳。能力なし。

 

 5歳の時に、彼の人生は終わった。 

 覚醒が来なかったからだ。


 母さんが泣いて謝ってきた。



「能力なしで産んでごめんね!

 わたしのせいでごめんね!」


 

 忘れられない記憶だ。


 かき消すように風は首を振った。


 あの日、

 彼の未来は終わった。


  

「……すでに詰んでるし。

 生きてても仕方がないよな」


 

 何度そう思ったか分からない。 

 でも、どうにもならない。

 

 だからもう考えないことにしていた。 


  

 今日も彼は、

 建設現場で資材を運ぶアルバイトをしている。

 

 現場監督は能力持ちだ。

 怪力らしい。

 発動すればフォークリフト並みの力を出せるとか――

 

 残酷な話だ。

 

 風たちの方が頭を使って仕事をしても、

 結局は“能力があるかどうか”だけで評価が決まる。


 

 ――この世界は、そういう仕組みだ。


 だから、

 たまに考えてしまうのだ。

 

 もし、

 自分に能力があったなら――って。

 

 木材を運びながら妄想する。

 念力で軽々と資材を持ち上げる自分。

 怪力で鉄骨を担ぐ自分。

 

 くだらない妄想――


 でも、それくらいしか楽しみがなかったのだ。


  

 そんなときだった。


 

「ワイヤーが切れた! 逃げろ!」


 

 誰かが叫んだ。


 

 ……え?



 想像の世界にいたから反応が遅れた。

 上空から影が迫る。

  

 風は顔を上げた。

 

 次の瞬間――


 

 ――グチャリッ!


 

 視界が潰れた。

 音が消えた。

 そして――

 身体の感覚が消えた。

  

 それは一瞬の出来事――

 

 たった今、

 紡時風は――死んだ。


  

 ――――――

 


 声が聞こえる。

 

 

「紡時ーッ!」


「おい引き上げろ! 早くリフト持ってこい!」


 

 ……周りが騒がしい。



 死んだはずなのに……


 不思議と風には声が聞こえた。

 

 そして、ゆっくりと目が開いた。


  

 暗い。

 重い。

 鉄骨に押し潰されている。


 

 でも――痛くない。


 

「……あれ?」


 

 頭に鉄骨が直撃したはずだ。

 

 なのに、意識がある。 

 息もできる。

 

 身体も――動く。


 

「おーい! 助けてくれー!」


 

 大声を出してみた。 

 しかし、誰にも届かない。

 

 周りは、風が下敷きになっているため騒動になっている。

 

 とにかく出ないと。

 

 風は身体の上に乗る鉄骨に手をかけた。


 

「……軽い?」


 

 鉄骨とは思えないほど、軽かった。

 

 ――ゴロンッ。


 

「……えっ?」


 

 鉄骨が転がった。


 

「嘘だろ……」


 

 風は慌てて立ち上がる。

 

 ガラガラガラガラ――!


 

 鉄骨の山が崩れる。 

 その真ん中に、風が立っていた。


 

「おおおお!? 生きてるぞ!」


「あっ、あいつ、立ち上がったぞ!」


 

 周りが騒ぐ。 

 それよりも――

 

 彼自身が、一番混乱していた。


 

「……鉄骨が軽すぎる。

 新商品か?」


 

 足元の鉄骨を掴んで、片手で持ち上げる。

  

 ――持てた。

 

 長さ12メートルの鉄骨。  

 そんなものを、風は片手で持っていた。


 

「お前……それ、1tはあるんだぞ……」


 

 現場監督が震えた声で言う。


 

「……え?」


 

 風は驚いて、手から鉄骨を落とした。


 

 ――ドォン!!


 

 そのまま自分の足に落とした。

 直撃――

 地面が揺れ、ヒビが入った。 


 しかし――


 

「……少し痛い?」


 

 傷ひとつない。

  

 意味がわからなかった。


 能力なしの人間が、

 あんな事故で助かるわけがないのだから。


  

 「……なんか、胸の辺りが熱い」


 

 身体の奥で、何かが脈打つ。 

 初めて感じる感覚。

 

 恐怖と―― 

 ほんの少しの高揚。

 

 今まで感じたことのない衝動が、

 身体の中を駆け巡っている。

 


 ――すべてを壊せ、すべてを手に入れろ

  


 そんな言葉で、 

 心を塗り尽くされていくような気がした。



 ――――――

 


 紡時風は、

 狐につままれた気分のまま帰路に着いた。


 このご時世には珍しく、

 封筒に入った現金を握りしめている。

 今日の日当と慰謝料という名の口止め料だ。


 この世界では、

 能力持ちの給料は、能力なしの3倍。


 本日、彼は現場で能力ありと判断され、

 日当が3倍になった。


 明日からも同じ日当で雇ってくれるらしい。



 現場の最高責任者からは、

 念のため医者には行くように言われている。


 それと、市役所で再検査を受けるように勧められた。


 もし認定されれば、人生が変わるからだ。


 

 でも、能力持ちなわけがない――


  6歳以降に能力を発現させた者は、

 世界広しといえども、1人もいないのだから。



 ――――――

 


 歩いていると、

 ついつい顔がほころぶ。 

  

 今日は母親と妹にドーナツでも買って帰ろう。


 そう思えるくらいには、

 気分が良かった。


  

「親父の分は……いらないな。

 でも今日は……

 明日からも予定の3倍の日当がもらえるみたいだし、

 買ってやるか」



 風はいつになく上機嫌だった。


 もし、能力があったなら――


 繰り返し続けた、くだらない妄想。

 知られると恥ずかしい趣味。

 

 それでも、今日だけは違った。


 想像の世界の自分に――なれたのだ。


 心から祈る。

 神様どうか……これが夢ではありませんように。

 


 その時だった――

 

 風の目の前に大きな影が立っていた。


 気が付けば、

 叫び声と辺りに横たわる死体が目に入る。


 死体はミンチのように散らばっていて、

 一瞬ではそれが何かわからないほどだった。



 目の前の影は――侵略者だった。


 

 侵略者。

 未確認のワープゾーンから地球に侵入してくる、異星の脅威。

 廃止されたはずのワープゾーンは今も無数に残り、

 そこから奴らは現れる。


 今、目の前にいるのは

 小学校の教科書にも載っている、ベアルガ。


 ヒグマに似た容姿だが、

 ヒグマの3倍は大きな四肢を持つ、異星の肉食動物だ。


 

「きゃあぁあぁー!」


「誰か早く、防星官を呼ばないと!」


 

 風は思った。


 防星官――

 いま呼んでも間に合うわけないじゃん。



 ――ベチャッ!



 一振りだった。


 ベアルガの張り手で、

 風は地面に叩き潰された。


 仕留めた風には興味を無くし、

 ベアルガは次の獲物を襲いに向かう。


 

 やっぱり今日の出来事は、

 すべて夢だったのかな――


 痛みを感じる前に死ねてよかったかも。



 今日だけで迎える2度目の死。

 風は間違いなく死んだ。


 生きているはずがなかった。


 

「……あれ?」


 

 即死だったはずなのに――

 また、生き返っている?


 工事現場でも死んだ。


 今も死んだ。


 それなのに生きている。

 どう考えてもおかしい。

   

 

「……なんで、

 俺……生きてるんだ?」



 ぽつりと声が出た。


 ベアルガは、風が生きていることに気付いて、

 地面を揺らしながら戻ってきた。


 そしてベアルガは、

 風の頭を鷲掴みにして持ち上げた。


 

「はぁ、はあぁ……もう、許して……

 死に……死にたくない……」

 

 

 能力に憧れ続けた男は、

 侵略者の前でただ命乞いをするしかなかった。



 ――ゴズーンッ!



 風の頭を、

 ベアルガはアスファルトに叩きつけた。


 間違いなく即死だった――


 その上、ベアルガは倒れている風を何度も踏み続けた。


 やがて風に興味を失い、

 再び次の獲物を探しに向かった。


 だが――


 

「痛いけど、そんなに痛くない……」


 

 風がゆっくりと起き上がった。


 さっき殴り殺された時とは違う。

 即死するはずの攻撃が、ただの痛みで終わっている。

 

  

「……また、胸の辺りが熱い」



 身体の奥で、何かが脈打っている。 

 工事現場で死んだ時に感じたあの感覚だ。

 

 恐怖と―― 

 ほんの少しの高揚。


 ベアルガが再び振り向いた。


 死んだはずの獲物が生きていることに、

 明らかな不快感を示している。


 

「ゴオォォンッ!」



 怒りの咆哮をあげて向かってきた。


 その時――

 あの衝動が全身を駆け巡る。

 

 

 ――戦え、

 すべてを壊せ、

 すべてを手に入れろ。

 


 死んだはずなのに、生きている。

 怖いのに興奮している。


 殺されそうなのに――

 

 なぜか勝てる気がしている。


 

 次の瞬間、


 ――ジュボンッ!


 風の右拳がベアルガの腹を撃ち抜いていた。


 ベアルガの上半身は爆ぜ、

 下半身だけがその場に残された――


 

 そして風は、

 拳を振り抜いたまま―― 

 信じられないといった顔をして、

 呆然とその場に立ち尽くしていた。



 ――死んで終わったはずの人生。

 

 しかし能力なしの紡時風は、

 侵略者を素手で殺した。 


  

 この日――

 能力なしだった紡時風の世界は、完全に壊れ始めた。



  

 

 


序盤をより読みやすくするため、再構成いたしました。

6月1日より投稿再開します。

以前よりテンポよく楽しんでいただけると思います。


なお、本作は現時点で全33話完結予定です。


最後まで楽しんでいただければ嬉しいです。

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