振り向けば捜査の手
「――要するに、声を出されると面倒だった訳ですよ。私達としては、私しかいないという事で押し通そうとしてた訳ですから。」
「で俺にガッツリ猿轡噛ませたわけだな? 容赦の欠片も無くさ。ほうほうほうほう……んで?」
「そして要するに、ゴソゴソ動かれても大変困る訳ですよ。バレちゃいますし」
「体を縛り上げた次第ですってか。何の相談も無しにねぇ!」
「必要な犠牲だったんですよ先生」
必要な犠牲と申したか。この人は。ちょっとだけだけど縄の跡が付いてるんだけど。これじゃあ俺可笑しな趣味の人みたいじゃないの! いや、この前も大分可笑しな趣味な人だと思われたかもしれないけど!
「本当にびっくりしたんですから。ほら、さっき先生が寝る直前」
「……あぁ、なんか反応してたな。夕方ちょっとくらいで」
「あの時、宿屋の前に三人程、兵士の方々が来てたんですよ。聞き込みに来た、というよりはここを見に来た、と言った様子でしたけど」
「えっ!?」
メッチャ重要な事態が起きてませんか!? それを全く報連相すら……いや、待て。まさかとは思うけども。
「もしかして俺に寝て良いって言ったのは……?」
「万が一、この宿に入って来た時に、縛り上げやすいかなぁ、なんて思いましたけども」
「やっぱそうかぁお前ぇ!? なんて野郎だ! いや野郎ではないけども!」
「先生の負担にならない様に縛りはしましたけど、直線までちゃんとベッドに寝かせていましたよ? それに目が覚めない様に出来るだけ優しく、落ち着いて縛り上げましたし……先生に無理をさせないようにと。ですから、直前までぐっすりだったでしょう?」
「気遣いの方向音痴! もうパート何百か!」
分からない! まぁ確かに気持ちよく眠れていましたけれども! だからって俺が許すとでも思ってんのか! もう今回ばかりは堪忍袋の緒が切れたぞ! 全く断りも無しに火との事を縛り上げた挙句のこのふてぶてしい態度!
「この際だからハッキリ言っておくけどなぁ――」
「構いませんよ?」
「……ん?」
「私を捨てるなり、一緒に居たくない、なり。そうされるだけの事はしましたから。顔も見たくないと言われても文句は言えませんし。ただ、流石に先生に死んでしまわれるのは嫌なので、別行動程度にして頂きたいです。小説を受け取って、話して、お金を渡す位はするので」
……あ、いや、えっと、そのですね。違うんですよ。そ、そう言う事ではなく手ですね……いやあの、えっと。そんな澄んだ瞳で見つめないで。あの。ぐっ、ここで瞳を逸らしたら本当に……だああっ!! チクショウ! 分かった分かった!
「そこまで言ってないでしょうが! 直して下さいって言ってるだけなのに! なんでここまで追い詰められなきゃいけないってんだ! 大丈夫! 大丈夫だから! そんな事しなくていいからマジでホント!」
「大丈夫ですか?」
「やめろ、目を覗き込んで来るな! しなくていいです! 許して!」
あのね。俺だって、そりゃあ何年も付き合ってきた相手ですよ。何の意味も無く、純粋な嫌がらせでやったんじゃない事くらい分かるよ。というか、そんな無意味な事しないしこの人。マジで必要な事しかしないもんこの人。
「……なんでこんな事したのか、位は聞かせてもらえない?」
「先ほども言いましたが、私と一緒に出て欲しくない、というのがあります。で、私は兎も角先生に関しては、掴まって貰っては困るのですよ」
「俺だけ?」
「えぇ……先生は、嘗て界隈を騒がせていた方の……そっくりさんですから」
そっくりさんだから、それが何だって言う話ではあるんだけども?
「見た目で判別される事も多くある世の中。しかも現代じゃなくて、時代が時代。もしあれだけの大事件を起こした犯人と同じ見た目、と言うだけで偏見を持たれるかもしれません。私とは違ってです」
「……いやー、それは、それはなぁ」
――○○のそっくりさんってだけで、その人と同じ位凄い、とか言う偏見を持たれたりって事もあるっちゃ有るって事かぁ。そこから下手すると、俺捕まった時点で有罪ってされるって? いや流石にジョークでしょそれは。それは……それは……
「……何だろう、あり得ない、事は、無い気がしてきた」
「念のためです。先生が捕まる事だけは、私は避けたいので……」
「しかし、幾らなんだって、そんな一見して『あっ、コイツアイツとそっくりな顔だ! 怪しいんじゃないか!』とか短絡的な事になるとは……」
「神や悪魔が、今以上に信じられていた時代。そして、人魚姫が存在する世界です。そんな風に人相が似ていただけでも、怪しむことだってあるでしょう。捕まえる側が優秀でも、取り調べたりする側が優秀だとも限りませんから」
……そ、そこまで言われちゃうと、なんか。説得力がある気がして来た。なんか、俺がどれだけ言い訳しても全然知らんとばかりに勝手に有罪に……う、ダメだ。嫌な想像しか出てこない。そんなん常識に当て嵌めても……いや、この常識って現代的な常識だな。今の時代には当てはまらん。
「……ね、念には念を入れておいた方が良いって事ですねぇ……成程ねぇ……ふ、震えが止まらなくなって来た……コワイ」
「良かったですね。恐怖を知れたというのは良い経験ですよ」
「け、経験って、良い事ですね……本当に……」
嘘です。そんな闇を知りたくなかったです。この世界はもっと優しいものだと思って居たかったです。現代よりも牧歌的な雰囲気、人の心も実に優しいものだと思って居たんです。それがそんな顔がそっくりってだけで……人間怖い……
「……しかし、なんで本当にここまで追いかけてくるかね。あの男は。俺達に何の疑いがあるって言うんだ。本当にメタ読みを読み切って来たのか……?」
「それは無い、とは思いますけど。一応、現場に居た人間を念のために調べてみようか、位の感覚なのでは。あのような超人に、万が一、協力者等が居れば本当に厄介としか思えないので。その可能性を完全に潰しに来たとか」
「それであそこまでやるとかマジかとしか言いようがなく。いや、ホントなんでなんだろうか教えてほしいんだけども」
――とはいえ、これで疑いも晴れた、と思いたいけどなぁ。まぁ、編集さんが上手に手を打ってくれたという事で、とりあえずは助かったか。
「……良し、もう気にしない事にしよう! 今は次だ次!」
「次って?」
「分かんないけど。分からんことに何時までも意識向けてるよりは次に意識を向けたい所である」
「現実逃避と言いませんそれって」
……だって、今でも背筋が震えてるんだよ? まさか追ってこないでしょ、と思ってた奴が追いかけて来たんだから。編集さんの判断が無かったら……終わってたかもしれない。
そりゃあ、悪夢だよ。
「おや、またお会いしましたね」
「……えぇ。本当に」
「弟さん。戻ってらっしゃったんですね。お話、聞かせて頂けると」
あー本当にナイトメアだなぁ……翌日までこっち来るかぁ???
アンデルセン先生ごめんなさい。
メッチャ難産でした……
PS:さ、最後を忘れていた……!




