18.初めての戦闘。
「みんな、気をつけるの!」
娘たちはこの無法地帯を恐る恐るみんなで手を繋いで辺りを伺う。
全員で右見て、左を見て、何ものいないのを確認してほっと胸をなで下ろす。
「ぎゃぁおー!!」
このエリアは荒れ地と森林が混在しているエリアであり、森林の中から魔物のおぞましい叫び声を聞こえてくる。
すると獣耳の美少女たちは体をぶるって振るわせて、しっぽを逆立てて押しくら饅頭のように仲間を押し合う。
さっきまでのやる気はどこにいってしまったのだろうか? でも、まだ子供だからしょうがないか。
俺は一歩後で娘たちを観察しながら歩いている。すると、うちの長女娘、ココロがおねーちゃんぶりながら何か言い出したのだ。
「こ、ここはてんちゃんが先にいくの。 おねーちゃんが見ててあげるの!」
えっへんしながらいうが顔が少し引きつりなぎら天狼の背中を押す。
「ズルいでやがるですっ! ここは防御自慢の福狸が先がいいでやがるですっ!」
焦った天狼は福狸の背中を天狼が押す。
「だったらすばしっこい黄泉猫が前を歩くんだよ。 速いから逃げられるんだよ!」
言うまでもない。黄泉猫が先頭になる。
「みーはたいきゅーにもんだいある。 ここはつきうさぎがよい。 らっくがたかいからどうにかなる。」
弱気な月兔が背中を押された。
「ほえー。 ココロおねーちゃんが」
ココロが月兔の話を遮る。
「それじゃ、つきちゃんお願いなの。」
「ほえー。 どどどどどしようですっ。」
月兔はビクビクしながら娘たちに背中を押されて歩いて行ったのだった。
いや、可哀想だろ。
子供はとてつもなく残酷な時もある。
月兔の運の高さから魔物とは交戦にならないで、上手く避けられていたが本当にこれで良いのだろうか?
そして、娘たちは森の中で体を休めている一体の魔物に目をつけた。
見た目はダンゴムシで俺の背丈の2倍近程の大きな魔物だ。
俺は魔王の特権である魔王の瞳でダンゴムシの魔物のステータスを見る。
種族 ヘビーダンゴムシ
名前 ーー
ランク D
レベル ?3
生命強度 ?10
今のレベルの低い俺では魔物のステータスもろくに見ることも出来ない。
自分の所有している魔物はレベルに関係なく鮮明に見えるのだが、ヘビーダンゴムシはレヴィの魔物であるためにステータスにモザイクや黒い霧がかかり少しの情報しか得られない。
魔王のレベルはDPによって上がるので早くレベルを上げておきたい。
他の魔物との戦闘では多くの情報を得た方が有利でもあるからだ。
そんななか、ココロたちは弱そうという勘的なもので標的を決めていた。
「みんな、あれ弱そうなの。 みんなでめったうちするの!」
「動きも遅そうなんだよ! たくさん時間をかけても倒せるんだよ!」
「おれっちの一撃で仕留めてやがるですっ!」
「むり。 あれはつちぞくせい。 雷属性はきかぬ。」
「なら、わ、私の番です! でも、こ、怖いですっ。」
彼女たちが扱う基本五属性には優劣があり、なんとなく想像がつくと思うが土属性には雷属性は効果が薄い。
つまり、最大の攻撃力を持つ天狼が力を発揮しにくく、戦いたくないと言っている月兔が主力となる。
「喰らいやがれですっ! スーパービリビリチョップ!」
しかし、天狼はよほど自分の能力に自信があるのか、一人で飛び出してレミルが天狐を攻撃するのに使った技、雷を腕に纏った技で迫りかかる。
だが、レミル程の雷を量は無く、例えるなら、レミルが手持ち花火なら、天狼は線香花火くらいである。
「あっ、土に雷は効かないんだよ!」
「えっ!? それを早く言いやがれですっ!」
「みーがいった。」
空中で天狼は焦るがもう止まらぬ。
鈍い音を立てて天狼の腕がダンゴムシの魔物の硬いからに突き刺さる。
「痛ーでやがるですっ!」
天狼は赤く大きく腫れた手を抑えて、高く飛び跳ねた。
ダンゴムシの魔物は赤い目を光らせて、無数の虫足をカサカサと音を立てて天狼を追いかけていく。
天狼は嫌だーって泣き叫びながら、仲間の娘たちのもとに走って行く。
「「うわー。 こっちくるー!」」
5人でダンゴムシの魔物から逃げていくが、ダンゴムシ魔物は丸くなりゴロゴロと転がって迫り来る。
娘たちが叫んだ!
「おとーさん!」
「おとーちゃん!」
「おとうさん!」
「お父様!」
「パパ!」
「っておい! こっち、うおーー。」
俺も巻き込んで親子揃ってダンゴムシの魔物から走って逃げていく。
パミータは転移の魔物であり、早急に戦線離脱して遠くで見ている。もちろん、わたわたしている。
その間にも、沢山の魔物が俺含め娘たちを襲おうとするが、ダンゴムシの魔物に踏み潰されてぺっちゃんこになっていく。
このダンゴムシの魔物は正直、強すぎる。
他の魔物達がボーリングのピンみたいに、弾き飛ばされたり、潰されたりする。
すると、娘たちと二手に分かれた。
何故だか俺の方にダンゴムシの魔物が転がってくる。
「えぇー!? なんでこっち来るの!」
その様子を見て、娘たちがほっとしていたがレヴィの言葉を思い出したようですぐに助けに来てくれた。
「みんな、おとーさんを助けるの! よみちゃん、ココロの炎に風を纏わしてほしーの。 ふくちゃんは動きを止めてほしーの。」
「分かったんだよ!」
「わかった。 ふきけしたらごめん。」
「ココロの炎は最強なの。 風では消えないの!」
福狸が地面に手をついて地形を変形させ分厚い土壁を作た。そして鈍い音と共に動きが止まる。
そのあと間髪を入れずに、2人は一斉に魔力を純粋な炎と風に変換して掌からダンゴムシの魔物に向かって浴びせる。
「喰らうの!」
熱気が俺もろとも襲う。
ダンゴムシの魔物はカラカラの唐揚げみたいになるがまだ動こうとする。
「つきちゃん。 トドメなの!」
「は、ハイですっ!」
月兔は鉄砲のように手を合わせて高圧力の水を剣のように作り、ダンゴムシの魔物を切り裂いた。
「やったの!」
娘たちはハイタッチをしながら喜んだ。
「ちくしょうでやがるです!」
天狼以外は。天狼は自分が活躍出来なかった事に面白くなくすねていた。
「よし、みんな偉いな。 それじゃ、DPの回収をするか、えい!」
俺は切れた息を整えつつ、娘たちが倒したダンゴムシの魔物に手をかざしてDPを回収する。ついでに、ダンゴムシの魔物が倒した魔物の死骸も所有権の持つダンゴムシの魔物を殺したために俺にDPの所有権が移ったようだ。
いきなりもうけた!
魔王は経験値でレベルが上がるのではなく、今までに得たDPの総量でレベルが上がる。
もっと複雑な事をいうと、魔物には生命強度がある。魔物は生物を倒すと生命強度分の経験値を得られるが、魔王は生命強度の十分の一程しかDPを得ることが出来ず、さらに魔神に半分は税金としてとられるので実質二十分の一程しか手元には戻らない。
だが、レベルアップのハードルは魔物たちより低い。
DPを回収するとダンゴムシの魔物は青い光を発して消えていった。
俺は娘たちの活躍を褒めてやる。
すると、5人の娘たちは俺のもとに駆け寄ってくるが、その途中で体が淡く光を発し、娘たちは背筋を震わせ、ぴんっともふもふ尻尾を立てて気持ちよさそうに目を細めてレベルアップの快感に浸る。
「おとーさん、レベルが上がったのー。 なんか変な気持ちー。 ぽかぽかー。」
レベルアップの快感が抜けきっていなく体がプルプルと震えておぼつかなし、目をトロンとさせ顔が少し赤い。
無理も無い。この世界ではレベルアップ食欲、性欲、睡眠欲と並ぶ4大欲求だからだ。
しかし、快感に少し酔いすぎている気がするがまぁ、気にすることでもない。
初めての狩りを終わると抱きついできて、頬ずりをして甘えてくる。きっと褒めて撫でて欲しいのだろう。
もちろん撫でてやると、それぞれのもふもふ尻尾を振って、たーまに獣耳をピクッとさせて嬉しそうににーって笑顔になる。
だが、余韻が抜けると娘たちの瞳は次第に小さくなりあくびをし始める。
「今日はここまでだね。 パミータ、最深部の魔法陣まで転移してくれるか?」
「承知しました!」
パミータに頼んで転移してもらわなければ俺と娘たちは最深部までたくさんの階層を歩いて移動しなければならない。
しかし、パミータはどこからでも、ダンジョンにある特定の魔方陣にしか転移は出来ない制約付きだが転移の魔法を使える。
レヴィのように魔王権限で魔方陣以外の場所に好きな時に好きな場所に行けるわけではないが十分に役に立つ。
あの俊足のレミルでさえ他の階層にだれでも使える魔方陣を使って違う階層に転移している。
「それでは行きますよ!」
パミータは前髪が長く、片眼を隠しているが転移の魔法を使うとき魔力が体から溢れて髪を靡かせる。
すると右眼には魔方陣が書かれていて、右眼で見た地面には右眼と同じ魔方陣が現れる。
「こういう感じなのか! 凄いな。 それに便利だから転移の魔物の創造も検討した方がいいな。」
そして、その魔法陣に入り俺のダンジョンに帰ったのであった。
【獲得DP:100
計DP980】