行こ、う
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「聞いてよナガト? 最近ノイエが自重って言葉を忘れているんだ」
そもそもノイエに自重があったかは謎だが。
出会った頃から……うん。可愛かったから良いです。あの頃から変わらず美人だしね。
「にいさま。だいじょうぶですか?」
トントンと後ろに居るポーラが僕の腰を叩いてくれる。
本当に優しい子だ。最近ファシーも自重を忘れだしたから、現状僕の傍で癒しの存在はポーラだけだ。
「大丈夫だよ」
「ほんとうですか?」
「うん。腰がね痛いだけだから」
「……」
トントンと腰を叩いてくれていたポーラが擦るような手つきに替わりマッサージしてくれる。
「本当にポーラは良い子だね」
「ふつうです」
「うん。その普通を普通のままで居てね」
「はい」
明るくて元気な声に癒しを覚える。
ノイエの胸騒ぎをどうにかしようとしたら、彼女に襲われ確り絞られた。
朝から燃え尽きたけれど、お仕事は待ってくれないのでお城へ向かう。
雨期に入ってから僕の登城時刻は確実に遅くなっている気がする。
だって仕方ない。ノイエが。ノイエが……
「にいさま」
「ん?」
「あそこにだれかいます」
グイグイと服を引っ張ってポーラが僕の気を引く。
現実逃避していた意識を元に戻して視線を向ければ、ポーラが指さす場所に何かが転がっていた。
「きっと行き倒れだろうね。可哀想に」
「はい」
ナガトに止まって貰ってポーラと2人で手を合わせる。
『南無南無……』と心の中で呟いて、躯は放置で自然に還すのがこの世の常だ。
「せめてもう少し茂みの向こうに捨てておこう」
もう少しで王都の北門だったのに無念だろうな。
軽くナガトのお腹を蹴るが……この馬は全く僕の指示に従ってくれない。
諦めてポーラにお願いする。
「おうまさん。あっちに」
「ヒンッ」
ひと鳴きしてナガトはポーラの指示に従う。
街道を逸れて脇に入り転がっている躯を咥えると、ナガトは軽々と持ち上げる。
「……ちょっと痛いんですけどっ! って!」
茂みの向こうに躯が消えた。
「……行こうか?」
「にいさま?」
危険回避スキルを所持していないポーラは、どうやらスルー出来ないみたいだ。
出来たら真っすぐ北門に向かいたいところだが仕方ない。だってポーラは良い子だからだ。
とはいえ対応に悩んでいると、ガサガサと音を立てて奥からナガトが投げ捨てた躯が歩いて来た。
「何で……疲れて寝ていたのに……」
「あれ?」
出て来た人物の声に聞き覚えがある。
ちょっと前に聞いたような……誰だっけ?
「って見つけましたよ!」
躯がこっちを指さし絶叫した。
「アルグスタ様っ! 本当に貴方と言う御方はっ!」
「あ~。ごめん。何かここまで思い出してるんだけど」
トントンと自分の手で喉仏の上を軽く水平に叩く。
もう少し刺激があれば完全に思い出せそうなんだけどね。
「って本当に酷過ぎますっ!」
ボロボロと涙を溢れさせて躯……どうやら女性らしい彼女が吠える。
見た感じは若い女性だ。
凄くボロボロで緑色の髪に枝とか刺さっているな。ナガトのせいか。
「あっと……もう一声」
「私ですよ! 共和国で一緒に!」
共和国?
「自分そんな所に行ってませんが?」
「行きましたよね! 行って奥様と一緒に破壊の限りを尽くしたじゃないですかっ! 私は全部見て来たんですからっ!」
全部? あれを全部見ていたと?
「実は廃墟好き?」
「廃墟にしたのは貴方と奥様ですからっ!」
「とんだ言いがかりだな。僕は共和国には行ってないのです」
「行きました! あんな大きな鳥とか呼び出してっ!」
うむ。そう言うことか。
全力で腕に仕込んだプレートを発動させて重力玉で相手を黙らせる。
重さマシマシで……完全に気絶したな。
「にいさま?」
「うむ。たぶん何処かの貴族の嫌がらせだろう。捕まえてユニバンスのお城に居るという、伝説の拷問官に頼んで背後関係を吐かせよう」
「……」
政治にはまだ疎いポーラは、首を傾げているが何も言わない。
まさか無事に生きて帰って来るとは……正直渡したお金を持って、共和国の親戚の所にでも駆け込むと思ったんだけどな。
エレイーナは一応密偵衆の所属のはずだから、近衛に引き渡せば良いのかな?
問題はその近衛のトップが現在僕と言うことぐらいだけど。
「大丈夫?」
「は、い」
震える足を動かし、ファシーは真っすぐ歩き続ける。
向かう先はいつもの中枢に存在する椅子のような突起では無く、その奥に置かれている宝玉を動かす平らな石のような場所だ。
ノイエの中枢は現在3つの転移する術がある。
ノイエの体を使い外に出る前からある石の突起。
それから刻印の魔女が置いて行った右目へと移動する平らな石。
魔女がエウリンカに作らせた宝玉を使うための平たい石は、刻印の魔女が置いて行った石を模した物だ。
震える足で必死に歩くファシーが向かっているのは、宝玉を使う石だ。
本能的に恐怖を、自身の罪を思い出し震えているファシーは今にも吐きそうな表情をしている。
どうしてか分からない。けれどノイエに会うと思うと怖くて仕方ないのだ。
前は……いつもノイエが会いに来てくれた。
独りぼっちで動物たちと過ごしていると、ノイエは輝かんばかりの笑顔で駆けて来た。
一緒に遊んだ。楽しかった。あの時だけは……嫌なことを全て忘れられた。
自分が持っていない物を全て持っている少女は、本当に明るくて幸せそうだった。
憧れもした。自分もあんな風に振る舞えればと何度も何度も思ったものだ。
石の前で足を止め、ファシーはギュッと自分の胸の前で手を握る。
ガクガクと全身が震えて止まらない。
怖い。けれど……どうしても逃げたくない。
「行こ、う」
覚悟を決めてファシーは一歩踏み出した。
気配を消したファシーの様子に、セシリーンは何とも言えない気持ちになる。
自分よりもあんなに小さくて不安を抱えたファシーが、自分では出来ないことをしてみせたのだ。
だから意識して聴覚を国の外へと向ける。
ノイエとファシーの会話を……聞きたくはなかった。
《私はファシーよりも臆病なのね》
再確認しセシリーンは寂しく息を吐く。
怖い。けれど……立ち止まっていたら何も変わらない。
ゆっくりと口を開き喉を震わせる。
ただ一音を発するだけでも吐きそうになるが、それを堪えて喉を震わせる。
《負けられないわね》
自分より強い少女にセシリーンは初めてそう思った。
あの子にだけは負けたくないと。
(C) 2021 甲斐八雲
大半の人が忘れているであろうエレイーナの帰還です。
彼女が共和国を脱して帰国したのかは…涙無しには語れませんが、とりあえず割愛の方向でw
恐怖に震えながらファシーはノイエの前に出ることを選ぶ
~ご挨拶~
『朝から投稿だと? 作者め…ミスったか?』とか思いましたか?
ご報告通り投稿パターンの変更です。増やすことにしましたw
現時点ではとりあえず毎日投稿を継続していきます。
で、毎日とかは無理ですけど一定のペースで2話投稿します。
そんな訳で今日は夜も投稿しますので、お楽しみに!




