見つけたぞ……
大きく息を吐いてカミューは目を向ける。
少女を……ノイエをずっと眠らせている姉たちをだ。
「残っているのはここに居るだけか」
「あら? もうそんなに殺したの?」
「言うなよホリー」
歩み寄ったカミューにクスクスと笑うホリーが、妹の頭を撫でて立ち上がった。
「良いのかホリー?」
「ええ」
家族に逢いたがっていたホリーは、この場から逃げ出すとカミューは思っていた。
「誰かの言葉じゃないけど、いつかノイエの目から家族を見るわ。それにこの機会を逃したら私は1人で死ぬことになる」
そっと横たわる妹に目を向け、
「こんな一般常識が欠落している人たちにノイエを任せるだなんて怖くて出来ないから」
「お前もそこそこだろう?」
「あん?」
長く青い髪をワラワラと動かしホリーが凄む。
だがカミューはそんな相手の頭に手を置いた。
「怒らないんだな」
「一応貴女もノイエの姉だから」
「ノイエに救われたな」
苦笑してホリーの頭をもうひと撫でして、カミューは魔眼を向けた。
「お前とは長い付き合いだったな。助かったよホリー」
「嘘でも嬉しくない言葉ね。あんなにこき使って……挙句使わない逃げ道とか」
「言うなって」
飲み込みホリーは消えた。
「次はどうする?」
ノイエを愛でている2人からの返事は無い。
呆れた様子でパーパシが抱きしめているリグに目を向けた。
「このままお願い」
「そうだな。それが良い」
師弟関係にも似た2人を飲み込み……カミューは一度地面に座った。
残る魔力の具合からしてあと2人ぐらいだ。
「いい加減にしろ。2人とも」
「あら? 私の楽しみを奪うの?」
「終わらないだろう」
呆れるカミューに魔女が目を向けた。
「それもそうね」
最後に少女の頬を撫で、魔女はゆっくりと空を見上げる。
雨雲らしいものが空を覆い始めていた。
「もし生まれ変われるなら次は普通の人に生まれたいわね」
「お前の場合、普通が普通じゃ無さそうだけどな」
「失礼ね。私だって普通の部分くらいはあるわ」
「どこに?」
カミューの問いに……魔女はしばらく沈黙した。
「……そういった行為をすれば普通に子供が産めるわ」
「それは普通じゃなくて通常だろう?」
苦笑してカミューはその目を相手に向ける。
「お前の力をノイエが得たら……恐ろしいことになりそうだな?」
「無理よ。私の魔法は特殊な物が多いから」
「そうか。でも少しは力になるだろう?」
「ええ。そうね」
らしくないほど穏やかな笑みを魔女は浮かべた。
「あの子たちに何もしてあげられなかったから……せめてこの子にはね」
「ああ。ならノイエの為に生きろ」
飲み込み魔女も消えた。
「最後だお姫様」
「貴女はどうするの? カミュー?」
「ノイエに魔眼を移植する都合、私は残るしかない」
「そう」
「でもこの魔眼をノイエに残せるんだ。十分だろう?」
「そうね」
そっと膝枕していた少女を地面に置いて、元王女は古い付き合いの暗殺者を見た。
「お前は変な魔法ばかり上手だな?」
「仕方ないでしょう? リア義母さんはこっちの都合にお構いなく、愛情を注いでくるから」
「確かに」
お陰で手洗いに行きたくなった時などは冷や汗が止まらないほどの苦痛を強いられる。
それを回避するために無害な睡眠魔法をグローディアは体得したのだ。
現王妃に魔法を使って眠らせる行為は……メイド長の指示の下で黙認された。
「リア義母さんに逢いたかったわ」
「難しいな」
「ええ。分かってる」
そっと立ち上がった元王女はとても綺麗な一礼を見せた。
「さあやりなさい」
「はい。王女様」
恭しく礼を返し、カミューは魔眼を使った。
残って居るのは自分とノイエだけとなっていた。
カミューはそっと視線を巡らせる。
正しく言えば生き残っているのが、自分とノイエだけだ。
半数以上が死体となって地面に転がっている。
ただどこか穏やかな死に顔に見えるのは……苦笑してカミューは頭を掻いた。
「魔女? 起きてるんだろう?」
『ええ。話が違くて迷惑しているけど』
「何のことだ?」
『こっちの話よ』
ため息のような音を聞きながら、カミューは横たわる少女の元へ向かう。
「出来るか?」
『結構難しいけど……どうにかね』
「難しいのか?」
『その子の祝福が厄介なのよ。結構な無理をして強引に同化しないといけない。私の魔力が全て無くなるかも』
「ノイエの魔力を補充できるだろう?」
『それがあるから頑張れる』
呆れつつもカミューは相手に体を譲った。
「なら始めるわよ?」
魔女の体と化した自分の腕が動き、その指先が右目を抉り取った。
《ヤバいかも》
祝福の効果は本当に厄介だ。それもこれもあの馬鹿なユーアが悪い。
神を殺す時に無茶し過ぎたのだ。具体的に言えば神ごと天界の半分を破壊したのが良くない。
とどめを刺したのは自分の高出力の魔法だった気がするが、命じたのはユーアだ。
だからあれが悪い。
《暴走した世界のシステムが作り出した『祝福』は神が残した最後の足掻き》
理由やその意味は全く分からない。
けれど崩壊した天界から落ちて行った何かが『祝福』を作り出したのは間違いない。
それを魔女は『神の代行者』と認識していた。
《右目は同調した。左目は……あ~血が足らない》
無理やり同化させるのはわけない。
問題は両目を抉ったこっちの体だ。
ポタポタと溢れる血のお陰でクラクラして来た。
《これで……終われっ!》
魔力を注いで左目も同化させる。
《あっ……もう無理》
魔力を使い果たし、何より魔眼無きカミューの体を動かしていた無理も祟り……魔女は意識を失うようにノイエの体へと乗り移った。
《終わったのか?》
両目を失い何も見えなくなったカミューは、そっと体を起こそうとした。
クラクラとする状態から血が足らないと判断できる。
《そうか。私は死ぬんだな》
『最後に仲間たちを殺して回ったんだ。もう後悔など無い』とそう思いカミューは自分の手を動かす。
唯一の心残りは大切なノイエに無事、魔眼が移ったかどうかを確認できないことだ。
《強く生きなさい。ノイエ》
途切れかける意識にカミューは安堵の息を吐く。
「見つけたぞ……」
ゾクッと背筋が凍り付くような声にカミューは体を動かそうとした。が、動かない。
血が足らないのと、自分の手足に纏わり付く感触に拘束されたと気付く。
「我が主の為に働け……」
「やめ、ろ」
「主の為に働くのだ!」
そしてカミューは姿を消した。
(c) 2020 甲斐八雲
頑張った刻印さんはノイエに魔眼を移植し力尽きる。
唯一残ったカミュー…何かに攫われ姿を消した。
残ったのは、生き残ったのは…ノイエただ1人




