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秘密だらけの僕のお嫁さんは、大陸屈指の実力を誇るドラゴンスレイヤーです  作者: 甲斐 八雲
Side Story 08 追憶⑥ 『最後に残るモノが希望』

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もう少し私に敬意を払うと良いと思うんだ

『どうして私はあの人を?』

『何でよ! もう一層のこと殺してよ!』

『死にたい死にたい死にたい……』

『私がすべて悪いのに……こうしてのうのうと生きている』

『済まないなみんな』


 パチッと目を開いて少女は上半身を起こした。


 まただ。また嫌なのが見えた。


 グシグシと涙で濡れている目を袖で擦る。


 ずっとだ。物心ついた頃からそれは見えた。


 嫌な物。暗い物。ドロドロと纏わり付く物などなど……見ていると胸の真ん中が押し潰されそうに感じるほど辛い。


 そんな時は姉に甘えれば彼女は優しく抱き締めてくれた。


『この子はわたしが守るから……』


 それが姉から見える物だった。


 失ってもう触れられないと思っていた。


 視線を移せば隣で眠る人がいる。カミューだ。


『全く仕方ないな。守ってやるか』


 それが彼女から見える物だ。


 もう姉のような人は居ないと思っていた。逢えないと思っていた。

 けれど居た。また逢えた。嬉しかった。


 少女はまた横になりスリスリと隣で眠る人に縋り付く。

 一瞬目を覚ましたカミューは、甘えん坊が甘えに来ていると理解し……優しく抱き締めて引き寄せる。


『この甘えん坊が。本当に仕方ないな』


 何処か嫌々な感じなのに甘えさせてくれる。

 本当は凄く優しくて……。


『そう思って甘えてばかりいると将来大変よ?』


《はい》


 こうやって時々叱ってくれる。本当に不思議な人だ。

 でも優しいからつい甘えたくなる。胸は……小さくて寂しいけど。


『それは別に求めなさい。欲張りはいけないことだから』


《はい》


 また怒られた。本当にカミューは不思議なお姉ちゃんだ。




 少女が眠ったのを確認し、今度はカミューが目覚めた。

 その両目に不思議な模様を浮かべて。


《良くないわね。この子最近とくに共感力が強くなってる》


 そっとノイエの頭を撫でてやり、カミュー……刻印の魔女は小さく息を吐いた。


 あの盲目の女性も大概な能力を持っているが、それにも負けないのがこの少女だ。

 恐ろしいほどの共感力により、他者の思いや夢にまで共感し覗き込む。


 カウンセラーになれば大成するかもしれないし、場合によってはサイコメトラーとして活躍すら出来る。


 ただしそれは自分の心を強く維持できればだ。


 ここ居る者たちはほぼ全員が咎人であり殺人者だ。

 故にその夢が明るいなどと言うことはない。誰もが暗く重い悪夢を抱えているのだ。


《いずれ心が壊れてしまうかもしれない》


 その兆候はある。


 マイペースが過ぎていると皆は思っているようだが、実際は思考が追い付かずに停止状態に陥りやすいだけだ。

 もう頭で考えることですら限界に達している。


 これで何か強いショックでも受ければ……。


《最悪私がこの子の体を支配して人形には出来る。破格の能力の持ち主だしこの子の体があればユーアを退治することだって出来るかもしれない》


 けれど人形になってしまえば、この少女からの協力は得られない。


 どんなに最強の人形であっても生身の人間の方が土壇場で見せる根性でその能力を上回る場合がある。

 何より刻印の魔女は人の可能性を信じている。


《ここの施設の考え方は好きだったんだけど……上が変わってしまったのか、もう終わりよね》


 心を回復させて皆を家族とし、強大な敵に立ち向かわせる……命じられている訳では無く互いが互いを自分の意志で救おうとする力は計り知れない。

 きっと最強の少数精鋭が完成していたことだろう。


《私もそろそろ先のことを考え無いと》


 今の宿り主であるカミューはたぶん逃げないだろう。

 そうすると……やはり次この少女に宿るしかない。


《魔力を溜めて魔眼を移植できるようにしておかないと》


 せめて次の時は、少女の澄んだ碧眼は残してあげたい。




「うそ?」


 それを見つけた瞬間……いつも気軽なレニーラは足を止めた。


 幽鬼のように佇む少女にいつも見られた面影が無い。

 栗色の髪で顔を隠しているが、決してあんなにボロボロなことは無かった。

 彼女はどんなに幼く見えても女なのだ。日々の身だしなみは人並にしていた。


「どうしたのファシー?」


 慌てて駆け寄る。


 はっきり言えば男性に暴力を……暴行を加えられた後のようにしか見えない。


「あはは……あはっ」

「ファシー?」


 そっと可愛らしい顔を覗き込むと、彼女は泣きながら笑っていた。


 不意に感じる言いようのない不快な気配にレニーラは飛んで避ける。

 バク転や側転などを駆使して自分の感覚を信じて完全にそれを回避した。


「何よこれ?」


 一定の距離を保ち確認すると、ファシーの周りの地面が傷だらけだった。


 彼女はあの日スラム街で魔力が尽きるまで魔法を行使した。

 不可視の刃で人を抉り、貫き、刻み、切断し……そうやってたくさんの人を殺した。


 けれどここに来てプレートを修正し、今は『斬る』ことに特化している。

 お陰で地面には縦や横に線が走り切り刻まれていた。


《あとでアイルローゼに苦情を言おう。言っても良いはずだ》


 こんな醜悪で厄介な魔法を作った魔女への苦情をひとまず胸にしまい、レニーラはその場で軽く飛ぶと覚悟を決めた。


「全く……ファシーといいノイエといいお姉ちゃんに優しくないよね。あれだよ? もう少し私に敬意を払うと良いと思うんだ」


 こうしてどんな厄介事でも引き受けているのだから。


 その言葉を飲み込みレニーラは駆け出した。




 膝を枕に眠っていたノイエが飛び起きた。

 同時にそんな少女の背中を撫でていたセシリーンも気づいた。


 言いようのない黒くて嫌な音だ。

 かなぎり声を上げて泣き叫ぶ異形の赤子……声を聴いたセシリーンは思わずそう感じるほど危険な音だ。


「お姉ちゃんっ!」

「ダメよノイエ! 戻りなさいっ!」


 セシリーンの声を振り払い少女は全力で駆けて行く。




(c) 2020 甲斐八雲

 ノイエが持つ特殊能力…それは高過ぎる共感覚です。

 国を覆うほどのセシリーンの耳とは違い範囲は狭いですが、その範囲内に存在する人物の心が発する想いを一方的に受信します。むしろテレパシーに近いですね。

 だから傷ついた心があればノイエは走り慰めて来たのです。


 傷は痛い物だとノイエは知っているから。


 実は本編や過去編でちょいちょいノイエが変な行動を取っていたのはこれが原因。

 お菓子を欲しがるルッテに対してお菓子を大量に買ってきたりとかね。

 いや~。実に長い伏線の回収をした気分です。最長の伏線はいまだ健在ですけどねw


 そしてノイエは走ります。仲の良い遊び相手だったお姉ちゃんの元へ

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