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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
第三章 ふるさとのため
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Side-O 【白霜】

 アドルノスキーの一人称を「俺様」から「俺さま」に変更しました。


 ――同じ頃、場所は北の魔王軍と東の魔王軍が正面から向かい合っている激戦地――



「ははっ、四天王つってもこの俺さまの敵じゃねーな」


 足元に転がるセラフィスとドルトンを見下しながら、白髪の青年アドルノスキーは嘲笑をこぼした。


 戦いが始まってから数分とせずに二人の四天王はあっけなく敗れてしまったのだ。たったの一発も攻撃を入れることができなかったことから、いかに力の差があったかが分かる。



「あー、つまんねーな。もっと骨のあるヤツはいないんか?」


 くるくると魔剣を振り回し、最後に地面に突き刺す。と、その時。上空から一つの影が舞い降りてきた。



「お?」


 彼が興味深そうに目を細めると、その影は彼の正面に降り立つ。



「骨があるかは分かりませんが、わたしでよければ相手をして差し上げますよ?」


 太陽の光を反射する長い髪をなびかせながら現れたのは金髪の麗人・オリビアだった。



「見たことある顔だなー」


「以前人間界でお会いしました。オリビア・ドラゴニカと申します。以後お見知りおきを」


「あー、あん時の人間かー。わざわざ魔界までご苦労なこったな。覚えといてやるぜ。お前が死ぬまでのちょっとの間だけどなー」


 口元を歪めたアドルノスキーは地面に突き刺していた魔剣を引き抜いて続ける。



「北の魔王軍四神将にして玄武隊司令官。【白霜】のアドルノスキーだ」


 言い終えると同時、オリビアが手のひらから氷の弾丸を撃ち出した。無数の弾丸はアドルノスキーを捉えたかに思えたが、彼の姿がブレて、オリビアの視界から消え去る。



「背中ががら空きだぜ……っと」


 声が聞こえてきたのは背後。彼女が振り向くよりも早く、アドルノスキーの魔剣が振り下ろされる。戦闘中常に張り続けている障壁に魔剣がぶつかり金属音が響くも、すぐに障壁は凍てつきボロボロと崩れる。

 とはいえ攻撃が緩んだのは事実。剣筋が鈍った間にオリビアは転移して距離を取った。



「障壁とは面倒だなー。ま、壊すのに大して労力を費やすわけでもねーけどよ。あれ? 俺さまのセリフ矛盾してっか?」


 「してるな」と自己解決し一人笑い声を上げる。

 その隙を逃さないとばかりにオリビアはアドルノスキーの周囲に無数の魔法陣を展開した。



「――“雷桜封殺陣”」


 魔法陣から白桃色の雷撃が迸りアドルノスキーに迫る。

 相当な手練でも避けることは不可能なタイミング。例に漏れずその場を動けない彼には雷撃の鎖が直撃した。


 しかし――



「なっ……」


 触れたそばから障壁と同じように鎖が凍りつき、捕縛する機能を失って地面に落下した。



「悪いなー。その程度の魔力じゃ俺を縛ることも、傷をつけることもできないぜー」


「そんな……」


 まだ全力は出していないが、それでも無傷とは思わなかった。

 オリビアは驚きに目を丸くし、額に汗を滲ませる。



「少なくとも人間界ん時の金髪の少年くらいの魔力がなきゃなー」


「……だったら見せてあげます。ライトと同じだけの魔力を」


「ああ?」


 アドルノスキーが訝しげに眉を顰めた瞬間、堰を切ったようにオリビアの全身から怒涛の魔力が溢れ出る。



「疲労が蓄積されるのであまり出したくはないのですが、これが八十パーセントの力です」


「……は、八十…………パー……!?」


 今度はアドルノスキーの目が丸くなった。

 ほんの冗談のつもりで言ったのに、こうもたやすく少年と同等あるいはそれ以上の魔力を放出されるとは。



「……これで全力じゃないってのかよ。バケモンだな……」


 あまりの魔力に大気が震え、大地が波打つ。さらに遠くから戦いを見守っていた東北両軍の兵士たちがバタバタと倒れていく。



「ははっ、おもしれー。だったらこっちも相応の力を見せてやるぜ。なあ【白兎はくと】」


 彼が魔剣に語りかけると透き通る刀身を持つ魔剣の輝きが増した。



「【白兎こいつ】の能力は半径一キロメートル圏内の氷の制圧。氷の魔法の威力を高める効果もある。単純だがその分強力だぜー? お前に俺さまたちの氷の世界を破れるかー?」


「破れる破れないではありません。破らなければいけないんです。オラクさんにはあなたを抑えるようにと頼まれましたが、彼の援護をするためにもここであなたを倒させていただきます」


「ははっ。そうかー、ってことは【東の魔王】さまは【北の魔王】さまんとこに向かったのか。そりゃー援護したくなるわな」


 彼は「けどよ」と言ってオリビアのことを睨みつける。



「俺さまのことなめてんのか?」


 オリビアが息を飲むと、アドルノスキーの周囲に十個の魔法陣が出現した。



「俺さまを倒せるなんていうお前の甘い考えを打ち砕いてやんよ。さあ怯えろ、震えろ、そしてその目に絶望を刻め!」


 パキン、と空気が凍りついた。



「――“蹂躙十戟氷牙ツェーン・イローグ・イレイア”」


 暴風を伴った十本の氷の槍が氷の礫を撒き散らしながらオリビアに迫る。

 オリビアは障壁に炎の壁を重ねがけして防ごうとしたが、一本の氷牙が着弾すると炎の壁の一部が凍りつき、三本の氷牙が着弾すれば障壁も凍てつき、五本の氷牙が着弾すると同時に穴が空く。彼女が驚く間も無く最後の一本は彼女の腹に突き刺さった。



「っく……」


 炎の魔力を当てて槍を溶かそうとしたオリビアだったが、アドルノスキーはその隙を与えず一息で間合いに踏み込む。



「死ね」


「て、“転移”!」


 ヒュンと【白兎】が空を切った。



「この状況で転移できるとはなー。大した精神力だぜー。けど―――“氷華転送”」


 少し離れたところに転移したオリビアの正面に大きな氷の華が咲く。それが散ったかと思えば中から魔剣(白兎)を振りかぶったアドルノスキーが現れた。



「っ!!」


「この俺さまから逃げられると思わないこったなー」


「ならば――“竜炎渦ドラゴン・フレイム”!」


「――“氷霜牙霹靂”!」


 間近で異種の魔力が激突し轟音が響き渡る。空高く砂塵が舞い上がり、やがてその中から二人が飛び出してきた。



「まだまだ終わらねーぜ。――“激震氷牙”」


「――“煉獄炎柱インフェルノ”」


 わずかな休息も挟まずアドルノスキー側の地面からは氷の槍が、オリビア側の地面からは火柱が無数に現れる。

 先ほどと同じように魔力の衝突で爆発が生じる。その間に二人は次の手に打って出た。


 アドルノスキーは辺りを駆け回り罠を仕掛け、オリビアは静かに息を吸い込み切り札を発動するための舞を始めた。


 煙が晴れ、オリビアの姿を視界に捉えたアドルノスキーが口を開く。



「ははっ、せっかく互いの視界が封じられてたんだから結界を張るなり罠を仕掛けるなりすりゃよかったのによ」


 そう煽られるもオリビアは全く取り合わずに周囲の魔力を支配して行く。

 そんな彼女の様子に違和感を覚えたアドルノスキーは、あと少しで罠が完成するというのにも関わらず足を止めてしまった。



「……これは……」


 たゆたう魔力と彼女の所作。アドルノスキーの予想が正しければ、これは彼の知る限り最も厄介な魔法だ。



「まさか…………冗談だろ? こんな魔法を扱えるやつがいたなんて聞いてねーよ」


 妨害することも忘れた彼は天啓のようにひらめく。

 もしかしてこいつがニュマルの言っていた『客人』なのか? と。


 東の魔王軍は統率力こそ高いものの兵士一人一人はあまり強くないことで知られていた。しかしいざ蓋を開けてみれば決してそんなことはなく、東の魔王軍四天王ニュマル・ぺテスの治める城を巡る攻防では苦戦を強いられた。彼女に聞いたところによれば『客人』が鍛えてくれたとのことであった。

 南の魔王領や西の魔王領、ましてや北の魔王領から該当する人物が訪れたという報告はない。ということは人間界から訪れたと考えてもおかしくはない。加えて我の強い魔族を大勢鍛えられるということは、その『客人』は不満をねじ伏せられるだけの実力を有しているはずだ。

 以上の点を考慮すると最も可能性が高いのは、このオリビアということになる。


 アドルノスキーがそんなことを考えているうちに、オリビアはかつて対魔族の切り札と呼ばれた魔法を完成させた。




「――“聖心鎮魂歌レクイエム”」



 柔らかい音色が響き渡り、光のヴェールがアドルノスキーを覆い隠す。彼は全霊を込めて“聖心鎮魂歌”を凍らせようとするが、聖なる音に術式や魔力を乱されてしまい、うまくいかない。



「くっ……、こんな魔法で……俺さまを倒せると思っ――」


「思ってないよ」


「!?」


 気づけば、黒角の生えていない金髪の少年がアドルノスキーの胸に刃を突き立てていた。



「普通の魔族ならこれだけでやられるけど、どうも君は格が違うみたいだからね」


「……またあん時の人間かよ……」


「覚えててくれて光栄だね。ライトだよ。以後よろしく」


「……いつからいた?」


「さてね。ヒントをあげるとすれば、姉さんは味方を犠牲にしてまで敵と戦うような性格じゃないってことかな」


 アドルノスキーがハッと周囲を見渡すと、どこにも四天王の姿がなかった。気づかないうちにライトが遠くに運んでいたのだろう。



「ほとんど最初からじゃねーかよ」


「そうでもないよ。僕も他の四神将と戦っていたから。ここに来たのは四神将を倒してからだからね」


「っ、四神将が……負けただと……!?」


「確か名前はムジークだったかな」


 それを聞いてアドルノスキーは舌打ちする。



「東の魔王軍にこんな隠し球がいたなんてよー。ついてないぜー」


 光のヴェールによるダメージを受けながら彼はボソッと呟く。しかし呟いた内容とは裏腹に、彼の表情にはまだ余裕があるように見えた。



「絶体絶命の状況で何でそんなに余裕があるんだろうね?」


「おいおいー、勘違いすんなよ。これっぽっちも余裕なんてないぜー」


「あっそ。まあどっちでもいいんだけどね。どちらにしろ君は僕にやられる運命だし」


「……あー?」


「――“閃光一文字”」


 ライトが魔剣に魔力を込めると、刀身が深い黒に染まった。



「「え?」」


 予想外の事態にライトとオリビアの声が綺麗に重なる。

 光の魔力を注いだはずなのになぜ真っ黒に染まるのか。ライトの魔剣・ディバイドの元のオーラが薄暗いことが関係しているのだろうか。

 そんな二人の考えはすぐに砕かれることになる。



「うわっ、身体も!?」


 ライトの全身からも黒い魔力が溢れていたのだ。黒い魔力が揺らめく様子はまるで、オラクの得意魔法・“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”のようだ。


 二人の動揺を察したアドルノスキーは前に跳んでライトの魔剣から逃れる。



「ははっ、よく分かんねーけど“聖心鎮魂歌”が乱れてるぜー。これなら俺さまも魔法が使える」


「っ、待ってください!」


「だーれが待つかよ」


 胸の刺し傷を抑えながら彼は魔法陣を描く。



「行かせないよ。はっ!」


「――“氷華転送”」


 ライトが黒い魔力を放つのと、アドルノスキーが氷の華に包まれるのは同時だった。

 黒い刃が氷の華を斬り裂いた時にはもう、アドルノスキーの姿は消えていた。



「逃げられてしまいましたね……」


「仕方ないよ。そんなことよりも……」


 黒い魔力の正体を突き止めなければ。

 声には出さなかったが、ライトの意思はオリビアにも汲み取れた。



「わたしはオラクさんの様子を見て来ますね」


「うん。僕も後から行くよ」


 頷き合うと、腹に刺さった氷牙を溶かして、オリビアは転移の光に包まれた。



「さて、まずは溢れ出る魔力をどうにか収めないと……」


 

 すみません、今回は(たぶん)今までで一番長くなってしまいました……。もっと短くまとめられるよう頑張ります。

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