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【白】の魔王と【黒】の竜  作者: 川村圭田
最終章 【白】の魔王と【黒】の竜
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エピローグ


 カランと扉のベルが鳴った。

 小さな店の主人が手を止めて「いらっしゃい」と声をかける。



「もうづがれだー! 早く何か飲みたいー」


 店に入ってきた二人組のうちの一人がカウンターに突っ伏して悲鳴をあげる。

 そんな銀髪の女性の隣に、一緒に入店してきた金髪の男性が腰掛けた。


 ここは、喫茶・羊の館。一度閉店したこの店を現在の店主が引き継ぎ、今では東の魔王領屈指の名店として多くの人々に親しまれている。



「とりあえず水でも飲んでてくれ」


 言いながら店主は二人にコップを差し出した。

 目の前に置かれるや否や、女性は勢いよく水を飲み干す。



「ぷっはー! やっぱりひと仕事終えた後に飲む水は最高ね!」


「そんなに急いで飲んだら変なところに入っちゃうよ。相変わらずルナは忙しないね」


「別にいいでしょ! 喉乾いてたんだもん。そんなこと言うならライトの分ももらうから!」


「あ……」


 ふんと鼻を鳴らした女性──ルナは、隣の男性──ライトに差し出されたはずの水も飲み干してしまった。

 二人の様子を微笑ましく眺めながら、店の奥から麗しい女性が現れる。



「もう魔王の仕事には慣れましたか?」


 女性は新しい水を注ぎながらルナに問いかける。



「ぜーんぜん。拳を振るうだけなら楽なんだけど、事務作業が多すぎて参っちゃう」


「これでも事務作業の大部分を僕が肩代わりしてるんだけどね」


「何よ、アタシの能力が足りないって言いたいわけ?」


「いいや別に? 魔王としての重圧とか責任もあるだろうし、君はよく頑張ってるよ」


 頭上に乗せられたライトの手をルナは容赦無く弾いた。



「いい加減子ども扱いすんな!」


「子ども扱いしたつもりじゃないんだけどね」


 肩をすくめてライトは水を飲む。



「アタシはこんなだけど、オリビアの方はどうなのよ。今はこのお店の仕事に絞ってるんでしょ?」


 問いかけられた店員の女性──オリビアは優しく答えた。



「はい。いずれ協会には復帰する予定ですが、家のこともあるので今はこちらに。オラクがいるので大変なことは特に無いですよ」


 オリビアは嬉しそうに店主──オラクに微笑みかける。

 急に注目を浴びたオラクは恥ずかしげに頬を掻いた。



「まったく、大層なご身分だよねオラクは。その年齢で魔王を引退して悠々自適の隠居生活。おまけに隣には人間界の至宝・姉さんもいる。前世でどれだけ徳を積んだのやら」


「隠居と言うがな、喫茶店の仕事だってそれなりに忙しいんだぞ? 周囲に恵まれていることは否定しないが」


 手を止めずに作業を続けながらオラクが弁明する。


 世界を混沌に陥れた戦いから10年。【白の魔王】として名声を高めていたオラクは魔王の座をルナに明け渡し、喫茶店の店主として第二の人生を送っていた。

 数百年の時を生きる魔族にとって、戦いで命を落とす以外の事情で100歳前に引退というのは極めて稀だ。まだまだ魔王として敏腕を振るうことが期待されていただけに、オラクの引退は世界に大きな衝撃を与えた。

 ただオラクにとってみれば戦いを経てオラクの存在が神格化されつつあったこと、長期に渡って君臨することで魔王領の統治に歪みが生じてしまうことなどを危惧し、早々に引退を決意したというわけだ。兄から妹への譲位というのも気がかりではあったものの、ルナの実力や成長速度、東の魔王領を守る覚悟の強さなどを考慮し、最も適任であると判断したのだ。



「ととさまはがんばっているのです」


 4人が語り合っていると、ぴょこんと小さな頭が割って入ってきた。



「きょうも、たくさん人がくるから、ずっとうごいていたのです」


 台に登ってライトとルナの顔を見ようとするも背丈が足りず、見かねたオリビアが小さなその人物を抱き上げる。



「エル〜!」


 エルと呼ばれた少女を見るなりルナの表情がぱっと輝く。

 年端もいかないエルの頭には髪の束のように湾曲している黒い角が一本生えている。



「もう〜、エルはいつ見てもかわいいわね! ほら、赤と青のオッドアイなんてお兄ちゃんそっくり!」


「キラキラの金髪は姉さんそっくりだよ。将来は絶世の美女になること間違いなしだね」


「ととさまとかかさまみたいだと、よくいわれるのです」


 ルナとライトにほっぺや髪をもみくちゃにされ、エルは嬉しそうに目を細める。



「そろそろ他のやつらも来る頃合いだ」


 オラクは複数のジョッキやグラスを用意し、軽食もカウンターや他のテーブルに置いていく。



「みんながくる前に、にぃにとねぇねにプレゼントです」


 オリビアから降ろしてもらい、エルは二人の足元にとてとてと駆け寄る。小さな手のひらには二つの小石が握られていた。



「かわいい〜、ありがとうエル!」


「ありがとう。どこで見つけたのかな?」


「森なのです!」


 エルは得意げに鼻を鳴らす。



「おさんぽしてて、みつけました! にぃにとねぇねにあげたいなって、もってかえってきたのです!」


「嬉しいよ、ありがとう」


 ライトがぎゅっとエルを抱きしめる。



「あーっ! ライトばっかずるい!」


「ずるいことなんかあるもんか。君より僕の方がエルのことを好きだし、エルも僕のこと好きだもんね?」


「はい! にぃにもねぇねもだいすきです!」


「ほら! アタシのことも大好きだって!」


 幼子おさなごを巡って二人が言い争っていると、オラクが空になったお盆で二人の頭を叩いた。



「本人の前で醜い争いをするな。どっちも好きって言ってるんだからそれでいいじゃないか」


 ため息をつき、エルを抱き上げる。エルは嬉しそうにオラクに頬ずりした。



「エルは、ととさまとかかさまが一番すきなのです!」


「じゃあその次が僕だね」


「いいや、アタシよ」


「つぎが、ととさまのサンドイッチで、そのつぎが石!」


「「え……」」


 幼児特有の価値基準に、ライトとルナは途端に不安になる。



「じゃあ、その次は?」


「んーと、トンボ! そのつぎがカエルさんで──」


「僕たちはカエル以下か……」


 うなだれる二人の様子にオラクは満足げに頷く。渦中のエルはお構いなしに好きなものを挙げていくが、一向に『にぃに』と『ねぇね』の単語が出てこない。

 二人が降参の合図を出そうとしたところで、エルは思い出したように言った。



「あとは、つよいひと!」


 瞬間、ライトとルナの瞳が輝く。



「よし、表に行こう」


「表に出なさい」


 息が合ったかのように同時に立ち上がる。その様子にエルはきゃっきゃと喜んだ。



「にぃにとねぇね、たたかうですか?」


「みたいだな」


 オラクが答え、オリビアは微笑んでエルの頭を撫でる。



「にぃにとねぇね、どっちがつよいのです?」


「僕だよ」


「アタシよ」


 睨み合いながら二人は店の外へ出ていく。



「まったく、もうすぐ皆集まるっていうのに」


「ふふ、いいじゃないですか。皆さんも楽しんでくれますよ」


「だといいんだがな」


 オラクとオリビアもエルを連れて外へ出る。二人は一帯に結界を張ると、店の前のベンチに腰掛けた。



「【東の魔王】ルナ・ジクロロ・サタン! 今日こそライトに勝つ!!」


「【黒竜】ライト・ドラゴニカ。今日もルナを倒すよ」


 エルがぱちぱちと両手を鳴らし、期待の眼差しで両者を見つめる。

 しばらく睨み合っていた両者だったが、一枚の葉が舞い降りてきたのを合図に駆け出した。



「──“黒焔シュヴァルツ・フォイヤー”!」


「──“閃光一文(せんこういちもん)()”!」


 世界が白の光と黒の焔に包まれた。




 了

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