飛び出る釘は
短くて申し訳ないです。
あれから書いては捨て、また書いては捨て、を繰り返して案を練っている。
前回の反省から、韓信は内容よりも、話しかける機会が良くなかったのだろうと判断した。
どの場面で進言するか、もっと慎重に様子を探らねばならない。
しかし毎日は、戦闘よりも住民を虐殺する時間の方を膨大に費やしていた。
(なんとも生産性のない事を永遠とやることができるものだ)
韓信は無駄が嫌いである、戦に関することは特に。
もちろん、何の罪もない住民を虐殺することを忌避もしているが。
この大陸では古来より、民衆を大量に虐殺する君主はよく登場する。
王朝、国が衰退する、亡ぶ、大きな原因に暴君や暗君というのはつきものだ。
書を読み、話を聞いて、その度顔をしかめたものだ。
だがまさか、自分がそれに加担していると思うと、何ともやるせなかった。
天は時折、そのような人物を権力者にすえるのだから始末が悪い。
筆の進みが悪く、韓信はため息をひとつ吐き、伸びをする。
(少し気分を変えるか)
表に出てみると、日のまぶしさに目を細める。
すでに街の占領は済んでおり、住民は全員拘束された。
だから街にいるのは基本項羽軍である。
たとえ雑兵といえども、食うに困らない程度食べていけるのは、名もない農民や、この街のような住民がいるおかげではないのか?
韓信にもそれくらいのことはわかる。
項羽は将や軍が一番偉いと思っているようだが、一体誰が食料を作っているというのか、武器を作るのだってそうだ。
最近は鉄が出回りつつあり、銅(※青銅)の武器を凌駕しつつある。
(※作者注:鉄の原初は諸説ありますが、この作品では一般的に言われている戦国末期~漢初に鉄が普及する説をとっています)
鉄も銅も、すんなりと土の中から出てくるものではない。
莫大な人手、労力と財力と、そして燃料がいる。
韓信は淮陰にいたころ、鍛冶や、製鉄、製銅の現場を見たことがあった。
あんな仕事は自分にはできないし、この人たちがいるおかげで軍や国は支えられてる。
それは理解できた。
だから思うのだ。
項羽が今やっていることは無駄どころか、自分で自分の首を絞めているようなものだと。
(しかし、その辺りのことをどう、進言すればよいのか?)
気晴らしに外に出たつもりが、結局はその事を考え込んでしまい、苦笑する。
(いかん、いかん、ん?)
ふと、視線を感じ後ろを振り向く。
そこには、数人の兵士がいてこちらを見ている。
見覚えのない顔だ。
韓信は嫌な予感がするのだった。




